異世界転移したのにテレパスしか使えない僕は、誰を信じればいいんだろう

ぐりとぐる

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衛生改革

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水を煮沸してから飲むよう提案した日の夜、田中と渡会にテレパスを送った。

『よう、どうだった?』

「反対意見もあったけど、とりあえずやってみようってことになったよ」

『そうか、多分効果はあるはずだぞ。それに、細菌というものを知らないんなら排泄物なんかの扱いもいい加減なんじゃないか?』

そういえば、町には独特の香りが漂っていた気がする。
ただ自分の家はそんなことがなかったので、あまり気にならなかった。

というか、外国に行った時の「この町はこんな匂いなんだ」くらいにしか考えていなかった。
あれは、排泄物の扱いの問題だったのか。

『もしそっちが中世ヨーロッパくらいの文明だとしたら、家の中に壺が置いてあってそこに排泄してるんじゃないか?それで、それを外に捨てるんだ』

『排泄した後に手も洗ってないかもしれない』

『トイレを汲み取り式にして、排泄物に灰をかけるだけで全然違うみたいだぜ』

田中と渡会は、いろいろなことを調べてくれていた。

「ありがとう、明日町のトイレを確かめてみるよ」

僕の家では、外に掘られた小さな穴をトイレ代わりに使っていた。
住み始めた時から家の外に敷居があり、リィナが「トイレはここよ」と教えてくれた。

小さい子供の頃、田舎のお爺ちゃんの家にボットン便所というものがあったので、僕はあまり抵抗なくこの家のトイレを使っていた。
しかし、汲み取り式じゃないなら排泄物が溜まってきたら新しい穴を掘るつもりだったのだろうか。

***

次の日、町の裏通りを歩いてみた。家の裏側には、確かに排泄物を捨てた跡がある。
いや、今捨てたばかりの排泄物まであるじゃないか。

これは衛生的に問題があり過ぎる。
その日の夜、田中と渡会にそれを告げると、簡易な汲み取り式便所の作り方を教えてくれた。

***

次の日、僕はカイウス様にトイレの衛生面の改善を進言した。

家の中でするのではなく、屋外にトイレを作り、排泄物をまとめておく。
排泄物の中にも、病を引き起こす生き物がいると言って。

僕は、汲み取り式トイレの作り方をカイウス様に伝えた。
家の外に1.5mほどの穴を掘り、板や石で囲む。
そこに灰を数㎝ほど敷く。
排泄の度にも上から灰を撒く。
溜まってきたら桶ですくい、一カ所にまとめる。

「このまとめたものに灰と土を混ぜて寝かせて乾燥させれば肥料になります。収穫も上がるでしょう。あと、排せつの後は手を洗うようにするともっと病を減らせると思います」

「ふうむ、それが本当ならすごいことだが……」

この時点ではまだ煮沸の効果も出ていなかったから、カイウス様は懐疑的だった。
だが、煮沸の効果が出てこの町だけ病が少なかったことで、カイウス様は僕の言葉を受け入れてくれた。

町に布告がなされ、汲み取り式トイレが少しずつ普及していった。
やることはそれほど難しくなく、貧しい人には町からの補助も出たため普及は思ったより早く進んだ。

何より、カイウス様の人望が厚いことが大きい。
煮沸水によって病を減らしたという功績もあるため、みんなが素直に言うことを聞いてくれたのだ。

このことは、リィナが一番喜んでくれた。

「私、この臭い嫌いだったのよ」

「そうですの?私はこんなものだと思っていましたわ」

もちろん、面倒だという否定意見もあった。
ハッキリと結果が出るのはまだ先だが、この町はもっと発展していくだろう。

***

流行り病の件が収まってから、エリナが僕に随分懐いてくるようになった。

「ユージ様、異世界のこともっと教えてくださいまし」

と言って、僕の後を引っ付いてくる。
僕にとってはこの世界が異世界だが、エリナにとっては当然地球が異世界なんだ。
少し目からうろこを落としながら、僕はエリナに地球のことを話す。

車や飛行機、パソコン、インターネット、そんなことを話していたが、すぐに僕は自分の無力さを知ることになる。

「それはどうやって作るんですの?」

目を輝かせて聞いてくるエリナに、僕は答えることができない。
車どころか、僕はタイヤを作ることもできない。

「たくさんの職人が色々な部品を作ってそれを持ち寄って組み上げることで車ができるんだ」

そう言いながら僕は、一人で車を作れる人がいるのだろうかと思った。
自作のパソコンだって、その部品の一つ一つは買ってきたものに過ぎない。

僕は車やパソコンはおろか、ハサミや缶詰だって一人では作れないんだ。
こっちの人は、トイレの穴も土魔法が使える人が簡単に掘ってしまった。

トイレの周りを囲う塀や屋根を作るのも、僕の想像よりはるかに簡単に魔法を使ってやってしまう。

「今の僕は何もできない。あっちの世界の便利な道具がないと、ただの役立たずだ」

自嘲気味にそう言うと、エリナは否定してくれた。

「そんなことありませんわ。病の蔓延を防いでくれたじゃありませんか。ユージ様の知識と私たちの魔法を合わせれば、できることは増えるはずですわ」

そう言ってもらうと、僕も嬉しくなる。
だから、僕も何か力になれることがあれば、と考えるのだ。

***

その夜、エリナの部屋の扉が叩かれた。

「はい?」

返事をしながらエリナが扉を開けると、そこにはリィナが立っていた。

「あら、リィナが私の部屋を訪ねてくるなんて珍しいですわね」

リィナを部屋に招き入れながら、エリナが言った。

「うん、ちょっと」

部屋に入って、示された椅子に座る。

「……エリナは、ユージのことが好きなの?」

「うーん、好ましくはありますわね。カイウス様の役に立っていますし、知らない話も聞けますし」

「恋愛感情は?」

「まだ保留といったところですわ。カイウス様に憧れてはいますが、立場的にお妃になるのは無理そうですし。将来的には良い人を探さないといけないのかもしれませんわね」

そして、エリナは続けた。

「リィナはどうですの?」

「……裸、見られた」

「まだ根に持ってるんですの?」

「……」

「リィナもユージ様のことが好きだから、探りに来たのかと思いましたわ」

「そんなことない!」

少し驚いたような顔で否定するリィナを見て、エリナは察した。
何かが変わってしまいそうで、それが不安で、居ても立ってもいられなくなったんだろう。
この子は、今のままがいいんだ。

「リィナ、私は妹を置いて行ったりしませんわよ」

「私がお姉ちゃんだもん」

「甘えん坊のくせに」

「私の方が強いもん。守ってあげられるもん」

そこで、エリナがリィナに笑いかけた。
それを見て、リィナも安心したように微笑み返した。
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