2 / 330
1巻
1-2
「ん?」
視線を向けると、そこには幼子が二人いた。黙ったまま、じっとこちらを見ている。
その子達は瑠璃色の髪に金の瞳。背丈は僕の腰くらい。痩せ細った身体はボロボロの貫頭衣のようなものを纏い、全体的に薄汚れていた。
髪の長さや雰囲気からして男の子と女の子だが、そっくりな見た目をしている。双子かな?
こんな森の中に子供だけでいるのはおかしいが、周りに他の人の気配はない。
「迷子かな? 誰かと一緒じゃないの?」
「「……」」
一番可能性の高いものを口にしてみたが、子供達は首を傾げるだけだった。黙ったまま、きょとんとしている。
「お父さんやお母さんはどうしたのかな?」
「「……」」
また、首を傾げた。
僕が二人に近づこうと一歩踏み出すと、子供達は一歩下がった……警戒しているようだ。
どうしよう……試しに鑑定スキルを使ってみようか。
男の子に向かって心の中で「鑑定」と念じたら、ウィンドウが現れた。鑑定は人にも有効らしい。
ステータス
【名 前】――
【種 族】人族?
【職 業】――
【年 齢】5
【レベル】12
【スキル】水魔法 格闘術
投擲術 気配感知
身体異常耐性
【称 号】????
他人のスキルだと、熟練度までは見られないのか。
それとも僕の鑑定スキルの熟練度が低いから表示されないのだろうか? でも、所持しているスキルがわかれば問題ない気がする。
女の子のほうにも鑑定を使ってみたけど、全く同じだった。
……それにしても、この子達のステータス……どう見ても普通じゃない……よな?
名前の部分が空欄って……名前がないってことか? どういうことだ?
種族も僕と同じ【人族?】だし。こういうよくわからない種族って、よくいるものなのか?
称号もクエスチョンマークだ……。
年齢は五歳だが、栄養が足りないのだろう、三歳児だと言われても違和感なく信じるくらいの大きさだった。
ん~、この子達、どうしようか? 森の中にこのままにしておくのは、人道的に良くないよな……。
「怖いことは何もしないから、こっち来てくれるか?」
僕が膝を突いて手招きしてみると、恐る恐るだが子供達は近づいてきてくれた。
あっ、呼んだら来てくれるんだ。
「えっと……《ウォッシング》」
まずは生活魔法を使って、二人の身体を綺麗にした。
生活魔法は、その名の通り日常生活で役立つものだ。対象を洗浄する《ウォッシング》、周囲を照らす《ライト》や、乾燥させる《ドライ》などなど……。威力は必要最小限だが、様々な属性があり、少量の魔力で使えるとても使い勝手のいい魔法だ。
魔法をかけた瞬間、二人は驚いたように目をパチパチと瞬かせていたが、危険はないと判断したのか、逃げることはしなかった。
「《ヒール》」
綺麗になったら、二人の身体のあちこちに小さな傷があることに気づき、治癒魔法をかけた。治癒魔法は光属性だから、僕の持っているスキルの範囲内だ。
生活魔法も回復魔法も使うのは初めてだったが、刷り込まれている知識のお蔭で問題なく使うことができた。
「よし! これでいいな。次はご飯か……」
これだけ痩せているのだから、お腹は減っているだろう。
僕はそう思い、確認しようと思って開きっぱなしにしていたアイテムリストを見た。
「えっと、入っているのは……お金に装備品。薬に……水と食料。食料は……っと、ええと……堅焼きのパンと干し肉……。今のこの子達には厳しいかもな。消化にも悪そうだし……。あっ、果物。これなら食べやすいかな?」
果物なら甘くて水分補給にもなるだろう。僕は「ランカの実」という桃に似た果物を《無限収納》から取り出し、二人に差し出した。
「これ、食べな」
果物を差し出したものの、子供達が受け取らないので手を取って、その上に載せてやった。
二人はまじまじとランカの実を見つめ、匂いを嗅いでいる。危険がないかじっくり確認すると、やがて、ちびちびと食べ始めた。……小動物みたいだな。
果物を口にしたのを見て安心し、食べているうちにもう一度確認しておこうとアイテムリストを見た。
「あとは……生肉に野菜、小麦粉……ね……」
……シルさんよ。これはちょっと……。
食材を用意してくれたのはありがたいんだが、調味料や鍋などの道具がなければ、料理は一切できないんだわ。
――ピロンッ♪
あっ、電子音だ。
シルに向かってぼやいたら、調味料セットと調理道具一式がアイテムリストに追加されていた。どうやらシルがこちらの様子を見ていて、アイテムを送り込んでくれたみたいだ。
だったら、やることは一つ!
なあ、シル。食器とかも欲しいな。それに着替えやタオルとかも。
ああ、この森を出て街までそれなりの距離があるからな。外で寝泊まりすることになりそうなんだわ。だから、野営に使えそうなものとか、コートとか毛布なんかもあると助かるな。
――ピロンッ♪
そんな風に心の中で言ってみたら、また電子音が聞こえて大量のアイテムが追加された。
……うん。シル、ありがとう。とても助かる。
そうこうしている間に、子供達はすっかり果物を食べ終えていた。そして、じぃー……とこちらを見つめている。
追加されたアイテムの中には僕の着替えだけでなく、子供用の服もある。いつまでもボロボロの服のままでは可哀想なので、早速着替えさせることにした。
ウィンドウ画面を《クローズ》させ、《無限収納》から子供用の服を取り出す。それぞれに新しいシャツを着せ、お揃いの柄のハーフパンツとキュロット、ブーツを履かせた。
「きついとか、動きづらいところはない? 大丈夫?」
あっ、頷いた。これは問題ないってことか。
この子達は全くしゃべらないが、僕の言っていることはちゃんと理解しているよな?
「僕はこれから森を出て近くの街に向かうんだ。だから、一緒に行こう?」
このまま、この子達を放置して行くわけにはいかない。なので、そう提案したのだが、二人はお互いの顔を見た。
見つめ合って相談しているようだ。会話はしていないが……。
あれか? 双子間であるって言われている、意志疎通的な?
おっ、こっち向いた。相談が終わったか?
おお! 頷いた。ってことは、一緒に行くんだよな。
「僕はタクミ。よろしく。君達の名前は?」
まずは自分が名乗って、確認のために二人に名前を聞いたのだが、首を横に振られた。
やっぱり名前はないらしい。じゃあ――
「そうだな~……。よし、決めた! 君がアレン。そして君がエレナ」
このままでは不便だし、名前がないままなのはまずいだろう。何となく、思いつきで男の子をアレン、女の子をエレナと名づけた。
そんな適当でいいのかって気がしないでもないけど、本人達が納得してくれているので問題ない。もう一度ステータスを確認したら、すでにアレンとエレナって表示されていたし。
どういう基準で定まるのかは知らないが、もう変更不能だ。ははは~!
◇ ◇ ◇
改めて、アレンとエレナと一緒に三人仲良く、森の外へと向かう。
二人は痩せ細ってはいるが、体力はあった。何も言わずに僕について歩いている。
だけど、子供なのは間違いないのでこまめに休憩を挟み、水を飲ませたりおやつに干し柿を食べさせたりした。
干し柿は、シルが追加してくれたアイテムの中にあったものだ。干し果実だけでも数種類、他におにぎりやパンなど、すぐに食べられるものもあった。
ちなみにエーテルディアにも米は存在する。こちらでは白麦と呼ばれ、主に家畜の餌にしているようだ。だから、食料品店では売っていないらしいが……。
手に入れるなら、白麦を育てている村に買いつけに行くか、家畜農家関係者やその人達が取り引きしている商店を探して譲ってもらうしかないかな?
あっ! そうそう、嬉しいことに、醤油や味噌に似たものも存在するみたいなんだ!
多少の味の違いは仕方がないとしても、やっぱり日本人は米! 醤油! 味噌! これがないとなぁ~。この世界にもあって良かった~♪
休憩をしつつ、歩いて二時間くらい経った頃だろうか。
突然、アレンとエレナが走り出した。
「えっ? 何だ!?」
僕も慌てて追うと、二人の行く先から三匹のでっかい猪――ジャイアントボアが突進してくるのが見えた。
「アレン! エレナ!」
全力で走るが、二人との距離が全然縮まらない。
アレンもエレナも足が速すぎるっ!!
二人は明らかに魔物に向かって走っていて、このままでは危険だ。
しかし、僕と魔物の間に二人がいるので魔法を放つことはできない。
どうすればっ!?
と、思っていると――
アレンとエレナが走る勢いそのままに、先頭にいた一匹のジャイアントボアに向かって、揃って跳び蹴りをかました。
二人に蹴られたジャイアントボアは、「ブヒッ」と声を上げて後方へと吹っ飛んでいく。
アレンとエレナは一度着地するとすぐさま跳び上がり、それぞれ別のジャイアントボアの後ろ首目掛けて、落下する勢いを利用して踵落としを決めた。
二匹のジャイアントボアは、ドシンッ、と音を立ててその場に倒れる。
「……」
え、強っ! 何、この五歳児!!
確かにレベル12と、子供のわりには高かったけど……えっ、これが普通!? この世界の子供の常識?
って、そんなわけがない。普通の子供なら、絶対にジャイアントボアにやられてる。
あまりの衝撃に足を止めて呆然と突っ立っていると、アレンとエレナは何事もなかったように僕のもとへ戻ってきた。
「「……?」」
「……はぁーーー。二人とも……ジャイアントボアがいるのがわかっていて走り出したのか?」
深く溜め息をついた後に確かめると、二人はしっかりと頷いた。やっぱり、わかっていたらしい。
「今度から何か見つけたら、走り出す前に僕に教えてくれるか?」
そう言うと、二人はもう一度頷いた。
危機察知能力だろうか……? そういえば、【気配感知】というスキルを持っていたな。
幼い二人だけで生きてきたからなのだろうが、魔物が現れるたびに真っ先に飛び出して行かれると僕の立つ瀬がない。僕が子供達の面倒を見ているようで、守られている形になっている。
それはまずいだろっ!!
二人に怪我がないか確認して頭を軽く撫でてから、倒れているジャイアントボアのもとへと向かった。魔物の肉が食べられることを知らないのだろう、アレンもエレナも倒した魔物には見向きもしなかった。
まあ、ナイフがなければ解体することはできないし、火を熾せなければ肉を焼くこともできないので、二人には倒した魔物なんて意味のないものなのかもしれない。
僕がジャイアントボアを回収するのを、「そんなものをどうするんだ?」とばかりに不思議そうに見ていた。
とりあえず、《無限収納》に保管しておこう。そして街に着いたらこれを売って、二人の生活用品でも買ってやろうかな。
そう決めると二人を促し、森の外を目指して再び歩き始めた。
――その後。
ジャイアントボアに続き、ブラッディベアー、レッドウルフ×二匹、グレートモンキー×五匹――というように、三度、魔物と遭遇した。
毎回アレンとエレナは、僕よりも先に魔物の存在に気づき、服や腕を引っ張ってそのことを教えてくれた。
しかし!
教えてくれるところまではいい! だけどその後、二人はそのまま走り出しちゃうんだよ! しかも、僕より身丈の大きい魔物をあっさり倒してしまうんだ。
とりあえず、アレンにもエレナにも怪我がないことに安堵し、僕は二人の頭を撫でた。
僕が撫でてあげると、二人とも気持ちよさそうに目を細めるので、ついつい繰り返しやってしまう。
もしかして、これって褒めていることになるのだろうか?
だから二人は、毎度魔物を倒しに走り出すのだろうか?
内心、少々まずいのでは? と思いつつも、アレンとエレナが気持ちよさそうにしているので撫でるのをやめられないでいた。
薄暗かった森が、さらに暗くなってきた。そろそろ日が暮れるのだろう。
今日はこの辺で進むのをやめたほうがいいかな?
「アレン、エレナ。火を熾すから、枯れ木集めを手伝って」
そう言って僕が落ちている枝を拾い始めると、二人も僕に倣って枝を集める。
さて、夕食は何にしようか?
シルが普通のパンも追加してくれたから、それと……野菜スープでも作ろうか。
あとは魔物を解体して、その肉を串焼きにでもするか。アレンもエレナも頭が良いから、解体したものを食べさせれば、魔物の肉は食べられると理解してくれるはずだ。
僕は拾っていた枝を一旦《無限収納》にしまい、レッドウルフを一匹取り出した。
こいつは、僕がこの世界に来て最初に空気弾で仕留めたやつだ。まあ、今のところ僕が倒したものはこれしかないんだが……。
ナイフを取り出して、血抜きをしたレッドウルフの腹から刃を入れて捌き始める。
倒す時に剣などで斬りつけた場合は、毛皮の価値を損なわないよう傷口からナイフを入れるのだが、打撃で仕留めた場合は、目立つ傷がないので腹から捌くのがセオリーだ。
解体の手順は知識としてあるし、スキルもある。だからなのか、捌く感覚も不思議と身体に刷り込まれていた。
解体なんて初めてなのに、まるで忌避感がない。迷いなく身体が動く。
切り裂いた腹から血が流れても、それが当然だと受け止めている自分がいた。
以前だったら、たぶん気分が悪くなっていただろう。
新しい身体自体には違和感はなかったが、こういう感覚に初めて茅野巧が以前の茅野巧とは違うのだと思い至った。
解体は滞りなく進んだ。
アレンとエレナは解体を始めた時から、じーっ……と僕のやることを見ていた。それで、多少なりとも作業手順を覚えてくれれば儲けものだ。まだ五歳なんだし、実際に解体ができるところまでは望んでいない。血や臓物をこんな幼い子に見せるのは酷かもしれないが、これが将来的にこの子達のためになるだろう。
全ての作業を終えると、毛皮や牙などの素材と肉は《無限収納》にしまい、使えない内臓は予め掘っておいた穴に入れて埋めた。
血の匂いが漂っているので風魔法を使って散らし、念のために自分自身に《ウォッシング》をかけてから、場所も少し移動することにする。
さて、準備もできたことだし、夕食を作りますか。
まず落ちていた石を使って簡単な竈を作り、火を熾す。生活魔法に《イグニッション》という火をつける魔法があるが、アレンとエレナに道具を使ってできることを見せるために、あえて発火石というものを使用することにした。
まあ、あれだ。マッチみたいなものだ。
【発火石】
魔力を流すと、弾けて火を出す石。
魔石のカケラを使っている使い捨ての道具。
火がついたら小さめの鍋に水を入れて竈に置き、さっさと数種類の野菜を刻んで鍋に投入。
水が沸騰するまでの間に、先程解体したレッドウルフの肉を食べやすい大きさに切って串に刺し、軽く塩を振る。そして竈の周りに刺して、火で炙った。
鍋の水が沸騰して野菜に火が通ったら、香りつけのハーブと塩で味を整える。
スープが完成した頃には、肉も良い感じに焼き上がっていた。
アレンとエレナに焼けたレッドウルフの肉をあげると、二人は一切躊躇うことなくかぶりついた。しかし、焼きたての肉は熱々だったので、慌てて口を離す。
僕は見本を見せようと、自分の串焼きにふぅふぅと息を吹きかけて冷ましながら食べる。
おっ! レッドウルフ肉、意外と美味いな。
僕の食べ方を見たアレンとエレナは、真似をしてふぅふぅと息を吹きかけて食べている。
食器を使うのも初めてだったらしく、スプーンの持ち方を教えてあげると、しっかりとスプーンを握りしめて、たどたどしいながらもスープを飲むようになった。
この子達は頭が良いと思う。一つものを教えると、そこから大抵三~四つのことは学んでいる。
賢いのに何も知らないのは、この子達がそういう環境にいたからなのだろう。
「美味いか?」
そう聞くと、二人は揃って頷いた。うん、満面の笑みだ。良かった。
それにしても、出会って半日ほどだが、二人は随分と僕に懐いてくれたものだ。
初めは果物すら受け取ろうとせず、手渡してもすぐには食べないで匂いを嗅いだりしていたのに。それが今では、躊躇うことなく食べるようになったのだから。
さて、食事も終わってやることもないので、日が暮れたばかりだが寝てしまおうと思う。
そして明日の朝、早めに起きて移動したほうがいいだろう。
そう判断すると、僕は持ち物の中にあった結界石を取り出した。
【結界石】
結界を張ることのできる魔道具。
杭を地面の四方に刺すことで結界が張られ、その範囲内に魔物が入り込めなくなる。
使用するには最低でも四つ必要であり、杭の間隔が広くなるほど結界が薄くなる。
うん、便利そうな道具だ。
杭は三~四メートルくらいの間隔で設置した。これで魔物に襲われる心配なく、安心して眠れる。ただ、地面にそのまま横になるのはさすがに痛そうなので、毛布にくるまって木にもたれかかるように座った。
これが一番、楽かな? 二人はどうしたかな?
さっき毛布でくるんであげたアレンとエレナを見ると、どうすればいいのかわからないらしく、その場で立ち尽くしていた。
「アレン、エレナ。おいで」
二人を呼ぶと、すぐに近くに寄ってくる。
僕は二人を自分の両脇に座らせ、毛布ごと腕で抱え込んでやった。
アレンとエレナは驚いたのか、しばらく間は身を固くしていたが、やがて力を抜いて、僕にすり寄るように抱きついてきた。
子供の身体はほかほかと湯たんぽのように温かく、気持ちがいい。それに、初めての環境に僕も意外と疲れていたのだろう。すぐに眠気が襲ってきて、そのままぐっすりと眠りに落ちた。
◇ ◇ ◇
視線を向けると、そこには幼子が二人いた。黙ったまま、じっとこちらを見ている。
その子達は瑠璃色の髪に金の瞳。背丈は僕の腰くらい。痩せ細った身体はボロボロの貫頭衣のようなものを纏い、全体的に薄汚れていた。
髪の長さや雰囲気からして男の子と女の子だが、そっくりな見た目をしている。双子かな?
こんな森の中に子供だけでいるのはおかしいが、周りに他の人の気配はない。
「迷子かな? 誰かと一緒じゃないの?」
「「……」」
一番可能性の高いものを口にしてみたが、子供達は首を傾げるだけだった。黙ったまま、きょとんとしている。
「お父さんやお母さんはどうしたのかな?」
「「……」」
また、首を傾げた。
僕が二人に近づこうと一歩踏み出すと、子供達は一歩下がった……警戒しているようだ。
どうしよう……試しに鑑定スキルを使ってみようか。
男の子に向かって心の中で「鑑定」と念じたら、ウィンドウが現れた。鑑定は人にも有効らしい。
ステータス
【名 前】――
【種 族】人族?
【職 業】――
【年 齢】5
【レベル】12
【スキル】水魔法 格闘術
投擲術 気配感知
身体異常耐性
【称 号】????
他人のスキルだと、熟練度までは見られないのか。
それとも僕の鑑定スキルの熟練度が低いから表示されないのだろうか? でも、所持しているスキルがわかれば問題ない気がする。
女の子のほうにも鑑定を使ってみたけど、全く同じだった。
……それにしても、この子達のステータス……どう見ても普通じゃない……よな?
名前の部分が空欄って……名前がないってことか? どういうことだ?
種族も僕と同じ【人族?】だし。こういうよくわからない種族って、よくいるものなのか?
称号もクエスチョンマークだ……。
年齢は五歳だが、栄養が足りないのだろう、三歳児だと言われても違和感なく信じるくらいの大きさだった。
ん~、この子達、どうしようか? 森の中にこのままにしておくのは、人道的に良くないよな……。
「怖いことは何もしないから、こっち来てくれるか?」
僕が膝を突いて手招きしてみると、恐る恐るだが子供達は近づいてきてくれた。
あっ、呼んだら来てくれるんだ。
「えっと……《ウォッシング》」
まずは生活魔法を使って、二人の身体を綺麗にした。
生活魔法は、その名の通り日常生活で役立つものだ。対象を洗浄する《ウォッシング》、周囲を照らす《ライト》や、乾燥させる《ドライ》などなど……。威力は必要最小限だが、様々な属性があり、少量の魔力で使えるとても使い勝手のいい魔法だ。
魔法をかけた瞬間、二人は驚いたように目をパチパチと瞬かせていたが、危険はないと判断したのか、逃げることはしなかった。
「《ヒール》」
綺麗になったら、二人の身体のあちこちに小さな傷があることに気づき、治癒魔法をかけた。治癒魔法は光属性だから、僕の持っているスキルの範囲内だ。
生活魔法も回復魔法も使うのは初めてだったが、刷り込まれている知識のお蔭で問題なく使うことができた。
「よし! これでいいな。次はご飯か……」
これだけ痩せているのだから、お腹は減っているだろう。
僕はそう思い、確認しようと思って開きっぱなしにしていたアイテムリストを見た。
「えっと、入っているのは……お金に装備品。薬に……水と食料。食料は……っと、ええと……堅焼きのパンと干し肉……。今のこの子達には厳しいかもな。消化にも悪そうだし……。あっ、果物。これなら食べやすいかな?」
果物なら甘くて水分補給にもなるだろう。僕は「ランカの実」という桃に似た果物を《無限収納》から取り出し、二人に差し出した。
「これ、食べな」
果物を差し出したものの、子供達が受け取らないので手を取って、その上に載せてやった。
二人はまじまじとランカの実を見つめ、匂いを嗅いでいる。危険がないかじっくり確認すると、やがて、ちびちびと食べ始めた。……小動物みたいだな。
果物を口にしたのを見て安心し、食べているうちにもう一度確認しておこうとアイテムリストを見た。
「あとは……生肉に野菜、小麦粉……ね……」
……シルさんよ。これはちょっと……。
食材を用意してくれたのはありがたいんだが、調味料や鍋などの道具がなければ、料理は一切できないんだわ。
――ピロンッ♪
あっ、電子音だ。
シルに向かってぼやいたら、調味料セットと調理道具一式がアイテムリストに追加されていた。どうやらシルがこちらの様子を見ていて、アイテムを送り込んでくれたみたいだ。
だったら、やることは一つ!
なあ、シル。食器とかも欲しいな。それに着替えやタオルとかも。
ああ、この森を出て街までそれなりの距離があるからな。外で寝泊まりすることになりそうなんだわ。だから、野営に使えそうなものとか、コートとか毛布なんかもあると助かるな。
――ピロンッ♪
そんな風に心の中で言ってみたら、また電子音が聞こえて大量のアイテムが追加された。
……うん。シル、ありがとう。とても助かる。
そうこうしている間に、子供達はすっかり果物を食べ終えていた。そして、じぃー……とこちらを見つめている。
追加されたアイテムの中には僕の着替えだけでなく、子供用の服もある。いつまでもボロボロの服のままでは可哀想なので、早速着替えさせることにした。
ウィンドウ画面を《クローズ》させ、《無限収納》から子供用の服を取り出す。それぞれに新しいシャツを着せ、お揃いの柄のハーフパンツとキュロット、ブーツを履かせた。
「きついとか、動きづらいところはない? 大丈夫?」
あっ、頷いた。これは問題ないってことか。
この子達は全くしゃべらないが、僕の言っていることはちゃんと理解しているよな?
「僕はこれから森を出て近くの街に向かうんだ。だから、一緒に行こう?」
このまま、この子達を放置して行くわけにはいかない。なので、そう提案したのだが、二人はお互いの顔を見た。
見つめ合って相談しているようだ。会話はしていないが……。
あれか? 双子間であるって言われている、意志疎通的な?
おっ、こっち向いた。相談が終わったか?
おお! 頷いた。ってことは、一緒に行くんだよな。
「僕はタクミ。よろしく。君達の名前は?」
まずは自分が名乗って、確認のために二人に名前を聞いたのだが、首を横に振られた。
やっぱり名前はないらしい。じゃあ――
「そうだな~……。よし、決めた! 君がアレン。そして君がエレナ」
このままでは不便だし、名前がないままなのはまずいだろう。何となく、思いつきで男の子をアレン、女の子をエレナと名づけた。
そんな適当でいいのかって気がしないでもないけど、本人達が納得してくれているので問題ない。もう一度ステータスを確認したら、すでにアレンとエレナって表示されていたし。
どういう基準で定まるのかは知らないが、もう変更不能だ。ははは~!
◇ ◇ ◇
改めて、アレンとエレナと一緒に三人仲良く、森の外へと向かう。
二人は痩せ細ってはいるが、体力はあった。何も言わずに僕について歩いている。
だけど、子供なのは間違いないのでこまめに休憩を挟み、水を飲ませたりおやつに干し柿を食べさせたりした。
干し柿は、シルが追加してくれたアイテムの中にあったものだ。干し果実だけでも数種類、他におにぎりやパンなど、すぐに食べられるものもあった。
ちなみにエーテルディアにも米は存在する。こちらでは白麦と呼ばれ、主に家畜の餌にしているようだ。だから、食料品店では売っていないらしいが……。
手に入れるなら、白麦を育てている村に買いつけに行くか、家畜農家関係者やその人達が取り引きしている商店を探して譲ってもらうしかないかな?
あっ! そうそう、嬉しいことに、醤油や味噌に似たものも存在するみたいなんだ!
多少の味の違いは仕方がないとしても、やっぱり日本人は米! 醤油! 味噌! これがないとなぁ~。この世界にもあって良かった~♪
休憩をしつつ、歩いて二時間くらい経った頃だろうか。
突然、アレンとエレナが走り出した。
「えっ? 何だ!?」
僕も慌てて追うと、二人の行く先から三匹のでっかい猪――ジャイアントボアが突進してくるのが見えた。
「アレン! エレナ!」
全力で走るが、二人との距離が全然縮まらない。
アレンもエレナも足が速すぎるっ!!
二人は明らかに魔物に向かって走っていて、このままでは危険だ。
しかし、僕と魔物の間に二人がいるので魔法を放つことはできない。
どうすればっ!?
と、思っていると――
アレンとエレナが走る勢いそのままに、先頭にいた一匹のジャイアントボアに向かって、揃って跳び蹴りをかました。
二人に蹴られたジャイアントボアは、「ブヒッ」と声を上げて後方へと吹っ飛んでいく。
アレンとエレナは一度着地するとすぐさま跳び上がり、それぞれ別のジャイアントボアの後ろ首目掛けて、落下する勢いを利用して踵落としを決めた。
二匹のジャイアントボアは、ドシンッ、と音を立ててその場に倒れる。
「……」
え、強っ! 何、この五歳児!!
確かにレベル12と、子供のわりには高かったけど……えっ、これが普通!? この世界の子供の常識?
って、そんなわけがない。普通の子供なら、絶対にジャイアントボアにやられてる。
あまりの衝撃に足を止めて呆然と突っ立っていると、アレンとエレナは何事もなかったように僕のもとへ戻ってきた。
「「……?」」
「……はぁーーー。二人とも……ジャイアントボアがいるのがわかっていて走り出したのか?」
深く溜め息をついた後に確かめると、二人はしっかりと頷いた。やっぱり、わかっていたらしい。
「今度から何か見つけたら、走り出す前に僕に教えてくれるか?」
そう言うと、二人はもう一度頷いた。
危機察知能力だろうか……? そういえば、【気配感知】というスキルを持っていたな。
幼い二人だけで生きてきたからなのだろうが、魔物が現れるたびに真っ先に飛び出して行かれると僕の立つ瀬がない。僕が子供達の面倒を見ているようで、守られている形になっている。
それはまずいだろっ!!
二人に怪我がないか確認して頭を軽く撫でてから、倒れているジャイアントボアのもとへと向かった。魔物の肉が食べられることを知らないのだろう、アレンもエレナも倒した魔物には見向きもしなかった。
まあ、ナイフがなければ解体することはできないし、火を熾せなければ肉を焼くこともできないので、二人には倒した魔物なんて意味のないものなのかもしれない。
僕がジャイアントボアを回収するのを、「そんなものをどうするんだ?」とばかりに不思議そうに見ていた。
とりあえず、《無限収納》に保管しておこう。そして街に着いたらこれを売って、二人の生活用品でも買ってやろうかな。
そう決めると二人を促し、森の外を目指して再び歩き始めた。
――その後。
ジャイアントボアに続き、ブラッディベアー、レッドウルフ×二匹、グレートモンキー×五匹――というように、三度、魔物と遭遇した。
毎回アレンとエレナは、僕よりも先に魔物の存在に気づき、服や腕を引っ張ってそのことを教えてくれた。
しかし!
教えてくれるところまではいい! だけどその後、二人はそのまま走り出しちゃうんだよ! しかも、僕より身丈の大きい魔物をあっさり倒してしまうんだ。
とりあえず、アレンにもエレナにも怪我がないことに安堵し、僕は二人の頭を撫でた。
僕が撫でてあげると、二人とも気持ちよさそうに目を細めるので、ついつい繰り返しやってしまう。
もしかして、これって褒めていることになるのだろうか?
だから二人は、毎度魔物を倒しに走り出すのだろうか?
内心、少々まずいのでは? と思いつつも、アレンとエレナが気持ちよさそうにしているので撫でるのをやめられないでいた。
薄暗かった森が、さらに暗くなってきた。そろそろ日が暮れるのだろう。
今日はこの辺で進むのをやめたほうがいいかな?
「アレン、エレナ。火を熾すから、枯れ木集めを手伝って」
そう言って僕が落ちている枝を拾い始めると、二人も僕に倣って枝を集める。
さて、夕食は何にしようか?
シルが普通のパンも追加してくれたから、それと……野菜スープでも作ろうか。
あとは魔物を解体して、その肉を串焼きにでもするか。アレンもエレナも頭が良いから、解体したものを食べさせれば、魔物の肉は食べられると理解してくれるはずだ。
僕は拾っていた枝を一旦《無限収納》にしまい、レッドウルフを一匹取り出した。
こいつは、僕がこの世界に来て最初に空気弾で仕留めたやつだ。まあ、今のところ僕が倒したものはこれしかないんだが……。
ナイフを取り出して、血抜きをしたレッドウルフの腹から刃を入れて捌き始める。
倒す時に剣などで斬りつけた場合は、毛皮の価値を損なわないよう傷口からナイフを入れるのだが、打撃で仕留めた場合は、目立つ傷がないので腹から捌くのがセオリーだ。
解体の手順は知識としてあるし、スキルもある。だからなのか、捌く感覚も不思議と身体に刷り込まれていた。
解体なんて初めてなのに、まるで忌避感がない。迷いなく身体が動く。
切り裂いた腹から血が流れても、それが当然だと受け止めている自分がいた。
以前だったら、たぶん気分が悪くなっていただろう。
新しい身体自体には違和感はなかったが、こういう感覚に初めて茅野巧が以前の茅野巧とは違うのだと思い至った。
解体は滞りなく進んだ。
アレンとエレナは解体を始めた時から、じーっ……と僕のやることを見ていた。それで、多少なりとも作業手順を覚えてくれれば儲けものだ。まだ五歳なんだし、実際に解体ができるところまでは望んでいない。血や臓物をこんな幼い子に見せるのは酷かもしれないが、これが将来的にこの子達のためになるだろう。
全ての作業を終えると、毛皮や牙などの素材と肉は《無限収納》にしまい、使えない内臓は予め掘っておいた穴に入れて埋めた。
血の匂いが漂っているので風魔法を使って散らし、念のために自分自身に《ウォッシング》をかけてから、場所も少し移動することにする。
さて、準備もできたことだし、夕食を作りますか。
まず落ちていた石を使って簡単な竈を作り、火を熾す。生活魔法に《イグニッション》という火をつける魔法があるが、アレンとエレナに道具を使ってできることを見せるために、あえて発火石というものを使用することにした。
まあ、あれだ。マッチみたいなものだ。
【発火石】
魔力を流すと、弾けて火を出す石。
魔石のカケラを使っている使い捨ての道具。
火がついたら小さめの鍋に水を入れて竈に置き、さっさと数種類の野菜を刻んで鍋に投入。
水が沸騰するまでの間に、先程解体したレッドウルフの肉を食べやすい大きさに切って串に刺し、軽く塩を振る。そして竈の周りに刺して、火で炙った。
鍋の水が沸騰して野菜に火が通ったら、香りつけのハーブと塩で味を整える。
スープが完成した頃には、肉も良い感じに焼き上がっていた。
アレンとエレナに焼けたレッドウルフの肉をあげると、二人は一切躊躇うことなくかぶりついた。しかし、焼きたての肉は熱々だったので、慌てて口を離す。
僕は見本を見せようと、自分の串焼きにふぅふぅと息を吹きかけて冷ましながら食べる。
おっ! レッドウルフ肉、意外と美味いな。
僕の食べ方を見たアレンとエレナは、真似をしてふぅふぅと息を吹きかけて食べている。
食器を使うのも初めてだったらしく、スプーンの持ち方を教えてあげると、しっかりとスプーンを握りしめて、たどたどしいながらもスープを飲むようになった。
この子達は頭が良いと思う。一つものを教えると、そこから大抵三~四つのことは学んでいる。
賢いのに何も知らないのは、この子達がそういう環境にいたからなのだろう。
「美味いか?」
そう聞くと、二人は揃って頷いた。うん、満面の笑みだ。良かった。
それにしても、出会って半日ほどだが、二人は随分と僕に懐いてくれたものだ。
初めは果物すら受け取ろうとせず、手渡してもすぐには食べないで匂いを嗅いだりしていたのに。それが今では、躊躇うことなく食べるようになったのだから。
さて、食事も終わってやることもないので、日が暮れたばかりだが寝てしまおうと思う。
そして明日の朝、早めに起きて移動したほうがいいだろう。
そう判断すると、僕は持ち物の中にあった結界石を取り出した。
【結界石】
結界を張ることのできる魔道具。
杭を地面の四方に刺すことで結界が張られ、その範囲内に魔物が入り込めなくなる。
使用するには最低でも四つ必要であり、杭の間隔が広くなるほど結界が薄くなる。
うん、便利そうな道具だ。
杭は三~四メートルくらいの間隔で設置した。これで魔物に襲われる心配なく、安心して眠れる。ただ、地面にそのまま横になるのはさすがに痛そうなので、毛布にくるまって木にもたれかかるように座った。
これが一番、楽かな? 二人はどうしたかな?
さっき毛布でくるんであげたアレンとエレナを見ると、どうすればいいのかわからないらしく、その場で立ち尽くしていた。
「アレン、エレナ。おいで」
二人を呼ぶと、すぐに近くに寄ってくる。
僕は二人を自分の両脇に座らせ、毛布ごと腕で抱え込んでやった。
アレンとエレナは驚いたのか、しばらく間は身を固くしていたが、やがて力を抜いて、僕にすり寄るように抱きついてきた。
子供の身体はほかほかと湯たんぽのように温かく、気持ちがいい。それに、初めての環境に僕も意外と疲れていたのだろう。すぐに眠気が襲ってきて、そのままぐっすりと眠りに落ちた。
◇ ◇ ◇
あなたにおすすめの小説
試験でカンニング犯にされた平民ですが、帝国文官試験で首席合格しました
あきくん☆ひろくん
恋愛
魔法学園の卒業試験で、私はカンニング犯に仕立て上げられた。
断罪してきたのは、かつて好意を寄せてくれていた高位貴族の子息。そしてその隣には、私を嫌う貴族令嬢が立っていた。
平民の私には弁明の余地もない。私は試験の順位を辞退し、その場を去ることになった。
――だが。
私にはもう一つの試験がある。
それは、帝国でも屈指の難関といわれる帝国文官試験。
そして数日後。
その結果は――首席合格だった。
冤罪で断罪された平民が、帝国の文官として身を立てる物語。
「家政など侍女の真似事」と笑った義姉が、十二年分の裏帳簿にすべて署名していた件
歩人
ファンタジー
公爵令嬢エルザは、十六歳から家政の一切を任されてきた。領地経営、使用人管理、収支帳簿——表向きは「下女と同じ仕事」と義姉に蔑まれながら、十二年。「家政など侍女の真似事。本当の貴族のすることではないわ」婚約破棄の宴で義姉が放った一言に、エルザは静かに微笑む。翌朝、公爵家の朝食の席。エルザは父の前に十二冊の帳簿を積み上げた。「表帳簿はわたくしが付けてまいりました。裏帳簿は——お姉様が」十二年分。義姉が捏造した脱税の裏帳簿、すべての頁に義姉自身の署名がある。エルザは毎晩、義姉が部屋を出た後、その署名を筆跡鑑定用に複写していた。義姉が悲鳴をあげる前に、王家監察官が屋敷の扉を叩いた。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
「三番以下を取りなさい」と五年言われ続けたので、公開試験で本気を出しました
歩人
ファンタジー
王立魔法学院、入学時首席のリュシエンヌは、婚約者レイナルト公爵令息から五年間「女は三番以下を取れ」と命じられてきた。学院の序列は国家序列の縮図。レイナルトは常に一位に居続けた。婚約披露を控えた十九歳の春、レイナルトが新しい婚約者を連れて告げる。「お前では並び立てぬ。学力も身分も、足りなすぎる」——リュシエンヌは微笑んで、その翌日の年次公開試験で、五年封じてきた本気を出した。国王臨席の場で、史上最高点。魔法局長官が教授陣に命じる。「過去五年間の彼女の実測点と、もし本気で受けていたら出せた推計点を、公表したまえ」。教授陣は震える手で数字を並べた。レイナルトの「首席」は、全て彼女が譲った場所だった。
あなたがワインを浴びせた相手は、"子爵令嬢"じゃありませんわ
ばぅ
恋愛
公爵令息の恋人と噂されている「ルリア・ラズベルン子爵令嬢」と勘違いされ、夜会でワインを浴びせられた私。でも残念、完全な人違いです。
神様、辞めました〜竜神の愛し子に冤罪を着せ投獄するような人間なんてもう知らない・完結
まほりろ
恋愛
王太子アビー・シュトースと聖女カーラ・ノルデン公爵令嬢の結婚式当日。二人が教会での誓いの儀式を終え、教会の扉を開け外に一歩踏み出したとき、国中の壁や窓に不吉な文字が浮かび上がった。
【本日付けで神を辞めることにした】
フラワーシャワーを巻き王太子と王太子妃の結婚を祝おうとしていた参列者は、突然現れた文字に驚きを隠せず固まっている。
国境に壁を築きモンスターの侵入を防ぎ、結界を張り国内にいるモンスターは弱体化させ、雨を降らせ大地を潤し、土地を豊かにし豊作をもたらし、人間の体を強化し、生活が便利になるように魔法の力を授けた、竜神ウィルペアトが消えた。
人々は三カ月前に冤罪を着せ、|罵詈雑言《ばりぞうごん》を浴びせ、石を投げつけ投獄した少女が、本物の【竜の愛し子】だと分かり|戦慄《せんりつ》した。
「Copyright(C)2021-九頭竜坂まほろん」
アルファポリスに先行投稿しています。
表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
2021/12/13、HOTランキング3位、12/14総合ランキング4位、恋愛3位に入りました! ありがとうございます!
「三番目の王女は、最初から全部知っていた」 ~空気と呼ばれた王女の、静かな逆襲~
まさき
恋愛
「三番目など、いなくても同じだ」
父王がそう言ったのを、アリエスは廊下の陰で聞いていた。
十二歳の夜のことだ。
彼女はその言葉を、静かに飲み込んだ。
——そして四年後。
王国アルディアには、三人の王女がいる。
第一王女エレナ。美貌と政治手腕を兼ね備えた、次期女王の最有力候補。
第二王女リーリア。百年に一人と謳われる魔法の天才。
そして第三王女、アリエス。
晩餐会でも名前を忘れられる、影の薄い末の王女。
誰も気にしない。
誰も見ていない。
——だから、全部見えている。
王宮の腐敗も。貴族たちの本音も。姉たちの足元で蠢く謀略も。
十六歳になったアリエスは、王立学園へ入学する。
学園はただの通過点。本当の戦場は、貴族社交と王宮の権力図だ。
そんな彼女に、一人だけ気づいた者がいた。
大勢の中で空気のように扱われるアリエスを、
ただ一人、静かに見ていた男が。
やがて軽んじていた者たちは気づく。
「空気のような王女」が、
ずっと前から——盤面を作っていたことに。
これは、誰にも見えていなかった王女が、
静かに王宮を動かしていく物語。
『病弱な幼馴染を優先してください』と言った妻が消えた翌日、夫は領地の会計書類が全て白紙になっていることに気づいた
歩人
ファンタジー
侯爵家に嫁いで五年。ルチアは夫エミルの領地会計・社交・使用人管理を全て一人で担ってきた。だがエミルはいつも幼馴染のアリーチェを優先する。「アリーチェは体が弱いんだ、お前とは違う」——その言葉を百回聞いた日、ルチアは微笑んで離縁届に署名した。「ええ、私は丈夫ですから。どうぞ幼馴染様をお大事に」。翌朝、エミルが目にしたのは——税務報告の締切、領民からの陳情の山、そして紅茶の淹れ方すら知らない自分。三ヶ月後、かつて「地味な妻」と呼ばれたルチアは、辺境伯の財務顧問として辣腕を振るっていた。
