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「シャアクが皆に命じましたよ」
ローは言った。
「森を出ても、命を奪うまで人の霊気を取ってはならないと」
アウルが、館で目ざめた三日目の夜のこと。
ローは、ふらりとアウルの窓辺に現れたのだった。
「あなたへの、せめてもの償いだからって」
「償いなんて求めていないけど、そうしてくれて嬉しいわ」
「ただ、その約束がどこまで効力があるかわからない」
ローは、肩をすくめてつけたした。
「人間の邪気を吸い込めば、精霊だって無垢ではいられない。いずれ、精霊とは別のものになる」
「まだまだ先のことだわ。きっと」
「あなたのような人間ばかりならね」
ローは、アウルに顔を近づけた。
「言わせてもらえば、アウル。無茶でしたよ。自分の命とひきかえにシャアクを助けるつもりだったんですか」
「シャアクが消えてしまえば、ソーンが苦しむだろうと考えただけ。彼を放ってはおけなかった」
「あなたが死んだら、ソーンやシャアクは今以上に自分を責めたでしょうし、だいたい、アレンをどうする気だったんです?」
非難めいた口調でローは言った。
「アレンは、本当に一人になってしまうんですよ。そこまで考えなかったんですか」
「夢中だったの」
アウルは言った。
「馬鹿ね」
「まったくです」
「でも、こんどはあなたが助けてくれた」
ローはため息をついた。
「馬鹿なのはわたしです。あなたに、取り返しのつかないことをしてしまった」
「知ってるわ」
アウルは、うなずいた。
「わたしはもう、人間ではないのでしょう」
「あなたは、からっぽになってしまった」
ローはいった。
「だからわたしは、あなたにいただいたものを返したんです。あなたの霊気でありながら、精霊の霊気に変化してしまったものを」
「わたしは、ソーンと同じね。人間でもあり、精霊でもある」
「そうなりますね」
ローは、つぶやいた。
「あなたにとって、本当によかったのかどうか、わたしにはわからない」
「ありがとう。アレンを、悲しませずにすんだわ」
ローは、黙りこんだ。
アウルはたずねた。
「ソーンはどうしてるの?」
「どこかに行ってしまいました」
「また戻ってくるわよね」
「まあ、気持ちが落ち着いたらね。いつになるかわかりませんが」
アウルは、微笑んだ。
「アレンが大きくなったら、ソーンを探しに行こうかしら」
「その時は」
ローは、あきらめきったように微笑みかえした。
「お供しましょう、アウル。わたしたちは自由で、時間はたっぷりある」
※ ※
淡い緑が目に心地いい初夏の昼下がり、アレンは庭の木陰に置いた長椅子でうたた寝をしていた。
領主の勤めは、数年前から息子にゆだねた。今では妻とともに、のんびりと余生を楽しんでいる。
「おじいさま」
可愛らしい声が聞こえ、目を開けた。
アレクがこちらに駆けて来る。
一番下の孫だった。館にいる三人の子供も他の孫たちも、濃淡の違いこそあれ金色の髪をしていたが、アレクだけはダイの赤毛を受けついでいた。
あちこち飛び跳ねた赤い癖毛は、アレンにいつも懐かしい人を思い出させる。
「今日はどこで遊んできたんだね」
アレンはやさしく言った。
「グイン湖のところで兄さんたちとかくれんぼしてたんだよ」
「ずいぶん遠くまで行ったものだ」
「ぼくが茂みに隠れていたらね、きれいな赤い髪の女の人が来た。見たことがあるような、ないような」
アレンはちょっと眉を上げた。
「ぼくの髪をくしゃってつかんで笑ったよ。森の方に行っちゃった。あれは、精霊だったのかな」
アレンはゆっくりと身を起こし、孫の頭に手をのせた。
「そうだな」
ひと呼吸間をおいて、アレンは森の方へ、もっと遠くへと目をはせた。
「ダイは精霊の故郷だからね」
ローは言った。
「森を出ても、命を奪うまで人の霊気を取ってはならないと」
アウルが、館で目ざめた三日目の夜のこと。
ローは、ふらりとアウルの窓辺に現れたのだった。
「あなたへの、せめてもの償いだからって」
「償いなんて求めていないけど、そうしてくれて嬉しいわ」
「ただ、その約束がどこまで効力があるかわからない」
ローは、肩をすくめてつけたした。
「人間の邪気を吸い込めば、精霊だって無垢ではいられない。いずれ、精霊とは別のものになる」
「まだまだ先のことだわ。きっと」
「あなたのような人間ばかりならね」
ローは、アウルに顔を近づけた。
「言わせてもらえば、アウル。無茶でしたよ。自分の命とひきかえにシャアクを助けるつもりだったんですか」
「シャアクが消えてしまえば、ソーンが苦しむだろうと考えただけ。彼を放ってはおけなかった」
「あなたが死んだら、ソーンやシャアクは今以上に自分を責めたでしょうし、だいたい、アレンをどうする気だったんです?」
非難めいた口調でローは言った。
「アレンは、本当に一人になってしまうんですよ。そこまで考えなかったんですか」
「夢中だったの」
アウルは言った。
「馬鹿ね」
「まったくです」
「でも、こんどはあなたが助けてくれた」
ローはため息をついた。
「馬鹿なのはわたしです。あなたに、取り返しのつかないことをしてしまった」
「知ってるわ」
アウルは、うなずいた。
「わたしはもう、人間ではないのでしょう」
「あなたは、からっぽになってしまった」
ローはいった。
「だからわたしは、あなたにいただいたものを返したんです。あなたの霊気でありながら、精霊の霊気に変化してしまったものを」
「わたしは、ソーンと同じね。人間でもあり、精霊でもある」
「そうなりますね」
ローは、つぶやいた。
「あなたにとって、本当によかったのかどうか、わたしにはわからない」
「ありがとう。アレンを、悲しませずにすんだわ」
ローは、黙りこんだ。
アウルはたずねた。
「ソーンはどうしてるの?」
「どこかに行ってしまいました」
「また戻ってくるわよね」
「まあ、気持ちが落ち着いたらね。いつになるかわかりませんが」
アウルは、微笑んだ。
「アレンが大きくなったら、ソーンを探しに行こうかしら」
「その時は」
ローは、あきらめきったように微笑みかえした。
「お供しましょう、アウル。わたしたちは自由で、時間はたっぷりある」
※ ※
淡い緑が目に心地いい初夏の昼下がり、アレンは庭の木陰に置いた長椅子でうたた寝をしていた。
領主の勤めは、数年前から息子にゆだねた。今では妻とともに、のんびりと余生を楽しんでいる。
「おじいさま」
可愛らしい声が聞こえ、目を開けた。
アレクがこちらに駆けて来る。
一番下の孫だった。館にいる三人の子供も他の孫たちも、濃淡の違いこそあれ金色の髪をしていたが、アレクだけはダイの赤毛を受けついでいた。
あちこち飛び跳ねた赤い癖毛は、アレンにいつも懐かしい人を思い出させる。
「今日はどこで遊んできたんだね」
アレンはやさしく言った。
「グイン湖のところで兄さんたちとかくれんぼしてたんだよ」
「ずいぶん遠くまで行ったものだ」
「ぼくが茂みに隠れていたらね、きれいな赤い髪の女の人が来た。見たことがあるような、ないような」
アレンはちょっと眉を上げた。
「ぼくの髪をくしゃってつかんで笑ったよ。森の方に行っちゃった。あれは、精霊だったのかな」
アレンはゆっくりと身を起こし、孫の頭に手をのせた。
「そうだな」
ひと呼吸間をおいて、アレンは森の方へ、もっと遠くへと目をはせた。
「ダイは精霊の故郷だからね」
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