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聖獣との出会い
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リディアは、王都を発つ馬車の中で何度もまぶたを閉じかけた。
太陽は中天まで上り、肩を包むケープが砂塵にまみれる。
移送という名の追放。
名門マクレイン伯爵家の令嬢であった彼女が、今日からは犯罪者同然の扱いだ。
「――ここまで落ちぶれるとは、可哀想にな」
馬車を引く衛兵のひとりが皮肉まじりに呟くのが聞こえた。
だが、リディアは冷静だった。
この者たちは、自分がセルヴァ公爵家の令嬢を陥れようとしたと聞いているのだろう。
その真偽を確かめる術など、この者たちは持っていない。
ただ、このままではそれが真実として歴史に刻まれるだろう。
マクレイン家の恥として、自分の名が受け継がれていく。
それだけは避けなくてはいけない。
昨夜の王城での辱めが脳裏をよぎる。
突然告げられた婚約破棄、捏造された証拠、手際のよい追放劇――すべてが仕組まれていたとしか思えない。
(だけど、私は負けない。必ず真実を明らかにしてみせるわ)
そう心に誓った直後、ふと馬車が大きく揺れた。
思わず座席からずれ落ちそうになる。
外で兵が騒いでいる声が聞こえた。
「おい、止まれ!前方に――あれは、聖獣か!?」
その言葉に、リディアは驚いて馬車の窓を覗いた。
前方の岩場に、小さな白銀の毛玉が倒れていた。
まるで子犬のようなその姿に、彼女の胸が締めつけられる。
「あれは……聖獣の子……話で聞いたとおりの姿だわ」
聖獣――神聖な存在とされる幻獣で王家の象徴とされているが、資格なき者が触れると禍に見舞われるという言い伝えがある。
その子どもが、なぜこんな辺境の荒野に? しかも傷だらけで、ひとりきりで。
「放っておけ。構う必要はない。聖獣に手を出せば祟りがある」
衛兵がそう言って再び馬車を進めようとした瞬間、リディアは扉を開けて地面に飛び降りた。
「リディア様!何を――!」
リディアの足元がふらつく。
朝から口にしたのは硬いパン一切れだけ。
だが、彼女はよろめきながらも必死に聖獣の子へと走った。
「大丈夫……怖くないわ、あなたを助けたいだけ」
血に染まった毛並みをそっと撫でると、子どもの聖獣はかすかに鳴いた。
人間に対して怯えていた様子だったが、リディアの指先にぴたりと鼻先をつける。
温かい。かすかな命の鼓動が、彼女の手のひらに伝わった。
「こんなに傷つけられて……どうして……」
聖獣の足は、罠によって絡めとられていた。
金属の牙のような仕掛けが、小さな足を挟んでいる。
獣の罠に誤って嵌まってしまったのだろう。
リディアは、その罠を力任せに開けようとした。
その罠は猟師であれば簡単に外せるが、貴族であるリディアはその方法を知らない。
外れにくいようトゲも施されているその罠は、リディアの薄い皮膚に傷をつける。
鮮血をほとばしらせながらも、リディアは罠に力を籠める。
そして、その力が罠にわずかな隙間を作った時に聖獣は素早く足を引き抜いた。
「水を……水をください!」
リディアが叫ぶと、衛兵が渋々水袋を差し出した。
彼女は自分のスカーフを裂いて、聖獣の傷を丁寧に拭い、少しずつ水を含ませる。
聖獣は小さな舌でぺろぺろと水を舐め、目を細めた。
「もう大丈夫よ。あなたは、私が守るから」
そのとき、聖獣の額に淡い光が灯った。
まるで彼女の言葉に応えるように柔らかい光がリディアの手を包み込み、傷が治っていくのが分かった。
「これ……癒しの力?」
その様子を見ていた衛兵たちがざわついた。
「まさか、聖獣に認められたのか……?」
「いや、一時的なものだろう。助けてくれた相手の傷を治しただけだ。聖獣に認められるのはそんなに簡単なことではない。ましてや辺境に追放されるような女に、その資格があるはずがない」
疑いの声が飛び交う中、リディアは黙って聖獣の子を胸に抱いた。
その目には、再び立ち上がる決意が灯っていた。
「行きましょう。辺境へでもどこへでも。だけど、私の名誉は必ず取り戻す。その時まで、あなたも一緒にいてくれる?」
聖獣の子は、弱々しくも小さく鳴いて応えた。砂漠の風がまた吹き抜ける。だがそのとき、リディアの心には、確かな温もりが芽生えていた。
***
「エリザベート様、おめでとうございます」
公爵令嬢エリザベート・ド・セルヴァの侍女マリアンヌが、主人に語り掛ける。
「本当にこれで良かったのかしら……?」
「当たり前です!伯爵令嬢ごときがエリザベート様を陥れようなどと、許されることではございません!」
マリアンヌは、語気を荒げて言い放った。
太陽は中天まで上り、肩を包むケープが砂塵にまみれる。
移送という名の追放。
名門マクレイン伯爵家の令嬢であった彼女が、今日からは犯罪者同然の扱いだ。
「――ここまで落ちぶれるとは、可哀想にな」
馬車を引く衛兵のひとりが皮肉まじりに呟くのが聞こえた。
だが、リディアは冷静だった。
この者たちは、自分がセルヴァ公爵家の令嬢を陥れようとしたと聞いているのだろう。
その真偽を確かめる術など、この者たちは持っていない。
ただ、このままではそれが真実として歴史に刻まれるだろう。
マクレイン家の恥として、自分の名が受け継がれていく。
それだけは避けなくてはいけない。
昨夜の王城での辱めが脳裏をよぎる。
突然告げられた婚約破棄、捏造された証拠、手際のよい追放劇――すべてが仕組まれていたとしか思えない。
(だけど、私は負けない。必ず真実を明らかにしてみせるわ)
そう心に誓った直後、ふと馬車が大きく揺れた。
思わず座席からずれ落ちそうになる。
外で兵が騒いでいる声が聞こえた。
「おい、止まれ!前方に――あれは、聖獣か!?」
その言葉に、リディアは驚いて馬車の窓を覗いた。
前方の岩場に、小さな白銀の毛玉が倒れていた。
まるで子犬のようなその姿に、彼女の胸が締めつけられる。
「あれは……聖獣の子……話で聞いたとおりの姿だわ」
聖獣――神聖な存在とされる幻獣で王家の象徴とされているが、資格なき者が触れると禍に見舞われるという言い伝えがある。
その子どもが、なぜこんな辺境の荒野に? しかも傷だらけで、ひとりきりで。
「放っておけ。構う必要はない。聖獣に手を出せば祟りがある」
衛兵がそう言って再び馬車を進めようとした瞬間、リディアは扉を開けて地面に飛び降りた。
「リディア様!何を――!」
リディアの足元がふらつく。
朝から口にしたのは硬いパン一切れだけ。
だが、彼女はよろめきながらも必死に聖獣の子へと走った。
「大丈夫……怖くないわ、あなたを助けたいだけ」
血に染まった毛並みをそっと撫でると、子どもの聖獣はかすかに鳴いた。
人間に対して怯えていた様子だったが、リディアの指先にぴたりと鼻先をつける。
温かい。かすかな命の鼓動が、彼女の手のひらに伝わった。
「こんなに傷つけられて……どうして……」
聖獣の足は、罠によって絡めとられていた。
金属の牙のような仕掛けが、小さな足を挟んでいる。
獣の罠に誤って嵌まってしまったのだろう。
リディアは、その罠を力任せに開けようとした。
その罠は猟師であれば簡単に外せるが、貴族であるリディアはその方法を知らない。
外れにくいようトゲも施されているその罠は、リディアの薄い皮膚に傷をつける。
鮮血をほとばしらせながらも、リディアは罠に力を籠める。
そして、その力が罠にわずかな隙間を作った時に聖獣は素早く足を引き抜いた。
「水を……水をください!」
リディアが叫ぶと、衛兵が渋々水袋を差し出した。
彼女は自分のスカーフを裂いて、聖獣の傷を丁寧に拭い、少しずつ水を含ませる。
聖獣は小さな舌でぺろぺろと水を舐め、目を細めた。
「もう大丈夫よ。あなたは、私が守るから」
そのとき、聖獣の額に淡い光が灯った。
まるで彼女の言葉に応えるように柔らかい光がリディアの手を包み込み、傷が治っていくのが分かった。
「これ……癒しの力?」
その様子を見ていた衛兵たちがざわついた。
「まさか、聖獣に認められたのか……?」
「いや、一時的なものだろう。助けてくれた相手の傷を治しただけだ。聖獣に認められるのはそんなに簡単なことではない。ましてや辺境に追放されるような女に、その資格があるはずがない」
疑いの声が飛び交う中、リディアは黙って聖獣の子を胸に抱いた。
その目には、再び立ち上がる決意が灯っていた。
「行きましょう。辺境へでもどこへでも。だけど、私の名誉は必ず取り戻す。その時まで、あなたも一緒にいてくれる?」
聖獣の子は、弱々しくも小さく鳴いて応えた。砂漠の風がまた吹き抜ける。だがそのとき、リディアの心には、確かな温もりが芽生えていた。
***
「エリザベート様、おめでとうございます」
公爵令嬢エリザベート・ド・セルヴァの侍女マリアンヌが、主人に語り掛ける。
「本当にこれで良かったのかしら……?」
「当たり前です!伯爵令嬢ごときがエリザベート様を陥れようなどと、許されることではございません!」
マリアンヌは、語気を荒げて言い放った。
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