戦國高校生〜ある日突然高校生が飛ばされたのは、戦乱の世でした。~

こまめ

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第1章 戦国の大海原 1567年7月~

第二十一話 焼討と苦悩

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 斎藤龍興はただ焦っていた。

 (如何すれば良い……)
 先程の稲葉良通と竹中重矩の一件によって、家中がバラバラになりつつある。それ以来二人は一言も話すことなく、目を合わせることすらもない。
 彼は部屋の中心で胡坐をかき、頭を抱える。

 (今亀裂が入ってしまっては取り返しがつかん……もし信長に斎藤家の混乱が伝わってしまえば、必ず一気に攻めて来よう。そうなってしまったなら、言わずもがな我らの負けじゃ。その前にどうにか体制を立て直さねば……)

 この焦りを表に出してしまえば、分裂は決定的なものになる。少なくとも彼は、主君の存在の重要さを十二分に理解していた。しかし今回の事態には流石に滅入ってしまう。これからのことも、かの二人の意見が異なったままで、全く方針が立てられていない。

 どうであれ、もう時間が無い。


 「殿っ!!!」
 「ふぁぁあっ!?なんじゃ!?」

 一人の男が慌てた様子で部屋に滑り込む。龍興は突然のことに声を上げて驚いてしまった。

 「織田兵が!!織田兵が此方に進軍を始めたとのこと!!」
 
 もう伝わっておったか……っ!

 龍興の考え得る最悪の予感が当たってしまった。龍興はそれを聞くや否や、立ち上がった。

 「誰でも良い!!出来る限り兵を集めよ!!」

 そう伝え、彼は天守から見下ろす。微かに男達の怒号を聞き、既に戦いが始まっていることを悟る。
 これが最後の足掻き所になるかもしれないと龍興は覚悟し、ゆっくりと歩き出した。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 ~数刻前~

 (戦局が動く)
 風を読み、信長は立ち上がる。俺達を送り込んだ稲葉山城を眺める。

 「一気に畳みかける。勝家、其方らは先陣と共に挟み撃て。」
 「はっ!」勝家は威勢の良い返事を響かせる。
 「殿!拙者も同行させてくだされ!」
 「サル、そちは行かずとも良い。」
 「は……」

 勝家の横にいた秀吉に背を向けていた信長は振り返る。
 「何だその間抜けづらは。」
 秀吉の放心した様な表情を見て、くくくと笑いを零す。

 「まあ良い。そちには別にやって貰う事があるのでな。」




 信長の命が俺達の方に伝えられるまで、それほど時間はかからなかった。
 「それは誠か……?」
 敵陣の隅で、家臣達は息を飲む。


 「殿は城下に焼き討ちをかけるおつもりだ。それ故、第二陣の御姿が見え次第、其方らは共同してこの陣を包囲し、城に潜入せよ。」

 俺は伝令役の男の言葉に耳を疑った。
 「ちょっとまって……やきうちって……」
 「……何か問題があるか?」俺はその男に訊ねられる。
 「いやっ、だって……そんなことしたら……!」



 【焼き討ち】・・・目標の対象物(城や屋敷など)に火を利用して攻め込むこと。俗に言う火攻め。



 美濃にやって来てから、俺が見てきた城下の人々。彼らのいる城下町にもし焼き討ちが行われるとしたら、そして何よりも、城下に店を構える越間も、きっと


 「まさかお主、城下の者の事を考えておるのではなかろうな。」
 核心を突かれた俺は、思わず男の肩を掴む。

 「焼き討ちなんてしたら、戦に関係のない、罪のない人まで死んでしまうかもしれない……!そんなのあまりにもひどすぎます!お願いします!それだけはやめさせてください!!おねがいします!!」
 「清重殿っ!!」

 御付きの者に身体を抑えられ、俺ははっと我に返る。そして気付く。御付きの者は皆、何処か不思議そうな目で、俺を見ている。

 「……なんで……」




 なんで なんで皆そんな目をしてるんだ
 俺が おかしいのか?




 「此処ここは敵陣じゃ。少し黙れ。」
 男は低い声でそう忠告し、掴まれた手をはじく。

 「……お主はこれまで戦場いくさばに来たことが無い様だな。良いだろう、儂が本物の戦というものを見せてやる。」
 「え……?」
 その時、遠くから男たちの怒号が木霊した。

 「そろそろか。お主、儂についてこい。念の為、二、三人我について参れ。他の者は此処を任せる。」
 「恒興つねおき殿!勝手に動かれては……」
 「なに、直ぐ戻ってくる。仮に戻って来れずとも、所詮は挟むのみ、柴田殿がうまくやってくれるだろうよ。」
 恒興と呼ばれた男はにやりと笑った。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 恒興は城の死角から場外へ歩みを進める。俺は彼の様子を伺いつつ、重そうな足取りで付いて行く。彼は俺に何を見せるつもりなのだろうか。嫌な予感が脳裏に渦巻く。

 「この辺りか。」
 そこは敵陣に向かう途中に通った山道。恒興は足を止め、振り返る。

 「お主、確か清重と言ったな。」
 「……はい。」
 「そうか、では清重。刀を貸してみよ。」
 嫌な予感がする。俺はゆっくりと腰に掛けられた刀を鞘ごと外し、恒興に渡した。

 「……秀吉殿のものか。」

 刀を眺めながらそう呟き、恒興は俺にその刀を渡す。」


 「良いか、儂が此処に来るまで此処に居ろ。あの場はいずれ斬り合いになる。御館様はお主を殺させる為に連れてきたわけではない。」

 恒興はどうやら、俺を避難させてくれた様だ。しかし、恒興の言葉はそれだけでは終わらなかった。

 「もしお主のもとに来る者がおれば全て、構わず斬れ。」
 「っ!?そんなことできるわけ……っ!」

 「斬らねば死ぬぞ。」

 俺は固まった。恒興はため息を吐く。
 「暢気なものだな。《狩らねば狩られる。》お主はそんな単純な事も分からぬのか。」
 
 俺は何も言えなかった。その様子を見た恒興は、元来た道を引き返し始める。


 「お待ちください、あの者は誠に人を斬ったことが無いようです……少々酷なのでは……」
 「分かっておるわ。」
 恒興も少し言い過ぎたと内心思っていたが、信長に仕える身であるならば、悠長にしている訳にもいかない。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 
 清重達志おれはただ沈黙していた。
 (どうすれば良い……)
 立ちすくむ俺は、右手に握られた刀に目をやる。白銀の刃(やいば)が光る。右腕が重い。まるで命の重さまでがのしかかっている様だ。

 やはりこの時代の人間とは命の価値観が違う。
 俺は目を細める。あの時何も言い返せなかったことが、たまらなく悔しかったのだ。
 とにかく今は、誰もここに来ないこと、たとえ来たとしても、俺を殺そうとする人でないことを祈るしかない。

 その時、一筋の閃光が、俺の真横を横切った。

 「うあぁあっ!!」

 ザクッ

 俺はあまりの驚きに、その場に尻餅をつく。その光は木に刺さり、赤く燃えていた。目を凝らし、恐る恐る見てみると、矢の先端に火が灯っている。

 「……これ……」



 途端に、大量の火矢が、俺の頭上を飛び始める。俺は直ぐさま地面に這いつくばる。そして悟った。この矢の向く先、それは俺が此処まで来た方向とは逆の、稲葉山城。



 遂に、焼き討ちが始まったのだ。と。




 「残るもの全て焼き払えぇ!!」
 稲葉山城の陣は、両者譲らぬ攻防戦となる。敵陣に潜り込んだ兵が刃を持ち、戦っている。信長はその光景を砦から眺め、ふと笑った。
 「龍興。よく兵を集めおったな。」
 短時間でどうにか体制を立て直したことには信長も予想外であったが、想定の範囲内であった。

 信長が伝令の恒興に伝えたことには続きがある。それは、《もし万が一敵兵が揃った場合に、暫くの間共同して陣で刃を交えろ》ということ。城下を焼き払う間、兵を外へ逃げ出させないようにするという狙いから生まれた策である。そうすることで城がガラ空きになり、救援を呼ぶことが出来なくなる。つまり、龍興の首をこの地で奪うことが出来る可能性がより高くなるという訳だ。

 「どちらにせよ、もはや織田の勝利は確実。遂に我らが稲葉山城を奪う時が来るとは……」
 丹羽は感銘を受けるかのように顔をほころばせる。その横で遠藤は不安気な顔を浮かべていた。焼き討ちに参加している清重。焼き討ちの対象となっている城下に住む越間。この戦において、どちらも命の安全は保障されていない。遠藤にとって、戦の勝ち負けなどどうでもよかった。ただ心の中で、二人が無事でいてくれることを祈っていたのだった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 (下手に動くと危ない……)

 火矢が身体に刺さると、刺さってしまうだけではなく、その傷口が燃え、兵にとっては重大なダメージとなる。そんなものがもし俺の身体に刺さったらと思うと、恐ろしさと緊張で心臓が口から飛び出そうだった。

 俺は這いつくばりながら深い草むらに入り、様子を伺う。方向的にここなら矢も飛んでこない筈だと考えた俺は、休息がてら息を吐きその場に座る。

 この時代は、息つく暇も無い程情勢が変わり、情報が交錯する。そして、明日生きているかも分からない時代に辿り着いた今、争いのない現代の生活がいかに幸せなものだったのかを、ここで改めて痛感した。
 
 もっと、ちゃんと生きてれば良かったな。
 俺は木を背もたれにしながら、今までの自分の生き方を後悔した。

 嫌なことから逃げてばっかりで、何もしてこなかった。見て見ぬふりをしていた傍観者だった。そんな自分が、この時代に来てからひどく嫌いになった。


 そして気づいた。自分の生き方を見直す。それこそ、俺がこの時代に来た意味なのかもしれない。
 

 汗がぽたぽたと滴り落ちる。息が荒くなり、喉が渇く。そして身体が重い。


 元の時代にもどりたい。
 もう一度、みんなに会いたい。



 その時

 「……っ!」
 俺は振り向く。奥の方の草から、ガサガサと音がする。

 俺は息を止め、置いていた刀をゆっくりと手にかける。


 そうだ、この世界では誰かを殺さなければ殺される。慈悲の心を持ってしまえば、人を斬る事なんて出来ない。恒興は、それを伝えたかったのかもしれない。

 俺もこの世で生きる者の中の一人なんだ。
 なら、俺は今を生きるために、この刀を持つ。


 草むらから現れたその正体に気づいた時、刀を抜いていた俺の動きが止まった。


 「清重……!?」
 「こ……しま……?」


 そう。俺と同じ様に、鎧と刀を着けた越間が、そこに立っていたのだ。
 

 
 続
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