Δ 爪痕を残して

黒野すごろく

文字の大きさ
21 / 63
1人目の戦士

21

しおりを挟む
馬車に近付いてみると扉が自動で開いた。御者が居ないのも、居る必要がないからなのかなと考えた。
乗ろうとリヒトに促され向かい合う形で座ったが、俺は外の景色が気になって窓を眺めてみた。
ゆっくりした時間が取れるのか分からないけど、いつか観光とか出来たらいいなぁと頬が緩んだ。
「……ボス、2の地域は他の地域と比べて治安が良くない…注意してほしい」
そう言われても、リヒトから離れないようにするぐらいしか思い浮かばない。腰にある護身用の短剣をじっと見つめてみる。
「そうなんだよな、地域ごとに貧富の差があるんだったよね…」
「大通りを歩けば絡まれることはない……と思う」
うっすらとべーライズの地域格差を思い出した。この地域がどうだのまでは細かく覚えてないけど、そんな設定もあったような
「変わり者が、良くも悪くも多いだけだ…ボスは死んでも護る」
ぶにゅ、とリヒトの両頬を下から掴んでから彼を少し睨んだ。
「それはダメだ」
「……ふぁかった」


2の地域に着いた頃には夕暮れを迎え始めていた。降りてリヒトが支払いを済ませると、馬車はすっと消えた。
「此処は港から近い、夜は…海鮮丼でどうだろう」
「海鮮丼!?いいね、おいしそう!」
大通りを歩き始めると、魚介類を多く取り扱う店がずらりと並んでいた。魚の焼けた良い匂いもしている。
「くうぅ、腹が減ってくるね… あれ、トラインってここまで食にこだわる必要ないのに随分と盛んなんだな」
「…食べる事がここでは一種の娯楽なんだろう、俺は…… よく分からないが…」
彼をストイックにしたつもりはなかったのだが、料理のシステムを有効活用出来ていなかったのかもしれない
(他にも料理はあったのに同じ物を何連続も食わせた覚えが…… 興味を持たないのは俺のせいか…?)
途端に申し訳なさが勝る。他にもおいしい料理はあるし、なるべく違う物を選んで食べていくようにしようと俺は静かに誓った。
「…ここだ」
入口にあるのれんをくぐると店員に案内される。メニューを開いてみると、馴染みのある海鮮丼に目を輝かせた。
「俺は…おすすめの海鮮丼で、ボスは」
リヒトと同じでいいよ、と頷いた。どれもおいしそうで迷っちゃいそうだった。
「……おいしいのだろうか…」
食べたことないの?という言葉をすぐに飲み込んだ。海鮮丼、記憶が正しければ食べさせた覚えがあるにはある。
いや待てよ、リヒトには食べさせたっけ?そこまではさすがに思い出せない。彼を除く2人は食べたかもしれない
「俺がもうちょっと、考えていればっ……!」
「……ボス…?」

あっという間に海鮮丼を食べ切ってしまい、俺は満足感でいっぱいだった。
マグロとサーモンの身が分厚かったし、大葉にはいくらがこんもり乗っていた。
醤油をわさびに垂らし、ご飯と共に味わうピリッとした感じもたまらなかった。
「…おいしかった……」
彼も満足気に箸を置きながらそう呟いた。観光もいいけど、グルメ旅をしてみるのも悪くないなぁと考えた。
このあとは宿で一泊してから目的地の湖へ向かう事になった。
店を出て早速宿へと向かおうとすると、突然リヒトに引き寄せられ困惑した。
それと同時に、目の前にものすごい勢いで何かが通過してから爆音がした。
「…な、何……!?」
何かが吹っ飛んだみたいだとリヒトは答えた。音のした方を見ると、男性が3人くらい転がっていた。
「っ…テメェ!!何しやがんだ!?」
3人は力なく立ち上がり、怒号を誰かに浴びせていた。けれどもここでは日常なのか、当たり前に野次馬が居て煽る人も居た。
彼らの前に現れたのは戦士のような出で立ちの男で、顔や腕などには傷跡がいくつも見えていた。
治安の悪さを目の当たりにして驚いていたが、それ以上にその人の顔を見て俺はうろたえてしまった。
「…え、……あっ…!」
リヒトと目を合わせるも、俺を不思議そうに見てくるだけだった。

「お前達を断罪する、悪く思うな」
彼がそう言い放つと、周囲から再び冷やかしや煽りが飛び交う。しかしそれを気にする素振りはない
一方でそれを言われた3人はゾッとした表情になり、それぞれ逃げ出した。
彼は追わずに拳を地面に勢いよく付けたかと思えば、各場所から3人の悲鳴が響いた。閃光が体を貫いたように見えた。
「ヒュ~♪オニーサンこわ~い♪」
野次馬を一瞥するも、彼は何も言わずに3人の元へと歩いて行った。

「…死んじゃったのか?」
「気絶だろう…捕えた後は、そうなる可能性はあるかもしれない……」
目の前で圧倒的な強さを見せられた。ゲームでもよく見た光景だった。彼の武器は剣だが、あの場では一度も抜かなかった。
忘れていたものが一気に思い出される。あの傷跡も、守る為の鎧も、使われなかった剣もすべて見覚えがある。

「あの人…… 俺が作った、1人目のキャラクターだ…」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。 状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。 「これ…俺、なのか?」 何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。 《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》 ──────────── ~お知らせ~ ※第3話を少し修正しました。 ※第5話を少し修正しました。 ※第6話を少し修正しました。 ※第11話を少し修正しました。 ※第19話を少し修正しました。 ※第22話を少し修正しました。 ※第24話を少し修正しました。 ※第25話を少し修正しました。 ※第26話を少し修正しました。 ※第31話を少し修正しました。 ※第32話を少し修正しました。 ※第33話を少し修正しました。 ──────────── ※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!! ※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

マリオネットが、糸を断つ時。

せんぷう
BL
 異世界に転生したが、かなり不遇な第二の人生待ったなし。  オレの前世は地球は日本国、先進国の裕福な場所に産まれたおかげで何不自由なく育った。確かその終わりは何かの事故だった気がするが、よく覚えていない。若くして死んだはずが……気付けばそこはビックリ、異世界だった。  第二生は前世とは正反対。魔法というとんでもない歴史によって構築され、貧富の差がアホみたいに激しい世界。オレを産んだせいで母は体調を崩して亡くなったらしくその後は孤児院にいたが、あまりに酷い暮らしに嫌気がさして逃亡。スラムで前世では絶対やらなかったような悪さもしながら、なんとか生きていた。  そんな暮らしの終わりは、とある富裕層らしき連中の騒ぎに関わってしまったこと。不敬罪でとっ捕まらないために背を向けて逃げ出したオレに、彼はこう叫んだ。 『待て、そこの下民っ!! そうだ、そこの少し小綺麗な黒い容姿の、お前だお前!』  金髪縦ロールにド派手な紫色の服。装飾品をジャラジャラと身に付け、靴なんて全然汚れてないし擦り減ってもいない。まさにお貴族様……そう、貴族やら王族がこの世界にも存在した。 『貴様のような虫ケラ、本来なら僕に背を向けるなどと斬首ものだ。しかし、僕は寛大だ!!  許す。喜べ、貴様を今日から王族である僕の傍に置いてやろう!』  そいつはバカだった。しかし、なんと王族でもあった。  王族という権力を振り翳し、盾にするヤバい奴。嫌味ったらしい口調に人をすぐにバカにする。気に入らない奴は全員斬首。 『ぼ、僕に向かってなんたる失礼な態度っ……!! 今すぐ首をっ』 『殿下ったら大変です、向こうで殿下のお好きな竜種が飛んでいた気がします。すぐに外に出て見に行きませんとー』 『なにっ!? 本当か、タタラ! こうしては居られぬ、すぐに連れて行け!』  しかし、オレは彼に拾われた。  どんなに嫌な奴でも、どんなに周りに嫌われていっても、彼はどうしようもない恩人だった。だからせめて多少の恩を返してから逃げ出そうと思っていたのに、事態はどんどん最悪な展開を迎えて行く。  気に入らなければ即断罪。意中の騎士に全く好かれずよく暴走するバカ王子。果ては王都にまで及ぶ危険。命の危機など日常的に!  しかし、一緒にいればいるほど惹かれてしまう気持ちは……ただの忠誠心なのか?  スラム出身、第十一王子の守護魔導師。  これは運命によってもたらされた出会い。唯一の魔法を駆使しながら、タタラは今日も今日とてワガママ王子の手綱を引きながら平凡な生活に焦がれている。 ※BL作品 恋愛要素は前半皆無。戦闘描写等多数。健全すぎる、健全すぎて怪しいけどこれはBLです。 .

処理中です...