旅路の果てに

街名嘉倭国

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第4話 誕生

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 バンおじさんはここ最近はますます頻繁に家に顔を出すようになった。周りの大人たちとは違ってなんだかいつもと変わらずおじさんはあっけらかんとしてこれまた家に居座っているサム爺とよくおしゃべりをしていた。ここ最近はとても忙しいらしくてお土産は毎回貰えるわけでは無かったけど、高い確率で変わらずに甘いお菓子をくれるし、色んなお話をしてくれる。丁度、魔法の練習にも少し飽きていたところでおじさんの話を喜んで聞いていた。でもやっぱり最近は頻繁に会っているせいかよく大体の話を聞き終えてしまった。それでも暇な僕は何か話がないかと執拗に迫るとゆっくりと思い出すように話し始めた。
 
「そうだなぁ……あるにはあるけど……お伽噺話しかないかなぁ。おじさんが子供の頃に聞いた物語だけどな……」
 
 それでもと聴いた話はとてもワクワクするものだった。海図家ネビル、ネビルは王様の力を借りる条件として世界各国の宝物を集める話だった。金色の羊毛に海色の皿、白い色の琥珀を求めていくつもの街や国を巡って幾人もの英雄と戦ったり、一緒に旅をする冒険のお話だ。おじさんの身振り手振りを交えた戦いの描写は面白くて聞き入ってしまった。なんでもおじさんはこの話が好きすぎて行商をしているらしい。母様曰く、母様の実家のある国に大きな店があるからわざわざ行商しなくてもいいらしいからよっぽどにネビルに憧れたんだ……確かにカッコイイしな。僕もこの家を飛び越えて川を超えて国も飛び越えてどこまでも世界を旅してみたい。
 
「そのネビルの船に乗ってたロイとドラコはどっちが強いの?三器一技とどっちが強い?」
「そんなの比べることではないぞ。全員、偉業を成し遂げた英雄だからな。因みになネビルの船にはわしの祖先も乗っていたんだ。だから敢えて言わしてもらうと……わしがこれだけ凄いということはウハルスの大英雄ロイのほうが凄かったんじゃないか?」
「そんな古い血筋の人だったんですか。なるほど……おじさんはそうだなぁ……三器一技……なんだろうそれは……ああそういえばそろそろ親父さん帰ってくるかな。おじさん最近頻繁に色んな国を行き来して大変なんだよなぁ~」
 
 おじさんは都合が悪いといつも話をすり替える。だけどあえてツッコまないことにした。そんなかんやがあってやがて日を追うごとに母様のお腹が大きくなっていった。そこで母様に代わり、家事を手伝ってくれるお手伝いさんを追加で雇うことにしたらしい。家がそこまで大きいわけじゃないから母様と昔から居るお手伝いさんだけで家のことは回っていたけど、母様のお腹が大きくなって日に日に家事ができなくなったことで新しい人を家に招くことにしたらしい。本当はサム爺が居なかったらもしかしたら新しい人を入れなくてもいいんじゃ……なんてことは置いておこう。やがて、母様が身重で部屋から動かなくなってからは1人で居るのが可哀想だと思ってこの頃はいつも母様にくっついていた。
 
「ホントにこの中に人が入っているの!?」
「そうよ。あっ今お腹を蹴ったね。」
 
 自分に本当に弟か妹ができるんだ……なんだかこうやって視認できるようになってやっと実感が湧いてきた。
 
「凄いなー。僕……妹がいいなぁ~。ぜーったい可愛がるな~。」
「そうだなぁ~。まあ弟であってもピルトみたいに反抗的で生意気に育たなければ良いけどな~」
 
 っこいつ……嫌味だなぁ……やっぱり兄さんはちょっと嫌いだわぁ。この気持ちは明日に持っていかないのは少し難しい。
 
「そういえばピルト、あなたはいっつも側に居てくれて嬉しいけど……お友達は居ないの?」
 
 近くの小さい森、庭先、母様のところ、いつも同じような場所でしか遊んでいなかった。兄さんが居なくても最近はサム爺とバンおじさんがかまってくれる。そのせいか友達といえるような存在……は確かにいない。だけど、いつも一人だと思われたくなくて、プライドのせいか嘘をついてしまった。
 
「い……いるよ。でも今は母様が一人になると思って。」
「いいのよ。今は家にお手伝いさんもいるし、何も心配することはないのよ。遊んでおいで」

 半ば強制的に家から追い出された。母様はああやって言うけど、兄さんだって父様に付きっきりで友達だって言える人は全然居ないだろうに……なんで俺だけ……とにかくこれからどうしようと思っているとふと河が目に映った。そうだこの河の先はどうなっているか知らないや。今日は行ったことのないところに行こうと思って集落とは反対側、川の上流の方向に向かった。最近はすっかり葡萄の季節となって、汗をかくような熱い気温になった。でもやっぱりここ最近は昔より涼しくて過ごしやすい気候だ。冷夏は御飯がしょぼくてひもじいけど夜は過ごしやすいのは良いことだよな。そんなことを考えながらも足を進めた。川への道を進むと段々と木々が減っていき、大きな平原が存在していた。平原には腰辺りまでの高さの草が生えていた。その草をかき分けて行く様はまるで未だ見ぬ海を開拓していったネビルのような気分で、開拓者の気分で川へと向かった。段々と川へ近づくと草の背がいきなり低くなって、見通しがよくなった。

 「とーちゃーく。」
 
 ワクワクしながら川に向かうと遠くの上流に3つの影があることに気が付いた。

 「動物かな?見たことないや。」
 「あっ……」
 
 河辺特有の変な生き物かと思い、近付いていくと、その影が自分と同じくらいの背丈の子供たちだと分かった。咄嗟にその姿を見つけると咄嗟に後退りしてしまった。最初はいつもそうだ。バンおじさんと初めて出会ったときも母様の後ろに隠れていた。初めて会う人の前だとなんだか恥ずかしくてなにかに隠れてしまいたくなる。で、でも今は隠れるところがない……どうしようと周りをあたふたしながら見回していると遠く離れた影たちも僕を見つけたのかこちらに手を振っている。どうしようかなぁ~。しばらくそのまま突っ立っていると影は段々と大きくなる。近付いてきた……逃げなきゃ……。そんなことを気にせずに目の前までやってきたのは日焼けした小麦の肌に縮れ毛の活発そうな男の子だった。なんだかバンおじさんみたいな人だな……と思っていると話しかけられた。

「なんだお前。一緒に遊びたいのか?」

 これが初めて出来た友達だった。目の前の少年はブトという名前で彼の小麦の肌は日焼けじゃなくて元々の色が若干濃かった。珍しいなと思い、色んなことを聞いた。ブトは気の良い奴ですぐに仲良くなれた。僕とは違って元気で初めての人でもグイグイと話しかけられる活発なやつだ。ブトはファーと呼ばれる男の子とトットという名前の女の子のグループのリーダーだった。3人の中に入れてもらうとそれから、日が暮れるまで河辺で遊んだ。遊び疲れ、川から上がろうとしたとき、何かに躓いて転んだ。痛ってぇ~なんだコレ……拾い上げると緑色の綺麗な石だった。

 「何?その綺麗な石。すっごく綺麗。いいなぁ……私も欲しい。」
 
 僕にとってはただの石だ。確かに綺麗な石だけどこんなものを欲しがるトットちゃんは変だな……まあいいや。そのまま石を持った手を突き出した。
 
「あげる」
「え?本当?凄い嬉しい。ありがとう。」
 
 その日はそれで解散した。それから河に行ったけど、あの三人には会えずに何日経った。父様が母様から何か話を聞いたらしく、ぶっきらぼうに「お前、友達居ないのか?」と聞いてきた。前回とは違うからと母様に言ったように「勿論居るよ」と自信満々で答えると何かを察したように教会に行こうと誘ってきた。「なんで?」と聞くとなんでも僕ぐらいの歳の子どもたちが教会に集まって読み書きを教わっているそうだ。僕ももう7歳になる。だから家庭教師を付けようかと思っていたらしいけど、サム爺が頻繁に来ては授業をするからいつの間にかある程度の読み書きは出来ている。

「別に要らないよ。僕もう読み書きできるよ。」
「そうかもしれないけど……確かに家での教育の方がいいけどな……お前はもっと人との接し方を学ぶべきだ。母さんも実は人見知りだったんだ。でも今は違う。だからお前も克服してこい。さぁ行ってこい。」

 そうやって無理やり教会まで連れられて子供たちの中に放られた。あのブトたちが居なかったらどうしよう……知らない人と話す自信がにと思っていた。集落から少しだけ離れた小さな集落の小さい教会に辿り着いた。自信が無くてオロオロしている僕とは違って勢いよく父様は扉を開いた。教会の中には8人の子供が居た。見た感じ年齢に少しバラツキがある感じだった。みんな初めて見る顔だな……怖いな……。そう言うとつい顔を見れなくて下に向く、すると背中に強い衝撃があった。強引に教会への一歩を歩むと子供たちの中にファーとトットちゃんを見つけた。なんだやっていけそうじゃん。そんなかんやで授業が始まったけど、もう読み書きができた僕にとっては目新しさは無かった。けれど周りの皆はまだ読み書きが身についていなくて、それが出来る僕はヒーローになった。

「お前スゲーな。どこの子なんだ。」
「地頭さんのところでしょ。やっぱり俺らとは違うんだな。スゲー」
「なあなあなあお前計算もできるのか?」
「なんでもう読み書きできるの?本は読めるの?」

 キッツ~。なんでみんな寄ってくるの怖い。そう思いながら情けないことにファーとトットちゃんの後ろに隠れてしまった。やっぱりだ。初日はあまり友達は増えなかった。それから、授業が終わってみんなが解散し始めるとブトが居ないことが気になった。

「ブトは教会に来ないの?」
「それはね~」
 
 2人はブトは家を手伝っていて、居ないことも多いらしいということを教えてくれた。なんだ教育ってみんなが受けられるモノじゃないんだ……一人ぼっちで寂しんじゃないかな……居ないのは寂しかったけど、その日は三人で遊んだ。次の日もその次の日もブトも偶に交って四人で一緒に遊ぶようになった。いつの間にか母様の近くに居る時間が減っていって、外で遊ぶ時間が多くなった。その様子を見るとサム爺は永遠と勉強しろ、魔法の練習をしろとうるさかった。
 その日も駆け足で母様に挨拶をすると教会に向かった。その後すぐに母様に異変が起きたらしくて遊び疲れて家に帰ってくると家の中でみんながあたふたしていた。どうやら母様を囲んでいるみたいでびっくりした。
 
「母様はどうしたの?」
 
 そこで赤ちゃんが産まれたことを知った。本当に小さくてちょっと猿みたいだけど可愛いやつだった。びっくりしたのは赤ちゃんには◯んちんが無かった。どうやら女の子らしい。それからは妹はまだ家から出られないらしく、教会に行くこともなく、家の中で母様と妹と過すことが多くなった。偶に家に三人が来て、その様子を見て父様が嫌な顔をすることもあったけど、僕の世界は友達と家族の世界に妹が入ってきた。まだまだ猿みたいで、よく泣く煩い奴だったけど、可愛いかった。僕はもうお兄ちゃんだ。
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