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カイウス様
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リィナは、何の目的があって僕に近づいてきたのだろう。
考えてみれば、おかしなことばかりだ。
テレパスが繋がらないのは、タイミングの問題かもしれない。
でも、受付の女性にさえ「剣士に向いていない」と言われてしまうような僕を見て、リィナに乱暴しようとしていた屈強な三人の男が逃げて行ったのもおかしい。
あのまま戦っていたら、間違いなく僕が負けていただろう。
奴隷が、僕の思っていたものと同じなのも町で確認できた。
門番と対等に話したり、手続きをスムーズに行ったり、ましてや僕にご飯を奢ったりするのはおかしい。
だから僕は、リィナがお風呂に入っている時を見計らって襲撃することにした。
何度も言うが、邪な気持ちではない。
魔法の杖で攻撃されたら、本当に殺されかねないのだ。
もしかすると他に何かの魔法が使えるかもしれないが、一番自分が死なずに済む方法を考えるとこれしかない。
僕は、リィナを疑っている。それを明かして問い詰めるのだから、できるだけ優位に立ちたい。
僕は、心臓がどきどきするのを感じながらリィナがお風呂に入るのを待った。
傍から見れば、のぞき魔のように思えるかもしれない。
でも、僕は真剣なんだ。
この家は、無職の僕が住むには十分立派な家だ。
でも、まるで家族が住むような作りの家だ。
少し懐かしい気持ちにさえなる。
家族が住む家で、風呂に鍵なんかない。
僕は、完全武装したうえで風呂の扉を開けた。
「!!」
リィナが凍り付く。
一応僕を信用してくれていたのだろう。だから鍵もないこの風呂場をずっと使っていたのだ。その点に関しては胸が痛い。
そして、僕も凍り付く。
だって初めて見るんだもの。
いやいや、そんな場合じゃない。
何度も何度もごめんなさい。
決して邪な気持ちではないのです。
魔法の杖も何も身につけていないリィナに向かって、僕は口を開く。
「君は、何が目的で僕に近づいたんだ?」
リィナが、当たり前のことを口走る。
「出てって!変態!!」
僕は、変態ではないと自分に言い聞かせながら冷静に言葉を紡ぐ。
「僕のへっぴり腰の剣技に三人もの屈強な男が逃げ出すはずがない。それに、君は救ってくれた僕に一切気持ちを向けない。これはどういうことだ」
「エッチ!スケベ!これだから男なんて嫌いなのよ!」
「いや、君が魔法の杖を持っていたら僕なんてすぐにやられちゃうから……」
「もう、早く出てってよ!
……何とか冷静に話してくれないだろうか、いやこっちが悪いのか。
どうしようかと迷っていると、リィナが叫んだ。
「カイウス様ァ!助けてェ!」
それから十秒ほどして、空気がわずかに揺れた。
湯気の向こうに、黒衣をまとった男が立っている。
白い肌が灯りを受けて淡く輝き、肩まで伸びた黒髪が静かに流れた。
切れ長の瞳は、こちらを見透かすように冷静で、その中に余裕が滲んでいる。
絵画から抜け出したような、気品と威厳を併せ持つ男だった。
その整った顔は、すぐに呆れたような表情になる。
「リィナ、だから余計な小芝居は要らんと言っただろう」
「でも、ここまではうまくいったじゃありませんか」
「結局疑わせてるんだから、うまくいったとは言えない」
「うう、また失敗ですか?」
「まあ頑張ったことは認めるが、あまり考え過ぎない方がいいと思うぞ」
そこまで話した後、その紳士は僕に顔を向けた。
「済まない。騙すつもりはなかったんだ。ただ、君の存在が特殊だったものでね」
「ハッキリ言えばいいじゃない!カイウス様に害をなす存在だって」
「こら、まだそうと決まったわけじゃないし、そういう存在が現れるなら私に落ち度があるのかもしれないんだ。何にしても、決めつけてはいけないよ」
これがリィナが良く口にしていた領主のカイウス様か。
見た目が良いだけじゃなく、雰囲気がとても優しい。
今の言葉を聞いただけでも、公平で自分を悪く言われても私憤を抱くような人ではないのがわかる。
そのカイウス様は、ただの無職の僕に向かって頭を下げる。
「申し訳ない。占い師が「私に害をなす存在が現れる」と言ったことで調査が始まってしまってね。君のことはリィナから報告を受けているよ」
リィナは、僕を見張るために派遣されたということか。
「普通に聞き込み調査をすればいいと言ったのに『敵だったら正体を明かさないでしょう!私に任せてください!』と言って出て行ったかと思えば、悲劇のヒロインごっこだ。本当に申し訳ない」
カイウス様は領主なのに、それを思わせないほど腰が低かった。
リィナが心酔するのもわかる気がした。
「いえ、こちらこそ。こんな家に住まわせてもらって、リィナさんにはいろいろと教えてもらって……」
と言った時、カイウス様の後ろに隠れていたリィナがあっかんべえをしてくる。
この子の心はずっとカイウス様の方を向いていたんだな。
しかも僕のことをカイウス様に害をなす存在だと信じている。
だから、僕のテレパスは一切反応しなかったんだ。
「こんな格好のこの子を置いて長話もできないから、申し訳ないが明日、役所の方に来てもらえないだろうか?都合はよろしいか?」
「はい、何時ごろにお伺いすればよろしいでしょうか」
こちらは、何の予定もない。
「それでは、明日栗の刻に」
と言ってカイウス様は消えようとする。
「いやいやいや待って!何ですか栗の刻って!」
そこでリィナがカイウス様に耳打ちをする。
「ああ、すまん。まだ来たばかりだったな。栗の刻より……ええと……」
と言ってる時に、リィナがくしゃみをする。
「この子が冷えてしまう。とにかく明日、君に来てほしい時間の少し前にテレパスを送るよ」
そこでリィナがドヤ顔で言った。
「カイウス様のテレパスはあんたのちんけなのとは違って、カイウス様のことを考えていなくても繋がるのよ!」
タオル一枚だけの格好で、リィナはもう一度僕に向かってあっかんべえをした。
そして、カイウス様とリィナは一瞬で姿を消した。
考えてみれば、おかしなことばかりだ。
テレパスが繋がらないのは、タイミングの問題かもしれない。
でも、受付の女性にさえ「剣士に向いていない」と言われてしまうような僕を見て、リィナに乱暴しようとしていた屈強な三人の男が逃げて行ったのもおかしい。
あのまま戦っていたら、間違いなく僕が負けていただろう。
奴隷が、僕の思っていたものと同じなのも町で確認できた。
門番と対等に話したり、手続きをスムーズに行ったり、ましてや僕にご飯を奢ったりするのはおかしい。
だから僕は、リィナがお風呂に入っている時を見計らって襲撃することにした。
何度も言うが、邪な気持ちではない。
魔法の杖で攻撃されたら、本当に殺されかねないのだ。
もしかすると他に何かの魔法が使えるかもしれないが、一番自分が死なずに済む方法を考えるとこれしかない。
僕は、リィナを疑っている。それを明かして問い詰めるのだから、できるだけ優位に立ちたい。
僕は、心臓がどきどきするのを感じながらリィナがお風呂に入るのを待った。
傍から見れば、のぞき魔のように思えるかもしれない。
でも、僕は真剣なんだ。
この家は、無職の僕が住むには十分立派な家だ。
でも、まるで家族が住むような作りの家だ。
少し懐かしい気持ちにさえなる。
家族が住む家で、風呂に鍵なんかない。
僕は、完全武装したうえで風呂の扉を開けた。
「!!」
リィナが凍り付く。
一応僕を信用してくれていたのだろう。だから鍵もないこの風呂場をずっと使っていたのだ。その点に関しては胸が痛い。
そして、僕も凍り付く。
だって初めて見るんだもの。
いやいや、そんな場合じゃない。
何度も何度もごめんなさい。
決して邪な気持ちではないのです。
魔法の杖も何も身につけていないリィナに向かって、僕は口を開く。
「君は、何が目的で僕に近づいたんだ?」
リィナが、当たり前のことを口走る。
「出てって!変態!!」
僕は、変態ではないと自分に言い聞かせながら冷静に言葉を紡ぐ。
「僕のへっぴり腰の剣技に三人もの屈強な男が逃げ出すはずがない。それに、君は救ってくれた僕に一切気持ちを向けない。これはどういうことだ」
「エッチ!スケベ!これだから男なんて嫌いなのよ!」
「いや、君が魔法の杖を持っていたら僕なんてすぐにやられちゃうから……」
「もう、早く出てってよ!
……何とか冷静に話してくれないだろうか、いやこっちが悪いのか。
どうしようかと迷っていると、リィナが叫んだ。
「カイウス様ァ!助けてェ!」
それから十秒ほどして、空気がわずかに揺れた。
湯気の向こうに、黒衣をまとった男が立っている。
白い肌が灯りを受けて淡く輝き、肩まで伸びた黒髪が静かに流れた。
切れ長の瞳は、こちらを見透かすように冷静で、その中に余裕が滲んでいる。
絵画から抜け出したような、気品と威厳を併せ持つ男だった。
その整った顔は、すぐに呆れたような表情になる。
「リィナ、だから余計な小芝居は要らんと言っただろう」
「でも、ここまではうまくいったじゃありませんか」
「結局疑わせてるんだから、うまくいったとは言えない」
「うう、また失敗ですか?」
「まあ頑張ったことは認めるが、あまり考え過ぎない方がいいと思うぞ」
そこまで話した後、その紳士は僕に顔を向けた。
「済まない。騙すつもりはなかったんだ。ただ、君の存在が特殊だったものでね」
「ハッキリ言えばいいじゃない!カイウス様に害をなす存在だって」
「こら、まだそうと決まったわけじゃないし、そういう存在が現れるなら私に落ち度があるのかもしれないんだ。何にしても、決めつけてはいけないよ」
これがリィナが良く口にしていた領主のカイウス様か。
見た目が良いだけじゃなく、雰囲気がとても優しい。
今の言葉を聞いただけでも、公平で自分を悪く言われても私憤を抱くような人ではないのがわかる。
そのカイウス様は、ただの無職の僕に向かって頭を下げる。
「申し訳ない。占い師が「私に害をなす存在が現れる」と言ったことで調査が始まってしまってね。君のことはリィナから報告を受けているよ」
リィナは、僕を見張るために派遣されたということか。
「普通に聞き込み調査をすればいいと言ったのに『敵だったら正体を明かさないでしょう!私に任せてください!』と言って出て行ったかと思えば、悲劇のヒロインごっこだ。本当に申し訳ない」
カイウス様は領主なのに、それを思わせないほど腰が低かった。
リィナが心酔するのもわかる気がした。
「いえ、こちらこそ。こんな家に住まわせてもらって、リィナさんにはいろいろと教えてもらって……」
と言った時、カイウス様の後ろに隠れていたリィナがあっかんべえをしてくる。
この子の心はずっとカイウス様の方を向いていたんだな。
しかも僕のことをカイウス様に害をなす存在だと信じている。
だから、僕のテレパスは一切反応しなかったんだ。
「こんな格好のこの子を置いて長話もできないから、申し訳ないが明日、役所の方に来てもらえないだろうか?都合はよろしいか?」
「はい、何時ごろにお伺いすればよろしいでしょうか」
こちらは、何の予定もない。
「それでは、明日栗の刻に」
と言ってカイウス様は消えようとする。
「いやいやいや待って!何ですか栗の刻って!」
そこでリィナがカイウス様に耳打ちをする。
「ああ、すまん。まだ来たばかりだったな。栗の刻より……ええと……」
と言ってる時に、リィナがくしゃみをする。
「この子が冷えてしまう。とにかく明日、君に来てほしい時間の少し前にテレパスを送るよ」
そこでリィナがドヤ顔で言った。
「カイウス様のテレパスはあんたのちんけなのとは違って、カイウス様のことを考えていなくても繋がるのよ!」
タオル一枚だけの格好で、リィナはもう一度僕に向かってあっかんべえをした。
そして、カイウス様とリィナは一瞬で姿を消した。
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