14 / 52
第四章
『再会』#1
しおりを挟む
新しいクラスでの教科担当係を決める際に、ロイスは敢えて地理を選んだ。担当教師は、当日にならなければ判らなかったが、シエンに近付ける確率を上げたかったのだ。
レイモンドには「生徒会があるからって、去年はやらなかったのによ」と揶揄《からか》われたが、「両立出来ることが判ったんだ」と無難な返事をした。
そして初めての地理の授業の日。
ロイスは朝からどこか心《こころ》此処に在《あ》らずといった感じで、珍しく外国語のリスニングでミスをした。
クラスの全員がザワつく。
こんな些細なミスなどしたこと無かったのに。
着席すると、ショックで頭を抱え、溜め息が出た。
すると前の席のロドルフが、そっと机に紙切れを置いた。渋々、紙切れを開く。
『どしたー? なんかあった?』
と、辛うじて読める汚い字が、ノートの切れ端に並んでいた。
機械音痴のレイモンドは、タブレット端末や携帯電話からのメールではなく、前々席《ぜんぜんせき》からわざわざ間のルドロフを介して手書きの手紙を寄越して来た。
「チッ…レイのやつ」
ロイスは舌打ちをして、その紙を丸めて制服の上着のポケットに押し込んだ。
そして、前のロドルフの背を突《つつ》く。
ロドルフは教師に気付かれぬように、僅かにロイスに顔を向ける。
「──レイモンドへの伝言だ。『授業中にふざけるな』」
ロドルフは無言で伝言を受け取ると、レイモンドの背を突く。
「なに?」
レイモンドは教師の目も気にせずに振り返った。その視線はロドルフを通り越して、顔はニヤニヤとして、明らかにロイスのミスを面白がっている。
そのレイモンドをロイスのアイスブルーが睨み付けている。
「授業に集中しろ」
ロドルフの忠告に、レイモンドはうんざりした顔に変わると「へいへい」と小さく返した。
そして次が地理の授業の時間がやって来た。
ロイスは担当教師がシエンであれと祈るか、違えと祈るか迷っていた。
休憩時間中のクラスメイトが、それぞれグループを作り、談笑したり悪ふざけをしたりしている中、ロイスは窓際の自席に座り、教科書を開いたり閉じたりと、落ち着かない。
「──どうかしましたか?」
朝から普段と違うロイスを見兼ねて、窓の外を警戒しているロドルフが声をかけた。
ロイスは開いていた教科書を、パタンと閉じる。
「な、何でもない」
焦ったロイスは早口で答えると、顔を赤らめて教科書を机の上に置いた。
レイモンドとロドルフに気付かれてしまう程、今日の自分は挙動がおかしいらしい。
心の中で「落ち着け、シエンが来るとは限らないだろう」と繰り返す。
レイモンドがトイレから戻って来る。
「おっと、間に合ったかな? あれ、坊ちゃん、どうしたんだよ。いつもより眉間にシワ寄っちゃってるよ~」
「なってない‼︎」
ロイスは眉間に伸びて来た、レイモンドの人差し指を払う。
「怖い怖い。綺麗な顔が台無しだ」
レイモンドは振り払われた手を、チェック柄のスラックスに突っ込む。
「余計なお世話だ」
ロイスは肘を机の上に置いて、手を組むとそっぽを向く。見抜かれた気不味さで、顔が熱い。
レイモンドは気にせず続ける。
「地理、嫌いだっけ? 自分から教科担当選んどいて、そりゃ無いよなぁ。ギャハハ!」
大笑いしながら、自席に着く。
それとほぼ同時に、始業のチャイムが鳴る。
「……ホント、うるさい奴だな」
ロイスはレイモンドに聞こえるか聞こえないかの声量で呟く。
窓の外に顔を向けて、黙ってやり取りを聞いていたロドルフも着席する。
(──でも…少し気が紛れたな)
ロイスはこっそりと目を細めって、口元を緩めた。
クラスメイト達全員の着席が終わる頃、教室の扉が開かれ、担当教師が入って来た。
すると、女子生徒達がざわめき出す。思わず悲鳴を上げた者もいた。
「──……‼︎」
ロイスも目を見開いて息を飲む。
(──シエン…‼︎)
式の時とは違う紺色のスーツを着ていたが、やはりまだ着ていると言うより、着させられている印象だ。
クラス長が起立の号令を出し、教師に礼をし着席する。
「このクラスの地理を担当するシエン・アンブラです。よろしくお願いします」
マイク越しではない、生のシエンの声にロイスは心穏やかではなくなる。
シエンが改めて自己紹介し、女生徒の質問に答えているが、ロイスの耳には普段より早い、自分の心臓の鼓動音しか入って来ない。
口内がカラカラになり、一生懸命に唾液を分泌させて、喉を鳴らした。
「──では、皆さんの顔と名前を覚える為に、出欠を取ります。名前を呼ばれたら、返事をして下さい」
シエンの声は、相変わらず穏やかで聞いていて心地良い。
が、ロイスはそれを聞いて、更に緊張する。
名前を呼ばれた時、どんな顔をすれば良い? もし、自分の事を覚えて…成長しているから、判って貰えなかったら?
中等部に進学した四年前から、懸命に忘れようとして、事実、シエンが居ないことが当たり前に感じるようになって来たところだったのに。
何だか自分に気付いて欲しいのか、気付かないで欲しいのかも判らなくなって来た。
レイモンドには「生徒会があるからって、去年はやらなかったのによ」と揶揄《からか》われたが、「両立出来ることが判ったんだ」と無難な返事をした。
そして初めての地理の授業の日。
ロイスは朝からどこか心《こころ》此処に在《あ》らずといった感じで、珍しく外国語のリスニングでミスをした。
クラスの全員がザワつく。
こんな些細なミスなどしたこと無かったのに。
着席すると、ショックで頭を抱え、溜め息が出た。
すると前の席のロドルフが、そっと机に紙切れを置いた。渋々、紙切れを開く。
『どしたー? なんかあった?』
と、辛うじて読める汚い字が、ノートの切れ端に並んでいた。
機械音痴のレイモンドは、タブレット端末や携帯電話からのメールではなく、前々席《ぜんぜんせき》からわざわざ間のルドロフを介して手書きの手紙を寄越して来た。
「チッ…レイのやつ」
ロイスは舌打ちをして、その紙を丸めて制服の上着のポケットに押し込んだ。
そして、前のロドルフの背を突《つつ》く。
ロドルフは教師に気付かれぬように、僅かにロイスに顔を向ける。
「──レイモンドへの伝言だ。『授業中にふざけるな』」
ロドルフは無言で伝言を受け取ると、レイモンドの背を突く。
「なに?」
レイモンドは教師の目も気にせずに振り返った。その視線はロドルフを通り越して、顔はニヤニヤとして、明らかにロイスのミスを面白がっている。
そのレイモンドをロイスのアイスブルーが睨み付けている。
「授業に集中しろ」
ロドルフの忠告に、レイモンドはうんざりした顔に変わると「へいへい」と小さく返した。
そして次が地理の授業の時間がやって来た。
ロイスは担当教師がシエンであれと祈るか、違えと祈るか迷っていた。
休憩時間中のクラスメイトが、それぞれグループを作り、談笑したり悪ふざけをしたりしている中、ロイスは窓際の自席に座り、教科書を開いたり閉じたりと、落ち着かない。
「──どうかしましたか?」
朝から普段と違うロイスを見兼ねて、窓の外を警戒しているロドルフが声をかけた。
ロイスは開いていた教科書を、パタンと閉じる。
「な、何でもない」
焦ったロイスは早口で答えると、顔を赤らめて教科書を机の上に置いた。
レイモンドとロドルフに気付かれてしまう程、今日の自分は挙動がおかしいらしい。
心の中で「落ち着け、シエンが来るとは限らないだろう」と繰り返す。
レイモンドがトイレから戻って来る。
「おっと、間に合ったかな? あれ、坊ちゃん、どうしたんだよ。いつもより眉間にシワ寄っちゃってるよ~」
「なってない‼︎」
ロイスは眉間に伸びて来た、レイモンドの人差し指を払う。
「怖い怖い。綺麗な顔が台無しだ」
レイモンドは振り払われた手を、チェック柄のスラックスに突っ込む。
「余計なお世話だ」
ロイスは肘を机の上に置いて、手を組むとそっぽを向く。見抜かれた気不味さで、顔が熱い。
レイモンドは気にせず続ける。
「地理、嫌いだっけ? 自分から教科担当選んどいて、そりゃ無いよなぁ。ギャハハ!」
大笑いしながら、自席に着く。
それとほぼ同時に、始業のチャイムが鳴る。
「……ホント、うるさい奴だな」
ロイスはレイモンドに聞こえるか聞こえないかの声量で呟く。
窓の外に顔を向けて、黙ってやり取りを聞いていたロドルフも着席する。
(──でも…少し気が紛れたな)
ロイスはこっそりと目を細めって、口元を緩めた。
クラスメイト達全員の着席が終わる頃、教室の扉が開かれ、担当教師が入って来た。
すると、女子生徒達がざわめき出す。思わず悲鳴を上げた者もいた。
「──……‼︎」
ロイスも目を見開いて息を飲む。
(──シエン…‼︎)
式の時とは違う紺色のスーツを着ていたが、やはりまだ着ていると言うより、着させられている印象だ。
クラス長が起立の号令を出し、教師に礼をし着席する。
「このクラスの地理を担当するシエン・アンブラです。よろしくお願いします」
マイク越しではない、生のシエンの声にロイスは心穏やかではなくなる。
シエンが改めて自己紹介し、女生徒の質問に答えているが、ロイスの耳には普段より早い、自分の心臓の鼓動音しか入って来ない。
口内がカラカラになり、一生懸命に唾液を分泌させて、喉を鳴らした。
「──では、皆さんの顔と名前を覚える為に、出欠を取ります。名前を呼ばれたら、返事をして下さい」
シエンの声は、相変わらず穏やかで聞いていて心地良い。
が、ロイスはそれを聞いて、更に緊張する。
名前を呼ばれた時、どんな顔をすれば良い? もし、自分の事を覚えて…成長しているから、判って貰えなかったら?
中等部に進学した四年前から、懸命に忘れようとして、事実、シエンが居ないことが当たり前に感じるようになって来たところだったのに。
何だか自分に気付いて欲しいのか、気付かないで欲しいのかも判らなくなって来た。
0
あなたにおすすめの小説
期待の名探偵の頭脳は、俺に全振りされている。
さんから
BL
高校生探偵後輩×漫画描き先輩
部活の後輩・後生掛 清志郎は、数々の難事件を解決してきた期待の名探偵だ。……だけど高校に入学してから探偵の活動を控えているらしく、本人いわくその理由は俺・指宿 春都にあると言う。
「俺はイブ先輩だけに頼られたいし、そのために可能な限りあなたの傍にいたいんですっ」
いつもそう言って、しょうもないことばかりに推理力を使う後生掛。頭も見た目も良いコイツがどうして俺に執着してるのかが分からなくて──。
今日もBL営業カフェで働いています!?
卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ
※ 不定期更新です。
あなたの王子様になりたい_1
しお
BL
歌舞伎町の外れにある小さなバーで働く元ホスト・ゆみと。
平穏な夜になるはずだった店に、場違いなほど美しく、自信に満ちた大学生・直央が女性と共に現れる。
女性の好意を巧みにかわしながら、なぜかゆみとにだけ興味を示す直央。軽口と挑発を織り交ぜた距離の詰め方に、経験豊富なはずのゆみとは次第にペースを崩されていく。
甘くて危うい「王子様」との出会いが、ゆみとの退屈な夜を静かに狂わせ始めた――。
オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?
中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」
そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。
しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は――
ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。
(……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ)
ところが、初めての商談でその評価は一変する。
榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。
(仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな)
ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり――
なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。
そして気づく。
「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」
煙草をくゆらせる仕草。
ネクタイを緩める無防備な姿。
そのたびに、陽翔の理性は削られていく。
「俺、もう待てないんで……」
ついに陽翔は榊を追い詰めるが――
「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」
攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。
じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。
【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】
主任補佐として、ちゃんとせなあかん──
そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。
春のすこし手前、まだ肌寒い季節。
新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。
風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。
何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。
拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。
年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。
これはまだ、恋になる“少し前”の物語。
関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。
(5月14日より連載開始)
陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
タトゥーの甘い檻
マリ・シンジュ
BL
執着系わんこ攻(大学生)× 高潔な美形教授受(30代)
どのお話も単体でお楽しみいただけます。
「先生、ここ……僕の瞳を入れるから。ずっと、僕だけを見てて」
真面目な大学教授・新城が、大学生の・羽生にだけ許した、あまりにも淫らな「わがまま」。
それは、誰にも見えない内腿の奥深くに、消えないタトゥーを刻むこと。
「下書き」と称して肌を赤く染めるペン先の冷たさ。
アトリエの無機質なライトの下、四つん這いで晒される大人の矜持。
ずっと年下の青年の、必死で、残酷で、純粋な独占欲。
愚かだと知りながら、新城はその熱に絆され、ゆっくりと「聖域」を明け渡していく――。
「……お前のわがままには、最後まで付き合う」
針が通るその時、二人の関係は一生消えない「共犯」へと変わる。
執着攻め×年上受け、密やかに刻まれる秘め事のお話。
政略結婚したかった
わさび
BL
御曹司 朝峰楓× 練習生 村元緋夏
有名な事務所でアイドルを目指して練習生をしている緋夏だが、実は婚約者がいた。
二十歳までにデビューしたら婚約破棄
デビューできなかったらそのまま結婚
楓と緋夏は隣同士に住む幼馴染で親はどちらも経営者。
会社のために勝手に親達が決めた政略結婚と自分の気持ちで板挟みになっている緋夏だったが____
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる