Δ 爪痕を残して

黒野すごろく

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白き其の者

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構えを解き、下駄箱へ戻ろうと振り返った瞬間に右頬をやわらかく突かれた。
ふに、と指先の感覚がして。ハンドゴーストが俺の頬を、突いていて
「おぉああぁッ!!?!」
手をぶっ叩き慌てて来た道を戻って外に出ようとしたが、横から急に現れた左の手に腹部をぐっと掴まれた。
「いッ…、やめっ……!ぐッ…!」
とんでもなく心臓がバクバクしている。腹部にある手を払ったが、瞬時に手首を強めに掴まれた。
「くっそ、離せっ…て!う、強いぃっ」
手首から離れようとしない、おそらく先程と違うハンドゴーストだろう。このまま爪を伸ばされたら確実に穴が開く
「ふんっ、ぐぐ…!離ッ……ぐぅっ… くそっ!何なんだっ」
とにかく外に出ようと試みるも、前から右の手が迫ってきていた。俺は短剣を握り、離そうとしない左の手に突き刺そうと構える。
しかしそれに気付いたのか甲を軽く叩かれた。それだけで手から離れるはずないのに、俺は短剣を離してしまった。
やけに派手な音を響かせて落ちた。マズい、唯一の攻撃手段であるそれを離してしまったら俺は対抗できる手段がない
「う、ぐぅ…… やめッ…!」
左の手は相変わらず掴んでくるし、振り払っても微動だにしない。右の手は大きく手の平を広げ、首を掴んで来た。
(うッ…やばい、首っ…… 絞め殺される…!!)
右手でそれを掴んで離そうとするが、徐々に力が込められる。左手で抵抗したくとも掴まれていて抗えない
これ以上、絞められたら俺は。首の脈が頭にドクンドクンと響く。俺はこんな、情けなく死ぬのか
「ふ、んんんっ…!ンン~ッ!!っ…う…… ぐ…」
ああ、もう、意識が…… 保てない。そのまま途切れるように意識が薄れていった。



バシャと冷たい何かが顔に掛かり、俺はゆっくりと目を覚ました。
「てめっ、ダンナになんてことを……!?」
「も~ 怒るなよ~!これでしか起きられないようになってんの~」
段々と騒がしい音が聞こえてきた。顔面に水を掛けられたが、それほど冷たくは感じなかった。
「マスター、大丈夫ですか…?」
タオルで顔をポンポンと優しく拭われたのちに、エースの心配そうな表情が見えた。
「……こ…」
「ダンナ!?目が覚めたんですね、良かった……」
急いだようにレイルも俺の顔を覗き込むが、とても不安そうな表情をしていた。
「…こっ…… こ、怖かっ、た… 」
ぐわっと2人の顔を両腕で抱き寄せるようにして思わず涙が出た。リアリティがありすぎて、肝試しなんてそんな生優しいものじゃなかった。
(あのまま殺されたってことじゃん… これが依頼の中の出来事だから、死んでないだけで)
心臓に悪い、トラウマすぎる。こんなの何度も挑めるものではない。
武術も魔術も扱えない俺にとって、この護身用の短剣が奪われてしまったらどうしようもない
「ダンナ…… 大丈夫、ですか…?」
ごめん、と腕の力を緩めた。エースは俺を安心させる為に手を握ってくれた。
「……少し、休みたい…かも…」


案内された鳥居をくぐれば始まると、この男に言われてからが始まりだった。
言われた通りに3人で通ったものの、依頼に適応したのはダンナ1人だけだった。
通った直後に脱力したダンナをエースが抱きとめたが、それはまるで人形のようだった。
その時に目が合ったエースの驚愕した表情が、まだ脳裏に焼きついている。
『ま、また…俺は……』
『おいっ!エースもしっかりしろ!』
後ろにいる依頼主を睨みつけると、男はふんふん♪と興味深そうに俺達を見ていた。
『やっぱりその、ご主人?が~ 選ばれたわけね』
『…あ?』
オレは男に銃口を向けた。次に変な事を言ったら本当に死んでもらおう
『も~ 気が短いな~!複数人の場合は誰か1人が選ばれるって仕組みなの』
『だからって!』
なぜダンナなんだ。男は分からないかな~と肩を竦めた。コイツ、一々イライラさせてくる。
『それとも~ そのご主人は…この中で1番、あ~ 弱かったりして?』
『ッ!!…っ!エース…!止めんなよ、ダンナを侮辱したなら殺すしかねえだろ…!』
発砲する前に光を纏わせた武術で銃を拘束された。エースに対しても苛立ちを募らせる。
『やめろ……やめるんだ… マスターを信じよう』
(そんな、絶望した顔しておいて、何が――――)


比較的綺麗な畳へと横になり、確かめるように首に軽く触れた。
本来の俺にある首輪がない、とはいえそれが良いか悪いかは分からない
後から聞かされたが、この依頼は俺を選んだ。エースもレイルも挑む事は出来ないのだと
まだ、心臓の音が響いている。これに何度も挑むのか、まるで死にゲーだ。
ぐ、と胸辺りを掴んでから息を吐いて起き上がった。
「…ダンナ」
か細い声が俺に向かって掛けられた。これまで聞いたことのないレイルの声だ
(心配してくれてるのかな)
手を伸ばすと、それに気付いた彼は慌てて近寄ってくれた。俺を確認してから、俺の手を両手で挟んで軽く撫でるようにしてきた。
(同じ手なのに、レイルの手は…全然怖くないな)
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