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第一章
『悪友』#1
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春──学園都市、マレニア・シティ。
ようやく身を切るような寒さから解放され、草花が芽吹き、硬かった蕾を開き花を咲かせる華やかな季節。
薄いピンク色の小花を一斉に咲かせた大木が並び作るトンネルを、一台の黒塗りの高級車が通って行く。
そして、立派な校門の前で停まった。
運転手は車から降りて後ろのドアを開けると、恭しく頭を下げたまま主人が降りるのを待つ。
「いってらっしゃいませ。ロイス様」
車から降りて来たのは、襟足までに整えられたゆるふわ金髪にアレキサンドライトを思わせる碧眼の美少年だ。
「うん、ご苦労」
ロイス・リチャードソン。
この学院の理事長の孫で、学長の一人息子。十六歳の若さで、既に名家リチャードソン家に相応しい風貌と気品に溢れている。
金糸の髪を揺らして、ボルドーのブレザーにグレーのスラックスの制服を着たロイスは、校門へ向かう。
今日は私立セント・リチャードソン学院高等部の入学式兼始業式。
学校名が彫られた銅板が嵌め込まれた校門横に立てられた、『入学式』の看板と共に新入生と保護者が次々と写真を撮っている。
学内の新入生、在学生全ての生徒が新しい学校生活に心踊らせていた。
ロイスはその脇を通ると、新入生達が集まって、談笑している。中等部から制服も変わり、初々しくも期待に満ちた姿を見て、ロイスはふっと口元を緩める。
そんなロイスが纏う春の香りに誘われて、一匹の大きな白い蝶がその右肩に舞い降りる。
ゆっくりと開閉する丸みを帯びた翅が太陽に照らされて、その鱗粉が七色に控え目に光っている。
大量の小輪の白バラを咲かせた、薮のような木の植った角を左に曲がる。甘めの清々《すがすが》しい香りがほんのり立ち込め、春の香りに彩りを添える。
掲示板に貼り出された、自分の新しいクラスを探している在校生の群衆が見えて来る。
「おっと‼︎」
ロイスは掲示板まで、あと少しの所で足を止める。
掲示板前の人混みを掻き分け、中から一人の少年が飛び出して来た。
「──おぉっ! 坊ちゃん、やっと現れたな」
ロイスに気付いて声をかけてきたのは、青色に染めて、白いメッシュを所々に入れた髪を所々跳ねさせた少年だった。
しかも、ブレザーもベストもボタンは全て外されている。ネクタイは首に引っ掛けてある程度。白いシャツはスラックスに仕舞われておらず、ボタンも下半分しか留められていない。
幼年部から大学院まで一貫のエリート校には似つかわしくない風貌だ。
突然の喧騒に驚いたのか、ロイスの肩に止まっていた蝶がふわりと飛び立ち、元来た道を戻るように離れて行く。
その様子を問題児風の少年は、見たことのない蝶だな、と思いながら見送る。
「レイモンド、その呼び方、今年も止めるつもりはないみたいだな」
ロイスの静かな怒気を孕んだ言葉に、レイモンドが彼に視線を移すと、無表情にナイトブルーの瞳が光っていた。
そんなロイスの心情など、レイモンドは頓着しない。
「坊ちゃんは坊ちゃんだろ?」
レイモンドにとって、ロイスはただの“坊ちゃん”でしかない。
彼はチェック柄のスラックスのポケットに両手を突っ込むと、ニカッと白い歯を見せて笑う。
「それに今日は式の日だ。無地の制服という規則だったと記憶しているが…違うか?」
ロイスは黙ってギロリと、アイスブルーの瞳でレイモンドを睨み付ける。
「あー、そうだっけ?」
レイモンド・ルーニー。
性格は極めて明るく社交的。いつも飄々として軽薄に見える。だが、誰に対しても決して媚びたりせず、タメ口をきく事すら厭わない。
「──それよりさ、俺とロドルフ、今年も坊ちゃんと同じクラス。また一年よろしくな!」
ロイスの怒りの視線など全く気にせず、レイモンドは笑いながら彼の肩をポンポンと叩いた。
その瞬間、横に咲くバラの香りよりも強く、フローラルな香りが漂って来る。
「──坊ちゃん、今日も良い匂いだな~。蝶も引き寄せちゃうって、どんな良い柔軟剤使ってんだよっての!」
レイモンドは少し屈んで、蝶が止まっていた辺りの肩に鼻を近づけて、香りを嗅ぐ仕草をする。
「蝶? 何の話だ?」
ロイスは眉間を寄せると、少し引き気味にレイモンドに問う。
「あー、良いの良いの。知らなきゃ知らなかったで」
レイモンドは鼻から香りを取り込むと、大きく息を吐く。
ようやく身を切るような寒さから解放され、草花が芽吹き、硬かった蕾を開き花を咲かせる華やかな季節。
薄いピンク色の小花を一斉に咲かせた大木が並び作るトンネルを、一台の黒塗りの高級車が通って行く。
そして、立派な校門の前で停まった。
運転手は車から降りて後ろのドアを開けると、恭しく頭を下げたまま主人が降りるのを待つ。
「いってらっしゃいませ。ロイス様」
車から降りて来たのは、襟足までに整えられたゆるふわ金髪にアレキサンドライトを思わせる碧眼の美少年だ。
「うん、ご苦労」
ロイス・リチャードソン。
この学院の理事長の孫で、学長の一人息子。十六歳の若さで、既に名家リチャードソン家に相応しい風貌と気品に溢れている。
金糸の髪を揺らして、ボルドーのブレザーにグレーのスラックスの制服を着たロイスは、校門へ向かう。
今日は私立セント・リチャードソン学院高等部の入学式兼始業式。
学校名が彫られた銅板が嵌め込まれた校門横に立てられた、『入学式』の看板と共に新入生と保護者が次々と写真を撮っている。
学内の新入生、在学生全ての生徒が新しい学校生活に心踊らせていた。
ロイスはその脇を通ると、新入生達が集まって、談笑している。中等部から制服も変わり、初々しくも期待に満ちた姿を見て、ロイスはふっと口元を緩める。
そんなロイスが纏う春の香りに誘われて、一匹の大きな白い蝶がその右肩に舞い降りる。
ゆっくりと開閉する丸みを帯びた翅が太陽に照らされて、その鱗粉が七色に控え目に光っている。
大量の小輪の白バラを咲かせた、薮のような木の植った角を左に曲がる。甘めの清々《すがすが》しい香りがほんのり立ち込め、春の香りに彩りを添える。
掲示板に貼り出された、自分の新しいクラスを探している在校生の群衆が見えて来る。
「おっと‼︎」
ロイスは掲示板まで、あと少しの所で足を止める。
掲示板前の人混みを掻き分け、中から一人の少年が飛び出して来た。
「──おぉっ! 坊ちゃん、やっと現れたな」
ロイスに気付いて声をかけてきたのは、青色に染めて、白いメッシュを所々に入れた髪を所々跳ねさせた少年だった。
しかも、ブレザーもベストもボタンは全て外されている。ネクタイは首に引っ掛けてある程度。白いシャツはスラックスに仕舞われておらず、ボタンも下半分しか留められていない。
幼年部から大学院まで一貫のエリート校には似つかわしくない風貌だ。
突然の喧騒に驚いたのか、ロイスの肩に止まっていた蝶がふわりと飛び立ち、元来た道を戻るように離れて行く。
その様子を問題児風の少年は、見たことのない蝶だな、と思いながら見送る。
「レイモンド、その呼び方、今年も止めるつもりはないみたいだな」
ロイスの静かな怒気を孕んだ言葉に、レイモンドが彼に視線を移すと、無表情にナイトブルーの瞳が光っていた。
そんなロイスの心情など、レイモンドは頓着しない。
「坊ちゃんは坊ちゃんだろ?」
レイモンドにとって、ロイスはただの“坊ちゃん”でしかない。
彼はチェック柄のスラックスのポケットに両手を突っ込むと、ニカッと白い歯を見せて笑う。
「それに今日は式の日だ。無地の制服という規則だったと記憶しているが…違うか?」
ロイスは黙ってギロリと、アイスブルーの瞳でレイモンドを睨み付ける。
「あー、そうだっけ?」
レイモンド・ルーニー。
性格は極めて明るく社交的。いつも飄々として軽薄に見える。だが、誰に対しても決して媚びたりせず、タメ口をきく事すら厭わない。
「──それよりさ、俺とロドルフ、今年も坊ちゃんと同じクラス。また一年よろしくな!」
ロイスの怒りの視線など全く気にせず、レイモンドは笑いながら彼の肩をポンポンと叩いた。
その瞬間、横に咲くバラの香りよりも強く、フローラルな香りが漂って来る。
「──坊ちゃん、今日も良い匂いだな~。蝶も引き寄せちゃうって、どんな良い柔軟剤使ってんだよっての!」
レイモンドは少し屈んで、蝶が止まっていた辺りの肩に鼻を近づけて、香りを嗅ぐ仕草をする。
「蝶? 何の話だ?」
ロイスは眉間を寄せると、少し引き気味にレイモンドに問う。
「あー、良いの良いの。知らなきゃ知らなかったで」
レイモンドは鼻から香りを取り込むと、大きく息を吐く。
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