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第十一章
『姫事』#6
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ロイスが靴下を履いている間に、シエンは自分の靴を取りに行く。
それをロイスの反対側の踏み台の方へ置いた。
ロイスはシエンの足も汚れていることに気付く。
多分、シエンは自分が許可しない限り、汚れたまま靴下を履くか、洗って濡れたまま靴下を履くだろう。
「ハンカチ、使って良いぞ」
少し驚いた表情のシエンと目が合った。
「──そのままでいるつもりか?」
ロイスは革靴の紐を絞めながら、顎でシエンの足を指す。
シエンが目を細めて笑った。
「ありがとうございます。では、使わせていただきます」
シエンはロイスに水が飛ばないように、控え目に水を流して足に付いた砂を洗い落とす。
「──ロイス様、普通、主人は私物を使用人には使わせませんよ」
砂を流し終わったシエンは、ロイスのタオルハンカチで、自ら足を拭く。
「特別な人しか使わせない場合もあるんだ」
ロイスはマリンブルーの瞳で、ジッとシエンを見つめる。
その言葉を聞いたシエンは、手が止まる。そして少し目を開いて驚いた表情《かお》でロイスを見る。
「何処かで聞いたセリフですね」
シエンが嬉しそうに笑うのを見て、ロイスは顔が熱くなる。
そんな顔…あの三人の女生徒達と楽しそうに立ち話していた時と同じ──いや、もっと違う、自分だけに向けられた特別な笑顔。
「……そ、うか?」
シエンと心が通じた気がして、やっと落ち着いたと思っていた心臓が、またドキドキし出して…上手く言葉が出て来なかった。
「──と…特別だからな。今日だけの…」
ロイスはプイッとシエンとは反対の、海の方へ向く。
「──恋人だしな」
微かに聞こえたロイスの告白に、シエンは北叟《ほくそ》笑む。
きちんと靴を履き終えたシエンは、ロイスのシニョール織を丁寧に洗う。
「ロイス様、そろそろ帰りましょう。お父様が心配なされますよ」
海を見ていたロイスがゆっくりと振り返る。
まるで、まだ遊び足りない子犬のように見えた。
ロイスのスモークブルーが、潤んでいるように光る。
「うん…」
ロイスは躊躇《ためら》いがちに頷《うなず》くと、踏み台から立ち上がった。
「──シエン、タオル」
ロイスがシエンの前に立ち、シニョール織を返して貰おうと手を出す。
「濡れてますし…これは綺麗に洗ってお返ししますよ」
「濡れてても大丈夫」
ほんの三十分程前まで、大はしゃぎしていた少年とは思えないほど、静かで孤独を纏《まと》っている。
「ではお屋敷に着くまで、車の中で乾かしましょうか」
シエンはロイスに向かって、左手を差し伸べる。それはエスコートをする為の、手の平を上に向けたものではなく、手を繋ぐ為に垂直に差し出されていた。
ロイスは手の向きの違いに戸惑う。
少し口を開いて呆けたように、その手を見つめる。
そして、意を決して口を結ぶと、その左手ではなく、腕に掴まった。
「──ロ、ロイス様⁉︎」
シエンはロイスの不意打ちに驚く。
ロイスは自分の右腕をシエンの腕に巻き付けるように絡ませて、左手はシエンの左手と恋人繋ぎをする。
シエンも暑くて汗をかいているはずなのに、甘く涼やかな香りがした。
時々シェフが朝食で焼いてくれる、スパイスパンのような香り。
頬をシエンの上腕に擦り付けるように、ピタリとくっ付ける。
「浜辺で靴を脱がなかった罰だ。車までこのままでいろ」
「仰せのままに、お姫様」
シエンは左頬をロイスの金色の頭に寄せた。
それをロイスの反対側の踏み台の方へ置いた。
ロイスはシエンの足も汚れていることに気付く。
多分、シエンは自分が許可しない限り、汚れたまま靴下を履くか、洗って濡れたまま靴下を履くだろう。
「ハンカチ、使って良いぞ」
少し驚いた表情のシエンと目が合った。
「──そのままでいるつもりか?」
ロイスは革靴の紐を絞めながら、顎でシエンの足を指す。
シエンが目を細めて笑った。
「ありがとうございます。では、使わせていただきます」
シエンはロイスに水が飛ばないように、控え目に水を流して足に付いた砂を洗い落とす。
「──ロイス様、普通、主人は私物を使用人には使わせませんよ」
砂を流し終わったシエンは、ロイスのタオルハンカチで、自ら足を拭く。
「特別な人しか使わせない場合もあるんだ」
ロイスはマリンブルーの瞳で、ジッとシエンを見つめる。
その言葉を聞いたシエンは、手が止まる。そして少し目を開いて驚いた表情《かお》でロイスを見る。
「何処かで聞いたセリフですね」
シエンが嬉しそうに笑うのを見て、ロイスは顔が熱くなる。
そんな顔…あの三人の女生徒達と楽しそうに立ち話していた時と同じ──いや、もっと違う、自分だけに向けられた特別な笑顔。
「……そ、うか?」
シエンと心が通じた気がして、やっと落ち着いたと思っていた心臓が、またドキドキし出して…上手く言葉が出て来なかった。
「──と…特別だからな。今日だけの…」
ロイスはプイッとシエンとは反対の、海の方へ向く。
「──恋人だしな」
微かに聞こえたロイスの告白に、シエンは北叟《ほくそ》笑む。
きちんと靴を履き終えたシエンは、ロイスのシニョール織を丁寧に洗う。
「ロイス様、そろそろ帰りましょう。お父様が心配なされますよ」
海を見ていたロイスがゆっくりと振り返る。
まるで、まだ遊び足りない子犬のように見えた。
ロイスのスモークブルーが、潤んでいるように光る。
「うん…」
ロイスは躊躇《ためら》いがちに頷《うなず》くと、踏み台から立ち上がった。
「──シエン、タオル」
ロイスがシエンの前に立ち、シニョール織を返して貰おうと手を出す。
「濡れてますし…これは綺麗に洗ってお返ししますよ」
「濡れてても大丈夫」
ほんの三十分程前まで、大はしゃぎしていた少年とは思えないほど、静かで孤独を纏《まと》っている。
「ではお屋敷に着くまで、車の中で乾かしましょうか」
シエンはロイスに向かって、左手を差し伸べる。それはエスコートをする為の、手の平を上に向けたものではなく、手を繋ぐ為に垂直に差し出されていた。
ロイスは手の向きの違いに戸惑う。
少し口を開いて呆けたように、その手を見つめる。
そして、意を決して口を結ぶと、その左手ではなく、腕に掴まった。
「──ロ、ロイス様⁉︎」
シエンはロイスの不意打ちに驚く。
ロイスは自分の右腕をシエンの腕に巻き付けるように絡ませて、左手はシエンの左手と恋人繋ぎをする。
シエンも暑くて汗をかいているはずなのに、甘く涼やかな香りがした。
時々シェフが朝食で焼いてくれる、スパイスパンのような香り。
頬をシエンの上腕に擦り付けるように、ピタリとくっ付ける。
「浜辺で靴を脱がなかった罰だ。車までこのままでいろ」
「仰せのままに、お姫様」
シエンは左頬をロイスの金色の頭に寄せた。
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