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いざ夜会
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数日領館で過ごし、ケインは領主の仕事を片付けて、リラがサイズ直しをした数着のドレスと小物を受け取ると、王都に向かうことになった。残りのドレスは王都で受け取る手配がしてあるらしい。
その間に領館もリラのクッキーに魅了された。セレンにレシピを教えてみたが、手順は完璧なのに何故か皆リラのクッキーが美味しいと言う。愛し子の魔法が関係あるのかもしれないが、魔法についてリラは全く学んでいないので、詳しくはわからない。領館のほうはドライフルーツ入りのクッキーが好まれた。今後セレンと一緒に、領の特産品にしようと検討中だ。ドライフルーツの価値をリラに指摘されるまで知らなかったらしい。
またシャーロットが作っていた、フルーツから抽出したオイルを使った化粧品が、保湿に優れてこの地方に向いていることも、リラが使用感を告げてわかった。あの若々しい肌にはやっぱり秘密があったのだ。これも売り出せば領の利益になるだろう。
いつのまにか砦を掌握していたリラは、数日で領についても考えられるようになっていた。
王都への道中は宿場町で二泊した。ケインは部屋を別々にとってくれた。耳年増のリラもそこまで覚悟が出来ていたわけではないので、ありがたく受けた。
貴族の婚姻には国王の承認が必要とのことだが、リラの身分が今どうなっているのかわからない。ケインは問題ないと言っていたが、和平も結んでいない隣国からの、しかも入国手続きもしていないリラは、生国の法に照らせば犯罪者となる。
不安を抱えながら謁見すると、人好きのする朗らかな国王陛下は、リラにようこそ我が国へと、歓迎の意を表した。リラの身分証も新たに作られた。
アイム国では愛し子は貴重な存在として、国民皆が周知した上で保護される。リラも国王公認の庇護対象となった。
魔法についてはこれから学べば良いと教育機関を紹介されたが、リラが辺境を長く離れることに躊躇いを見せたので、王都にいる期間だけ、魔法担当の官吏がリラに教えることになった。もっとも常時魔法を発動させているリラが学ぶことは殆どないらしい。
王都での手続きの最後は王城主催の夜会への参加だ。
国王陛下が辺境伯の婚姻を宣言する。
リラの纏う臙脂色のドレスはいつものメイド服ではなく、柔らかな布を使って身体のラインを美しく見せる。隣に立つケインの軍服と揃いの色だ。
緊張して、五割増し人相が悪くなっているケインにエスコートされて入場すると、久しぶりの夜会の空気。さざめきと香水、ワインにフルーツ、磨き上げられた床は高い天井の灯りを反射してさらに眩く、衣摺れの音、ヒールの音、装飾品の触れる音、光と色と匂いと音が洪水のように五感を満たす。
その、中央、国王陛下の椅子の側に、見知った顔を見つけた。
血が冷える。
リラの指が震えたことに、緊張しているケインは気づいただろうか。
マルカ国王太子ハルトヒュールが、婚約者の令嬢とともにそこにいた。
その間に領館もリラのクッキーに魅了された。セレンにレシピを教えてみたが、手順は完璧なのに何故か皆リラのクッキーが美味しいと言う。愛し子の魔法が関係あるのかもしれないが、魔法についてリラは全く学んでいないので、詳しくはわからない。領館のほうはドライフルーツ入りのクッキーが好まれた。今後セレンと一緒に、領の特産品にしようと検討中だ。ドライフルーツの価値をリラに指摘されるまで知らなかったらしい。
またシャーロットが作っていた、フルーツから抽出したオイルを使った化粧品が、保湿に優れてこの地方に向いていることも、リラが使用感を告げてわかった。あの若々しい肌にはやっぱり秘密があったのだ。これも売り出せば領の利益になるだろう。
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不安を抱えながら謁見すると、人好きのする朗らかな国王陛下は、リラにようこそ我が国へと、歓迎の意を表した。リラの身分証も新たに作られた。
アイム国では愛し子は貴重な存在として、国民皆が周知した上で保護される。リラも国王公認の庇護対象となった。
魔法についてはこれから学べば良いと教育機関を紹介されたが、リラが辺境を長く離れることに躊躇いを見せたので、王都にいる期間だけ、魔法担当の官吏がリラに教えることになった。もっとも常時魔法を発動させているリラが学ぶことは殆どないらしい。
王都での手続きの最後は王城主催の夜会への参加だ。
国王陛下が辺境伯の婚姻を宣言する。
リラの纏う臙脂色のドレスはいつものメイド服ではなく、柔らかな布を使って身体のラインを美しく見せる。隣に立つケインの軍服と揃いの色だ。
緊張して、五割増し人相が悪くなっているケインにエスコートされて入場すると、久しぶりの夜会の空気。さざめきと香水、ワインにフルーツ、磨き上げられた床は高い天井の灯りを反射してさらに眩く、衣摺れの音、ヒールの音、装飾品の触れる音、光と色と匂いと音が洪水のように五感を満たす。
その、中央、国王陛下の椅子の側に、見知った顔を見つけた。
血が冷える。
リラの指が震えたことに、緊張しているケインは気づいただろうか。
マルカ国王太子ハルトヒュールが、婚約者の令嬢とともにそこにいた。
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