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エリザベートの疑念
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王都ヴェルフォートに、冬の気配を孕んだ風が吹き抜ける夜。
王宮の中央広間では、今宵限りの華やかな舞踏会が催されていた。
仮面舞踏――貴族たちが仮面を纏い、身分を隠して踊るこの夜だけは、誰もが自由に振る舞うことが許される。
高らかなファンファーレと共に大理石の階段からゆっくりと姿を現したのは、王太子レオンとその婚約者、エリザベート・ド・セルヴァである。
深紅と黒のレースが交差するドレスに金の仮面を添えた彼女の姿は、まさに夜の女王。
口元に浮かべた優雅な微笑は、見る者すべてを虜にしていった。
貴族たちのざわめきは止むことなく、仮面越しの視線が彼女へと集まる。
だがその注目を真正面から受け止めながら、エリザベートは怯むどころか、むしろそれを愉しむようにレオンの腕にそっと身を寄せた。
それは、完璧な王太子妃としての仕草だった。
***
その夜、エリザベートは侍女のマリアンヌと言葉を交わしていた。
「やっぱり追放はやり過ぎじゃなかったかしら……」
「そんなことはありません!エリザベート様に対する非礼の数々、万死に値します」
「だけど……」
「悪意のあるうわさを流したり、エリザベート様のドレスに薬品をかけたり、そんなことをする輩に王太子妃の資格はありません!」
「そりゃあ、薬品をかけられてお肌に炎症が出た時はさすがに怒りを抑えられませんでしたけれど……」
「それにあの女が王太子の婚約者として口を挟むようになってから、王国の支出が増えています。大方私腹を肥やしたりしていたのでしょう。あの女が王太子妃になったりしたら、この国のためになりません!」
「でも、私がその立場になって調べてみたら、レオンが怠けていた分の必要な施策にお金をかけていただけに過ぎないみたいなの。まあ私は支出は減らすべきだと思っているけれど、リディアさんのやり方が悪いわけでは……」
「侍女を使ってエリザベート様のドレスに薬品をかけるような腹黒い女ですよ、証拠を巧みに隠しておりましたのでしょう。なぜ今さらあの女の肩を持つようなことをおっしゃるのです?」
この国では、王妃も政治に口を出す。
女性の視点も政治には必要、という考えなのだ。
そのうえ今は国王のガラハルト・エルネスト・ラグリファルが病に臥せっている。
そして王太子レオンは政治に無関心なので、王太子妃候補が実質的に政治を取り仕切ることも多い。
リディアとエリザベートは政治に対する考え方が違うが、エリザベートから見てもリディアはよくやっていたと思えるのだ。
それがきっかけだった。
リディアを追放する時は、マリアンヌの言葉を信じていた。
だが、今は少し疑いの気持ちが出ている。
「私への所業に関しても、確かにリディアさんが言っていたとおり証拠が弱いような……」
「エリザベート様。エリザベート様が王太子妃になることは国のため、そしてセルヴァ家のためでもあることをお忘れなく」
「そ、そうね。セルヴァ家の……」
エリザベート・ド・セルヴァは、その言葉を最後にマリアンヌとの会話を打ち切った。
だが、心の中ではまだ納得できないものがある。
ミルファーレ村でのリディアの様子を聞いた。
村人に溶け込み、王都にいる時とは別人のように明るくなっていると言う。
薬がなくなった時には、薬草のことを調べようとしたそうだ。
陰湿な嫌がらせをしたり、裏金を懐に入れたりするような人間がそんなことをするだろうか。
「マリアンヌはよく尽くしてくれる侍女だけど……」
このままでいいのだろうか、とエリザベートは思わずにいられなかった。
ただ、リディアは王太子の婚約者でいた時より幸せそうだな、ともエリザベートは思った。
王宮の中央広間では、今宵限りの華やかな舞踏会が催されていた。
仮面舞踏――貴族たちが仮面を纏い、身分を隠して踊るこの夜だけは、誰もが自由に振る舞うことが許される。
高らかなファンファーレと共に大理石の階段からゆっくりと姿を現したのは、王太子レオンとその婚約者、エリザベート・ド・セルヴァである。
深紅と黒のレースが交差するドレスに金の仮面を添えた彼女の姿は、まさに夜の女王。
口元に浮かべた優雅な微笑は、見る者すべてを虜にしていった。
貴族たちのざわめきは止むことなく、仮面越しの視線が彼女へと集まる。
だがその注目を真正面から受け止めながら、エリザベートは怯むどころか、むしろそれを愉しむようにレオンの腕にそっと身を寄せた。
それは、完璧な王太子妃としての仕草だった。
***
その夜、エリザベートは侍女のマリアンヌと言葉を交わしていた。
「やっぱり追放はやり過ぎじゃなかったかしら……」
「そんなことはありません!エリザベート様に対する非礼の数々、万死に値します」
「だけど……」
「悪意のあるうわさを流したり、エリザベート様のドレスに薬品をかけたり、そんなことをする輩に王太子妃の資格はありません!」
「そりゃあ、薬品をかけられてお肌に炎症が出た時はさすがに怒りを抑えられませんでしたけれど……」
「それにあの女が王太子の婚約者として口を挟むようになってから、王国の支出が増えています。大方私腹を肥やしたりしていたのでしょう。あの女が王太子妃になったりしたら、この国のためになりません!」
「でも、私がその立場になって調べてみたら、レオンが怠けていた分の必要な施策にお金をかけていただけに過ぎないみたいなの。まあ私は支出は減らすべきだと思っているけれど、リディアさんのやり方が悪いわけでは……」
「侍女を使ってエリザベート様のドレスに薬品をかけるような腹黒い女ですよ、証拠を巧みに隠しておりましたのでしょう。なぜ今さらあの女の肩を持つようなことをおっしゃるのです?」
この国では、王妃も政治に口を出す。
女性の視点も政治には必要、という考えなのだ。
そのうえ今は国王のガラハルト・エルネスト・ラグリファルが病に臥せっている。
そして王太子レオンは政治に無関心なので、王太子妃候補が実質的に政治を取り仕切ることも多い。
リディアとエリザベートは政治に対する考え方が違うが、エリザベートから見てもリディアはよくやっていたと思えるのだ。
それがきっかけだった。
リディアを追放する時は、マリアンヌの言葉を信じていた。
だが、今は少し疑いの気持ちが出ている。
「私への所業に関しても、確かにリディアさんが言っていたとおり証拠が弱いような……」
「エリザベート様。エリザベート様が王太子妃になることは国のため、そしてセルヴァ家のためでもあることをお忘れなく」
「そ、そうね。セルヴァ家の……」
エリザベート・ド・セルヴァは、その言葉を最後にマリアンヌとの会話を打ち切った。
だが、心の中ではまだ納得できないものがある。
ミルファーレ村でのリディアの様子を聞いた。
村人に溶け込み、王都にいる時とは別人のように明るくなっていると言う。
薬がなくなった時には、薬草のことを調べようとしたそうだ。
陰湿な嫌がらせをしたり、裏金を懐に入れたりするような人間がそんなことをするだろうか。
「マリアンヌはよく尽くしてくれる侍女だけど……」
このままでいいのだろうか、とエリザベートは思わずにいられなかった。
ただ、リディアは王太子の婚約者でいた時より幸せそうだな、ともエリザベートは思った。
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