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第四章
『再会』#2
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名簿順に名前を呼ばれたクラスメイトは、次々と返事をして行く。
「レイモンド・ルーニー」
「へいへーい!」
「ロドルフ・フォルティス」
「……はい」
レイモンドもロドルフも、普段と全く変わりなく返事をしている。
次だ。とうとう順番が来てしまった。どこに視線を合わせて良いのか判らず、キョロキョロと視線が泳ぐ。
「……。ロイス…リチャードソン」
やや他の生徒より間があり、ロイスの名が呼ばれた。
「は…はいっ」
慌てて顔を上げると、シエンと目が合った。顔が熱くなるのを感じる。今、自分はどんな顔をしているのだろう。
ロイスと目が合ったシエンは、他の生徒が判らない程度に目を細めて微笑んだ。
(──シエン…笑った…? もしかしたら俺のこと…)
妙に居心地が悪くなる。こんなことなら教科担当になんか、ならなければ良かった。
全員の出欠を取り終えたシエンは、持って来た封筒から紙束を取り出す。
「まずは少し復習をしたいと思います」
シエンは封筒から取り出したプリント用紙を、最前列の机に後ろの人数分配って行く。
それを自分の分を取ったロドルフが、ロイスへと渡す。自分の分、一枚を取ると、残りの用紙を後ろの席へ回す。
「──そうですね…二十分まで解いて貰って、出来なかった分は明日までの宿題にしましょうか。教科担当者は集めて、明日中に持って来て下さい」
クラスメイト達は一斉に問題を解いて行く。
シエンはその様子を見ながら、廊下側から順に机の列の間を歩いて行く。
教室の中央辺りに差し掛かったところで、レイモンドが背伸びをした。
「よしゃ、終わった~!」
最初に問題を終わらせたのは、レイモンドだった。
青髪白いメッシュを入れた髪に、生徒の間では幻の石と噂されている小さな赤い石のピアス、着崩した制服姿を、風紀委員や教師に中等部から四年間注意され続けているが、本人は飄々と無視し続けているも、成績は常にトップなので、それ以上誰も何も言えない。しかも、授業中はほぼ寝ているのに、だ。
出自も「下町出身だろう」や「いや、大企業の息子らしい」と、様々な憶測が噂されているが、本人も明らかにするつもりはないようだった。
「早いですね。では、教科書を読んでいて下さい」
シエンはその早さに驚くも、冷静に青毛の不思議な生徒に、次の指示を出す。
「はいはーい」
レイモンドは紙の教科書を手に取ると、ペラペラと適当にめくり出す。
「レイはそれよりタブレットの使い方をマスターした方が良いんじゃないか?」
と、そんなレイモンドにクラスメイトの一人が揶揄《やゆ》すると、教室全体が笑いに包まれる。
「う、うるせーぞ‼︎ シメるぞ、こらぁ‼︎」
癇《かん》に障ったレイモンドは立ち上がり、その生徒に向かって怒鳴りつける。
教室内がシンと静まり、緊張が張り詰める。
「レイモンド、座れ」
シエンとロイスが注意しようとすると、ロドルフが真っ先に静かに嗜《たしな》めた。
「チッ、ロドルフに免じて今回は許してやる」
ドカッと椅子に座り直すと、鼻歌を歌いながらペラッペラッと頁をめくるのを再開する。
そして、ロイスもレイモンドから遅れる事、約三分で全問解き終わる。
(意外と難しかったな。レイモンドの奴…)
心中、悔しさを滲ませながら、ロイスはタブレットの方の教科書を見始める。
ロイスも決して成績は悪くない。常に五番以内には入っている。だが、レイモンドにはどうしても勝てなかった。
中等部一年生の時に、レイモンドにならってアナログで勉強してみたが、どうも自分には合わなかったようで諦めた。
「さすが生徒会長も早いですね」
声に気付くと、すぐ横にシエンが立っていた。好みの紅茶、アールグレイに似たコロンの良い香りが、鼻腔をくすぐる。
(そういえば…)
ロイスの遠い昔の記憶が蘇る。
色々な植物が置かれたサンルームに、午後の光が差し込んでいる。
そこに置いてあるガーデンテーブルに、使用人が用意した三段のアフタヌーンティーセット。皿にはシエンと自分のおやつのケーキや焼き菓子が綺麗に並べてある。
子供にはまだ高い、モザイク柄の座面によじ登るように座るのを、シエンが椅子の背凭れを持っていてくれた。
違う。あれはしっかりと椅子を支えて、落ちないように見守ってくれていたんだ。
きちんと腰を下ろすと、シエンが椅子をテーブルに寄せてくれて、その後、二人分の紅茶を淹れてくれる。
二人で笑いながら、ケーキを食べていると、シエンは膝のナプキンを手に取る。
『ロイス様、クリームが付いてますよ』
そう言って微笑むと、頬に付いている生クリームを拭き取ってくれた。
十年近く前の、恥ずかしくも甘い思い出にドギマギしながら、ゆっくりと声の主へ視線を移す。
シエンが後手を組んで、こちらを見ていた。そして、今度ははっきりと判るように微笑みかけて来た。
「あ…っと…、もっと早い奴らはいますから」
思わず顔をタブレットへ向け、返事をしたものの、自分の返答に自己嫌悪する。
シエンは教室内を一巡し教壇に戻ると、頭上の掛け時計を見る。
「そろそろ時間ですね。では、終わらなかった人は明日中に、教科担当へ渡して下さい。担当者は集めて、私の所へ持って来て下さい」
シエンの言葉に、生徒達は口々に了承の返事をしたものの、「解けたか?」「難しかった」などと隣と話している者もいた。
その後は、教科書を使った授業が始まるが、レイモンドは途中からコクリコクリと船を漕ぎ出して、終業のチャイムが鳴り、クラス長の起立の号令で慌てて立ち上がるまで起きることはなかった。
「レイモンド・ルーニー」
「へいへーい!」
「ロドルフ・フォルティス」
「……はい」
レイモンドもロドルフも、普段と全く変わりなく返事をしている。
次だ。とうとう順番が来てしまった。どこに視線を合わせて良いのか判らず、キョロキョロと視線が泳ぐ。
「……。ロイス…リチャードソン」
やや他の生徒より間があり、ロイスの名が呼ばれた。
「は…はいっ」
慌てて顔を上げると、シエンと目が合った。顔が熱くなるのを感じる。今、自分はどんな顔をしているのだろう。
ロイスと目が合ったシエンは、他の生徒が判らない程度に目を細めて微笑んだ。
(──シエン…笑った…? もしかしたら俺のこと…)
妙に居心地が悪くなる。こんなことなら教科担当になんか、ならなければ良かった。
全員の出欠を取り終えたシエンは、持って来た封筒から紙束を取り出す。
「まずは少し復習をしたいと思います」
シエンは封筒から取り出したプリント用紙を、最前列の机に後ろの人数分配って行く。
それを自分の分を取ったロドルフが、ロイスへと渡す。自分の分、一枚を取ると、残りの用紙を後ろの席へ回す。
「──そうですね…二十分まで解いて貰って、出来なかった分は明日までの宿題にしましょうか。教科担当者は集めて、明日中に持って来て下さい」
クラスメイト達は一斉に問題を解いて行く。
シエンはその様子を見ながら、廊下側から順に机の列の間を歩いて行く。
教室の中央辺りに差し掛かったところで、レイモンドが背伸びをした。
「よしゃ、終わった~!」
最初に問題を終わらせたのは、レイモンドだった。
青髪白いメッシュを入れた髪に、生徒の間では幻の石と噂されている小さな赤い石のピアス、着崩した制服姿を、風紀委員や教師に中等部から四年間注意され続けているが、本人は飄々と無視し続けているも、成績は常にトップなので、それ以上誰も何も言えない。しかも、授業中はほぼ寝ているのに、だ。
出自も「下町出身だろう」や「いや、大企業の息子らしい」と、様々な憶測が噂されているが、本人も明らかにするつもりはないようだった。
「早いですね。では、教科書を読んでいて下さい」
シエンはその早さに驚くも、冷静に青毛の不思議な生徒に、次の指示を出す。
「はいはーい」
レイモンドは紙の教科書を手に取ると、ペラペラと適当にめくり出す。
「レイはそれよりタブレットの使い方をマスターした方が良いんじゃないか?」
と、そんなレイモンドにクラスメイトの一人が揶揄《やゆ》すると、教室全体が笑いに包まれる。
「う、うるせーぞ‼︎ シメるぞ、こらぁ‼︎」
癇《かん》に障ったレイモンドは立ち上がり、その生徒に向かって怒鳴りつける。
教室内がシンと静まり、緊張が張り詰める。
「レイモンド、座れ」
シエンとロイスが注意しようとすると、ロドルフが真っ先に静かに嗜《たしな》めた。
「チッ、ロドルフに免じて今回は許してやる」
ドカッと椅子に座り直すと、鼻歌を歌いながらペラッペラッと頁をめくるのを再開する。
そして、ロイスもレイモンドから遅れる事、約三分で全問解き終わる。
(意外と難しかったな。レイモンドの奴…)
心中、悔しさを滲ませながら、ロイスはタブレットの方の教科書を見始める。
ロイスも決して成績は悪くない。常に五番以内には入っている。だが、レイモンドにはどうしても勝てなかった。
中等部一年生の時に、レイモンドにならってアナログで勉強してみたが、どうも自分には合わなかったようで諦めた。
「さすが生徒会長も早いですね」
声に気付くと、すぐ横にシエンが立っていた。好みの紅茶、アールグレイに似たコロンの良い香りが、鼻腔をくすぐる。
(そういえば…)
ロイスの遠い昔の記憶が蘇る。
色々な植物が置かれたサンルームに、午後の光が差し込んでいる。
そこに置いてあるガーデンテーブルに、使用人が用意した三段のアフタヌーンティーセット。皿にはシエンと自分のおやつのケーキや焼き菓子が綺麗に並べてある。
子供にはまだ高い、モザイク柄の座面によじ登るように座るのを、シエンが椅子の背凭れを持っていてくれた。
違う。あれはしっかりと椅子を支えて、落ちないように見守ってくれていたんだ。
きちんと腰を下ろすと、シエンが椅子をテーブルに寄せてくれて、その後、二人分の紅茶を淹れてくれる。
二人で笑いながら、ケーキを食べていると、シエンは膝のナプキンを手に取る。
『ロイス様、クリームが付いてますよ』
そう言って微笑むと、頬に付いている生クリームを拭き取ってくれた。
十年近く前の、恥ずかしくも甘い思い出にドギマギしながら、ゆっくりと声の主へ視線を移す。
シエンが後手を組んで、こちらを見ていた。そして、今度ははっきりと判るように微笑みかけて来た。
「あ…っと…、もっと早い奴らはいますから」
思わず顔をタブレットへ向け、返事をしたものの、自分の返答に自己嫌悪する。
シエンは教室内を一巡し教壇に戻ると、頭上の掛け時計を見る。
「そろそろ時間ですね。では、終わらなかった人は明日中に、教科担当へ渡して下さい。担当者は集めて、私の所へ持って来て下さい」
シエンの言葉に、生徒達は口々に了承の返事をしたものの、「解けたか?」「難しかった」などと隣と話している者もいた。
その後は、教科書を使った授業が始まるが、レイモンドは途中からコクリコクリと船を漕ぎ出して、終業のチャイムが鳴り、クラス長の起立の号令で慌てて立ち上がるまで起きることはなかった。
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