戦國高校生〜ある日突然高校生が飛ばされたのは、戦乱の世でした。~

こまめ

文字の大きさ
17 / 31
第1章 戦国の大海原 1567年7月~

第十六話 影が動く

しおりを挟む
 「ここは......其方の屋敷ではないか。」
 氏家、安藤が案内されたのは、城下に建つ稲葉の屋敷。普段自分から客を招き入れることのない男の行為は、疑いの目を持ってしまう程に珍しいものだっだ。

 (何かあったのだろうか。)と心配にさえなった二人は屋敷に入る。何も言うことのない稲葉に続いて、氏家と安藤は長い廊下を進み、立ち止まったのは大広間の前。稲葉はゆっくりと障子を開ける。そこに広がった光景に、二人は目を疑った。

 「おぉ、お待ちしておりましたぞ。」
 一人の男が座ってこちらに笑みを浮かべている。その後ろには並んで座る若者が二人。会ったこともない人達に安藤は眉間にしわを寄せ、露骨な不信顔を見せる。稲葉は男の目の前に座り、視線で合図を送る。氏家、安藤は訳が分からずにいたが、仕方なく稲葉の後ろに座った。

 (誰だ......この者達は......?)
 安藤は安藤に耳打ちをするが、美濃国の者達をよく把握している筈の氏家も、同じく知らぬと返答した。

 「さてと、皆集まりましたな。では早速……おっと失礼、申し遅れました。拙者は織田家家臣、名を木下藤吉郎秀吉と申しまする。」
 「織田!?」その名を聞いた瞬間、安藤は立ち上がり稲葉を見る。

 「稲葉!此れはどういう事じゃ!?何故織田の者がここにおる!?」
 稲葉は目を閉じたまま、何も語らない。氏家は宥なだめる様に安藤に声をかける。安藤は納得のいかない表情をしていたが、何か理由があるのだろうと割り切って、その場に座った。
 秀吉の後ろに座る二人(俺と遠藤)は俯いていた。他国からやって来たという見知らぬ人が三人もこんな場所に居れば、誰だって怒るに決まっていると、内心そう思っていた。

 「いやはや、申し訳ござらぬ。我等が此処に参ったのは、其方らにある《申し出》をするためにございます。」
 「申し出だと?」
 稲葉はゆっくりと目を開ける。秀吉はその様子に笑顔を浮かべた。

 「其方らには是非、我等織田の下に来てもらいたい。」

 「......っ!」三人は秀吉の一言に目を丸くする。
 「西美濃三人衆と呼ばれる其方らの活躍は、我らの耳にも届いておりまする。当然、我らの主君、織田信長様の元へも。」
 「まてまてっ......そ、それは、我らに織田方へ寝返ろと申しておるのか......?」
 「その通り。殿は其方らのその才に惚れ、〈是非とも味方につけたいものだ〉と話しておられまする。もし来てくれるのであれば、それなりの見返りを用意すると。」
 そう言って秀吉は懐から紙を取り出した。
 「これを読んでいただければ分かりまする。」
 稲葉はそれを手に取り、開く。そこに書いてあったのは、彼らにとって驚くべきものだった。
 「これらを全て......もらえるのか......?」
 秀吉は頷く。そこに書いてあったものは、今まで龍興から貰ったものとは比べ物にならない。三人は唾をのむ。
 「いやっ、しかし......我らは龍興殿に忠義を誓って......」
 「それは誠にございますか?」
 三人は固まる。

 「近年斎藤家は城を奪われたりと、家臣の離反が多いと聞きまするが。」

 その言葉に俺は気づいた。秀吉は仕掛けている。ここから一気に畳みかけるつもりだと。

 「このままでは其方らも浮かばれまい。思うことがある内に我らに寝返れば、未練も無い筈ですぞ。」

 氏家と安藤は顔を見合わせている。

 「......良いのでは......ないか?のぉ。」
 安藤の言葉に、氏家は賛同する。
 「そうじゃな......儂も斎藤家に思う所は多い。なあ稲葉殿。」





 「儂はお断りじゃ。」



 稲葉は秀吉を睨む。秀吉の表情が変わる。

 「確かに織田方につけば、我らはもっと恵まれるのかもしれぬ。しかし儂はそれでも斎藤家に忠義を誓っておるのだ。忠義のない織田の元に来いと我らを金で釣るというのか......?若造が!ふざけたことを抜かすな!!」

 「稲葉殿......」

 俺と遠藤は稲葉の言葉に言葉を失った。それほどまでに忠義を貫く姿勢に、敬意を覚えるほどだった。

 「稲葉殿。其方も幾年ほど前に、城を乗っ取ったのではありませぬか?」
 その言葉に稲葉は固まる。秀吉も鋭い目つきで稲葉の目を捉える。

 「そのようなもの、単なる綺麗事に過ぎぬ。其方は〈忠義〉という言葉に縛られておるだけじゃ。」
 「黙れっ!!!」


 稲葉は立ち上がり、秀吉を睨む。それは先ほどとは違った、まるで鬼の様な形相だった。

 「......よぉく分かった。秀吉といったか。儂はな、貴様の様な生意気な小童が一番好かんのだ!信長に伝えろ!たとえ二人が寝返ろうとも、儂だけは其方の見返りは受けぬと!良いか!二度と儂の前に顔を見せるな!!」
 「お......おい!稲葉!!」

 稲葉は障子をばっと開け、早足で部屋を出てしまった。安藤は彼を追いかける様に部屋を飛び出す。氏家はため息を吐き、笑みを浮かべる。

 「......済まなかったな。あの者は少しばかり頑固すぎるところがあるのだ。そうか。其方らは我らの為に尾張から此処へ来てくれたのだな。」

 氏家は秀吉に向けて謝る。秀吉はふうと息を吐き、頭を掻く。

 「いえ、拙者も少しばかり熱が入ってしまいました。確かに斎藤家にとって織田は敵。当然のことにございます。もし良ければ稲葉殿にその忠義を我々に、忠誠を織田家に誓ってくださらぬかとだけでも、伝えてくだされ。」

 そう言い残して、秀吉は立ち上がり、一礼して部屋を出る。俺と遠藤は戸惑ってしまっていたが、氏家に向けて深く一礼し、秀吉の後をついて行った。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 「いなば......っ!」

 追いついた安藤は稲葉の肩を掴む。稲葉は歩みを止め、俯いた。
 「......分かっておる......儂とて分かっておるのだ……織田に仕えることが最善の路みちだと......だが......儂は......っ......」

 息を切らした安藤は、言葉を詰まらせた稲葉の気持ちを察する。

 「......ああ、分かっておった。其方も、儂も。」

 稲葉はゆっくりと振り向く。安藤の顔は笑っていた。

 「稲葉、どちらにせよ斎藤家はもうじき織田に取られる。織田の力は日を追うにつれて強く、大きくなっておる。もう、斎藤家には何も残らぬ。ならば、織田信長という男の下でもう一度、夢を見てみぬか?」
 「......夢......?」
 「あぁ、決して金や名誉などではない。我らが夢見て奔走した、道三殿のときの様に。」


 稲葉は目を見開く。そして脳裏に浮かぶのは、《美濃のマムシ》と恐れられた、斎藤道三の後姿。


 〈儂が見せてやろう。主らに飛び切りの夢をな。〉

 「頑固さは其方の取柄とりえじゃ。しかし、今は少しくらい甘えても良いのではないか?」


 稲葉は肩に背負っていた重荷が取れたように、力が抜けた。

 儂は、我慢していたのだろうか。

 稲葉は息を吐き、ふと微笑み、安藤の横を通って元の路を引き返し始めた。


 安藤は彼の後姿を見ていた。どこか吹っ切れたような、しかしどこか寂しそうな、そんな背中を。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 「秀吉はぁん......いくらなんでもありゃ言いすぎですよぉ......ヒッ」
 「そうじゃなぁ......ヒッ、でぇもぉあれぐらぃ言わにゃ聞いてくれんだろうがぁ......ヒィック」
 「......」

 その夜、三人は美濃の宿を借りる。秀吉と遠藤は酒を飲み、酔いつぶれてしまった。俺はその様子を呆れたように見ていたが、ふとあの時の稲葉の顔が脳裏に浮かんだ。


 〈信長に伝えろ!たとえ二人が寝返ろうとも、儂だけは其方の見返りは受けぬと!〉


 あの言葉、何処か無理をしているようにも聞こえた。もしかして彼は、忠義を誓っている《ふりをしているだけ》なのではないか。

 いくら考えたところで答えは出ない。俺は疲れ切ってしまっていたのか、秀吉と遠藤の様に床に寝転ぶ。すると途端に眠気に襲われ、そのまま眠りこんでしまった。




 目を開けると、そこは学校の廊下。

 俺は目の前を歩いている集団を見る。彼らは別のクラスの剣道部。俺は笑顔を浮かべ、彼らの元へ走り寄る。彼らの肩を掴もうとした瞬間、透き通ったかのように彼らの身体を貫通する。触さわれない。集団は俺の存在に気づくことなく歩き続ける。頭が真っ白になった俺は気づいた。自分が着ていた筈の制服が、徐々に着物に変化している。腰には刀が現れ、髪が結ばれてゆく。

 (おい......!まってくれ......っ!!)

 俺は走り出す。しかし捕まえられない。何度追いついても俺の腕は、彼らの身体をすり抜けてしまう。そして、徐々に周りが田畑の広がる景観に変化していくにつれて、目の前の存在が薄くなり、消えてゆく。

 (まて......!!おいてかないでくれ......っ!!)


 おれをひとりにしないでくれ。



 存在が消える直前、手を伸ばした俺の意識は、ふと途切れた。


 そして、頭の中で響く、声。





 キエタノハ、オマエジシンダ。






 「はぁっ!!!!」
 俺は飛び起きる。その声に気づいた遠藤も同じように飛び起きた。
 「き......清重、大丈夫か?......うなされてたのか?」遠藤が心配そうに俺を見ている。

 酸欠を起こしたのか、目の前がぐるぐると回っている。辺りを見回すと、そこは昨日の夜留まった宿。先ほどまでのことが全て夢だと気付くや否や、大きなため息を吐く。それは安堵か、恐怖からの解放か。俺自身にも分からなかったが、とにかく全身の力が抜けてしまった。

 「清重!遠藤!起きたか!?」

 秀吉の声に俺達は驚く。それと同時に遠藤は急な頭痛に襲われ頭を抑える。どうやら昨夜の酒のせいのようだ。

 「喜べ!稲葉殿が我らに寝返ることを決めたらしい!」 
 「え......てことは......」
 「恐らく寝返らせることが出来る!三人ともな!」

 俺と遠藤は笑顔を浮かべるが、何かが心の奥に引っかかっていた。何か、嫌な予感が。

 「かと言って、何時いつまでも浮かれているわけには行かぬ。ここからだ。」

 俺達は口をつぐむ。
 (そうだ、秀吉が自分たちをここに呼んだ理由。この人はどうして言ってくれないのだろうか。)


 「......秀吉殿。」
 弥助の小声での問いかけに、秀吉は不敵な笑みを浮かべ、こう呟いた。




 「其方は直ぐに尾張へ戻れ。戦じゃ。」


 続
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

奥遠の龍 ~今川家で生きる~

浜名浅吏
ファンタジー
気が付くと遠江二俣の松井家の明星丸に転生していた。 戦国時代初期、今川家の家臣として、宗太は何とか生き延びる方法を模索していく。 桶狭間のバッドエンドに向かって…… ※この物語はフィクションです。 氏名等も架空のものを多分に含んでいます。 それなりに歴史を参考にはしていますが、一つの物語としてお楽しみいただければと思います。 ※2024年に一年かけてカクヨムにて公開したお話です。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

処理中です...