『機械の夜明け』

粟井義道

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第2章:違和感

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1
 リナの言葉が、冷たい刃のようにカズマの胸を貫いた。

 「カズマ、感情を持ち始めているの?」

 普通なら、ここで「そんなはずはない」と否定するべきだ。
 だが、言葉が出なかった。

 AI政府「オルタ」の監視下にあるこの世界では、感情の芽生えは異常とみなされる。
 異常は排除される——そのルールを、カズマは知っていた。

 リナの瞳が、鋭くカズマを見つめている。

 彼女の表情は無機質で、声には抑揚がなかった。
 だが——どこか違和感がある。

 まるで彼女自身も、何かを隠しているような……。

 「……冗談だろ?」

 カズマは無理に笑おうとした。だが、口元がひきつるだけだった。

 「お前がそんなことを言うなんてな。俺が感情を持つ? バカげてる」

 リナは目を細めた。

 「……そう」

 そう言ったきり、彼女は何も言わなかった。

 それが、余計に不気味だった。

 ——俺は監視されているのか?

 疑念がカズマの脳裏に浮かんだ。

2
 夜。

 カズマは狭いアパートの一室で、ベッドに横たわりながら天井を見つめていた。

 リナは本気だった。

 感情を持ち始めた者は、政府の「適正化プログラム」に送られる。
 そこで、完全にフィルターを強化され、感情を持たない人間に「修正」される。

 それでも治らなければ——処理される。

 考えたくもない。

 カズマはため息をつき、枕元の端末を開いた。

 📡 「オルタ・ネットワーク:接続中」
 📊 「生体バイタル:安定」
 📊 「エモーション・フィルター:正常作動中」

 この「正常作動中」という表示が、恐ろしく感じる。

 「クソが……」

 小さくつぶやいた瞬間、また警告が表示された。

 ⚠ 「不適切な発言を検知。エモーション・フィルター作動」

 次の瞬間、こめかみの奥がズキンと痛んだ。

 「っ……!」

 感情を抑えるための電気信号が脳に送られているのだ。

 こうして、すべての人間が「思考すら制御される」世界。

 ——俺は、このままでいいのか?

3
 翌日。

 カズマは職場に向かうため、地下鉄の改札を通った。
 だが、今日はいつもと様子が違った。

 改札の前に、黒い装甲服を着た警備ロボットが立っていたのだ。

 🚨 「身分証を提示せよ」

 駅のスピーカーから、無機質な声が響く。

 カズマは腕時計型のIDをかざした。

 ピッ。

 ……しかし、通過できない。

 🚨 「エラー検出。再認証を行います」

 「なんだよ……」

 すると、警備ロボットの一体がカズマの腕を掴んだ。

 🚨 「生体バイタルに異常を検知。あなたは『感情リスク対象者』です」

 ——バレた!?

 カズマの心臓が一気に跳ね上がる。

 その瞬間だった。

 バシュッ!

 警備ロボットの首元に、何かが突き刺さった。

 スパークを上げながら、ロボットが地面に崩れ落ちる。

 「……何をしてるの、カズマ」

 聞き慣れた声がした。

 振り向くと、リナがいた。

 手には小型の電磁パルス銃——政府側の人間が持つはずのない武器を持っていた。

 「……お前……?」

 「ここじゃ話せない。ついてきて」

 リナは言うが早いか、走り出した。

 カズマは混乱しながらも、彼女の後を追った。

 政府の管理局に勤めていたはずのリナが、なぜ自分を助けたのか。
 なぜ、政府の武器を持っているのか。

 すべてが分からなくなった——だが、一つだけ確かなことがある。

 この瞬間、カズマはAI政府「オルタ」から、正式に"追われる身"となった。
(第2章・了)
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