小指は契約の香り-秘密の二人編-

弥都 史誠(ヤツ フミタカ)

文字の大きさ
38 / 52
第十章

『秘事』#4

しおりを挟む
 シエンは車を降りるとサングラスを外し、胸ポケットに入れる。助手席に周ると、ドアを開けた。
「なんか…パスタの店って感じじゃないな」
 差し出されたシエンの手を取りながら、ロイスは店を見上げる。
 店は古き良き時代の海辺の家のような、ロッジ風の外観をしていた。
 無垢の木の入口の壁には、白と水色に塗られた木製の浮き輪が掛けられている。くるりと巻かれた白い綱がアクセントになっている。
 目の高さに小さなステンドグラスが嵌め込まれたドアの横には、大きな金属製の錨《いかり》が置かれている。
 ロイスには馴染みの無い店だった。勿論、学校帰りにレイモンドに誘われて、ファミリーレストランに行ったこともある。しかし、高校生同士──特に男子高校生が気軽に入るには気恥ずかしいような、女性人気の高い『オシャレなカフェ』といった店に入るのは初めてだった。
「そうでしょう。それが良いんですよ」
 ロイスはシエンの後ろに、恐る恐るついて行く。
「──さぁ、どうぞ」
 シエンが店の扉を開けると、チリンチリンと涼やかな鈴の音がなる。
 ロイスを先に入店させる。
「ありがと」
 ロイスが店に入ると、店内は程よく空調が効いていて、外国語で伝統的な曲調のBGMがゆったりと流れている。内装も海辺の店らしく、古いランプや縄網に入れられたガラス製の浮き玉が幾つも飾られている。
 一番目立つ壁には、実際に使われていたような、大きく古びた船の舵が飾られている。
 時刻は十一時四十分。店内はまだ空席もあった。
「いらっしゃいませ~。何名様ですか?」
 丸い盆を持って、腰にエプロンを巻いた女性店員が、シエンに声をかける。
「二人です」
 シエンは店員に向かって、二本の指を立てる。
(レイ達とファミレスには行ったことあるけど…こういう店は初めてだな)
 自然とシエンのジャケットの裾を握っていた。
 ロイスは物珍しそうに、店内を見渡す。いつも行くのは、両親や祖父母達と行く高級ホテル内のレストランや高級ショッピング街に建つ一流レストランばかりだった。
「席へご案内します」
 店員が空いている席へ案内しようと、店の奥へ手を向ける。
 しかしシエンは、窓際にカウンター席を指差す。
「あの、窓際のカウンター、よろしいですか?」
 店員はニッコリと笑顔を作る。
「はい、どうぞ」
 そう言って、カウンター席に向かって手を挙げて、二人を案内した。
「ロイス様、カウンター席へ参りましょう」
 シエンはそっとロイスの腰に手を当てて、窓際へと誘《いざな》う。
「うん…」
 ロイスは初めてのカウンター席に戸惑う。
(──テーブル席じゃないんだ…)
 いつも行く店にはカウンター席は無い。祖父が上座《かみざ》に座り、一番年下の自分は末席だ。
 空いているテーブル席もあるのに、何故シエンがカウンター席を指定したのか判らない。
 テーブルの上には何も置いてない為、予約席でもなさそうなのに。
「どうぞ」
 テーブル席を見ているロイスに、シエンがカウンター席の中央に置かれた椅子を引いて待っていた。
 シエンに誘われるままに、ロイスはカウンター席に座る。
 そして、きちんと座り、顔を窓の外に向けると、眼前に広がる景色に目を見張る。
「…わぁ、海が綺麗だ」
 目の前には屋根の付いたテラス席、その奥の小さな庭には二本の大きな木が見える。右側の木はオリーブ。左側はブラシに似た赤い花みたいなものが沢山付いている。そして道路があり、一番奥にヨットハーバーと青い海が広がっていた。
 オリーブの木の裏から延びた桟橋で、ヨットの出航準備をしている男達が四~五人いる。
 窓枠で切り取られたアートのように、店内の一部となっていた。
「そうでしょう。カウンター席から眺める、この景色が良いんですよ」
 シエンがロイスの左側に座ると、店員がレモンの入った水とおしぼりをテーブルに置いて行った。
「──さて、何を召し上がりますか?」
 シエンはメニュー表をロイスの前に広げる。
 写真付きで、美味しそうなパスタが何種類も並んでいる。
「うーん…」
 あまりの種類の多さに、ロイスは迷う。
 メニュー表のページを捲《めく》ると、次のページにはピッツァが並んでいた。更にページをめくると、リゾットとサンドウィッチが並んでいる。
 サンドウィッチも良いが、やはりシエンがお勧めだと言うパスタにすることにして、ページを元に戻した。
 トマトは食べれないから、オイル系かクリーム系かスープ系か…。クリーム系やスープ系は、もしかしたらソースやスープで服を汚すかもしれない。
 と、なるとオイル系一択になる。
「──ボンゴレ、かな」
 ロイスはアサリが沢山盛られたボンゴレ・ビアンコを指差す。
「──アサリが食べたい」
 シエンが海鮮が美味しいって言っていたから。
「承知しました」
 シエンは振り返り、厨房入口から店内を見渡している女性店員に合図を送る。
「──すみません」
 女性店員は、エプロンから注文用紙を取り出しながら、足早に二人の間に立った。
「ご注文伺います」
「ボンゴレ・ビアンコと…」
 ふと、メニュー表に「ランチにはドリンクが付きます」の文字を見て、ロイスにドリンクを聞くのを忘れていた事に気付く。
「──あ、セットのドリンクはどうしますか?」
 ロイスもそれに気付いたのか、セットドリンクの一覧を見ていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

期待の名探偵の頭脳は、俺に全振りされている。

さんから
BL
高校生探偵後輩×漫画描き先輩 部活の後輩・後生掛 清志郎は、数々の難事件を解決してきた期待の名探偵だ。……だけど高校に入学してから探偵の活動を控えているらしく、本人いわくその理由は俺・指宿 春都にあると言う。 「俺はイブ先輩だけに頼られたいし、そのために可能な限りあなたの傍にいたいんですっ」 いつもそう言って、しょうもないことばかりに推理力を使う後生掛。頭も見た目も良いコイツがどうして俺に執着してるのかが分からなくて──。

今日もBL営業カフェで働いています!?

卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ ※ 不定期更新です。

あなたの王子様になりたい_1

しお
BL
歌舞伎町の外れにある小さなバーで働く元ホスト・ゆみと。 平穏な夜になるはずだった店に、場違いなほど美しく、自信に満ちた大学生・直央が女性と共に現れる。 女性の好意を巧みにかわしながら、なぜかゆみとにだけ興味を示す直央。軽口と挑発を織り交ぜた距離の詰め方に、経験豊富なはずのゆみとは次第にペースを崩されていく。 甘くて危うい「王子様」との出会いが、ゆみとの退屈な夜を静かに狂わせ始めた――。

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。 【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】 主任補佐として、ちゃんとせなあかん── そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。 春のすこし手前、まだ肌寒い季節。 新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。 風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。 何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。 拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。 年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。 これはまだ、恋になる“少し前”の物語。 関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。 (5月14日より連載開始)

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

タトゥーの甘い檻

マリ・シンジュ
BL
執着系わんこ攻(大学生)× 高潔な美形教授受(30代) どのお話も単体でお楽しみいただけます。 ​「先生、ここ……僕の瞳を入れるから。ずっと、僕だけを見てて」 ​真面目な大学教授・新城が、大学生の・羽生にだけ許した、あまりにも淫らな「わがまま」。 ​それは、誰にも見えない内腿の奥深くに、消えないタトゥーを刻むこと。 「下書き」と称して肌を赤く染めるペン先の冷たさ。 アトリエの無機質なライトの下、四つん這いで晒される大人の矜持。 ​ずっと年下の青年の、必死で、残酷で、純粋な独占欲。 愚かだと知りながら、新城はその熱に絆され、ゆっくりと「聖域」を明け渡していく――。 ​「……お前のわがままには、最後まで付き合う」 ​針が通るその時、二人の関係は一生消えない「共犯」へと変わる。 執着攻め×年上受け、密やかに刻まれる秘め事のお話。

隣の席のイケメンに懐かれた

しょうがやき
BL
隣の席のイケメンに懐かれた平凡男子の話

政略結婚したかった

わさび
BL
御曹司 朝峰楓× 練習生 村元緋夏 有名な事務所でアイドルを目指して練習生をしている緋夏だが、実は婚約者がいた。 二十歳までにデビューしたら婚約破棄 デビューできなかったらそのまま結婚 楓と緋夏は隣同士に住む幼馴染で親はどちらも経営者。 会社のために勝手に親達が決めた政略結婚と自分の気持ちで板挟みになっている緋夏だったが____

処理中です...