30 / 52
第九章
『情火』#1
しおりを挟む
「ロドルフ、今日もご苦労だったな」
生徒会室に行く為に、ロイスは教材をスクールバッグに入れながら、護衛のロドルフにそう告げた。
「…では、部活が終わり次第、生徒会室にお迎えに行きます」
四年前の繰り返しが無いよう、ロドルフは出来る限り、ロイスがリチャードソン家の迎えの車に乗り込むまで付いているようになっていた。
「いや、良い。夏の大会まで、ひと月くらいだろう。今年こそ優勝してくれ」
ロドルフは、今日のロイスは迎えが来るまで校内で待つ、と判断する。
ロドルフの部活が強化期間に入り、見送りが難しくなると、ロイスは迎えの車が到着してから、校門に向かうようにする、と決めたのだった。だが、実際はレイモンドが代役を務めていた。
「判りました。ありがとうございます。では、失礼します」
ロドルフは一礼すると、自分のスクールバッグを持って教室から出て行った。
周りのクラスメイトも帰宅や部活へ行く準備をして者や、未だにお喋りに興じている者もいる。
レイモンドは早々に教室から出て行って居ない。多分、また先に生徒会室に行ったのだろう。
ロイスは二人が居なくなったのを、改めて確認すると、地理のノートをバッグから取り出す。
そして授業中にシエンから受け取り、隠した手紙を素早く制服の上着のポケットに入れた。
何食わぬ顔で教室を去ろうとすると、クラスメイト達が口々に、ロイスに挨拶をする。
「ロイス様、お疲れ様でした」
「お気を付けて、ロイス様」
ロイスはいつものポーカーフェイスで、それに応える。
「あぁ、ありがとう。では、明日《あした》」
右手を軽く上げて、返事をすると、足早に生徒会室とは違う方角の廊下を進む。
行き交う生徒達からも下校の挨拶をされ、それに応えて行く。
そして一部の生徒が話し込んでいる、教師の個室を通り過ぎる。
(──シエンに他の生徒が会いに来ていたら面倒だな)
そう思っていると、案の定、シエンは個室の扉の所で女生徒三人と立ち話をしていた。
(──チッ…仕方無い。また次の機会を狙おう)
ロイスはそのまま通り過ぎようと、真っ直ぐ前を向いたまま歩いていると、シエンの方から声を掛けて来た。
「あぁ、ロイス様。お待ちしていましたよ。きみ達、すまない。ロイス様と次の授業について話があるんだ。続きはまた今度」
シエンは申し訳なさそうに、眉尻を下げて微笑む。
そのシエンを見たロイスは、「その表情《顔》が誤解を生むんだ」と、平静を装いながらも僅かに眉間を寄せる。
「えーー! 残念」
「シエン先生、またね。さようなら」
女生徒達はシエンに挨拶をすると、振り返りロイスを見付ける。
「あ! ロイス様! さようなら」
「あぁ、さようなら」
女生徒三人は、「ロイス様と喋っちゃった」と、嬉々として話し合いながら去って行った。
ロイスはシエンの個室の前で立ち止まり、三人を見送りながら、生徒会室でずっとシエンの話を続けるアマンシアを思い出す。
「──新任教師殿は今日も人気者だな」
少し嫉妬を覚え、不機嫌に嫌味を言ってみる。
「たまたまですよ。いつもは静かなものです。どうぞ、私に会いに来たのに間違いが無ければですが」
その言葉に、ロイスは目を見開いて、シエンに視線を移す。
微笑みの奥にある、シエンの特別な感情を読み取ると、一気に顔を紅潮させる。
「…間違いは、無い」
「それは良かった」
シエンは目を細めると、ロイスを部屋に招き入れる。
「──あなたの方のが人気者じゃないですか」
ロイスがシエンの前を通り、部屋に足を踏み入れる瞬間、耳元で囁かれた。
「──私が嫉妬してしまう程に」
シエンの甘く艶のある声に、ドキリと心臓が弾んだ。と、同時に足も止まる。
瞬きも忘れ、ゆっくりとシエンへと顔を向ける。
視線が合うと、シエンはニコリと笑った。
「──それだけあなたが魅力的だということですよ。さぁ、どうぞ」
部屋に招き入れられると、扉が閉められて、密室になった。
「俺は人気者なんかじゃない。ただ、学長の息子だってだけだ」
ロイスは作業机にスクールバッグを置くと、パイプ椅子に座った。
シエンは給湯室に向かうと、ロイスと自分のお茶の用意をする。
「そうですか?」
給湯室から食器を扱う音と、湯を沸かしている音と共に、シエンの大きな声が聞こえて来た。
「──少なくとも、私はあなたみたいに学院中から注目される存在ではありませんよ」
それは全てが好意的に見ている訳では無いだろう。
ロイスもそれを分かっているはずだ。だから、信用出来る者を護衛に付けているのだから。
シエンはロイスの為に用意した、アールグレイの茶葉の缶の封を切る。海外の王室御用達の高級茶葉だ。
それをティーポットに入れる。
(──そういえば…)
ロイスがまだ初等部に入ったばかりの頃、リチャードソン家のサンルームで、こうしてロイスの為に紅茶を淹れていたのを思い出す。
そう、あの時のロイスは既に自分にとって、特別な存在だった。
生徒会室に行く為に、ロイスは教材をスクールバッグに入れながら、護衛のロドルフにそう告げた。
「…では、部活が終わり次第、生徒会室にお迎えに行きます」
四年前の繰り返しが無いよう、ロドルフは出来る限り、ロイスがリチャードソン家の迎えの車に乗り込むまで付いているようになっていた。
「いや、良い。夏の大会まで、ひと月くらいだろう。今年こそ優勝してくれ」
ロドルフは、今日のロイスは迎えが来るまで校内で待つ、と判断する。
ロドルフの部活が強化期間に入り、見送りが難しくなると、ロイスは迎えの車が到着してから、校門に向かうようにする、と決めたのだった。だが、実際はレイモンドが代役を務めていた。
「判りました。ありがとうございます。では、失礼します」
ロドルフは一礼すると、自分のスクールバッグを持って教室から出て行った。
周りのクラスメイトも帰宅や部活へ行く準備をして者や、未だにお喋りに興じている者もいる。
レイモンドは早々に教室から出て行って居ない。多分、また先に生徒会室に行ったのだろう。
ロイスは二人が居なくなったのを、改めて確認すると、地理のノートをバッグから取り出す。
そして授業中にシエンから受け取り、隠した手紙を素早く制服の上着のポケットに入れた。
何食わぬ顔で教室を去ろうとすると、クラスメイト達が口々に、ロイスに挨拶をする。
「ロイス様、お疲れ様でした」
「お気を付けて、ロイス様」
ロイスはいつものポーカーフェイスで、それに応える。
「あぁ、ありがとう。では、明日《あした》」
右手を軽く上げて、返事をすると、足早に生徒会室とは違う方角の廊下を進む。
行き交う生徒達からも下校の挨拶をされ、それに応えて行く。
そして一部の生徒が話し込んでいる、教師の個室を通り過ぎる。
(──シエンに他の生徒が会いに来ていたら面倒だな)
そう思っていると、案の定、シエンは個室の扉の所で女生徒三人と立ち話をしていた。
(──チッ…仕方無い。また次の機会を狙おう)
ロイスはそのまま通り過ぎようと、真っ直ぐ前を向いたまま歩いていると、シエンの方から声を掛けて来た。
「あぁ、ロイス様。お待ちしていましたよ。きみ達、すまない。ロイス様と次の授業について話があるんだ。続きはまた今度」
シエンは申し訳なさそうに、眉尻を下げて微笑む。
そのシエンを見たロイスは、「その表情《顔》が誤解を生むんだ」と、平静を装いながらも僅かに眉間を寄せる。
「えーー! 残念」
「シエン先生、またね。さようなら」
女生徒達はシエンに挨拶をすると、振り返りロイスを見付ける。
「あ! ロイス様! さようなら」
「あぁ、さようなら」
女生徒三人は、「ロイス様と喋っちゃった」と、嬉々として話し合いながら去って行った。
ロイスはシエンの個室の前で立ち止まり、三人を見送りながら、生徒会室でずっとシエンの話を続けるアマンシアを思い出す。
「──新任教師殿は今日も人気者だな」
少し嫉妬を覚え、不機嫌に嫌味を言ってみる。
「たまたまですよ。いつもは静かなものです。どうぞ、私に会いに来たのに間違いが無ければですが」
その言葉に、ロイスは目を見開いて、シエンに視線を移す。
微笑みの奥にある、シエンの特別な感情を読み取ると、一気に顔を紅潮させる。
「…間違いは、無い」
「それは良かった」
シエンは目を細めると、ロイスを部屋に招き入れる。
「──あなたの方のが人気者じゃないですか」
ロイスがシエンの前を通り、部屋に足を踏み入れる瞬間、耳元で囁かれた。
「──私が嫉妬してしまう程に」
シエンの甘く艶のある声に、ドキリと心臓が弾んだ。と、同時に足も止まる。
瞬きも忘れ、ゆっくりとシエンへと顔を向ける。
視線が合うと、シエンはニコリと笑った。
「──それだけあなたが魅力的だということですよ。さぁ、どうぞ」
部屋に招き入れられると、扉が閉められて、密室になった。
「俺は人気者なんかじゃない。ただ、学長の息子だってだけだ」
ロイスは作業机にスクールバッグを置くと、パイプ椅子に座った。
シエンは給湯室に向かうと、ロイスと自分のお茶の用意をする。
「そうですか?」
給湯室から食器を扱う音と、湯を沸かしている音と共に、シエンの大きな声が聞こえて来た。
「──少なくとも、私はあなたみたいに学院中から注目される存在ではありませんよ」
それは全てが好意的に見ている訳では無いだろう。
ロイスもそれを分かっているはずだ。だから、信用出来る者を護衛に付けているのだから。
シエンはロイスの為に用意した、アールグレイの茶葉の缶の封を切る。海外の王室御用達の高級茶葉だ。
それをティーポットに入れる。
(──そういえば…)
ロイスがまだ初等部に入ったばかりの頃、リチャードソン家のサンルームで、こうしてロイスの為に紅茶を淹れていたのを思い出す。
そう、あの時のロイスは既に自分にとって、特別な存在だった。
0
あなたにおすすめの小説
期待の名探偵の頭脳は、俺に全振りされている。
さんから
BL
高校生探偵後輩×漫画描き先輩
部活の後輩・後生掛 清志郎は、数々の難事件を解決してきた期待の名探偵だ。……だけど高校に入学してから探偵の活動を控えているらしく、本人いわくその理由は俺・指宿 春都にあると言う。
「俺はイブ先輩だけに頼られたいし、そのために可能な限りあなたの傍にいたいんですっ」
いつもそう言って、しょうもないことばかりに推理力を使う後生掛。頭も見た目も良いコイツがどうして俺に執着してるのかが分からなくて──。
今日もBL営業カフェで働いています!?
卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ
※ 不定期更新です。
あなたの王子様になりたい_1
しお
BL
歌舞伎町の外れにある小さなバーで働く元ホスト・ゆみと。
平穏な夜になるはずだった店に、場違いなほど美しく、自信に満ちた大学生・直央が女性と共に現れる。
女性の好意を巧みにかわしながら、なぜかゆみとにだけ興味を示す直央。軽口と挑発を織り交ぜた距離の詰め方に、経験豊富なはずのゆみとは次第にペースを崩されていく。
甘くて危うい「王子様」との出会いが、ゆみとの退屈な夜を静かに狂わせ始めた――。
オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?
中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」
そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。
しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は――
ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。
(……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ)
ところが、初めての商談でその評価は一変する。
榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。
(仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな)
ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり――
なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。
そして気づく。
「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」
煙草をくゆらせる仕草。
ネクタイを緩める無防備な姿。
そのたびに、陽翔の理性は削られていく。
「俺、もう待てないんで……」
ついに陽翔は榊を追い詰めるが――
「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」
攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。
じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。
【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】
主任補佐として、ちゃんとせなあかん──
そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。
春のすこし手前、まだ肌寒い季節。
新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。
風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。
何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。
拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。
年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。
これはまだ、恋になる“少し前”の物語。
関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。
(5月14日より連載開始)
陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
タトゥーの甘い檻
マリ・シンジュ
BL
執着系わんこ攻(大学生)× 高潔な美形教授受(30代)
どのお話も単体でお楽しみいただけます。
「先生、ここ……僕の瞳を入れるから。ずっと、僕だけを見てて」
真面目な大学教授・新城が、大学生の・羽生にだけ許した、あまりにも淫らな「わがまま」。
それは、誰にも見えない内腿の奥深くに、消えないタトゥーを刻むこと。
「下書き」と称して肌を赤く染めるペン先の冷たさ。
アトリエの無機質なライトの下、四つん這いで晒される大人の矜持。
ずっと年下の青年の、必死で、残酷で、純粋な独占欲。
愚かだと知りながら、新城はその熱に絆され、ゆっくりと「聖域」を明け渡していく――。
「……お前のわがままには、最後まで付き合う」
針が通るその時、二人の関係は一生消えない「共犯」へと変わる。
執着攻め×年上受け、密やかに刻まれる秘め事のお話。
政略結婚したかった
わさび
BL
御曹司 朝峰楓× 練習生 村元緋夏
有名な事務所でアイドルを目指して練習生をしている緋夏だが、実は婚約者がいた。
二十歳までにデビューしたら婚約破棄
デビューできなかったらそのまま結婚
楓と緋夏は隣同士に住む幼馴染で親はどちらも経営者。
会社のために勝手に親達が決めた政略結婚と自分の気持ちで板挟みになっている緋夏だったが____
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる