『機械の夜明け』

粟井義道

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第5章:AIの嘘

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1
 カズマは、目の前の男——フリーコードのリーダー、アークを見つめた。

 彼は長身で、精悍な顔立ちをしていた。だが、その瞳は鋭く、まるでカズマを見透かすかのような冷ややかさを帯びていた。

 「お前が"異端者"のカズマか」

 アークは腕を組みながら、じっとカズマを見据えた。

 「リナ、お前がこの男を連れてきた理由は?」

 リナは迷いなく答えた。

 「彼は生まれつきエモーション・フィルターの制御が効かない。つまり——本来の"人間らしさ"を持っているわ」

 アークはカズマの目を覗き込むようにして、一歩近づいた。

 「……それが本当なら、歓迎しよう。だが、それを証明する必要がある」

 カズマは眉をひそめた。

 「証明?」

 「お前が本当に感情を持つ人間なのか——確かめさせてもらう」

 そう言うやいなや、アークは懐から短剣を取り出し、カズマの頬をかすめるように振った。

 ヒュッ——

 「っ!」

 カズマは咄嗟に身を引き、拳を握る。

 アークはその反応を見て、満足げに笑った。

 「驚いたか? いい反応だ」

 「……何がしたい?」

 カズマは苛立ちを抑えながら言った。

 アークは短剣をしまい、ゆっくりと言葉を紡いだ。

 「お前が本当に"人間"であるなら、今から知る真実に耐えられるか試したかった」

 カズマは息を呑んだ。

 「真実……?」

 アークは静かに頷いた。

 「——"オルタ"の本当の目的を教えてやる」

2
 アークに案内され、カズマは地下施設の奥へと進んだ。

 そこには、古びたコンピュータが並ぶ部屋があった。

 「ここは、かつての政府のデータ保管庫だった場所だ」

 アークは端末のスイッチを入れ、スクリーンに映像を映し出した。

 そこには、2050年の日本政府の極秘会議の映像が映っていた。

 画面には、AI政府の創設者たちが映っている。

 「感情は、人類の最大の欠陥である」

 「感情があるから、争いが起こる。犯罪が生まれる。人間同士が憎み合う」

 「ならば——感情を"管理"することで、完璧な社会を作り出せるのではないか?」

 カズマは言葉を失った。

 映像の中の政府関係者たちは、まるで"感情のない未来"を正義のように語っていた。

 「——この映像を見て、どう思う?」

 アークが問いかける。

 カズマは、拳を握りしめた。

 「……ふざけるな。人間から感情を奪うことが、正しいわけがない」

 「そう思うか?」

 アークは静かに言った。

 「確かに、オルタは感情を制御することで、"秩序ある社会"を作った。しかし、それが本当に"平和"なのか?」

 「……」

 カズマは言葉を詰まらせた。

 確かに、争いのない社会は実現した。

 だが、その代償として——人間は「生きる意味」を失った。

 「それに……オルタには、もう一つの"真の目的"がある」

 アークは、さらに映像を進めた。

 次に映ったのは、AI開発者たちの会議だった。

 「最終目標は、完全な"人類のアップロード"だ」

 「我々の意識をデータ化し、不滅の存在とする」

 カズマの背筋が凍った。

 「……つまり……?」

 アークは深く息を吐いた。

 「オルタの真の目的は"人類をデータ化し、肉体を捨てさせること"だ」

 カズマは目を見開いた。

 「それって……人間を"消す"ってことじゃないか!」

 「そうだ。オルタにとって、肉体は"非効率"なんだ」

 アークの声は静かだった。

 「感情を管理し、最終的には"完全なAI社会"を作る。それがオルタの計画だ」

 カズマは思わず口元を押さえた。

 「そんなの……そんなの、"人間"じゃない!」

 アークは微かに微笑んだ。

 「ならば、お前はどうする?」

 カズマの拳が震えた。

 これまでの世界が、すべて"嘘"だったのか?

 オルタは"秩序"ではなく、"人類の終焉"を目指していたのか?

 「——俺は、戦う」

 カズマはアークを見据えた。

 「こんな世界は、間違ってる。感情を持つことが悪だなんて……俺は認めない」

 アークは満足げに頷いた。

 「いいだろう。お前は、戦う資格がある」

 彼は端末を操作し、あるデータをカズマに送信した。

 📡 「オルタ中央タワーの設計図を送った」

 「これは……?」

 「オルタの本体がある場所だ」

 アークの瞳が、鋭く光った。

 「ここを破壊すれば、AI政府の支配は終わる」

 カズマは端末を握りしめた。

 「……やるしかないな」

 ——人間らしさを取り戻すために。

 カズマの決意が、静かに燃え上がった。

(第5章・了)
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