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序
しおりを挟む馬は、細い山道をきりもなく上り下りした。
連れはたくましい武人二人。珀麻の馬の前後にいて、重罪人を護送するかのように目を光らせている。逃げ出すそぶりでも見せれば、ただちに斬り殺されそうな気配だった。武器も持たない十二の子供が彼らにかなうはずもない。
だから珀麻はおとなしく、自分の馬を進めていた。深い山中を六晩野宿して、たどりついたのは斜面の上にある粗末な小屋の前だった。
馬を下りると初老の男が出てきて頭を下げた。灰色の髪をみじかく刈り込み、白い衣をまとっている。
〈谷〉の行者だ。
「佐名さまのご子息、珀麻さまをお連れしました」
武人の一人が言った。
「承っております。こちらへ」
小屋の中にはまた一人の行者が待ちうけていた。何をされるのか考える間もなく、彼らは珀麻の結い上げた長い髪をふっつりと切り落とし、着物を脱がせた。
与えられたのは行者たちと同じ前開きの白い上衣と短い白袴。たちまち、たよりなげな見習行者ができあがった。
行者は珀麻の着物と髪の房を武人に渡した。
「たしかに」
武人は、ようやく仕事が片付いたとばかりに一つ頷き、背を向けた。
急に寒々しくなった自分の身体を、珀麻は思わず両手でこすった。
はじめの行者が珀麻をうながした。
小屋の脇から、細い道が斜面に続いていた。
眼下の谷間には白い靄がわだかまり、道の先を呑み込んでいる。
珀麻は足を滑らさないように一歩一歩坂道を下りていった。
もう二度と俗界に戻ることはないのだと思いながら。
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