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第十章
『秘事』#5
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「俺、フルーツミックスティーが良い」
シエンは店員の方へ少し身体を向けると、メニュー表を指差しながら、注文を伝えて行く。
「では、ボンゴレ・ビアンコとフルーツミックスティーのセットを一つ。ペスカトーレとアイスコーヒーのセットを一つ、お願いします」
店員は素早く注文票にメモを取って行く。
「ボンゴレとフルーツミックスティーとペスカトーレとアイスコーヒーのセットを一つずつですね」
注文確認をすると、一礼をする。
「──お待ち下さい」
ロイスは店員が去ると、振り返って再び店内を見渡す。客のほとんどが女性で、恋人と思われる男女が一組いた。
男同士で、しかも歳の離れた自分達は、どう見えるのか少し恥ずかしくなって、窓の外の景色を見ることにした。
「パスタ屋っていうか…ハンバーガーとか出て来そうな店だ」
ロイスはレモン水を飲みながら、肩を竦める。
ドアの涼やかな音がして、新たな客がやって来る。
やはり二人の女性客だった。彼女達は奥のテーブル席へ案内された。
「でも、あの浮き玉とか入り口の錨《いかり》とか…海辺にマッチしてませんか?」
テーブルに左肘を付いたシエンは、愛おしそうにロイスの横顔を見つめる。
ロイスは両肘で頬杖を付いて、海を眺める。
桟橋の柵に、海鳥が二羽止まっており、仲良さそうに、戯れている。
「そうだけど、BGMはパスタ屋って感じだな。海辺より海外に来た感じだ」
軽快なピアノジャズの曲が終わり、しばしの曲間の後、柔らかい外国語が流れて来た。
「そこは譲れなかったんでしょうね」
頬杖を付いていたロイスが、再度店内を見渡す。
ガラスかアクリル板で仕切られた厨房が見え、中でピッツァ職人が生地を見事な技で、クルクルと回し、時折上へ飛ばしている。
初めて目にするその技に、ロイスは感心して見ていた。
「どうしました?」
シエンもロイスが見つめる先に視線を移す。
ピッツァ職人は生地を広げ終えて、具材を乗せていた。
「あのカウンターの入れ物の中…」
ピッツァ職人が見える横には、元は何が入っていたのか判らない大きな透明のガラスの入れ物が置かれている。
「──凄い量のコルクだ」
入れ物の中には、半分以上コルク栓が詰められていた。
料理人が空いた瓶のコルク栓をそこに放り込んでいるのだろう。
「ワインとオリーブオイルの栓でしょうね」
確かに、ほんのり紫色に染まっているコルクも見える。
この、要はゴミ箱の役割をしている入れ物でさえも、店のインテリアと化しているアイデアに、ロイスは感心する。
具材を乗せ終えたピッツァ職人が、大きなスコップでピッツァを石窯の中に入れている。
女性店員が両手にトレイを持って、こちらに向かって来た。
「お待たせしました。ボンゴレは…」
店員はニコリと笑い、二人を交互に見る。
「こちらの方に。あとフルーツティーも」
「はい」
ロイスの前に、ボンゴレ・ビアンコとフルーツミックスティーが置かれる。
湯気と共に、潮とオリーブオイル、そして微かにニンニクと唐辛子の香りがする。食欲をそそる香りに、いつもより食べれそうな気がした。
シエンの前には、オレンジ色をしたパスタの上に沢山の魚介が乗ったペスカトーレ。そのムール貝やエビに混ざって、大きな唐辛子が見える。
「──ではごゆっくり」
店員は、テーブルに置かれた透明の筒に、伝票を入れると去って行った。
ロイスはシエンのペスカトーレを見て、「よくそんな辛そうで、トマトが使われたものが食べれるな」と、眉をひそめる。
「では、いただきましょうか」
二人の間に置かれたカゴの中からフォークとスプーンを取り出そうとすると、お互いの手が触れ合った。
「あっ…」
ロイスが手を引っ込めようとすると、シエンに手首を掴まれた。
「どうぞ」
ロイスの身体がビクリと反応する。
シエンの手が、ロイスの手に重ねられて、フォークとスプーンが渡される。
その様《さま》をロイスは息を飲んで見つめる。
手の平にカトラリーが乗せられると、シエンの手がそっと重ねられて、それらを握らされた。
「……お、俺が」
一旦、ゴクリと喉を鳴らす。
「──渡そうとしたのに」
少し悔しそうに口を結ぶロイスに、シエンは微笑む。
「それでは折角なので」
そう言うと、シエンはロイスへ手を差し出す。
ロイスはパスタ皿に「ハ」の字にシエンから受け取ったカトラリーを置く。そして気ごちない手付きで、両手でフォークとスプーンをカゴから取り出す。
「えっ…と」
目の前にシエンの大きな手がある。
ロイスは戸惑いがちに、一旦シエンの顔を見上げる。
どうしたら良いのか判らず、瞬きが多くなる。
右手にカトラリーを持って、シエンが自分に渡した作法を思い出すように、左手をシエンの右手の下から持って、挟み込むように、そっと手渡した。
「ありがとうございます」
目の前に、ゆるふわの金色の丸い頭がある。
シエンは、その金糸に指を差し入れて、引き寄せてたくなる衝動に駆られる。
(──…流石に、ここではマズイですね)
ロイスに気付かれぬように、左手で拳を握り、理性を保つ。
理性を崩すのは、今でも自分でもない。
(──今のところ、“順調”ですしね)
シエンは店員の方へ少し身体を向けると、メニュー表を指差しながら、注文を伝えて行く。
「では、ボンゴレ・ビアンコとフルーツミックスティーのセットを一つ。ペスカトーレとアイスコーヒーのセットを一つ、お願いします」
店員は素早く注文票にメモを取って行く。
「ボンゴレとフルーツミックスティーとペスカトーレとアイスコーヒーのセットを一つずつですね」
注文確認をすると、一礼をする。
「──お待ち下さい」
ロイスは店員が去ると、振り返って再び店内を見渡す。客のほとんどが女性で、恋人と思われる男女が一組いた。
男同士で、しかも歳の離れた自分達は、どう見えるのか少し恥ずかしくなって、窓の外の景色を見ることにした。
「パスタ屋っていうか…ハンバーガーとか出て来そうな店だ」
ロイスはレモン水を飲みながら、肩を竦める。
ドアの涼やかな音がして、新たな客がやって来る。
やはり二人の女性客だった。彼女達は奥のテーブル席へ案内された。
「でも、あの浮き玉とか入り口の錨《いかり》とか…海辺にマッチしてませんか?」
テーブルに左肘を付いたシエンは、愛おしそうにロイスの横顔を見つめる。
ロイスは両肘で頬杖を付いて、海を眺める。
桟橋の柵に、海鳥が二羽止まっており、仲良さそうに、戯れている。
「そうだけど、BGMはパスタ屋って感じだな。海辺より海外に来た感じだ」
軽快なピアノジャズの曲が終わり、しばしの曲間の後、柔らかい外国語が流れて来た。
「そこは譲れなかったんでしょうね」
頬杖を付いていたロイスが、再度店内を見渡す。
ガラスかアクリル板で仕切られた厨房が見え、中でピッツァ職人が生地を見事な技で、クルクルと回し、時折上へ飛ばしている。
初めて目にするその技に、ロイスは感心して見ていた。
「どうしました?」
シエンもロイスが見つめる先に視線を移す。
ピッツァ職人は生地を広げ終えて、具材を乗せていた。
「あのカウンターの入れ物の中…」
ピッツァ職人が見える横には、元は何が入っていたのか判らない大きな透明のガラスの入れ物が置かれている。
「──凄い量のコルクだ」
入れ物の中には、半分以上コルク栓が詰められていた。
料理人が空いた瓶のコルク栓をそこに放り込んでいるのだろう。
「ワインとオリーブオイルの栓でしょうね」
確かに、ほんのり紫色に染まっているコルクも見える。
この、要はゴミ箱の役割をしている入れ物でさえも、店のインテリアと化しているアイデアに、ロイスは感心する。
具材を乗せ終えたピッツァ職人が、大きなスコップでピッツァを石窯の中に入れている。
女性店員が両手にトレイを持って、こちらに向かって来た。
「お待たせしました。ボンゴレは…」
店員はニコリと笑い、二人を交互に見る。
「こちらの方に。あとフルーツティーも」
「はい」
ロイスの前に、ボンゴレ・ビアンコとフルーツミックスティーが置かれる。
湯気と共に、潮とオリーブオイル、そして微かにニンニクと唐辛子の香りがする。食欲をそそる香りに、いつもより食べれそうな気がした。
シエンの前には、オレンジ色をしたパスタの上に沢山の魚介が乗ったペスカトーレ。そのムール貝やエビに混ざって、大きな唐辛子が見える。
「──ではごゆっくり」
店員は、テーブルに置かれた透明の筒に、伝票を入れると去って行った。
ロイスはシエンのペスカトーレを見て、「よくそんな辛そうで、トマトが使われたものが食べれるな」と、眉をひそめる。
「では、いただきましょうか」
二人の間に置かれたカゴの中からフォークとスプーンを取り出そうとすると、お互いの手が触れ合った。
「あっ…」
ロイスが手を引っ込めようとすると、シエンに手首を掴まれた。
「どうぞ」
ロイスの身体がビクリと反応する。
シエンの手が、ロイスの手に重ねられて、フォークとスプーンが渡される。
その様《さま》をロイスは息を飲んで見つめる。
手の平にカトラリーが乗せられると、シエンの手がそっと重ねられて、それらを握らされた。
「……お、俺が」
一旦、ゴクリと喉を鳴らす。
「──渡そうとしたのに」
少し悔しそうに口を結ぶロイスに、シエンは微笑む。
「それでは折角なので」
そう言うと、シエンはロイスへ手を差し出す。
ロイスはパスタ皿に「ハ」の字にシエンから受け取ったカトラリーを置く。そして気ごちない手付きで、両手でフォークとスプーンをカゴから取り出す。
「えっ…と」
目の前にシエンの大きな手がある。
ロイスは戸惑いがちに、一旦シエンの顔を見上げる。
どうしたら良いのか判らず、瞬きが多くなる。
右手にカトラリーを持って、シエンが自分に渡した作法を思い出すように、左手をシエンの右手の下から持って、挟み込むように、そっと手渡した。
「ありがとうございます」
目の前に、ゆるふわの金色の丸い頭がある。
シエンは、その金糸に指を差し入れて、引き寄せてたくなる衝動に駆られる。
(──…流石に、ここではマズイですね)
ロイスに気付かれぬように、左手で拳を握り、理性を保つ。
理性を崩すのは、今でも自分でもない。
(──今のところ、“順調”ですしね)
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