異世界でテレパスしか使えない僕は、誰を信じればいいんだろう

ぐりとぐる

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テレパスの能力があると言われた僕は、家族や友人と話せるかもと希望を抱いた。
そんな僕に、魔法鑑定の老人が話しかける。

「私のことを考えて何か伝えてみなさい」

そこで僕は、その老人のことを考えながら「この能力の活かし方を考えてください」と伝えてみた。

「ううむ、まあ無理にその能力を使って働こうとせずとも良いのじゃぞ」

と、少し憐れむような声で言われてしまう。
それから、この能力を使う時のコツを教えてもらった。
丹田に力を籠める、みたいなことでよくわからなかったけれど。

能力鑑定はそこで終わり、僕はリィナが待っている待合所に向かった。

「どうだった?」

「テレパスが使えるんだって」

「じゃあ苦情処理かな。相手の考えてることが分かれば、先回りしてクレームを封じられるし」

こっちの世界の人は、テレパシーを苦情処理にしか使わないのか?
魔法のロマンはどこに行った。

「いや、僕のことを強く考えてないと使えないみたい。係の人も使い途に困ってた」

「そっかあ、まあ万一特別な能力を持っていたらそれを活かして欲しいというだけの鑑定だからね。普通の人は力仕事だったり事務仕事だったりをやってるよ」

わざわざ異世界から来たのに特別な能力なしか……とがっかりした。
いや、テレパスだけでも能力があるのは特別じゃないか。

そう言うと

「まあ特別と言えば特別だね。私にも使い途はわからないけど」

とあしらわれてしまった。

「ただの高校生だった僕に何の仕事ができるんだろう」

とぼやく。するとリィナは

「別に焦って働かなくてもいいよ。一応家もあるし、食べ物もあるんだから」

「そう言えば、あの家や食べ物のお金はどうなってるの?」

「カイウス様が面倒を見てくださってるんだよ。とっても優しいお方なんだ」

この町の領主のカイウス・エルダンの名前は、リィナから頻繁に出てくる。
余程心酔しているらしい。

それはそれとして、焦って働かなくていいなんて言われると、このままニートになってしまいそうだ。
でもこっちの世界は娯楽が少なそうだし、働いた方が楽しいのかな。
アニメもゲームもないだろうしな。

そんなことを考えながら、僕とリィナは家に着いた。
夕ご飯は、リィナが作ってくれた。

少し味の薄い野菜と肉の炒め物。
卓上にはよくわからない調味料。それと……

「あ、塩だ!」

白い粉を手に取って舐めてみると、それは紛れもなく塩だった。

「そうだね」

とリィナが微笑む。
味の薄さを塩で補い、僕は「美味しい」とリィナに言った。

その夜、僕は田中のことを考えてみた。
テレパスが使えるのかどうか、試さずにはいられなかった。
家族や渡会よりも先に田中を選んだことには、別に意味はない。
まあ異世界に一番理解がありそうだ、という程度の理由だ。
田中も渡会も親友だから。

田中、田中……。

そう念じ続けていると、突然

「何これ、気持ち悪い。幽霊の声か?」

という声が脳に響いてきた。
その声を聞いた瞬間、心臓が跳ねた。

この声——間違いない、田中だ。

「田中! 俺だ、浜田だ!」

『……え?浜田……雄二?ふざけんなよ!あいつはトラックに轢かれて——』

田中の声が涙ぐんでいる。
今も……泣いてくれていたんだろうか。

「確かにそうだ。俺もそのことは覚えてる。でも、気づいたら知らない場所で、剣とか鎧とか着てて……たぶん、異世界なんじゃないか」

『はあ? 異世界? 何言って——いや、確かに雄二の声だな。幽霊……はこんな変な設定つけたりしないか』

「俺も信じられないけど、実際にここにいるんだ。記憶もしっかりしてるし」

田中が黙った。
頭の中の声なのに、沈黙が重く響いた。

『……お前、生きてるんだな?』

「たぶんな。そっちはどう? みんな——」

『渡会も、ずっと落ち込んでる。俺のために怒ってくれて嬉しかったのにって……ってか、お前、どうやって喋ってんだよ。電話もないのに』

「それがさあ、お前に借りた小説だと異世界に行ったら最強みたいなのばっかだったじゃん?でも、俺にはテレパスしかないの。しかも俺のことを考えてる相手としかテレパシーが通じないんだよ」

『テレパス?お前らしいな、地味で変なの引き当てるの』

その言葉に、僕は笑ってしまった。
泣きそうなほど懐かしい声なのに、いつも通りの調子で返してくるのが、たまらなく嬉しかった。
『雄二、実は今さあ、渡会と一緒にいるんだぜ。渡会にも話しかけてやってくれ……おいおい、頭がおかしくなったんじゃないから怖がるな。こっち来い。本当に雄二と繋がってるんだって』

……そうか、渡会と一緒にいるのか。休み時間……だったら「実は一緒にいる」なんて表現にならないだろう。
放課後に二人で遊んでるのかな。
とにかく、渡会にも話しかけてみよう。
そうだ、三人でいた時のことを思い浮かべたらもしかすると……。

「渡会、俺だ、浜田雄二だ、聞こえるか?」

『雄二!?本当に雄二なのか!?田中が泣き過ぎておかしくなったのかと思ったけど、本当に雄二と話してたのか!』

『別に泣き過ぎてなんかねえし』

田中の不貞腐れた声も聞こえる。

「田中、渡会、2人とも俺の声が聞こえるか?」

『聞こえる』『俺も聞こえるぞ』

「また、三人で話せるんだな」

『うん、うん、雄二……本当によかったあ』

渡会の涙声が聞こえる。

「田中にも言ったんだけど、このテレパスの力は俺のことを考えてる相手にしか通じないんだ。お前ら、ずっと俺のこと考えてたのか?俺のこと好き過ぎだろ」

『だってお前が死んでまだ5日だぞ?そりゃ、たまには考えることもあるって』

5日も経ったのなら、他のクラスメイトで俺のことを考えてる奴なんていないだろう。
……ん?5日?

「そっちでは5日も経ったのか?俺は昨日こっちで目覚めたばかりなんだけど」

何か異世界に行ったらしいぞ、と田中が渡会に説明する声が聞こえる。

『それってどういうことだろう。こっちとは時間の流れが違うのかな』

「そういえば、俺たちと同い年くらいの女の子が8歳って言ってた。時間の流れや公転周期とかが違うのかもしれない」

『それじゃあ、雄二が明日の夜にまた俺たちに話しかけたとしても、俺たちは5日後かもしれないってことか』

『じゃあ、雄二の1年後が俺たちの5年後?俺たちだけ先に成人式迎えるのか?』

「それは少し寂しいな。でも試してみよう。明日の夜も話しかけるから、お前らも俺のこと考えといてくれよな」

『時間の流れが違うなら、そっちの明日の夜がこっちでは5日後の昼だったり深夜だったりするかもしれないけどな』

『寝てたらごめんな。でもできるだけ雄二のこと考えるようにするよ』

それから、俺たちは取り留めもないことを話した。
やがて、渡会が晩ご飯を食べに帰らないといけない時間になったので、明日の夜(こっちの時間で)にまた、ということになった。

楽しかった時間は終わり、僕は一人になった。
でも——僕はこの世界でも、ひとりじゃない。
そう思えることが、とても嬉しかった。
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