Δ 爪痕を残して

黒野すごろく

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それぞれの想い

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今はもう犬の姿はしていないし、頼りになるレイルだっている。
「そうだ、ヴェンくんはどうなったの?」
俺が人の姿へと戻った時には、姿形もなかった気がする。
「今はダンナの中で眠っているはずです。今の状態では目を覚ますこともありません」

この体には1つの器があるところに魂が2つある状態になっていて、1つが覚醒しているともう1つは目覚めないのだという
そしてこの体も結局は仮のものな上に俺が特異な存在というのもあって、ヴェンくんをさらに深い眠りにつかせる原因にもなっていた。
つまりヴェンくんの体に魂が2つあり、不可抗力とはいえ俺がヴェンくんに乗っ取ってしまっているということになる。
(俺はヴェンくんにと同じ事をしちゃってるってことか…) 
元に戻るのに理想的なのは今の体とヴェンくんの体、そして本来の体を揃えられれば元に戻れるだろうということだった。
「俺がヴェンくんの体に入った時にはもう眠ってたってことだよね、でも何でだろう?」
「おそらく飼い犬ヴェンがアイツに気絶か何かされたところで運悪くダンナと遭遇してしまったのでしょうね
我々よりも上位の存在へ乗っ取る方がアイツにとっても都合いいですから」
そう言い終えてからレイルは呆れるように大きくため息をついた。俺は何の傷跡もない手首を見つめた。
とは直接話したことはないが、この時点でもあまり良い印象にはならない
「身勝手なのかもしれませんけど、この犬ヴェンが追い出されたダンナの魂を救ってくれた、ともいえます。…オレはそう思いたいです」
「あとでヴェンくんにはごめんねって、謝らなくちゃな」

状況的にもあまり悠長にはしていられないとレイルは言った。
今はヴェンくんが眠っていても、いつかは反動が来て暴走してしまう可能性があるとのことだった。
(……暴走…)
研究所で2人のエルフに連れられた時、妙に大きな力を感じたような気がする。
あまり記憶にはないけれど、あの危機を突破出来たのは確実に何かが起きたからだ
あれが暴走だったのだろうか、俺が起こせるようなものではない
「ヴェンくんだけでも元に戻せたりとかしないかな?」
「それは、ダンナの体がない状態でしてしまうと…魂が消滅します」
「消滅…… それは怖いなぁ…」
とは言ったものの、正直そこまで怖くなかった。この状況がずっと非現実的だから、なのもあるかもしれない
消滅したら元の世界にパッと戻れたりとかして、これはとても深く長い夢だったんだって思える。

(…えっ…なんで……?…どうして、ちょっと諦めかけたんだろ…)

胸を押さえ混乱して、気持ち悪くなった。本来の自分ではないからだろうか、だから暴走してしまうとか
「ダンナ…?大丈夫ですか?」
「…色々話してたからかな、少し休めば治ると思う」
水を持ってきますとレイルは急いでグラスに入った水を用意してくれた。それを受け取り、一口だけ飲む
「……ありがとう… 俺、レイルに助けられてばかりだ。何かお返し出来たらいいんだけどな」
「お、お返し…?えっ…… は、あぁ… お返し… オレは、その……」
急に顔を赤くし始めたかと思いきや、どぎまぎするレイル。こういう時は分かりやすくて少し意地悪したくなってしまう
もしかして、と彼に告げてから人差し指で自分の口元を指した。
「それは… イイけどっ!ダメです…!また…よっ、欲情…しちゃう、ので……」
「じゃあ元に戻ったら、かな…?」
俺だってこういったスキンシップを頻繁に行う訳ではない、むしろ慣れていない方になる。
それでも命を賭して守ってくれるレイルに恩返し出来るなら、なるべく望みは叶えてあげたい
「…楽しみ、です…」
小さめの声で落ち着かなさそうにもじもじするレイル、設定のイメージと異なっていてもあまり気にならないものだなと思った。

リヒトとエースが依頼を引き受けていないことは以前にも確認済みだが、そうであるなら現在何をしているのか調べる必要がある。
「ダンナは覚えていたりしますか?この場所から情報収集するのに最も適した場所です」
「うーんと…ここから近いっていったらベストレルかな?ランクの高い報酬や情報が貰えるとしたらここだもんな
始めた頃は苦労したよ、強い敵ばっかり出てくるしさ」
レイルはそうなんですか?と苦笑しながらも興味があるように聞いてくれるのは嬉しかった。
今でこそVRやAIなんてものもあるが、そういう次元の話ではなく。
ゲーム内のキャラクターが存在し、認識出来ていること自体が有り得ないのだ
「ダンナの言う通り、おそらく2人は… いや、3人はベストレルへ向かっているでしょう。闘技場が見えたので間違いないです」
「あのさ、向かう前にレイルとしてみたいことがあるんだけど…」
改まって言うと、彼は不思議そうに何度かまばたいて首を傾げた。
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