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第二話 落ちこぼれ魔女の親友
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月曜日の早朝、リビングのカーテンの隙間から庭先をのぞき込んでいた沙代子は、門の前に人影を見つけると、あわてて玄関を飛び出した。
「……あれっ? 天草さんっ?」
すっかり、緑のバッグの女の人がまた来たのだと思っていたけれど、門の前でにこにこと手を振るのは天草さんだ。
「おはよう、葵さん。気になって来てみたんだけど、誰も来てないね」
「本当に来てくれたの?」
「うん、早く目が覚めたから」
そう言うけれど、わざわざ早起きして来てくれたのだろう。
「ごめんなさい。あの女の人、誰かわかった気がしてるの。だから、心配いらないって言えばよかったね」
門の扉を開いて、天草さんを招き入れる。
きっと隣のおばさんも気にして見てるだろう。だとすると、道路に出て話していた方が、早朝から男の人と会っているなどという妙なうわさを立てられなくていいだろうか。
沙代子は余計な心配をしながら、結局、彼を玄関ポーチまで誘導した。
天草さんに弱みを見せた夜を思うと今さらだけど、うわさされたら違うときっぱり言えばいい。自分には後ろめたいことなど何もないと思い直したのだ。
「わかった?」
「たぶんだけど、……和久井さんだと思う」
沙代子は小声でそう言った。それこそ違っていたら、うわさの出どころが自分になってしまう。和久井さんに迷惑をかけるのは本意ではなかった。
「和久井さんって、落ちこぼれ魔女を買っていった?」
隣のおばさんが聞いてる可能性を天草さんも気づいてくれたのか、声を抑えめにして、顔を寄せてくる。
日の出間もない時間なのにもかかわらず、彼の表情は爽やかだ。間近に近づいた顔に戸惑いつつも、動揺してる場合じゃないと、沙代子は言う。
「考えれば考えるほど、彼女以外にいないと思って。今日来たら、話がしたいなって思ってたんだけど」
和久井さんじゃないかと疑ったのは、彼女が緑のバッグを持っていたからだけじゃない。沙代子の中ではもう疑いではなく確信に近いものになっている。
「もしかして、来るのが毎週月曜日なのは、司書さんだから?」
天草さんもそれに気づいたようだ。
「お仕事が休みなんだと思う」
「和久井さん、月曜日にまたこっちに来るって言ってたし、まろう堂にいらしたら、葵さんに連絡いれるよ。今日はバイト?」
険しい顔をしたかもしれない。彼はつとめて明るく言う。
「あっ、ううん。今日は休みをもらったの。ちょっと出かけたいところがあって」
「もしかして、お墓参り?」
彼の視線が足元に向く。バケツに入ったしきびに気づいたようだ。
「今日は父の月命日だから、お墓参りに行こうと思って」
「俺も行かせてもらいたいな。開店前なら行けるんだけど、今からは早いかな?」
「あっ、ううん、大丈夫。天草さんが来てくれたら、父も喜ぶと思う」
そうと決まったら、大急ぎで沙代子は支度を整えると、天草さんとともに、駅前通りを渡った先にある墓地へと歩いて向かった。
朝の墓地は静けさに包まれていた。時折、鳥の鳴き声が聞こえて、周囲を覆う木々がそよそよと揺れる。ここが住宅地の中にあることを忘れさせるような、穏やかでゆったりとした空気が流れている。
父はきっと、天国でものんびりと書物を堪能しているんじゃないだろうか。そんな風に微笑ましく思える。
先祖代々が眠る葵家の墓石は、墓地の奥まった場所にある。しきびを腕に抱き、水桶を持ってくれる天草さんと並んで砂利道を進んでいくと、墓石の前で見知った女の人がたたずむのが見えた。
天草さんが一歩踏み出すから、沙代子は彼の袖をつかんで引き止めた。彼はすぐに察したのか、無言でうなずく。
女の人は長い間、手を合わせていた。父と何を話しているのだろう。それを想像するのは無粋で、ただふたりの会話が終わるのを待っていると、そっと手を下ろした彼女がようやくこちらに気づく。
「和久井さん」
沙代子が名前を呼ぶと、和久井さんは優しい笑みを浮かべてゆっくりと頭を下げた。
月曜日の早朝、リビングのカーテンの隙間から庭先をのぞき込んでいた沙代子は、門の前に人影を見つけると、あわてて玄関を飛び出した。
「……あれっ? 天草さんっ?」
すっかり、緑のバッグの女の人がまた来たのだと思っていたけれど、門の前でにこにこと手を振るのは天草さんだ。
「おはよう、葵さん。気になって来てみたんだけど、誰も来てないね」
「本当に来てくれたの?」
「うん、早く目が覚めたから」
そう言うけれど、わざわざ早起きして来てくれたのだろう。
「ごめんなさい。あの女の人、誰かわかった気がしてるの。だから、心配いらないって言えばよかったね」
門の扉を開いて、天草さんを招き入れる。
きっと隣のおばさんも気にして見てるだろう。だとすると、道路に出て話していた方が、早朝から男の人と会っているなどという妙なうわさを立てられなくていいだろうか。
沙代子は余計な心配をしながら、結局、彼を玄関ポーチまで誘導した。
天草さんに弱みを見せた夜を思うと今さらだけど、うわさされたら違うときっぱり言えばいい。自分には後ろめたいことなど何もないと思い直したのだ。
「わかった?」
「たぶんだけど、……和久井さんだと思う」
沙代子は小声でそう言った。それこそ違っていたら、うわさの出どころが自分になってしまう。和久井さんに迷惑をかけるのは本意ではなかった。
「和久井さんって、落ちこぼれ魔女を買っていった?」
隣のおばさんが聞いてる可能性を天草さんも気づいてくれたのか、声を抑えめにして、顔を寄せてくる。
日の出間もない時間なのにもかかわらず、彼の表情は爽やかだ。間近に近づいた顔に戸惑いつつも、動揺してる場合じゃないと、沙代子は言う。
「考えれば考えるほど、彼女以外にいないと思って。今日来たら、話がしたいなって思ってたんだけど」
和久井さんじゃないかと疑ったのは、彼女が緑のバッグを持っていたからだけじゃない。沙代子の中ではもう疑いではなく確信に近いものになっている。
「もしかして、来るのが毎週月曜日なのは、司書さんだから?」
天草さんもそれに気づいたようだ。
「お仕事が休みなんだと思う」
「和久井さん、月曜日にまたこっちに来るって言ってたし、まろう堂にいらしたら、葵さんに連絡いれるよ。今日はバイト?」
険しい顔をしたかもしれない。彼はつとめて明るく言う。
「あっ、ううん。今日は休みをもらったの。ちょっと出かけたいところがあって」
「もしかして、お墓参り?」
彼の視線が足元に向く。バケツに入ったしきびに気づいたようだ。
「今日は父の月命日だから、お墓参りに行こうと思って」
「俺も行かせてもらいたいな。開店前なら行けるんだけど、今からは早いかな?」
「あっ、ううん、大丈夫。天草さんが来てくれたら、父も喜ぶと思う」
そうと決まったら、大急ぎで沙代子は支度を整えると、天草さんとともに、駅前通りを渡った先にある墓地へと歩いて向かった。
朝の墓地は静けさに包まれていた。時折、鳥の鳴き声が聞こえて、周囲を覆う木々がそよそよと揺れる。ここが住宅地の中にあることを忘れさせるような、穏やかでゆったりとした空気が流れている。
父はきっと、天国でものんびりと書物を堪能しているんじゃないだろうか。そんな風に微笑ましく思える。
先祖代々が眠る葵家の墓石は、墓地の奥まった場所にある。しきびを腕に抱き、水桶を持ってくれる天草さんと並んで砂利道を進んでいくと、墓石の前で見知った女の人がたたずむのが見えた。
天草さんが一歩踏み出すから、沙代子は彼の袖をつかんで引き止めた。彼はすぐに察したのか、無言でうなずく。
女の人は長い間、手を合わせていた。父と何を話しているのだろう。それを想像するのは無粋で、ただふたりの会話が終わるのを待っていると、そっと手を下ろした彼女がようやくこちらに気づく。
「和久井さん」
沙代子が名前を呼ぶと、和久井さんは優しい笑みを浮かべてゆっくりと頭を下げた。
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