脱獄

井上マリ

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再会

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先ほど庇ってくれた看守は囚人の一人に頭を棒で思いっきり殴られた。

真っ赤な血が飛び散って倒れる。

これではまずい。

看守服を着ているから尚更。



僕はどさくさに紛れて、がむしゃらに走った。

後ろからこちらへやってくるので、非常口のドアを開けてギリギリの隙間を通る。

やってくる可能性もあるため、ドアは何事もなかったように閉めておく。


このまままっすぐ行けば、確かエレベーターと階段があったはず。

突っ切ってそのまままっすぐ行ったら、一階を巡回できる。

今現在、囚人が徘徊しているのでそれができる可能性は極めて低い。


(よし、このまま階段の前まで……!?)

上下に分かれている階段の目の前までやってきたが、階段の上から足音が聞こえてきた。

上に上りたいのに……と肩を落として、落胆。

絶体絶命のピンチではないか。



歩いているのは、生き残った看守かあるいは囚人か。

囚人の可能性も充分に考えられる。

ここはスルーするべきだろう。

争いはできるだけ避けたいし。



僕はその道を通り過ぎ、まっすぐ進むことにした。

だが生まれ持った悪運のせいで、通り過ぎる道に囚人が二人立っていた。

背の高い方は僕に気づいて、走ってこちらまで追いかけてきた。

真っ白な肌をした怪物が、腕を広げたままこちらへ迫ってくる。

歯が異常に白くて、気味が悪い。


「待てよ、俺の獲物!!」


荒らげた声が近くまで聞こえている。


これはやばいぞ!

エレベーターに乗らなきゃ、死ぬ!

でも……開くとは限らない。



一番奥にあるエレベーターの方へ、顔を青ざめたまま突っ走る。

これじゃあ、エレベーターがある角を曲がって囚人が来たなら挟み撃ちだ。

まず助からない!



そんな強い願望が叶ったのか、エレベーターがこの状況とは対照的に軽やかな音を鳴らし開いた。

僕は何も考えずに搭乗。

ゼェゼェと肩で息をする。

扉が勢いよく閉まった。



体力がないのは、この状況でかなり不利だ。

もう少し鍛えなければいけないな。

「お兄さん、どこまで行く?」

「えっと……はぁ、はぁ……地下一階まで」

「そう」


低くて透き通った声で問いかけられ、思わず答えた。

男の低い声で、しかも聞いたことのある声帯。

ぼんやりとした頭で考えたら、全く思い出せない。


ジョナサンか、もしくはサングラスの看守だろうか?

うーん、どっちも違う気がするな。




彼はその言葉をそのまま受け取り、『R1』のボタンを押す。

エレベーターは上へ移動を始めた。

助けてくれた人に明るく振る舞う。


「ありがとう、助かったよ!」


声の方に視線を向けると、オレンジ色の服を着た囚人が立っていた。

壁で隠れて見えにくいが、右腕の服の袖に酸化した赤黒い血がついている。

髪は白くてサラサラしており、首から少し汗が垂れて髪が湿っていた。



彼はこちらの方を向き、血のついた腕のほうを差し向けてくる。

思わず身構えしまった。


「囚人番号403336くん!?」

怯えながらそう言ったら、彼は犯罪を犯したとは思えない純粋な笑みを振り撒いてきた。

しかもこんな狭いエレベーターの中だ。

争いになれば、力の弱い自分が確実に死んでしまう。

「やあ、また会ったね。ところでさ、囚人番号で呼ぶのやめよう」

いきなりまともなことを提案されて、目が点になってしまう。

人間を惨殺した犯罪者……だよな?



「俺アルマっていうんだ。アンタの名前は?」

相手は興味津々に尋ねてくるものの、僕は答えない。

袖に付着した黒ずみと成り果てた血痕を見て恐怖を覚え、握手の手から一歩下がった。


先ほどの様子から察して、看守の血液だろう。

自分も彼に殺されるのでは?と思うのも当然。

顔から血の気が引いてしまう。

名前など教えても、殺されるだけ。

無意味だ。



「あ……あの、僕のこと殺しませんよね?」

震えた声でそう言うと、いきなり僕の頬を撫でてきた。

顔を上げたが、近すぎてよく表情が見えない。


愛想笑いを浮かべた直後、アルマがいきなり胸元から小型ナイフを取り出してきた。

短くて鋭い刃がこちらを向いている。

殺される!


四角い箱の隅で震えて縮こまっていれば、タイミングよくエレベーターの着く軽やかな音が響いた。

扉が開く。



よかった、死なないで済んだ。
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