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7巻
7-2
「「あ、あの……」」
ちゃんと可愛がってもらえているな~……などと考えていたら、リリーカ様とシスティーナ様が同時に呼び掛けてくる。
そして、二人はお互いに顔を見合わせ、何かを確認するように頷くと真剣な表情をして僕のほうに向き直った。
「「タクミ様」」
「はい、何ですか?」
「私達」
「タクミ様にお願いがありまして」
「お願いですか?」
二人のとても真剣な表情に、僕は疑問を抱きながら次の言葉を待った。
「あの……タクミ様でしたら、もう一度パステルラビットを手に入れることはできないでしょうか?」
「手に入れる? ……えっと、森で野生のパステルラビットを捕獲してくるということですか?」
僕の言葉に、二人は同時に頷く。
「ええ、私の従妹もパステルラビットを飼いたがっているのですが……なかなか手に入れることが叶わなくて。私がフルールを飼い始めてからは頻繁に遊びにくるようになって楽しそうにしているものの、いつも帰り際に泣いてしまって……」
「私のほうは妹が……。リアンを欲しがってしまって……」
これは……僕がパステルラビットを譲った弊害になるのかな?
「冒険者ギルドに依頼を出してはいるのですが……あまり期待しないように言われています」
「ああ……」
パステルラビットの捕獲依頼は、低ランクにしては高報酬だが、難易度はかなり高い。高ランクの冒険者にしてみれば、もっと稼げる依頼があるので受けることはないし、低ランクの冒険者は報酬に惹かれて受けるが、失敗するのがほとんどらしい。
「もちろん、相応の報酬はお支払いします」
「私達も無理を承知でお願いしておりますので、駄目でしたら駄目とおっしゃっていただいて構いません」
リリーカ様とシスティーナ様はそう言うけど……二人して目をうるうるさせられると、断るに断れない。
「えっと……駄目元で一度森に探しに行くだけでしたら……」
「え?」
「本当ですか!?」
僕の言葉に二人は一転、きらきらとした目で見つめてくる。
その様子を見て、いまいち話についていけていなかったアレンとエレナが首を傾げた。
「「なーに?」」
「リリーカ様とシスティーナ様がもう一匹ずつ、パステルラビットが欲しいんだって。森にパステルラビットを探しに行くことになるかもしれないけど、いいかい?」
「「おおー」」
僕が伝えると、二人は楽しそうに声を上げる。
「アレン、さがすー」
「エレナ、みつけるー」
そして、今から探しに行くかのように張り切りだした。
そんな二人を見た僕は、リリーカ様とシスティーナ様に向き直る。
「絶対に捕獲するとは断言できません。その上で、一度だけ探しに行くという条件で構わないのでしたら、お二人のお願いを叶えられるように頑張りましょう」
「もちろん、それで構いません!」
「タクミ様、ありがとうございます!」
リリーカ様とシスティーナ様は、不確定でも依頼を受けるだけで喜んだ。
でもなんだかんだ言って、アレンとエレナの張り切りようと運の良さを考えると、パステルラビットを捕獲できる可能性のほうが高いと思うんだよな~。まあ、ぬか喜びはさせたくないから、その辺は言わないけどね。
「なにいろ」
「みつけるー?」
「色ですか?」
「えっと……」
アレンとエレナが、リリーカ様とシスティーナ様に何色のパステルラビットを見つけてくればいいのか聞くと、二人は困ったように僕を見てくる。僕は慌てて補足した。
「色についても希望は叶えられないと思いますが……」
「その点も承知しております」
「そうですね。それに、どの色のパステルラビットも可愛いので問題ないですわ」
「それはそうですね! どの色の子もとっても可愛いですよね」
色の希望についても、二人は承知していたようだった。それどころか、どの色のパステルラビットも可愛いと話に花を咲かせる。
「ですが一応、子供達に希望の色を教えてあげてもらえますか? ああ、もちろん、希望の色があるのでしたら、ですけどね」
「ふふっ、タクミ様、ありがとうございます。――アレン様、エレナ様、私の従妹は黄色が好きですの。よろしくお願いしますね」
「アレン様、エレナ様、私の妹はピンクや赤が好きなので、女の子らしい色だと嬉しいですわ」
「「わかったー」」
アレンとエレナはリリーカ様とシスティーナ様から希望を聞くと、〝任せろ〟とばかりに胸を張る。
「まあ! 頼もしいですわね~」
「ふふっ、本当ですわね」
リリーカ様とシスティーナ様ともう少し話をしたところで、僕達はグレイス様のところに報告に戻った。遠目でもはっきりわかるくらい微笑みながら、こちらを見ていたからな。
「あら、もういいの?」
「はい。グレイス様のおっしゃる通り、二人は僕に用事があったようです」
「ふふっ。そうでしょう? 彼女達の顔がそう語っていたもの」
グレイス様は人の表情を読むのは得意だと言っていたしな~。さすがである。
「ところで、グレイス様。パステルラビットを欲しがっている人が結構いると言っていましたが、そんなに多いんですか?」
「ええ、いるわね~。あら、タクミさん、もしかして、彼女達からそのことをお願いされたのかしら?」
「そうです。まあ、完全に引き受けたわけではなく、捕獲できるかどうかはわかりませんが、一度だけ森を探してみるということで了承してもらいましたけどね」
「あらあら、それでも彼女達は喜んだでしょう?」
「ええ、まあ……」
優しいわね、とグレイス様は微笑むが、僕はただ断れなかっただけである。
それに、本当に優しい人間なら、パステルラビットを絶対に捕獲すると言って請け負っていただろう。
「タクミ達ならその一度の探索で、確実にパステルラビットを捕獲してきそうな気がするのは、私だけか?」
「いいえ、私もそう思いますわ」
その時、今まで聞き役に徹していたトリスタン様が予想を口にし、それにグレイス様も同意する。
「……」
僕もさっき〝アレンとエレナなら……〟と思ってしまったので、否定も突っ込みもできないんだよな~。
「がんばるのー」
「みつけるのー」
黙り込んだ僕の横でアレンとエレナが、トリスタン様の言葉を肯定するように宣言していた。
「おぉ、やる気満々だな。頑張ってこい」
「あらあら、二人とも頼んだわね」
「「うん!」」
トリスタン様とグレイス様から激励を受け、アレンとエレナは満面の笑みを浮かべるのだった。
その後、アレンとエレナはパステルラビットの群れに飛び込んでいって、シロ達や他のお茶会参加者が連れてきたパステルラビット達と戯れていた。
パステルラビットを撫でたり愛でたりしていたお茶会参加者達は、いつの間にかうちの子達とパステルラビット達が戯れる様子を観賞するようになっていた。
◇ ◇ ◇
「あっ、ひょうかそうだ!」
「こっちにもある~」
「氷華草が生える時期とはいえ、これはまた凄いな~」
翌日、僕達は早速、パステルラビットを探しに森へ来ていた。
だがそこで、アレンとエレナはパステルラビットではなく、氷華草の群生地を見つけたため、次々と採取し始めてしまった。
《お兄ちゃん、お兄ちゃん! こっちには氷雪花が咲いているよ!》
《採るの!》
《兄上、こちらにはレモネーの実がたくさん生っています》
《ボルト、木から落としてちょうだい。私とベクトルで受け取るわ》
《うん、オレとフィートに任せろ!》
僕の契約獣であるフェンリルのジュールにフォレストラットのマイル、サンダーホークのボルト、飛天虎のフィート、そしてスカーレットキングレオのベクトル達も薬草や果実を見つけると、みんなで協力し合って採取と収穫をしていく。
「……おーい。今日の目的は採取じゃないぞ~」
《わかってるよー》
「「ぱすてるらびっと~」」
《兄上、少しだけ待ってください。すぐ終わらせますから》
アレンとエレナ、ジュールが発見したものに夢中になるのはいつものことだが、今回はボルトまでもが一緒になっていることに僕は少し驚いた。
《あら、ボルトにしては珍しいわね?》
いつの間にかフィートが僕の隣に並んで、僕と同じくボルトの行動を珍しがっていた。
「フィートもそう思うか?」
《うん。もしかして、ボルトってレモネーの実が好きなのかしら?》
「なるほど、それはあるかもしれないな」
好きなものだからたくさん採りたい、ということも考えられる。
そういえば、ジュール達みんなの好きなものって気にしていなかったよな~。
契約獣になると魔力でエネルギーを補給するので普段の食事は必要ないらしいが、以前は普通に食事をしていたはずだ。
それならば、みんなにだって好物はあったよな~。聞いておけば良かった。
「というか、フィートもレモネーの実を受け取っていたんじゃなかったのかい?」
《ベクトルが頑張っているから任せてきたの。ほら、あれ》
「ん?」
フィートに促されてベクトルを見れば、木の周りを素早く駆け回り、ボルトが落としたレモネーの実を咥えた籠で見事に受け取っていた。かなり速いテンポで実が落とされ続けているのだが、ベクトルは一つも零さずにいる。しかも、とても楽しそうだ。
「ああ、確かにあれならベクトルがいれば問題なさそうだな」
《でしょう? だから、私は無理に参加する必要はないと思って》
「そうだな。じゃあ、フィートは僕と一緒にいよう」
《うん! 兄様を独り占め~♪》
しっかり者のフィートが甘えてくるので、僕は撫でてあげる。するとフィートは、嬉しそうに喉を鳴らした。
しばらくフィートを撫でていると、氷華草の採取を終えたアレンとエレナが飛び込むようにして戻ってくる。そして、撫でろと言わんばかりにすり寄ってきた。
そんな二人を撫でていると、今度は氷雪花を採取していたジュールとマイルが戻ってくる。
《混ぜてー》とジュールが飛び込んでくれば、全員があっけなく転倒。今は元の大きい姿だからね~。まあ、みんなに怪我がなくて良かったよ。
アレンとエレナが〝お返し〟とばかりにジュールにじゃれついていた。
そして最後に、大量のレモネーの実が入った籠を咥えたベクトルと、満足そうなボルトが戻ってくる。
《兄上、お待たせしてすみませんでした》
「まあ、そこまで時間を取っていたわけじゃないから大丈夫さ」
僕の肩にとまったボルトに、気にするなと伝えながら撫でる。ベクトルは僕の目の前に素早く籠を置くと、じゃれ合っている子供達に混ざりにいった。いや、あれは突撃していったと言っても過言じゃない。
「それにしてもたくさん採ったな~。ボルトはレモネーの実が好きだったりするのかい?」
《はい! 甘酸っぱくて好きです!》
「ああ、やっぱりそうだったんだな~」
やはり予想した通りだった。
「言ってくれればいつでも用意したのに」
《ぼく達契約獣は、基本的に食事は必要としないところを兄上のご厚意でいただいているわけですし……これ以上、兄上の手を煩わせるわけには……》
ボルトの言い分を聞いて僕は驚愕した。真面目な性格だとは思っていたが、そこまで考えていたなんて思ってもみなかった。
「何を言っているんだよ、ボルト。そもそも、その食事に使う食材やお金は、みんなが頑張ってくれるお蔭で手に入っているんだよ? だから遠慮することなんてないんだ」
《ですが……》
「無理して僕の作った料理を食べているっていうことはないよな?」
《そんなことないです! いつも楽しみにしているんです!》
「そうか、良かった。作った料理を喜んで食べてくれたら、僕は嬉しいんだ。だから、食べたいものがあったらどんどん言ってくれ」
やはり料理というものは、食べる相手が喜んでくれると作り甲斐が出てくるからな~。
「まずは手始めに、このレモネーの実を使っておやつでも作ろうか」
《本当ですか!? 嬉しいです! 兄上、ありがとうございます!》
僕の提案に、ボルトはとても喜んだ。
《ボルトだけずる~い》
だが、そこでジュールが不満そうな声で訴えてくる。
「こらこら、ジュール、拗ねるなよ。ちゃんとジュールの好きなものも作ってあげるから」
《本当っ!?》
「本当だよ。みんなの好きなものを使って作るから。ただ、一度には無理だから順番にね。みんな、食べたい料理か、好きな果実とか木の実、肉とかでもいいから、好きな食材を考えておくんだよ」
《わーい。楽しみ~》
《嬉しい。兄様、ありがとう》
《オレ、肉~♪》
《楽しみなの!》
ジュール達は無邪気に喜び、〝あれがいい、これがいい〟とお互いに食材名を出し合っていた。
「アレンはー?」
「エレナはー?」
仲間外れが嫌だったのか、アレンとエレナが自分達もと主張してくる。
「アレンとエレナもいいけど……二人にはいつも食べたいものを聞いているだろう?」
「「えへへ~」」
そう指摘すると、二人は笑って誤魔化した。なので、アレンとエレナの頭をぐしゃぐしゃと混ぜるように撫でれば、二人はきゃっきゃっと笑う。
「さて、そろそろちゃんとパステルラビットを探すぞー」
「「《《《《 《おー》 》》》》」」
本来の目的からかなり脱線してしまったので改めて号令を掛けると、みんなが元気に返事をしてくれる。
「あっちー」
「いくー」
アレンとエレナが教えてくれるパステルラビットがいそうな方向を目指して、僕達は森の奥へと進む。
《ねえねえ、お兄ちゃん》
「ん? ジュール、どうしたんだ?」
《あの花って……薬草だっけ?》
少し歩いた先でジュールが白い花を見つけ、自信なさげに聞いてくる。
「ん? ああ、あれはカモミール。ハーブの一種だな」
《ハーブ? 食べられるの?》
「お茶に使うんだ。あとは……香料とかにも使われたはずだな。えっと……リラックス効果があるんだったかな~?」
《じゃあ、使えるんだね? ボク、採ってくる!》
カモミールが何かに使えるものだとわかると、ジュールはあっという間に駆け出していく。
「アレンもー」
「エレナもー」
アレンとエレナも負けじとジュールを追いかけていった。
「ああ~、また脱線して~」
食べられるもの、使えるものを見つけるとどうしても回収したくなるのが、うちの子達らしい。出かけるたびに僕の《無限収納》の中身が確実に充実していく。
まあ、僕も結構収集癖があるので人のことは言えないけどね。
「ほどほどにするんだよ~」
「「《は~い》」」
とりあえず、採り過ぎることのないように注意すると、元気な返事だけが聞こえた。
《兄様、止めなくて良かったの?》
フィートがそう言いながら見上げてきたので、僕は苦笑する。
「ああ、時間が足りなければ一晩野営してもいいからね。寒い時期だけど、それに耐えられるだけの備えはあるし、フィート達にくっついてもらえれば暖かいだろうしな」
《ふふっ、それなら任せて。兄様達に寒い思いなんてさせないわ》
「お願いな。まあ、それにパステルラビットは見つけられなくても大丈夫だからね」
《あら、兄様ったらそんなこと言って~。見つけられない可能性はあまり考えていないでしょう?》
「……まあ、そうだね」
フィートと話していると、カモミールを摘みに行ったアレンとエレナがある一点を凝視していた。
「「いたっ!」」
おっ、アレンとエレナが何かを発見したみたいだな。
二人の視線の先を見てみれば、そこにいたのはなんと、パステルラビットだった。
《お~、いたね~》
《あら、本当。白い子だわ》
《見てなの! 奥にもまだいそうなの!》
《確かに二、三匹いますね》
《えぇ~、どこ~? 見えなーい》
ジュール、フィート、マイル、ボルトも気づいたようだ。ベクトルは見つけられないみたいだが。
アレンとエレナにかかれば、あまり見かけないはずのパステルラビットも簡単に見つかってしまった。しかも、どうやら一匹だけではないらしい。
「「つかまえるー?」」
「そうだな。でも、捕まえに行くならアレンとエレナかな? さすがにジュール達が近づいたら、パステルラビットは逃げちゃうだろうし」
《そうだね~。ボク達は、マイル以外は捕食者のほうだからね~》
「「わかったー」」
狼に虎、獅子に鷹は、いずれもウサギにとっては恐怖の対象だろう。
「「おいで~」」
アレンとエレナは数歩前に出てから、屈んでパステルラビットに向けて優しく声を掛ける。
すると、茂みに隠れていたパステルラビットがひょっこり顔を出した。
「……何でだ?」
《あら、出てきたわね? さすが、アレンちゃんとエレナちゃんね!》
思わず疑問を零した僕とは違って、フィートはアレンとエレナを褒め称える。
人間だってパステルラビットにとっては恐怖の対象なのにな、どうして逃げずに出てくるんだろな?
《わ~、アレンとエレナってば凄~い》
《不思議ぃ~》
《アレンとエレナだからですかね?》
《それ、凄く納得できるの!》
ジュール、ベクトル、ボルト、マイルも感心したように子供達を見ていた。
「「いいこ~」」
白いパステルラビットはいつの間にか、アレンとエレナのもとまで出てきていて、二人の手にすり寄っていた。
「……青いのと黒いのも出てきたな~」
撫でられる白いパステルラビットが羨ましかったのか、青と黒のパステルラビットが、それはもう一生懸命にぴょこぴょこ跳んで子供達のもとへ行く。
《わ~、一直線にアレンとエレナのところに行ったね~》
《さすがなの~》
ジュールとマイルは感心を通り越して、若干呆れた声を出していた。
アレンとエレナは増加した二匹も満遍なく撫でると、アレンが白と青い子、エレナが黒い子を抱き上げて戻ってきた。
ちゃんと可愛がってもらえているな~……などと考えていたら、リリーカ様とシスティーナ様が同時に呼び掛けてくる。
そして、二人はお互いに顔を見合わせ、何かを確認するように頷くと真剣な表情をして僕のほうに向き直った。
「「タクミ様」」
「はい、何ですか?」
「私達」
「タクミ様にお願いがありまして」
「お願いですか?」
二人のとても真剣な表情に、僕は疑問を抱きながら次の言葉を待った。
「あの……タクミ様でしたら、もう一度パステルラビットを手に入れることはできないでしょうか?」
「手に入れる? ……えっと、森で野生のパステルラビットを捕獲してくるということですか?」
僕の言葉に、二人は同時に頷く。
「ええ、私の従妹もパステルラビットを飼いたがっているのですが……なかなか手に入れることが叶わなくて。私がフルールを飼い始めてからは頻繁に遊びにくるようになって楽しそうにしているものの、いつも帰り際に泣いてしまって……」
「私のほうは妹が……。リアンを欲しがってしまって……」
これは……僕がパステルラビットを譲った弊害になるのかな?
「冒険者ギルドに依頼を出してはいるのですが……あまり期待しないように言われています」
「ああ……」
パステルラビットの捕獲依頼は、低ランクにしては高報酬だが、難易度はかなり高い。高ランクの冒険者にしてみれば、もっと稼げる依頼があるので受けることはないし、低ランクの冒険者は報酬に惹かれて受けるが、失敗するのがほとんどらしい。
「もちろん、相応の報酬はお支払いします」
「私達も無理を承知でお願いしておりますので、駄目でしたら駄目とおっしゃっていただいて構いません」
リリーカ様とシスティーナ様はそう言うけど……二人して目をうるうるさせられると、断るに断れない。
「えっと……駄目元で一度森に探しに行くだけでしたら……」
「え?」
「本当ですか!?」
僕の言葉に二人は一転、きらきらとした目で見つめてくる。
その様子を見て、いまいち話についていけていなかったアレンとエレナが首を傾げた。
「「なーに?」」
「リリーカ様とシスティーナ様がもう一匹ずつ、パステルラビットが欲しいんだって。森にパステルラビットを探しに行くことになるかもしれないけど、いいかい?」
「「おおー」」
僕が伝えると、二人は楽しそうに声を上げる。
「アレン、さがすー」
「エレナ、みつけるー」
そして、今から探しに行くかのように張り切りだした。
そんな二人を見た僕は、リリーカ様とシスティーナ様に向き直る。
「絶対に捕獲するとは断言できません。その上で、一度だけ探しに行くという条件で構わないのでしたら、お二人のお願いを叶えられるように頑張りましょう」
「もちろん、それで構いません!」
「タクミ様、ありがとうございます!」
リリーカ様とシスティーナ様は、不確定でも依頼を受けるだけで喜んだ。
でもなんだかんだ言って、アレンとエレナの張り切りようと運の良さを考えると、パステルラビットを捕獲できる可能性のほうが高いと思うんだよな~。まあ、ぬか喜びはさせたくないから、その辺は言わないけどね。
「なにいろ」
「みつけるー?」
「色ですか?」
「えっと……」
アレンとエレナが、リリーカ様とシスティーナ様に何色のパステルラビットを見つけてくればいいのか聞くと、二人は困ったように僕を見てくる。僕は慌てて補足した。
「色についても希望は叶えられないと思いますが……」
「その点も承知しております」
「そうですね。それに、どの色のパステルラビットも可愛いので問題ないですわ」
「それはそうですね! どの色の子もとっても可愛いですよね」
色の希望についても、二人は承知していたようだった。それどころか、どの色のパステルラビットも可愛いと話に花を咲かせる。
「ですが一応、子供達に希望の色を教えてあげてもらえますか? ああ、もちろん、希望の色があるのでしたら、ですけどね」
「ふふっ、タクミ様、ありがとうございます。――アレン様、エレナ様、私の従妹は黄色が好きですの。よろしくお願いしますね」
「アレン様、エレナ様、私の妹はピンクや赤が好きなので、女の子らしい色だと嬉しいですわ」
「「わかったー」」
アレンとエレナはリリーカ様とシスティーナ様から希望を聞くと、〝任せろ〟とばかりに胸を張る。
「まあ! 頼もしいですわね~」
「ふふっ、本当ですわね」
リリーカ様とシスティーナ様ともう少し話をしたところで、僕達はグレイス様のところに報告に戻った。遠目でもはっきりわかるくらい微笑みながら、こちらを見ていたからな。
「あら、もういいの?」
「はい。グレイス様のおっしゃる通り、二人は僕に用事があったようです」
「ふふっ。そうでしょう? 彼女達の顔がそう語っていたもの」
グレイス様は人の表情を読むのは得意だと言っていたしな~。さすがである。
「ところで、グレイス様。パステルラビットを欲しがっている人が結構いると言っていましたが、そんなに多いんですか?」
「ええ、いるわね~。あら、タクミさん、もしかして、彼女達からそのことをお願いされたのかしら?」
「そうです。まあ、完全に引き受けたわけではなく、捕獲できるかどうかはわかりませんが、一度だけ森を探してみるということで了承してもらいましたけどね」
「あらあら、それでも彼女達は喜んだでしょう?」
「ええ、まあ……」
優しいわね、とグレイス様は微笑むが、僕はただ断れなかっただけである。
それに、本当に優しい人間なら、パステルラビットを絶対に捕獲すると言って請け負っていただろう。
「タクミ達ならその一度の探索で、確実にパステルラビットを捕獲してきそうな気がするのは、私だけか?」
「いいえ、私もそう思いますわ」
その時、今まで聞き役に徹していたトリスタン様が予想を口にし、それにグレイス様も同意する。
「……」
僕もさっき〝アレンとエレナなら……〟と思ってしまったので、否定も突っ込みもできないんだよな~。
「がんばるのー」
「みつけるのー」
黙り込んだ僕の横でアレンとエレナが、トリスタン様の言葉を肯定するように宣言していた。
「おぉ、やる気満々だな。頑張ってこい」
「あらあら、二人とも頼んだわね」
「「うん!」」
トリスタン様とグレイス様から激励を受け、アレンとエレナは満面の笑みを浮かべるのだった。
その後、アレンとエレナはパステルラビットの群れに飛び込んでいって、シロ達や他のお茶会参加者が連れてきたパステルラビット達と戯れていた。
パステルラビットを撫でたり愛でたりしていたお茶会参加者達は、いつの間にかうちの子達とパステルラビット達が戯れる様子を観賞するようになっていた。
◇ ◇ ◇
「あっ、ひょうかそうだ!」
「こっちにもある~」
「氷華草が生える時期とはいえ、これはまた凄いな~」
翌日、僕達は早速、パステルラビットを探しに森へ来ていた。
だがそこで、アレンとエレナはパステルラビットではなく、氷華草の群生地を見つけたため、次々と採取し始めてしまった。
《お兄ちゃん、お兄ちゃん! こっちには氷雪花が咲いているよ!》
《採るの!》
《兄上、こちらにはレモネーの実がたくさん生っています》
《ボルト、木から落としてちょうだい。私とベクトルで受け取るわ》
《うん、オレとフィートに任せろ!》
僕の契約獣であるフェンリルのジュールにフォレストラットのマイル、サンダーホークのボルト、飛天虎のフィート、そしてスカーレットキングレオのベクトル達も薬草や果実を見つけると、みんなで協力し合って採取と収穫をしていく。
「……おーい。今日の目的は採取じゃないぞ~」
《わかってるよー》
「「ぱすてるらびっと~」」
《兄上、少しだけ待ってください。すぐ終わらせますから》
アレンとエレナ、ジュールが発見したものに夢中になるのはいつものことだが、今回はボルトまでもが一緒になっていることに僕は少し驚いた。
《あら、ボルトにしては珍しいわね?》
いつの間にかフィートが僕の隣に並んで、僕と同じくボルトの行動を珍しがっていた。
「フィートもそう思うか?」
《うん。もしかして、ボルトってレモネーの実が好きなのかしら?》
「なるほど、それはあるかもしれないな」
好きなものだからたくさん採りたい、ということも考えられる。
そういえば、ジュール達みんなの好きなものって気にしていなかったよな~。
契約獣になると魔力でエネルギーを補給するので普段の食事は必要ないらしいが、以前は普通に食事をしていたはずだ。
それならば、みんなにだって好物はあったよな~。聞いておけば良かった。
「というか、フィートもレモネーの実を受け取っていたんじゃなかったのかい?」
《ベクトルが頑張っているから任せてきたの。ほら、あれ》
「ん?」
フィートに促されてベクトルを見れば、木の周りを素早く駆け回り、ボルトが落としたレモネーの実を咥えた籠で見事に受け取っていた。かなり速いテンポで実が落とされ続けているのだが、ベクトルは一つも零さずにいる。しかも、とても楽しそうだ。
「ああ、確かにあれならベクトルがいれば問題なさそうだな」
《でしょう? だから、私は無理に参加する必要はないと思って》
「そうだな。じゃあ、フィートは僕と一緒にいよう」
《うん! 兄様を独り占め~♪》
しっかり者のフィートが甘えてくるので、僕は撫でてあげる。するとフィートは、嬉しそうに喉を鳴らした。
しばらくフィートを撫でていると、氷華草の採取を終えたアレンとエレナが飛び込むようにして戻ってくる。そして、撫でろと言わんばかりにすり寄ってきた。
そんな二人を撫でていると、今度は氷雪花を採取していたジュールとマイルが戻ってくる。
《混ぜてー》とジュールが飛び込んでくれば、全員があっけなく転倒。今は元の大きい姿だからね~。まあ、みんなに怪我がなくて良かったよ。
アレンとエレナが〝お返し〟とばかりにジュールにじゃれついていた。
そして最後に、大量のレモネーの実が入った籠を咥えたベクトルと、満足そうなボルトが戻ってくる。
《兄上、お待たせしてすみませんでした》
「まあ、そこまで時間を取っていたわけじゃないから大丈夫さ」
僕の肩にとまったボルトに、気にするなと伝えながら撫でる。ベクトルは僕の目の前に素早く籠を置くと、じゃれ合っている子供達に混ざりにいった。いや、あれは突撃していったと言っても過言じゃない。
「それにしてもたくさん採ったな~。ボルトはレモネーの実が好きだったりするのかい?」
《はい! 甘酸っぱくて好きです!》
「ああ、やっぱりそうだったんだな~」
やはり予想した通りだった。
「言ってくれればいつでも用意したのに」
《ぼく達契約獣は、基本的に食事は必要としないところを兄上のご厚意でいただいているわけですし……これ以上、兄上の手を煩わせるわけには……》
ボルトの言い分を聞いて僕は驚愕した。真面目な性格だとは思っていたが、そこまで考えていたなんて思ってもみなかった。
「何を言っているんだよ、ボルト。そもそも、その食事に使う食材やお金は、みんなが頑張ってくれるお蔭で手に入っているんだよ? だから遠慮することなんてないんだ」
《ですが……》
「無理して僕の作った料理を食べているっていうことはないよな?」
《そんなことないです! いつも楽しみにしているんです!》
「そうか、良かった。作った料理を喜んで食べてくれたら、僕は嬉しいんだ。だから、食べたいものがあったらどんどん言ってくれ」
やはり料理というものは、食べる相手が喜んでくれると作り甲斐が出てくるからな~。
「まずは手始めに、このレモネーの実を使っておやつでも作ろうか」
《本当ですか!? 嬉しいです! 兄上、ありがとうございます!》
僕の提案に、ボルトはとても喜んだ。
《ボルトだけずる~い》
だが、そこでジュールが不満そうな声で訴えてくる。
「こらこら、ジュール、拗ねるなよ。ちゃんとジュールの好きなものも作ってあげるから」
《本当っ!?》
「本当だよ。みんなの好きなものを使って作るから。ただ、一度には無理だから順番にね。みんな、食べたい料理か、好きな果実とか木の実、肉とかでもいいから、好きな食材を考えておくんだよ」
《わーい。楽しみ~》
《嬉しい。兄様、ありがとう》
《オレ、肉~♪》
《楽しみなの!》
ジュール達は無邪気に喜び、〝あれがいい、これがいい〟とお互いに食材名を出し合っていた。
「アレンはー?」
「エレナはー?」
仲間外れが嫌だったのか、アレンとエレナが自分達もと主張してくる。
「アレンとエレナもいいけど……二人にはいつも食べたいものを聞いているだろう?」
「「えへへ~」」
そう指摘すると、二人は笑って誤魔化した。なので、アレンとエレナの頭をぐしゃぐしゃと混ぜるように撫でれば、二人はきゃっきゃっと笑う。
「さて、そろそろちゃんとパステルラビットを探すぞー」
「「《《《《 《おー》 》》》》」」
本来の目的からかなり脱線してしまったので改めて号令を掛けると、みんなが元気に返事をしてくれる。
「あっちー」
「いくー」
アレンとエレナが教えてくれるパステルラビットがいそうな方向を目指して、僕達は森の奥へと進む。
《ねえねえ、お兄ちゃん》
「ん? ジュール、どうしたんだ?」
《あの花って……薬草だっけ?》
少し歩いた先でジュールが白い花を見つけ、自信なさげに聞いてくる。
「ん? ああ、あれはカモミール。ハーブの一種だな」
《ハーブ? 食べられるの?》
「お茶に使うんだ。あとは……香料とかにも使われたはずだな。えっと……リラックス効果があるんだったかな~?」
《じゃあ、使えるんだね? ボク、採ってくる!》
カモミールが何かに使えるものだとわかると、ジュールはあっという間に駆け出していく。
「アレンもー」
「エレナもー」
アレンとエレナも負けじとジュールを追いかけていった。
「ああ~、また脱線して~」
食べられるもの、使えるものを見つけるとどうしても回収したくなるのが、うちの子達らしい。出かけるたびに僕の《無限収納》の中身が確実に充実していく。
まあ、僕も結構収集癖があるので人のことは言えないけどね。
「ほどほどにするんだよ~」
「「《は~い》」」
とりあえず、採り過ぎることのないように注意すると、元気な返事だけが聞こえた。
《兄様、止めなくて良かったの?》
フィートがそう言いながら見上げてきたので、僕は苦笑する。
「ああ、時間が足りなければ一晩野営してもいいからね。寒い時期だけど、それに耐えられるだけの備えはあるし、フィート達にくっついてもらえれば暖かいだろうしな」
《ふふっ、それなら任せて。兄様達に寒い思いなんてさせないわ》
「お願いな。まあ、それにパステルラビットは見つけられなくても大丈夫だからね」
《あら、兄様ったらそんなこと言って~。見つけられない可能性はあまり考えていないでしょう?》
「……まあ、そうだね」
フィートと話していると、カモミールを摘みに行ったアレンとエレナがある一点を凝視していた。
「「いたっ!」」
おっ、アレンとエレナが何かを発見したみたいだな。
二人の視線の先を見てみれば、そこにいたのはなんと、パステルラビットだった。
《お~、いたね~》
《あら、本当。白い子だわ》
《見てなの! 奥にもまだいそうなの!》
《確かに二、三匹いますね》
《えぇ~、どこ~? 見えなーい》
ジュール、フィート、マイル、ボルトも気づいたようだ。ベクトルは見つけられないみたいだが。
アレンとエレナにかかれば、あまり見かけないはずのパステルラビットも簡単に見つかってしまった。しかも、どうやら一匹だけではないらしい。
「「つかまえるー?」」
「そうだな。でも、捕まえに行くならアレンとエレナかな? さすがにジュール達が近づいたら、パステルラビットは逃げちゃうだろうし」
《そうだね~。ボク達は、マイル以外は捕食者のほうだからね~》
「「わかったー」」
狼に虎、獅子に鷹は、いずれもウサギにとっては恐怖の対象だろう。
「「おいで~」」
アレンとエレナは数歩前に出てから、屈んでパステルラビットに向けて優しく声を掛ける。
すると、茂みに隠れていたパステルラビットがひょっこり顔を出した。
「……何でだ?」
《あら、出てきたわね? さすが、アレンちゃんとエレナちゃんね!》
思わず疑問を零した僕とは違って、フィートはアレンとエレナを褒め称える。
人間だってパステルラビットにとっては恐怖の対象なのにな、どうして逃げずに出てくるんだろな?
《わ~、アレンとエレナってば凄~い》
《不思議ぃ~》
《アレンとエレナだからですかね?》
《それ、凄く納得できるの!》
ジュール、ベクトル、ボルト、マイルも感心したように子供達を見ていた。
「「いいこ~」」
白いパステルラビットはいつの間にか、アレンとエレナのもとまで出てきていて、二人の手にすり寄っていた。
「……青いのと黒いのも出てきたな~」
撫でられる白いパステルラビットが羨ましかったのか、青と黒のパステルラビットが、それはもう一生懸命にぴょこぴょこ跳んで子供達のもとへ行く。
《わ~、一直線にアレンとエレナのところに行ったね~》
《さすがなの~》
ジュールとマイルは感心を通り越して、若干呆れた声を出していた。
アレンとエレナは増加した二匹も満遍なく撫でると、アレンが白と青い子、エレナが黒い子を抱き上げて戻ってきた。
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