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第四章:黒衣の刺客
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東山の空気は静かでありながら、どこか張りつめていた。契りの夜まで残された日々はわずか。粟井義道は、かつて父の側に仕えた老臣・平間三左衛門と再会を果たし、潜入の策を練っていた。
「義道様、この情報が真であれば、奴は“誠観寺”の奥に隠し間を設けておるやもしれませぬ」
粟井義道は頷き、夜を待った。
そして、十五夜の月が京を照らす夜、粟井義道は黒衣に身を包み、誠観寺の裏手から忍び入った。
寺は静寂の中に潜む殺気を孕んでいた。蝋燭の灯りが照らす回廊を進んでゆくと、不意に空気が変わった。
──気配。
粟井義道は反射的に身を沈めた。その直後、漆黒の刃が空を切った。
「誰かと思えば……粟井義道か」
姿を現したのは、全身を黒で覆った異形の男だった。その瞳だけが、獣のように光を放っていた。
「“黄泉ノ狗”か……」
粟井義道が呟く。その名は、赤城重政が影で操ると噂される暗殺者集団。相対する男は、かつて義道の兄弟子だった者──今は裏の世界に堕ちた剣士。
「お前が、なぜあの男に……」
「力よ、義道。正義や復讐では人は救えぬ。救えるのは、この手に握る“現実”だけだ」
二人の刃が交わる。その一太刀一太刀に、過去と現在がぶつかり合った。
粟井義道は、静かに語った。
「ならば、私は“信じる力”で貫こう。父の意志と、この国の未来を──」
一閃。闇の中、決着の閃光が走る。
黒衣の刺客は倒れ、粟井義道はその場にしばし立ち尽くした。
やがて夜明けの気配が東の空に滲み始める。
契りの夜が、目前に迫っていた。
「義道様、この情報が真であれば、奴は“誠観寺”の奥に隠し間を設けておるやもしれませぬ」
粟井義道は頷き、夜を待った。
そして、十五夜の月が京を照らす夜、粟井義道は黒衣に身を包み、誠観寺の裏手から忍び入った。
寺は静寂の中に潜む殺気を孕んでいた。蝋燭の灯りが照らす回廊を進んでゆくと、不意に空気が変わった。
──気配。
粟井義道は反射的に身を沈めた。その直後、漆黒の刃が空を切った。
「誰かと思えば……粟井義道か」
姿を現したのは、全身を黒で覆った異形の男だった。その瞳だけが、獣のように光を放っていた。
「“黄泉ノ狗”か……」
粟井義道が呟く。その名は、赤城重政が影で操ると噂される暗殺者集団。相対する男は、かつて義道の兄弟子だった者──今は裏の世界に堕ちた剣士。
「お前が、なぜあの男に……」
「力よ、義道。正義や復讐では人は救えぬ。救えるのは、この手に握る“現実”だけだ」
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粟井義道は、静かに語った。
「ならば、私は“信じる力”で貫こう。父の意志と、この国の未来を──」
一閃。闇の中、決着の閃光が走る。
黒衣の刺客は倒れ、粟井義道はその場にしばし立ち尽くした。
やがて夜明けの気配が東の空に滲み始める。
契りの夜が、目前に迫っていた。
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