Δ 爪痕を残して

黒野すごろく

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仲間のカタチ

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マスターに誘惑されていた。思わずごくりと唾を飲み込む
改めて彼の濡れた衣服を見て思い出し、押し返す為に傷跡のある手首を優しく握った。
「風邪を、引く」
「そうなの?でもそうなったら看病してくれるでしょ?」
気が付けば馬乗りのような体勢を取られていた。そしてまたキスを求められて形だけの抵抗になる。
「俺を受け入れてよ。ずっと、会いたかったんだから」
「それは…光栄な事だが、今するべき事では」
ガタ、と物音が外からして一瞬心臓が跳ねた。リヒトが帰って来たのかもしれない
「マスター…!リヒトが、戻って来る」
それでもやめてくれるような素振りはなく、唇をゆっくりと舐められた。
足音が聞こえて気持ちが焦り、マスターをぐっと強めに抱き締めた。
「わっ…!?」
「戯れが…過ぎる」
そのまま起き上がり、マスターをベッドへ座らせてから濡れた衣服を掴んだ。
若干不満そうだが、同時に怪しい笑みを見せたその表情に俺は視線を逸らした。
そのタイミングでリヒトが部屋に入って来た。俺とまだ合流する前のリヒトもこういう経験をしたのだろうか
「お帰り、ねえ…お願いがあるんだけど」
マスターはリヒトにそう呼び掛け、俺は再び心臓が跳ねた。
「……その前に、なぜ服を脱いでいるんだ…」
「水をこぼしちゃったんだ、代わりの服が欲しくて」
そういうことか、とリヒトは呟きながら俺の手にある衣服とタオルに目を向けた。
「なら、俺のこれを」
フード付きの上着を脱ぎながらマスターに近寄り、着させたかと思えば目の前で2人のキスを見ることになるとは思わなかった。
もちろんリヒトも固まっているし、俺も絶句してそれを見続けてしまっていた。
「…ボ、ス…!…んぅっ」
マスターは俺をちら、と見てからリヒトを引き寄せてベッドへ沈み込んだ。
「なんだかずっと、気持ちが昂っちゃって…ごめんね」
その証拠にマスター自身も山を作ってしまっているし、驚いた表情で振り返ったリヒトとも視線が合った。
(それなら、これは仕方がない…こと…… 何よりマスターが求めているなら)
意を決して俺は2人の居るベッドへ乗り上げると、それはぎしりと軋んだ。


なんだか胸騒ぎがするけれど、それが何を意味するかは今の俺には分からなかった。
馬車に揺られ、レイルと共にブループ湖へと到着したところだった。
「…お仲間ってところか」
犬と入れ替わったからだろうか。初めに来た時と同様、周囲に狼のいる気配を感じた。
どうしようと思いながらレイルを見れば心配要らないです、と微笑まれた。
ざり、と狼達が姿を現した。そして俺に向けて伏せるようにして姿勢を正した。
「憶測ですが、元々この狼達のリーダーだったのかもしれません。ダンナの、いや…この犬ヴェンがここを抜けてあの人コルンスと出会った、って感じですかね」
それは分かったけれど、これはどう対応したらいいのだろうとあたふたしてしまう
「どちらにせよ今出来る事はないです。このまま進みましょう」
レイルの後を追い、そのまま白い人型の生命体と出会った辺りで吠えた。
「……アイツの残滓が残ってるな」
アイツって誰なんだろうと思って首を傾げていると、お戻りになられた時にきちんと説明しますと返された。
今は喋れないので素直にうんうんと頷いて彼に付いていく
「どちらにせよダンナの体を取り戻すにはダンナ本体を捜さなきゃならないが、探すならこの世界に生きる2人を探す方が手っ取り早い」
(確かにそうだよね、2の地域でエースは一目置かれていたし…何より目立っていたからすぐに見つかるかも)
それに同意するように頷き、2の地域へ戻って情報収集することになった。

「オイオイ…このエルフ、ワンコ連れてるよ」
治安は相変わらずなのか、早速3人の男達から変に絡まれた。しかしレイルはそれに動じてはいなかった。
「犬じゃねーよ、コイツ狼だよ」
「あ?しかもレア素材になるやつじゃん!」
おい、とレイルがようやく一言発した。表情を見れば隠すこともせず殺意が溢れており、俺でも背筋が凍ってしまった。
「もう1回言ってみろ、テメェらを有能な素材にしてやってもいい」
目で見える訳ではなかったが、殺意だけではなく魔術のような…底から沸き上がる何かを感じ取った。
さすがに敵わないと感じたのか3人は冗談に決まってんじゃん、と言いながら去って行った。
(素材…… そっか、それも間違いではないよね…俺もそうやって遊んでた)
はあ、とレイルのため息が聞こえて俺は焦った。不安げに彼を見れば謝られた。
「姿が変わっても、ダンナの力が溢れているんでしょうね。バカにされて消し炭にしかけましたけど、ダンナには良い所…見せたいですから」
しれっと情報量のあることを彼は言い、混乱してしまった。俺の力?消し炭?良い所?と考えていると、早く集会所に行きましょうと誤魔化された。
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