2 / 63
転移、そして出会い
2
しおりを挟む
は、と目が覚めた。場所は変わっておらず、やはり自分の知る部屋ではなかった。
起き上がってみると痺れて動かなかった全身も動くし、声を発してみるが問題なく喋れるようになっていた。
「良かった~…」
思わず声に出してしまったが、喋ることって大事だなと何だかとても痛感させられた。
奥から音がしたかと思えば男が部屋に入ってきた。食事だろうか、世話になりっぱなしで頭が下がる思いだ
「あ、っと……助けてくれてありがとうございます」
軽くお辞儀をすると、男は立ち止まってしまった。また何かに引っ掛かったんだろうかと不思議に思った。
男は軽く首を左右に振り、グラスと入れ替えるように食事を置いてくれた。
「食べるといい…」
「そんな…食事まで、何も返せないです」
現状手荷物が何もない。携帯や財布すら手元にないのだ
「食え」
この人怖い、ものすごく睨まれた。頂きますと小さく答えながら黄みのあるスープをスプーンですくった。
(何だろう、これはたまごスープ…?こっちはロールパンかな)
少し頂いた所でスプーンを置き、聞いていいですか?と尋ねた。男は静かに瞬いた。
「あの、ここって…どこか分かりますか?」
尋ねたそばから聞き方が違ったかな、と考え込む。記憶喪失ではないのだが、自分の部屋ではない以外が分からない
「…此処はトライン。君が居た世界ではない」
「…トライン……?」
思い当たり過ぎる名前だった。“トライン”とは、トリスピの世界を指す名称なのだ。
ということは、ここは間違いなくTrinity Spiritの世界ということになる。
「は……えぇっ!?」
そしてこの男性もこの世界の住人ということになる。通りで見た事あるような錯覚を起こす訳だ
違う、それよりもっと知っている。俺はベッドから立ち上がり、彼に近付いた。
鼓動が早まる。見た事があるどころではない、フードを上げてマフラーをゆっくりと下げていった。
「も、しかして……リヒト…?」
「…遅い」
静かにたしなめられた。何でだよ、こんなの分かるわけないじゃん
“リヒト”は俺が作った魔術師タイプのキャラクターなのである。
「え……えぇ~…」
膝から崩れ落ちそうになる前に腕を抱えられた。さすがに絶句するだろ
これは異世界転移、といえばいいのか。本当にトリスピの世界に来てしまった。
俺が得体の知れない何かに襲われていた時には既に転移していたということになる。
彼は俺をベッドに座らせた。そしてマフラーとフードを元に戻してから向き合った。
「…この世界はバグが生じている。ボスが原因とも言える」
「ボス…?」
リヒトが見据えてくる。そういえば彼はプレイヤーを、俺をそう呼んでいたっけ
「でも、戻り方が分からないよ」
「……それを探す必要がある」
それはそうだろうけど、探すって。この世界において俺は何の能力もないただの人間だ
トリスピを知っているとはいえ、それはあくまでゲームの話。常識なんて通用しないかもしれない
「……俺も探す」
「…ありがとう、ございます……?」
知り合いと呼んでいいのかは怪しいところだが、彼がそばに居てくれるのは心強い
「どちらにせよ準備が必要になる…来い」
リヒトは部屋から出て俺を見いやる。俺はベッドから立ち上がり、彼の後ろについて行った。
クローゼットに案内され、この中で着られそうな物があれば選ぶように促された。
「改めてこう見ると異世界って感じがするな!」
こんなの着てたらコスプレか何かと勘違いされそうだ。出来れば地味な物にしようと探してみる。
「…決めたら出せ」
露出が多いのはやめておこう、動きやすくて過ごしやすい物がいいだろう
試着したり、触って素材を確認してみたりしてようやく決まった。
「リヒト?」
「後ろだ」
「ほぉぅ!?」
さっきまで居なかったのに、口から何か出るかと思った。
リヒトは俺から選んだ物を受け取り、すべてに何かを付与した。
「……最低限だが加護は宿した」
「ありがとう、早速着替えるよ」
すぐに着替えを済ませ、彼を探そうとするとまた真後ろに立っていた。
「心臓に悪いから後ろに立つのやめてほしい…」
「……難しい」
場所を変え、話し合いの出来そうなリビングに移動しテーブルの向かいにあるイスに座るよう促された。
「一旦整理をしたいんだけど、俺がここに居ることって良くないんだよね?」
「…良いか悪いか判断する段階ではない……だが、ボスをこのままにも出来ない…」
フードとマフラーがあるせいで表情は読み取りにくいが、身の安全を考えてくれていることはとてもありがたい
「元の世界へ戻るアテとかって、さすがにないよなぁ…」
リヒトは少し固まってから頷いた。そりゃそうだ、あったらとっくに教えてくれているはずだろう
「探す前に、ボスと契約を…希望、したい……」
契約?何かサインしたりとか?と聞き返そうとしたが、妙に落ち着きのない彼を見て口をつぐんだ。
ただならぬ雰囲気だ、命を捧げたりとかそういうものなのだろうか
起き上がってみると痺れて動かなかった全身も動くし、声を発してみるが問題なく喋れるようになっていた。
「良かった~…」
思わず声に出してしまったが、喋ることって大事だなと何だかとても痛感させられた。
奥から音がしたかと思えば男が部屋に入ってきた。食事だろうか、世話になりっぱなしで頭が下がる思いだ
「あ、っと……助けてくれてありがとうございます」
軽くお辞儀をすると、男は立ち止まってしまった。また何かに引っ掛かったんだろうかと不思議に思った。
男は軽く首を左右に振り、グラスと入れ替えるように食事を置いてくれた。
「食べるといい…」
「そんな…食事まで、何も返せないです」
現状手荷物が何もない。携帯や財布すら手元にないのだ
「食え」
この人怖い、ものすごく睨まれた。頂きますと小さく答えながら黄みのあるスープをスプーンですくった。
(何だろう、これはたまごスープ…?こっちはロールパンかな)
少し頂いた所でスプーンを置き、聞いていいですか?と尋ねた。男は静かに瞬いた。
「あの、ここって…どこか分かりますか?」
尋ねたそばから聞き方が違ったかな、と考え込む。記憶喪失ではないのだが、自分の部屋ではない以外が分からない
「…此処はトライン。君が居た世界ではない」
「…トライン……?」
思い当たり過ぎる名前だった。“トライン”とは、トリスピの世界を指す名称なのだ。
ということは、ここは間違いなくTrinity Spiritの世界ということになる。
「は……えぇっ!?」
そしてこの男性もこの世界の住人ということになる。通りで見た事あるような錯覚を起こす訳だ
違う、それよりもっと知っている。俺はベッドから立ち上がり、彼に近付いた。
鼓動が早まる。見た事があるどころではない、フードを上げてマフラーをゆっくりと下げていった。
「も、しかして……リヒト…?」
「…遅い」
静かにたしなめられた。何でだよ、こんなの分かるわけないじゃん
“リヒト”は俺が作った魔術師タイプのキャラクターなのである。
「え……えぇ~…」
膝から崩れ落ちそうになる前に腕を抱えられた。さすがに絶句するだろ
これは異世界転移、といえばいいのか。本当にトリスピの世界に来てしまった。
俺が得体の知れない何かに襲われていた時には既に転移していたということになる。
彼は俺をベッドに座らせた。そしてマフラーとフードを元に戻してから向き合った。
「…この世界はバグが生じている。ボスが原因とも言える」
「ボス…?」
リヒトが見据えてくる。そういえば彼はプレイヤーを、俺をそう呼んでいたっけ
「でも、戻り方が分からないよ」
「……それを探す必要がある」
それはそうだろうけど、探すって。この世界において俺は何の能力もないただの人間だ
トリスピを知っているとはいえ、それはあくまでゲームの話。常識なんて通用しないかもしれない
「……俺も探す」
「…ありがとう、ございます……?」
知り合いと呼んでいいのかは怪しいところだが、彼がそばに居てくれるのは心強い
「どちらにせよ準備が必要になる…来い」
リヒトは部屋から出て俺を見いやる。俺はベッドから立ち上がり、彼の後ろについて行った。
クローゼットに案内され、この中で着られそうな物があれば選ぶように促された。
「改めてこう見ると異世界って感じがするな!」
こんなの着てたらコスプレか何かと勘違いされそうだ。出来れば地味な物にしようと探してみる。
「…決めたら出せ」
露出が多いのはやめておこう、動きやすくて過ごしやすい物がいいだろう
試着したり、触って素材を確認してみたりしてようやく決まった。
「リヒト?」
「後ろだ」
「ほぉぅ!?」
さっきまで居なかったのに、口から何か出るかと思った。
リヒトは俺から選んだ物を受け取り、すべてに何かを付与した。
「……最低限だが加護は宿した」
「ありがとう、早速着替えるよ」
すぐに着替えを済ませ、彼を探そうとするとまた真後ろに立っていた。
「心臓に悪いから後ろに立つのやめてほしい…」
「……難しい」
場所を変え、話し合いの出来そうなリビングに移動しテーブルの向かいにあるイスに座るよう促された。
「一旦整理をしたいんだけど、俺がここに居ることって良くないんだよね?」
「…良いか悪いか判断する段階ではない……だが、ボスをこのままにも出来ない…」
フードとマフラーがあるせいで表情は読み取りにくいが、身の安全を考えてくれていることはとてもありがたい
「元の世界へ戻るアテとかって、さすがにないよなぁ…」
リヒトは少し固まってから頷いた。そりゃそうだ、あったらとっくに教えてくれているはずだろう
「探す前に、ボスと契約を…希望、したい……」
契約?何かサインしたりとか?と聞き返そうとしたが、妙に落ち着きのない彼を見て口をつぐんだ。
ただならぬ雰囲気だ、命を捧げたりとかそういうものなのだろうか
2
あなたにおすすめの小説
拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件
碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。
状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。
「これ…俺、なのか?」
何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。
《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》
────────────
~お知らせ~
※第3話を少し修正しました。
※第5話を少し修正しました。
※第6話を少し修正しました。
※第11話を少し修正しました。
※第19話を少し修正しました。
※第22話を少し修正しました。
※第24話を少し修正しました。
※第25話を少し修正しました。
※第26話を少し修正しました。
※第31話を少し修正しました。
※第32話を少し修正しました。
※第33話を少し修正しました。
────────────
※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!!
※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。
国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。
悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
マリオネットが、糸を断つ時。
せんぷう
BL
異世界に転生したが、かなり不遇な第二の人生待ったなし。
オレの前世は地球は日本国、先進国の裕福な場所に産まれたおかげで何不自由なく育った。確かその終わりは何かの事故だった気がするが、よく覚えていない。若くして死んだはずが……気付けばそこはビックリ、異世界だった。
第二生は前世とは正反対。魔法というとんでもない歴史によって構築され、貧富の差がアホみたいに激しい世界。オレを産んだせいで母は体調を崩して亡くなったらしくその後は孤児院にいたが、あまりに酷い暮らしに嫌気がさして逃亡。スラムで前世では絶対やらなかったような悪さもしながら、なんとか生きていた。
そんな暮らしの終わりは、とある富裕層らしき連中の騒ぎに関わってしまったこと。不敬罪でとっ捕まらないために背を向けて逃げ出したオレに、彼はこう叫んだ。
『待て、そこの下民っ!! そうだ、そこの少し小綺麗な黒い容姿の、お前だお前!』
金髪縦ロールにド派手な紫色の服。装飾品をジャラジャラと身に付け、靴なんて全然汚れてないし擦り減ってもいない。まさにお貴族様……そう、貴族やら王族がこの世界にも存在した。
『貴様のような虫ケラ、本来なら僕に背を向けるなどと斬首ものだ。しかし、僕は寛大だ!!
許す。喜べ、貴様を今日から王族である僕の傍に置いてやろう!』
そいつはバカだった。しかし、なんと王族でもあった。
王族という権力を振り翳し、盾にするヤバい奴。嫌味ったらしい口調に人をすぐにバカにする。気に入らない奴は全員斬首。
『ぼ、僕に向かってなんたる失礼な態度っ……!! 今すぐ首をっ』
『殿下ったら大変です、向こうで殿下のお好きな竜種が飛んでいた気がします。すぐに外に出て見に行きませんとー』
『なにっ!? 本当か、タタラ! こうしては居られぬ、すぐに連れて行け!』
しかし、オレは彼に拾われた。
どんなに嫌な奴でも、どんなに周りに嫌われていっても、彼はどうしようもない恩人だった。だからせめて多少の恩を返してから逃げ出そうと思っていたのに、事態はどんどん最悪な展開を迎えて行く。
気に入らなければ即断罪。意中の騎士に全く好かれずよく暴走するバカ王子。果ては王都にまで及ぶ危険。命の危機など日常的に!
しかし、一緒にいればいるほど惹かれてしまう気持ちは……ただの忠誠心なのか?
スラム出身、第十一王子の守護魔導師。
これは運命によってもたらされた出会い。唯一の魔法を駆使しながら、タタラは今日も今日とてワガママ王子の手綱を引きながら平凡な生活に焦がれている。
※BL作品
恋愛要素は前半皆無。戦闘描写等多数。健全すぎる、健全すぎて怪しいけどこれはBLです。
.
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる