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番外編ーside セレスティアー
砂上の①
しおりを挟むエステルを出産してから初めての夜会から、ウィリアム様の様子がどこか変わった。
分かっていたのに、夫人同士の付き合いや、エステルが産まれたことで少し赤ちゃん返りがあった上の子達と出来る限り時間を取っていると、あっという間に時間が経ってしまう。
(いえ、以前は1週間肌を重ねなくても何も違和感はなかったけれど…)
元々産後のこの期間は、ウィル様は夫婦の寝室へは訪れなかった。
私の身体を気遣ってくれている事は分かっていても、…そろそろにゆっくり会いたいと、欲が出ている。
(私は元々…こんなに、甘えた人間だったのかしら…)
子ども達の寝かしけが終わったので、ウィル様の私室へと向かった。
侍従のハンスが湯殿の準備を終えて出てくるところだった。
「奥様」
「ありがとう、ハンス。今日はこちらで旦那様を待ってるわ」
「はい、間もなく旦那様も戻られると思います。」
「分かったわ、お疲れ様、おやすみなさい」
「ありがとうございます、おやすみなさいませ」
ハンスと入れ違いに私室に入り、ソファに座ろうかと迷ったが、寝台が目に入る。
(寝台で待っていたら、ウィルは驚くかしら…)
上から羽織っていた上着を脱いで、夜着になって寝台へ横になる。
途端に香る愛しい夫の香りに、思わずうっとりとしてしまう。
(はあ…いい匂い…、疲れたらここに来て横になったらすごく安らぎそう…)
うとうとしていたらしく、扉がバタンと閉まる音で目を覚ました。
パッと起き上がってみると、とても疲れた様子で湯殿に向かうウィリアム様が見えた。
「…?」
ウィル様の様子が少し変だ。
(かなりお疲れなのかもしれない…、湯殿で倒れられたら心配だから行かなきゃ…)
慌てて側へ寄ると、ウィリアム様が脱ぎかけた体勢のまま止まっている。
それから、俯いて…
「……セレス、ティア…」
そう、私の名前を呼んだ。
会いたかったのは自分だけではなかったのでは、という喜びで思わず抱きついてしまう。
「呼んでくださいましたか?」
だが、旦那様は喜ぶという様子ではなかった。
(あ、もしかしたら、疲れたところに来てしまって、気を遣わせてしまったのかしら…?)
思い当って、少し慌てたけれど、「…セレス…?」という掠れた声で彼に思考が引き戻された。
どうして、こんなに…、生気のない声なのだろう。
こみ上げてきそうな不安を無視して勤めて明るい声を出す。
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