武田の鬼に転生した歴史嫌いの俺は、スキルを駆使し天下を見る

こまめ

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第1章 策士、俺 (1543年 4月〜)

第二十八話 虎胤、訪問

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 俺が城下に戻った頃には、既に辺りは暗闇だった。
 俺は虚ろ虚ろと佇む門番の目を盗み、塀を伝いながら屋敷へと戻る。

 城内の様子を見る限り、俺が姿を消したことが話題になる事は無かったようである。
 影響があったとするなら、感染うつる病にかかっている事になっていた為に、三日間は屋敷を出ることが出来なかったというくらいか。

 今日がその三日目。戦続きの日々に、久方ぶりの穏やかさが戻った気がした。

 縁側へ座った俺の足元に、紅葉が散っている。
 一つ一つの形や色合いは、心惹かれるものがある。
 紅みがかった紅葉は、まるで秋の始まりを告げるよう。

 病という名目でいる以上は、肩の傷はどうにかして隠さないとな。
 俺は強く、傷口を押さえる。


 その時、脳裏で藤三郎の声が聞こえた。
 


 『如何して俺を見殺しにした?御前は分かっていた筈だろう。
  御前だけは理解してくれると思っていた。
  なのに、どうして俺を助けなかった』




 俺は口を押える。
 あの時の藤三郎の死に様、
 思い出すだけで吐き気がする。
 
 自覚が無いだけで、俺自身が彼に対して、何か罪悪感に似たものを抱いているのかもしれない。
 もっと早く、彼の真意を南部に伝えるべきだったという後悔を、抱いてしまっているのかもしれない。

 俺は静かに深呼吸をする。雲一つない空を見上げ、心を落ち着かせようと努める。
 

 そういえば、南部はどうしているだろうか。
 あれからというもの、彼について何も音沙汰が無い。
 何ら変わり無ければ良いものだが。




 その時、がたりと戸の開く音がする。
 「っ!」
 俺は慌てて布団を被り、大きく咳払いをした。


 「やぁ」
 其処に現れた一人の男。
 俺は構わず、男に対し病を患ったていを見せる。
 「済まぬ……少し風邪気味で、ごほっ、うつしては悪い。
  悪いが、またにしてくれ、ごほっ」
 「偽りを申すな、山本晴幸殿」
 その声に、俺は布団から顔を出した。

 「……原殿に、ございますか?」
 「いかにも」

 男はそう言って、畳に座る。
 俺は跳ね起き、彼に茶を差し出そうと湯呑を取り出した。
 
 

 「其方の屋敷の所在をそこらで聞き回ってな、此処を見つけたのじゃ。
  会えて嬉しいぞ、晴幸殿」
 「私もです、それにしても此度は誠に忝うございました。
  病に見舞われた体にして下さったのですな」
 「ああ、全く大事おおごとだったぞ。
  いきなり文が来たと思えば、苦労掛けさせやがる」

 虎胤は笑い、俺は苦笑する。
 どうやら怒ってはいない様だと悟り、俺は安堵した。
 虎胤かれによれば、晴信から直接訊ねられる事は無かったらしく、
 晴信を騙したことへの罪悪感は、さほど感じなかったそうだ。
 また、虎胤の傷は既に塞がっており、今や快然だと言う。
 


 俺はこの機に、彼に一連の出来事を話す。
 藤三郎が、僧に扮して甲斐に残っていたこと。
 二人は人通りのない山中に向かっていたこと。
 そして、南部が藤三郎を何度も太刀で殴り、殺したこと。


 「南部も、派手な真似をしたものだな」
 そう言って彼は茶をすする。

 南部の噂は、どうやらまだ出回っていない様だ。
 恐らく、南部は気付く事になるだろうな。己が起こした勘違いに。
 藤三郎が裏切ったと思い込み、怒りに任せ、殺してしまった事への罪悪感を。
 残酷だが、南部はきっと、自らの過ちを正当化するだろう。
 彼が敵だったことには変わりないのだ、と。
 だが、今になってしまえば、それで良いのかもしれない。


 「そう言えば晴幸殿、話は変わるが、
  其方に一つ訊ねたいことが有ったのだ」
 俺は我に返り、虎胤の顔を見る。
 彼はゆっくりと茶を置いた。
 
 「我が娘と、何をしていたのだ?」
 「へ?」

 その瞬間、彼は俺の両頬をがっと掴む。
 恐ろしい表情を見て、悟る。
 怒っている。俺は唾を飲んだ。

 「いえ、あの、武庫の整理をしていたのですが、
  菊様が参られて、少し話をしたのみにございます……」
 「それは誠だな?」
 「は、はい」

 「……まあ此度は許そう、
  今後はくれぐれも、娘に手を出すんじゃないぞ。
  若し出せば、分かっているな」
 「……はい」

 暫くして、虎胤の表情がぱっと明るくなる。
 そして、何事も無かったかの様に挨拶を交わし、屋敷を出るのであった。

 心臓に悪い。
 虎胤が去った後、俺はぶはっと息を吐き、横たわった。
 

 原虎胤

 セントウ  二一七九
 セイジ   一八六四
 ザイリョク 一二〇七
 チノウ  一八八三

 戦闘値二千を超える者は、意外と多いのかもしれない。
 まあ確かに、大人数の諏訪軍を相手に生き残ったというのは、相当なことだろう。

 俺はふと、頭上を飛ぶ一匹の蜻蛉を見る。
 縁側から入って来たのだろうか。


 こういう時、俺はいつも、夢の中の蜻蛉を思い出す。
 今回死んでいった者達の表情も、脳裏にちらつく。
 いつか俺も、あの夢の光景通り、死を迎えるのだろうか。
 もし死ねば、俺は元の世界に、元の身体に戻れるのだろうか。

 まあ良い。
 もしその時を迎えれば、俺にも踏ん切りがつく。

 死ねば、元に戻れるか否か。
 それもきっと、一種の博打だ。


 俺は起き上がる。
 そして、決意した。
 虎胤と話したことで、俺が今すべきことを、見つけられた気がした。




 明くる日、俺は早朝から屋敷を出る。
 数分ほど歩いた場所にある、一件の屋敷。


 「南部殿」

 俺が訪れたのは、南部の屋敷。
 そこには、変わり果てた様に座る、南部の姿があった。
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