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第三夜
十三
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「ーーそろそろ行こう」
その言葉に頷いて、立ち上がる。私が泣いている間、フレディは何も言わなかった。ただ辛抱強く、落ちつくのを待っていてくれた。立ち上がった瞬間、少し眩暈が。
「う……」
ただの立ちくらみか、それとも本当に熱が出てきたのだろうか。泣いて泣いて泣いて泣きすぎて、もう心も体も自分ではよく分からない。
「大丈夫?」
「へいき……ちょっと眩暈がしただけ」
ああ、体が重い。喋るのもちょっと億劫だ。
彼はチラッと空を見た。空の色は紺から青へと移り始め、先ほどよりも明らかに明るさを帯びてきている。
「もうそろそろヤバいかな」
ポツリと漏れた言葉に、フレディの顔を見返した。どういう意味だろう。口を開くのが面倒で、言葉にはしなかった。
「とにかく場所を移そう。ここは狭いから、いざって時に動きにくい」
彼の声はハキハキしていて、聞いてて安心できる。今はただ、この声に従っていれば間違いない。何も考えなくていい……。
夜が明けてしまったら光の中で、何もかもがその姿を晒すことになる。ずっと夜のままでいい。黒いままで、澱んだままで。私の目を塗りつぶして。
空中廊下をまた渡った先のドアを開けると、フレディが急に立ち止まった。ぼんやりと歩いていた私は、その背中に軽くぶつかって立ち止まる。
不思議に思って肩越しに部屋の中を覗くと、そこには人影が。その人は明かりもない真っ暗な部屋で立ち尽くし、一点を見つめていた。視線の先にあるのは、崩れた土の塊。部屋の中央には石棺が置いてあり、その上に布が被せてある。それは人型に盛り上がっていて、布の下に隠されているのがヒトの体で無いことを示していた。
「……アーウィン?」
「…………」
私たちが入ってきたことに気づいているはずなのに、土の塊を見つめたまま動かなかった。突然現れたよく知る顔には、言いたいこともたくさんあったような気がする。が、なんだか心が麻痺してしまったのかどう反応していいかよく分からなかった。
たっぷりの間を置いてから、ようやくアーウィンは顔を上げる。私の顔を見て微笑んだ。
「ひどい顔をしてますね……どうしたんです?」
「…………」
何か言おうとして口を開けたのに、結局何も言えない。何をどう言えばいいのか分からないこともある。久しぶりに見せてくれた笑顔に、胸がいっぱいになったせいもある。
「アーウィ……」
「動くな」
彼に近寄ろうとした私を、フレディの背中が阻んだ。
「フレディ?どうし……」
ハッと息を呑む。彼の手には銃が握られていた。その銃口はアーウィンへ向けられている。それを見た瞬間、脳裏にリズの肩を弾丸が貫いた光景がフラッシュバックした。
「!!」
思わずフレディに飛びつく。
「やめえッ!!」
「うわ!」
ガァンッという発射音と共に、弾丸が私の頬数センチを掠めて天井へ飛び去った。
「危なっ!!」
「やめて!やめて、やめて!撃っちゃだめ!」
「何すんだ!姉ちゃんまで撃っちゃうところだっただろ!!」
「私も私じゃない人も撃っちゃだめなの!!」
必死にフレディに説明する。
「この人は違うの!大丈夫なの!アーウィンって言って、私の家族みたいな人なの!」
「…………」
彼はアーウィンを見据えたまま、動かない。ああ、分かってもらえない。ちゃんと説明しなきゃ。もっとちゃんと。焦れば焦るほど、うまく言葉がでない。
「ほんとなよ。こんなとこにいて、そりゃ怪しいかもしれないけど。でもほんとに怪しい人じゃないのよ。だから撃つ必要なんてないの。大丈夫なの!」
ようやくフレディはチラッと私を見たが、それだけだ。
「ねえ、お願いだから銃を下ろして……」
やがてフゥと小さく息をつき、私に向き直った。けれど、アーウィンに向けた銃口は下げてくれない。そして、はっきりした口調で告げる。
「姉ちゃん、こいつは人間じゃない。冥使だよ」
その言葉に頷いて、立ち上がる。私が泣いている間、フレディは何も言わなかった。ただ辛抱強く、落ちつくのを待っていてくれた。立ち上がった瞬間、少し眩暈が。
「う……」
ただの立ちくらみか、それとも本当に熱が出てきたのだろうか。泣いて泣いて泣いて泣きすぎて、もう心も体も自分ではよく分からない。
「大丈夫?」
「へいき……ちょっと眩暈がしただけ」
ああ、体が重い。喋るのもちょっと億劫だ。
彼はチラッと空を見た。空の色は紺から青へと移り始め、先ほどよりも明らかに明るさを帯びてきている。
「もうそろそろヤバいかな」
ポツリと漏れた言葉に、フレディの顔を見返した。どういう意味だろう。口を開くのが面倒で、言葉にはしなかった。
「とにかく場所を移そう。ここは狭いから、いざって時に動きにくい」
彼の声はハキハキしていて、聞いてて安心できる。今はただ、この声に従っていれば間違いない。何も考えなくていい……。
夜が明けてしまったら光の中で、何もかもがその姿を晒すことになる。ずっと夜のままでいい。黒いままで、澱んだままで。私の目を塗りつぶして。
空中廊下をまた渡った先のドアを開けると、フレディが急に立ち止まった。ぼんやりと歩いていた私は、その背中に軽くぶつかって立ち止まる。
不思議に思って肩越しに部屋の中を覗くと、そこには人影が。その人は明かりもない真っ暗な部屋で立ち尽くし、一点を見つめていた。視線の先にあるのは、崩れた土の塊。部屋の中央には石棺が置いてあり、その上に布が被せてある。それは人型に盛り上がっていて、布の下に隠されているのがヒトの体で無いことを示していた。
「……アーウィン?」
「…………」
私たちが入ってきたことに気づいているはずなのに、土の塊を見つめたまま動かなかった。突然現れたよく知る顔には、言いたいこともたくさんあったような気がする。が、なんだか心が麻痺してしまったのかどう反応していいかよく分からなかった。
たっぷりの間を置いてから、ようやくアーウィンは顔を上げる。私の顔を見て微笑んだ。
「ひどい顔をしてますね……どうしたんです?」
「…………」
何か言おうとして口を開けたのに、結局何も言えない。何をどう言えばいいのか分からないこともある。久しぶりに見せてくれた笑顔に、胸がいっぱいになったせいもある。
「アーウィ……」
「動くな」
彼に近寄ろうとした私を、フレディの背中が阻んだ。
「フレディ?どうし……」
ハッと息を呑む。彼の手には銃が握られていた。その銃口はアーウィンへ向けられている。それを見た瞬間、脳裏にリズの肩を弾丸が貫いた光景がフラッシュバックした。
「!!」
思わずフレディに飛びつく。
「やめえッ!!」
「うわ!」
ガァンッという発射音と共に、弾丸が私の頬数センチを掠めて天井へ飛び去った。
「危なっ!!」
「やめて!やめて、やめて!撃っちゃだめ!」
「何すんだ!姉ちゃんまで撃っちゃうところだっただろ!!」
「私も私じゃない人も撃っちゃだめなの!!」
必死にフレディに説明する。
「この人は違うの!大丈夫なの!アーウィンって言って、私の家族みたいな人なの!」
「…………」
彼はアーウィンを見据えたまま、動かない。ああ、分かってもらえない。ちゃんと説明しなきゃ。もっとちゃんと。焦れば焦るほど、うまく言葉がでない。
「ほんとなよ。こんなとこにいて、そりゃ怪しいかもしれないけど。でもほんとに怪しい人じゃないのよ。だから撃つ必要なんてないの。大丈夫なの!」
ようやくフレディはチラッと私を見たが、それだけだ。
「ねえ、お願いだから銃を下ろして……」
やがてフゥと小さく息をつき、私に向き直った。けれど、アーウィンに向けた銃口は下げてくれない。そして、はっきりした口調で告げる。
「姉ちゃん、こいつは人間じゃない。冥使だよ」
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