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5巻
5-3
「でもね、タクミさん。フィリクスの謝罪はともかく、タクミさん達は騎士団の本部や訓練場の場所を把握しておいたほうが良いのではないかしら?」
「え?」
「懇意にしている騎士がいるようだけど……それは数人でしょう? 顔見知り程度でも、知り合いを増やすつもりで行ってみたらどうかしら? フィリクスと面識を得るのもあるけれど、オースティンと一緒に行けば、騎士達にそれ相応の人物として認識してもらえるから、人手が必要になった時に融通が利く可能性があるわよ?」
「……」
グレイス様の言い分はもっともである。あまり考えたくはないが……何かトラブルに巻き込まれ、自分の力ではどうしようもない時とかにね、騎士団長であるフィリクス様に伝手があると何かと都合が良さそうだ。ヴァルト様やアイザックさんという騎士の知り合いがいたとしても、彼らが動けない場合があるからな。
「タクミさんって何だかトラブルに巻き込まれやすそうだから、用心するに越したことはないでしょう?」
「ええっ!?」
グレイス様の言葉に思わず声を上げてしまう。
え? 僕って巻き込まれ体質だったのか? ……いや……うん、あるかもしれない?
シルの力に巻き込まれて前世を終えたことに始まり、ガヤの森でのサジェスの件、ギルベルダ男爵の商売妨害、人魚の里での人助けとか……つい最近では、獣人ライゼルとの決闘騒ぎもそうか……。こうやって挙げてみると意外とあるな……。
そうか。僕は巻き込まれ体質だったのか……。
……っ! となれば、ここは心を切り替え、巻き込まれた時に備えて少しでもコネ作りを頑張らないと!
――と、そういうことでやって来ました騎士団本部!
案内役はもちろん王太子のオースティン様! 恐縮してしまうが、王太子様の連れであることを見せるっていうのが重要なので、ここは開き直ろう。
その効果はやはり抜群で、進む先々ですれ違う騎士達から注目を集めた。
……まあ、居心地はあまりよくないけどね。
「オースティン殿下!?」
「お疲れ。フィリクスはいるかい?」
騎士団長室の前に到着すると、オースティン様は部屋の前で歩哨に立つ騎士に声を掛けた。
「は、はい!」
「そうかい、ありがとう。――フィリクス?」
オースティン様はフィリクス様が在室していることを確認すると、扉をノックして声を掛ける。
「兄上っ!?」
すると、中から慌てたような男性の声が聞こえ、バタバタと駆け寄ってくる足音が響いた。
「兄上、騎士団の本部にまで来るなんてどうしたんですか?」
扉が開くと、グレイス様そっくりな人物が現れた。
男性であるのは間違いないが、全体的に線が細く、〝男装の麗人〟と言われれば信じられるほど容姿の整った人だった。この人が第二王子のフィリクス様か……。
「フィリクス、今、大丈夫かい?」
「は、はい。どうぞ、お入りください」
団長室の中に案内され、席に落ち着いたところで――
「それで兄上、そちらの方々はどなたですか?」
「君が会いたがっていた人物だよ。ほら、彼らの特徴をよく見てごらん」
オースティン様が含みをもたせた返事をすると、フィリクス様は僕達のことをまじまじと見る。……今日はよく観察される日だ。
「黒髪の青年と……青い髪の双子? ……っ!! ――兄上っ! この方達は!!」
「そうだよ。君の予想した通りの人物だ」
どうやら、フィリクス様は僕達が誰か察しがついたようだ。
「タクミ殿ですね!」
「ええ、お初にお目に掛かります」
うん、合っていたね。
「その節はうちの団員が失礼なことをし、本当に申し訳ない!」
僕の正体がわかった途端、フィリクス様が頭を下げてきた。
「フィ、フィリクス様、頭を上げてください」
……結局、王子様に謝らせてしまったか。
というか、王族がそう簡単に頭を下げても良いのだろうか?
「王族でもケジメは大切ですからね。でないと、傲慢な王族が蔓延ってしまうでしょう?」
「……」
今度はオースティン様かいっ!! だから! 僕の心を読まないでくださいよ!!
「フィリクス、気が済んだね? だったら、そろそろ頭を上げなさい。これ以上はタクミ殿を困らせるだけだよ」
「……そうですね」
オースティン様の言葉にフィリクス様がやっと頭を上げてくれた。
はぁ~……。今日は何かと気疲れする日だな……。
「ああ、そうだ! タクミ殿にマジェスタの葉の代金を支払わないといけないんでした」
「フィリクス、マジェスタだって!?」
「ええ、兄上。タクミ殿がベイリーから王都に来る途中で採取したマジェスタの葉を、同行した騎士達が譲ってもらったのですよ」
ああ、マジェスタの葉ね。……衝撃的なことが多すぎてすっかり忘れていたわ~。
「タクミ殿、本当ですか?」
「ええ、偶然ですが」
「それにしても、どうやって採取したんですか? 移動中だったのでしょう? あの木は準備なしで登れるような代物ではないし……」
「アレン、とったー」
「エレナもとったー」
採取方法を尋ねたオースティン様に、アレンとエレナが自分達が取ったと主張する。
「ん? どういう意味です?」
だが、オースティン様とフィリクス様は子供達が言っていることが理解できなかったのか、不思議そうな顔をした。
「実は……採取したのは主に子供達なんですよね~」
「何っ!? 子供達がですか!?」
「そ、それは聞いていませんでした! 本当にっ!?」
僕から子供達が採取したことをしっかり伝え直すと、オースティン様とフィリクス様は驚きの表情を浮かべながら子供達を見た。
「「のぼったもん!」」
王子様達の半信半疑な様子が不満だったのか、アレンとエレナがもう一度主張する。
「「登ったぁー!?」」
オースティン様とフィリクス様は、子供達の言葉に驚きの声を上げた。
「「うん!」」
「おにーちゃんに」
「ぽーん、してもらったのー」
「ん? ポ、ポーン?」
「タクミ殿、どういうことです?」
子供達の言い分に、オースティン様とフィリクス様はわけがわからないという表情をして、僕のほうを見る。
「あ~……僕がこの子達を木の上まで投げ上げました……」
「「はぁ!?」」
端的にその時にやったことを説明すると、王子様達はまた驚きの声を上げ、目を見開いて固まった。
まあ、木を登るのに普通ならそんな手段は取らないよな。
「いやいや、それはさすがに危険ですよね!?」
「そうですよ。落ちてしまったら、怪我だけじゃ済まない可能性がありますよ!」
オースティン様は急に立ち上がって僕達の行動の危険性を訴え、フィリクス様も同意する。
王子様達は良い人だ。既に終わってしまったことなのに、子供達の身を心配してくれている。
「まあ、 〝落ちれば〟ですけどね。うちの子達の運動能力はかなりのものなので、大丈夫でした。それに僕が下で構えていましたし、万が一の時は受け止めるつもりでしたよ。でも、ご心配くださりありがとうございます」
「「……」」
オースティン様とフィリクス様は、とうとう口を噤んでしまった。
あの時、ヴァルト様にも言われたが、僕達の行動はやはり規格外だったらしい。
「ああ、そういえば、お茶している時にお出しすれば良かったですね」
僕は《無限収納》からマジェスタの実を取り出して、目の前のテーブルに積み上げた。
珍しい果実なんだから、さっきお茶請けとしてこれを出せば喜ばれたんだろうけれど……忘れていたのだから仕方がない。
でも、ここでそれなりの量を渡しておけば、グレイス様はもちろん、トリスタン様にも行き渡るだろう。
「「マジェスタの実!」」
「良かったら、皆さんで食べてください」
「いやいやいや、タクミ殿! 採取したのは木の葉ですよね? どうして果実まであるのですかっ!? しかも、こんなにも大量に!」
オースティン様が大変慌てていた。
本来ならば果実が生る現象と、葉が赤くなる現象があんな短時間で次々にお目見えすることなどない。
だから、葉を採取した僕達が果実を大量に持っていることが不思議でならないのだろう。珍しい果実なので、この量をすべて買ったという可能性はないのだから余計に。
「あれ? 聞いていません? 葉を採取する前に果実が生っていたので、収穫したんですが……」
「私はそんな報告は受けておりません!」
僕の言葉にフィリクス様が即座に反応する。
ん~、アイザックさんが報告をし忘れた? ヴァルト様ならともかく、あの人に限ってそんなことはないと思うんだけど……ああ、もしかするとマジェスタの葉や、アルベールの街でオークの襲撃があったこととかの報告に埋没しちゃったのかもしれないな。
「まあ、たくさんあるのでどうぞ」
「「……たくさん?」」
「「うん! いっぱーい!」」
マジェスタの実は、アレンとエレナが頑張って収穫してくれたので大量にある。
そういえば、この果実はまだ生でしか食べたことがなかった。そのままでも充分美味しいものだけど、他にもいろいろと試してみたいよな~。
ん~、シロップで煮たものを角切りにして、アイスクリームに混ぜるのも良さそうか?
あと作れそうなものは…………意外と思いつかないな。まあ、これは時間がある時の課題にしよう。なんてことを考えていたら――
「……兄上、何だか驚き疲れました」
「……奇遇だね、フィリクス。私もだよ」
オースティン様とフィリクス様が小声で内緒話(?)を始めた。
「タクミ殿の功績は聞き及んでいますし、彼と同行した騎士達からも話は聞いていたのですけど……私が想像していたよりも斜め上をいきますよ」
…………おーい?
僕について話しているみたいだが……内容が全部こちらに聞こえているんですけど……。
「そうだね。たぶんだけど、もっと驚く話がゴロゴロと出てきそうな気がするよ。国にとって有益な話とか」
いや~、驚かれるような話題なんてそんなにないですよ? ……ないよね?
「それは次の機会にしませんか? 今日はもういいです」
「ん~、それもそうだね。母上がまたお茶に招待すると言っていたから、機会はあるしね」
「お茶にですか?」
「ああ、母上もアウローラも、タクミ殿が用意する甘味の虜になったようなので、近いうちに呼ぶだろう」
そうだね。フレンチトーストとホットケーキを食べたいがためにね。
「……甘味ですか?」
「そうだよ。私もいただいたけど、今まで食べたことのないもので、とても美味しかったよ」
「ああ、そういえば、タクミ殿の料理の腕については騎士達も言っていましたね。特に野営での食事は格別だとか」
騎士達が野営で普段とる食事って……あれだよね? ただの干し肉や塩味のスープ。そんな質素なものと比較されてもねぇ~。あれと比べたら、一般的な主婦の腕より下回っていようとも、美味しい料理だと評価されるんじゃないかな?
……というか、二人はいつまで内緒話(?)をするつもりなんだろう? 普通に聞いているのがつらい内容だから、そろそろ終わってくれると嬉しいんだけど。
「……あの~」
「あ、ああ、すまない。えっと、このマジェスタの実は本当にいただいても構わないのかい?」
「ええ、どうぞ」
――コンコンッ。
オースティン様とフィリクス様の意識をこちらに戻したところで、扉がノックされた。
「団長、失礼します。こちらの書類にサインをお願いし……――おや、タクミさん?」
「こんにちは、アイザックさん」
「「こんにちはー」」
入ってきたのはアイザックさんだ。アイザックさんは騎士団長であるフィリクス様に、何かの書類にサインを貰いに来たらしいが、僕達の姿を見ると驚いたように目を開いた。
「マジェスタの実? ああ、もしかして、マジェスタの葉の代金を受け取りにいらしたんですか?」
アイザックさんはテーブルの上に積んであるマジェスタの実を見て、僕達がここにいる用件にすぐに見当がついたようだ。
まあ、それは半分正解ってところかな?
「ここに来た理由は違いますけど、今、ちょうどマジェスタの葉の代金の話になったところですね」
「そうなのですか。それで、テーブルの上にあるマジェスタの実はどうしたのですか? こちらも売ることに?」
「これは……そうですね~……貢ぎ物、ですかね?」
「おや、殿下方に貢ぎ物ですか。それはそれは、高価な貢ぎ物ですね~」
質問に冗談で返してみたら、アイザックさんは即座に乗ってくれた。
「タクミ殿、何を言っているのですかぁ!? リスナーも! なぜ納得したように頷いているのですっ!」
軽口をたたいていたら、フィリクス様に怒られてしまった。
アイザックさんはすぐに謝罪する。……さすがに上司の前でやる内容ではなかったか~?
「くくっ。フィリクス、二人は冗談を言っているだけなのだから、そうムキになるのはよしなさい」
オースティン様には冗談だと通じていたらしく、苦笑しながらフィリクス様を窘めてくれた。
アイザックさんに処罰とか……そんな事態にならなくて良かった~。今後、冗談を言うなら時と場所を選ばないとな!
「それじゃあ、タクミ殿。このマジェスタの実は遠慮なくいただくよ」
「はい、どうぞ」
僕はオースティン様に笑顔で頷く。
「きっと父上や母上も喜ぶと思うよ。以前、口にしたことがあるが、とても気に入っていたようだったから」
トリスタン様もグレイス様もマジェスタの実が好きなのか。それなら良かった~。
「ほらほら、フィリクス。タクミ殿に支払う代金を用意させなさい」
「は、はい。すぐに!」
オースティン様の言葉に、フィリクス様は部屋の外にいた騎士を呼び、お金の手配を始めた。
あ、そういえば、マジェスタの葉は騎士達が切望していた薬の材料だったよな。その薬ってできたのかな? ヴァルト様なんか、早く薬を作るように急かしそうだな~。
「マジェスタの葉を使った薬はできたんですか?」
「いえ、それが……」
気になったので聞いてみると、なぜかアイザックさんは言葉を濁した。
「ん? どうしたんですか?」
「実は……材料の一つが手に入らなくて、調薬が滞っている状態なのです」
アイザックさんの代わりにフィリクス様が答えてくれた。
「そうなんですか? もしかして、その材料も珍しいものなんですか?」
「いいえ。氷華草というもので、それほど珍しいわけではないのですが……あの薬草は主に寒い時期に生えるのですよ」
「へぇ~」
ひょうかそう? えっと……――ああ、氷華草か~。なるほどね、名前からして寒い時期に生えてそうだわ。シルに刷り込まれた知識を探ってみると、いろんな情報が引き出された。
ああ、寒い時期が盛りってだけで、今の季節でも生えていないわけではないのか。
「やくそー」
「さがすー」
薬草と聞いて、アレンとエレナが探しに行こうと両側から僕の服を引いた。
「「「ん?」」」
アレンとエレナの言葉に、王子様達とアイザックさんが不思議そうな顔をする。
「……えっと、アレンくん、エレナさん。探しに行くって、氷華草をですか?」
「「うん!」」
いち早くアレンとエレナの言いたいことを理解したのは、三人の中では一番つき合いの長いアイザックさんだった。
「氷華草は寒い時に生える薬草なので、今見つけるのは難しいと思いますよ?」
「「ないのー?」」
「いいえ、ないわけではありませんが……」
アレンとエレナの問いかけにアイザックさんが言い淀んだ。
〝ない〟とは言い切れないし、だからといって〝ある〟と期待を持たせるようなことも言えないのだろう。
「「おにーちゃん、いこー」」
くいくい、と再び子供達が僕の服を引く。
ん~、そうだな~。王都に来てからというもの、謁見だの何だのと二人には窮屈な思いをさせていたことだし、街の外に遊びに行くのもいいかもしれない。
「じゃあ、明日は薬草探しに行こうか」
「「ほんとー?」」
「本当だよ」
「「やったー!」」
薬草探しをすることを約束すると、子供達は笑顔ではしゃぎ、見るからに喜んでいた。
「え、タクミ殿? 本当に氷華草を探しに行かれるのですか? それはやめたほうが……」
僕達のやりとりを見て、フィリクス様が慌てて声を掛けた。空振りになる可能性のほうが高いからそう言ってくれているのだろう。
「薬草探しといっても、子供達を外で思いっ切り遊ばせることがメインになると思いますので、気にしないでください」
「……ああ、そういうことですか」
氷華草は生えていなくても大丈夫と伝えると、フィリクス様は納得してくれたようだ。
「団長、安心するのはお早いと思いますよ」
「え?」
しかし、そこでアイザックさんから〝待った〟が掛かった。
「何でもない風に言っていますが、タクミさん達なら本当に氷華草を見つけてくるはずです。だとすれば、買い取りの契約を交わしておいたほうがいいと思います!」
「ちょっと! アイザックさん!?」
あなた、僕達のことを何か誤解していませんか?
「今の時期だと見つけられる確率は一割以下ですよ!? それなのに、採取してくると言うんですか!?」
「ええ! それがタクミさん達ですから!」
「……な、なるほど」
いやいやいや! 僕も今回はさすがに氷華草を見つけられるだなんて思っていないですよ?
ただ、それを口実に森に遊びに行こうとしているだけですって!
てか、フィリクス様……なに、納得しているんですか?
何てことだ……オースティン様も地味に頷いているし……。
「では、タクミ殿。氷華草を見つけたら騎士団で買い取らせてくれないかな?」
「いや、その……今回は本当にただ森に遊びに行こうとしているだけなのですが……」
「ええ、それはわかっています。しかし、リスナーがあれだけ押してくるので、口約束だけでも。あくまで〝見つかったら〟ということで構いませんので」
オースティン様だけでなく、フィリクス様にもお願いされてしまった。
まあ、それなら構わないか……。
「え?」
「懇意にしている騎士がいるようだけど……それは数人でしょう? 顔見知り程度でも、知り合いを増やすつもりで行ってみたらどうかしら? フィリクスと面識を得るのもあるけれど、オースティンと一緒に行けば、騎士達にそれ相応の人物として認識してもらえるから、人手が必要になった時に融通が利く可能性があるわよ?」
「……」
グレイス様の言い分はもっともである。あまり考えたくはないが……何かトラブルに巻き込まれ、自分の力ではどうしようもない時とかにね、騎士団長であるフィリクス様に伝手があると何かと都合が良さそうだ。ヴァルト様やアイザックさんという騎士の知り合いがいたとしても、彼らが動けない場合があるからな。
「タクミさんって何だかトラブルに巻き込まれやすそうだから、用心するに越したことはないでしょう?」
「ええっ!?」
グレイス様の言葉に思わず声を上げてしまう。
え? 僕って巻き込まれ体質だったのか? ……いや……うん、あるかもしれない?
シルの力に巻き込まれて前世を終えたことに始まり、ガヤの森でのサジェスの件、ギルベルダ男爵の商売妨害、人魚の里での人助けとか……つい最近では、獣人ライゼルとの決闘騒ぎもそうか……。こうやって挙げてみると意外とあるな……。
そうか。僕は巻き込まれ体質だったのか……。
……っ! となれば、ここは心を切り替え、巻き込まれた時に備えて少しでもコネ作りを頑張らないと!
――と、そういうことでやって来ました騎士団本部!
案内役はもちろん王太子のオースティン様! 恐縮してしまうが、王太子様の連れであることを見せるっていうのが重要なので、ここは開き直ろう。
その効果はやはり抜群で、進む先々ですれ違う騎士達から注目を集めた。
……まあ、居心地はあまりよくないけどね。
「オースティン殿下!?」
「お疲れ。フィリクスはいるかい?」
騎士団長室の前に到着すると、オースティン様は部屋の前で歩哨に立つ騎士に声を掛けた。
「は、はい!」
「そうかい、ありがとう。――フィリクス?」
オースティン様はフィリクス様が在室していることを確認すると、扉をノックして声を掛ける。
「兄上っ!?」
すると、中から慌てたような男性の声が聞こえ、バタバタと駆け寄ってくる足音が響いた。
「兄上、騎士団の本部にまで来るなんてどうしたんですか?」
扉が開くと、グレイス様そっくりな人物が現れた。
男性であるのは間違いないが、全体的に線が細く、〝男装の麗人〟と言われれば信じられるほど容姿の整った人だった。この人が第二王子のフィリクス様か……。
「フィリクス、今、大丈夫かい?」
「は、はい。どうぞ、お入りください」
団長室の中に案内され、席に落ち着いたところで――
「それで兄上、そちらの方々はどなたですか?」
「君が会いたがっていた人物だよ。ほら、彼らの特徴をよく見てごらん」
オースティン様が含みをもたせた返事をすると、フィリクス様は僕達のことをまじまじと見る。……今日はよく観察される日だ。
「黒髪の青年と……青い髪の双子? ……っ!! ――兄上っ! この方達は!!」
「そうだよ。君の予想した通りの人物だ」
どうやら、フィリクス様は僕達が誰か察しがついたようだ。
「タクミ殿ですね!」
「ええ、お初にお目に掛かります」
うん、合っていたね。
「その節はうちの団員が失礼なことをし、本当に申し訳ない!」
僕の正体がわかった途端、フィリクス様が頭を下げてきた。
「フィ、フィリクス様、頭を上げてください」
……結局、王子様に謝らせてしまったか。
というか、王族がそう簡単に頭を下げても良いのだろうか?
「王族でもケジメは大切ですからね。でないと、傲慢な王族が蔓延ってしまうでしょう?」
「……」
今度はオースティン様かいっ!! だから! 僕の心を読まないでくださいよ!!
「フィリクス、気が済んだね? だったら、そろそろ頭を上げなさい。これ以上はタクミ殿を困らせるだけだよ」
「……そうですね」
オースティン様の言葉にフィリクス様がやっと頭を上げてくれた。
はぁ~……。今日は何かと気疲れする日だな……。
「ああ、そうだ! タクミ殿にマジェスタの葉の代金を支払わないといけないんでした」
「フィリクス、マジェスタだって!?」
「ええ、兄上。タクミ殿がベイリーから王都に来る途中で採取したマジェスタの葉を、同行した騎士達が譲ってもらったのですよ」
ああ、マジェスタの葉ね。……衝撃的なことが多すぎてすっかり忘れていたわ~。
「タクミ殿、本当ですか?」
「ええ、偶然ですが」
「それにしても、どうやって採取したんですか? 移動中だったのでしょう? あの木は準備なしで登れるような代物ではないし……」
「アレン、とったー」
「エレナもとったー」
採取方法を尋ねたオースティン様に、アレンとエレナが自分達が取ったと主張する。
「ん? どういう意味です?」
だが、オースティン様とフィリクス様は子供達が言っていることが理解できなかったのか、不思議そうな顔をした。
「実は……採取したのは主に子供達なんですよね~」
「何っ!? 子供達がですか!?」
「そ、それは聞いていませんでした! 本当にっ!?」
僕から子供達が採取したことをしっかり伝え直すと、オースティン様とフィリクス様は驚きの表情を浮かべながら子供達を見た。
「「のぼったもん!」」
王子様達の半信半疑な様子が不満だったのか、アレンとエレナがもう一度主張する。
「「登ったぁー!?」」
オースティン様とフィリクス様は、子供達の言葉に驚きの声を上げた。
「「うん!」」
「おにーちゃんに」
「ぽーん、してもらったのー」
「ん? ポ、ポーン?」
「タクミ殿、どういうことです?」
子供達の言い分に、オースティン様とフィリクス様はわけがわからないという表情をして、僕のほうを見る。
「あ~……僕がこの子達を木の上まで投げ上げました……」
「「はぁ!?」」
端的にその時にやったことを説明すると、王子様達はまた驚きの声を上げ、目を見開いて固まった。
まあ、木を登るのに普通ならそんな手段は取らないよな。
「いやいや、それはさすがに危険ですよね!?」
「そうですよ。落ちてしまったら、怪我だけじゃ済まない可能性がありますよ!」
オースティン様は急に立ち上がって僕達の行動の危険性を訴え、フィリクス様も同意する。
王子様達は良い人だ。既に終わってしまったことなのに、子供達の身を心配してくれている。
「まあ、 〝落ちれば〟ですけどね。うちの子達の運動能力はかなりのものなので、大丈夫でした。それに僕が下で構えていましたし、万が一の時は受け止めるつもりでしたよ。でも、ご心配くださりありがとうございます」
「「……」」
オースティン様とフィリクス様は、とうとう口を噤んでしまった。
あの時、ヴァルト様にも言われたが、僕達の行動はやはり規格外だったらしい。
「ああ、そういえば、お茶している時にお出しすれば良かったですね」
僕は《無限収納》からマジェスタの実を取り出して、目の前のテーブルに積み上げた。
珍しい果実なんだから、さっきお茶請けとしてこれを出せば喜ばれたんだろうけれど……忘れていたのだから仕方がない。
でも、ここでそれなりの量を渡しておけば、グレイス様はもちろん、トリスタン様にも行き渡るだろう。
「「マジェスタの実!」」
「良かったら、皆さんで食べてください」
「いやいやいや、タクミ殿! 採取したのは木の葉ですよね? どうして果実まであるのですかっ!? しかも、こんなにも大量に!」
オースティン様が大変慌てていた。
本来ならば果実が生る現象と、葉が赤くなる現象があんな短時間で次々にお目見えすることなどない。
だから、葉を採取した僕達が果実を大量に持っていることが不思議でならないのだろう。珍しい果実なので、この量をすべて買ったという可能性はないのだから余計に。
「あれ? 聞いていません? 葉を採取する前に果実が生っていたので、収穫したんですが……」
「私はそんな報告は受けておりません!」
僕の言葉にフィリクス様が即座に反応する。
ん~、アイザックさんが報告をし忘れた? ヴァルト様ならともかく、あの人に限ってそんなことはないと思うんだけど……ああ、もしかするとマジェスタの葉や、アルベールの街でオークの襲撃があったこととかの報告に埋没しちゃったのかもしれないな。
「まあ、たくさんあるのでどうぞ」
「「……たくさん?」」
「「うん! いっぱーい!」」
マジェスタの実は、アレンとエレナが頑張って収穫してくれたので大量にある。
そういえば、この果実はまだ生でしか食べたことがなかった。そのままでも充分美味しいものだけど、他にもいろいろと試してみたいよな~。
ん~、シロップで煮たものを角切りにして、アイスクリームに混ぜるのも良さそうか?
あと作れそうなものは…………意外と思いつかないな。まあ、これは時間がある時の課題にしよう。なんてことを考えていたら――
「……兄上、何だか驚き疲れました」
「……奇遇だね、フィリクス。私もだよ」
オースティン様とフィリクス様が小声で内緒話(?)を始めた。
「タクミ殿の功績は聞き及んでいますし、彼と同行した騎士達からも話は聞いていたのですけど……私が想像していたよりも斜め上をいきますよ」
…………おーい?
僕について話しているみたいだが……内容が全部こちらに聞こえているんですけど……。
「そうだね。たぶんだけど、もっと驚く話がゴロゴロと出てきそうな気がするよ。国にとって有益な話とか」
いや~、驚かれるような話題なんてそんなにないですよ? ……ないよね?
「それは次の機会にしませんか? 今日はもういいです」
「ん~、それもそうだね。母上がまたお茶に招待すると言っていたから、機会はあるしね」
「お茶にですか?」
「ああ、母上もアウローラも、タクミ殿が用意する甘味の虜になったようなので、近いうちに呼ぶだろう」
そうだね。フレンチトーストとホットケーキを食べたいがためにね。
「……甘味ですか?」
「そうだよ。私もいただいたけど、今まで食べたことのないもので、とても美味しかったよ」
「ああ、そういえば、タクミ殿の料理の腕については騎士達も言っていましたね。特に野営での食事は格別だとか」
騎士達が野営で普段とる食事って……あれだよね? ただの干し肉や塩味のスープ。そんな質素なものと比較されてもねぇ~。あれと比べたら、一般的な主婦の腕より下回っていようとも、美味しい料理だと評価されるんじゃないかな?
……というか、二人はいつまで内緒話(?)をするつもりなんだろう? 普通に聞いているのがつらい内容だから、そろそろ終わってくれると嬉しいんだけど。
「……あの~」
「あ、ああ、すまない。えっと、このマジェスタの実は本当にいただいても構わないのかい?」
「ええ、どうぞ」
――コンコンッ。
オースティン様とフィリクス様の意識をこちらに戻したところで、扉がノックされた。
「団長、失礼します。こちらの書類にサインをお願いし……――おや、タクミさん?」
「こんにちは、アイザックさん」
「「こんにちはー」」
入ってきたのはアイザックさんだ。アイザックさんは騎士団長であるフィリクス様に、何かの書類にサインを貰いに来たらしいが、僕達の姿を見ると驚いたように目を開いた。
「マジェスタの実? ああ、もしかして、マジェスタの葉の代金を受け取りにいらしたんですか?」
アイザックさんはテーブルの上に積んであるマジェスタの実を見て、僕達がここにいる用件にすぐに見当がついたようだ。
まあ、それは半分正解ってところかな?
「ここに来た理由は違いますけど、今、ちょうどマジェスタの葉の代金の話になったところですね」
「そうなのですか。それで、テーブルの上にあるマジェスタの実はどうしたのですか? こちらも売ることに?」
「これは……そうですね~……貢ぎ物、ですかね?」
「おや、殿下方に貢ぎ物ですか。それはそれは、高価な貢ぎ物ですね~」
質問に冗談で返してみたら、アイザックさんは即座に乗ってくれた。
「タクミ殿、何を言っているのですかぁ!? リスナーも! なぜ納得したように頷いているのですっ!」
軽口をたたいていたら、フィリクス様に怒られてしまった。
アイザックさんはすぐに謝罪する。……さすがに上司の前でやる内容ではなかったか~?
「くくっ。フィリクス、二人は冗談を言っているだけなのだから、そうムキになるのはよしなさい」
オースティン様には冗談だと通じていたらしく、苦笑しながらフィリクス様を窘めてくれた。
アイザックさんに処罰とか……そんな事態にならなくて良かった~。今後、冗談を言うなら時と場所を選ばないとな!
「それじゃあ、タクミ殿。このマジェスタの実は遠慮なくいただくよ」
「はい、どうぞ」
僕はオースティン様に笑顔で頷く。
「きっと父上や母上も喜ぶと思うよ。以前、口にしたことがあるが、とても気に入っていたようだったから」
トリスタン様もグレイス様もマジェスタの実が好きなのか。それなら良かった~。
「ほらほら、フィリクス。タクミ殿に支払う代金を用意させなさい」
「は、はい。すぐに!」
オースティン様の言葉に、フィリクス様は部屋の外にいた騎士を呼び、お金の手配を始めた。
あ、そういえば、マジェスタの葉は騎士達が切望していた薬の材料だったよな。その薬ってできたのかな? ヴァルト様なんか、早く薬を作るように急かしそうだな~。
「マジェスタの葉を使った薬はできたんですか?」
「いえ、それが……」
気になったので聞いてみると、なぜかアイザックさんは言葉を濁した。
「ん? どうしたんですか?」
「実は……材料の一つが手に入らなくて、調薬が滞っている状態なのです」
アイザックさんの代わりにフィリクス様が答えてくれた。
「そうなんですか? もしかして、その材料も珍しいものなんですか?」
「いいえ。氷華草というもので、それほど珍しいわけではないのですが……あの薬草は主に寒い時期に生えるのですよ」
「へぇ~」
ひょうかそう? えっと……――ああ、氷華草か~。なるほどね、名前からして寒い時期に生えてそうだわ。シルに刷り込まれた知識を探ってみると、いろんな情報が引き出された。
ああ、寒い時期が盛りってだけで、今の季節でも生えていないわけではないのか。
「やくそー」
「さがすー」
薬草と聞いて、アレンとエレナが探しに行こうと両側から僕の服を引いた。
「「「ん?」」」
アレンとエレナの言葉に、王子様達とアイザックさんが不思議そうな顔をする。
「……えっと、アレンくん、エレナさん。探しに行くって、氷華草をですか?」
「「うん!」」
いち早くアレンとエレナの言いたいことを理解したのは、三人の中では一番つき合いの長いアイザックさんだった。
「氷華草は寒い時に生える薬草なので、今見つけるのは難しいと思いますよ?」
「「ないのー?」」
「いいえ、ないわけではありませんが……」
アレンとエレナの問いかけにアイザックさんが言い淀んだ。
〝ない〟とは言い切れないし、だからといって〝ある〟と期待を持たせるようなことも言えないのだろう。
「「おにーちゃん、いこー」」
くいくい、と再び子供達が僕の服を引く。
ん~、そうだな~。王都に来てからというもの、謁見だの何だのと二人には窮屈な思いをさせていたことだし、街の外に遊びに行くのもいいかもしれない。
「じゃあ、明日は薬草探しに行こうか」
「「ほんとー?」」
「本当だよ」
「「やったー!」」
薬草探しをすることを約束すると、子供達は笑顔ではしゃぎ、見るからに喜んでいた。
「え、タクミ殿? 本当に氷華草を探しに行かれるのですか? それはやめたほうが……」
僕達のやりとりを見て、フィリクス様が慌てて声を掛けた。空振りになる可能性のほうが高いからそう言ってくれているのだろう。
「薬草探しといっても、子供達を外で思いっ切り遊ばせることがメインになると思いますので、気にしないでください」
「……ああ、そういうことですか」
氷華草は生えていなくても大丈夫と伝えると、フィリクス様は納得してくれたようだ。
「団長、安心するのはお早いと思いますよ」
「え?」
しかし、そこでアイザックさんから〝待った〟が掛かった。
「何でもない風に言っていますが、タクミさん達なら本当に氷華草を見つけてくるはずです。だとすれば、買い取りの契約を交わしておいたほうがいいと思います!」
「ちょっと! アイザックさん!?」
あなた、僕達のことを何か誤解していませんか?
「今の時期だと見つけられる確率は一割以下ですよ!? それなのに、採取してくると言うんですか!?」
「ええ! それがタクミさん達ですから!」
「……な、なるほど」
いやいやいや! 僕も今回はさすがに氷華草を見つけられるだなんて思っていないですよ?
ただ、それを口実に森に遊びに行こうとしているだけですって!
てか、フィリクス様……なに、納得しているんですか?
何てことだ……オースティン様も地味に頷いているし……。
「では、タクミ殿。氷華草を見つけたら騎士団で買い取らせてくれないかな?」
「いや、その……今回は本当にただ森に遊びに行こうとしているだけなのですが……」
「ええ、それはわかっています。しかし、リスナーがあれだけ押してくるので、口約束だけでも。あくまで〝見つかったら〟ということで構いませんので」
オースティン様だけでなく、フィリクス様にもお願いされてしまった。
まあ、それなら構わないか……。
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