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11巻
11-2
「……まさか」
引き続き、子供達が採取しながら山を進んでいると、スコットさんが思わず……といった風に声を漏らす。そんな彼の姿に、エヴァンさんが首を傾げていた。
「スコット、どうしたんだ?」
「いえ、子供達が採っているものが黄昏草だったので、目を奪われていただけです」
「えっ、黄昏草!? それ、俺でも知ってるやつ! 滅多に見つからない薬草じゃなかったか!?」
「その通りです」
稀少な薬草を見つけて採っている子供達を、スコットさんが呆然と眺め、エヴァンさんは驚きながら凝視している。
「おにーちゃん!」
「こっち、こっち!」
「「ヒカリそうがあったー」」
「え、ヒカリ草? また凄いものを見つけたな~」
「「……」」
ヒカリ草もまあまあ稀少な薬草だ。ほいほい見つけられるものじゃないはずなのだが……うちの子達は簡単に見つけてくるな~。
エヴァンさんとスコットさんは、とうとう黙り込んでしまった。
「「あっ! あれ!」」
そんな時、アレンとエレナが今回の依頼の対象であるジャンボエルクをいち早く発見する。
そしてすぐに、エヴァンさんとスコットさんもそちらに目を向けた。
「お、ジャンボエルクだ」
「エヴァン、依頼の品は角と皮ですから、傷つけないようにしてくださいよ」
「わかってるよ。――って、おい!?」
エヴァンさんとスコットさんが慎重に相談している間に、アレンとエレナが走り出していた。
「おい、ちょっと待て!」
「「や~」」
エヴァンさんが慌てて子供達を追いかけていく。
「そいつは俺にやらせろ!」
「「えぇ~~~」」
「頼むから」
「「むぅ」」
エヴァンさんが子供達相手に真剣に頼み込みだした。走りながらね。
「あとで遊んでやるから! な?」
「「ん~、わかった」」
アレンとエレナがピタリと立ち止まる。
どうやら、遊んでもらえるならと獲物を譲ったようだ。
「はぁー!」
エヴァンさんはジャンボエルクに向かって走りながら、背負っている大剣を抜く。
そして、そのまま思いっ切り振り抜いて、ジャンボエルクの首をすぱりと落とした。まさに一刀両断。
「「おぉ~」」
「凄い!」
豪快だが、とても的確に急所を捉えていた。
「お疲れ様です、エヴァン」
「よし、これで二つ目の依頼が完了だな」
「その大剣でよく首を狙えますね」
「まあ、それは訓練と実践の成果だな」
感心した僕の言葉に、エヴァンさんは頷いた。
訓練に実践か~。まあ、やっぱりそれが大事だよね。
「じゃあ、さくっと解体しちゃうから、ちょっと待っててくれ」
エヴァンさんがジャンボエルクの解体を始めると、アレンとエレナが近くで見学していた。
「スコットさん、これからどうしますか? 予定を繰り上げて海岸に向かいますか?」
「んー、そうですね~。急ぐ必要はありませんから、やはり予定通り夜光茸の採れるという場所に向かいましょうか。夜光茸は多くても買い取りしてもらえますからね。どうですか?」
「僕はそれで大丈夫です。――アレン、エレナ、このまま山を進むけど、いいよね?」
「「いいよー」」
「エヴァンも構いませんね?」
「お~」
子供達やエヴァンさんも了承したので、ジャンボエルクの解体が終わってからさらに森の奥へと進む。
「「んにゅ?」」
すると、アレンとエレナがまた何かを見つけたようで、突然茂みの奥へと突っ込んでいった。
「今度は何を見つけたんだろうな?」
「魔物の気配はありませんから、薬草ではないですか?」
エヴァンさんとスコットさんは子供達が何を見つけたのか予想している。だいぶ子供達の行動にも慣れてきたようだ。
スコットさんの言う通り近くに魔物の気配はないので、僕も追いかけずに待つことにする。
「「みて、みて! キラキラしてるー」」
「「「っ!!」」」
しばらくして子供達が戻ってきたのだが、二人が持っていたものに僕達は絶句した。
「ちょ、ちょっと待て! ク、クリスタルエルクの角だと!?」
「そ、それをどうしたのですか!?」
「「もらったー」」
「「はぁ!?」」
アレンとエレナが持ってきたものは角。それも水晶の角だ!
貰ったとは言っているが、どうやって貰ったかを先に確認しておかなければならない。
「アレン、エレナ、クリスタルエルクと会ったのか? 貰ったってことは、倒したり怪我をさせたりはしてないな?」
「「してないよー?」」
「そうか、それならいいが。クリスタルエルクには絶対に怪我をさせちゃ駄目だよ」
「「うん、わかったー」」
クリスタルエルクは真っ白な毛並みに、水晶のような角が特徴のシカの魔物だ。
その角は身体欠損に効くポーション……手が生えたりする魔法薬の材料とされている。しかし他に代えが利かないこともあって、クリスタルエルクは一時期、乱獲されて絶滅の危機に晒されたことがあるようだ。
それで、クリスタルエルクを死傷させるのは全国的に禁止されることになった。角は定期的に生え変わるので、倒さなくても手に入るからな。種の保存が優先されたのである。
というわけで、クリスタルエルクは魔物なのだが、聖獣という括りだ。他に、浄化の作用のある角を持つユニコーンとかもそうだな。
「「おにーちゃん、はい!」」
そんなことを思い返していると、アレンとエレナが両手に抱えている水晶の角を差し出してくる。
「これ、売ったら絶対に騒ぎになるやつですよね?」
「当たり前だろう!?」
「ええ、簡単には売りに出せません!」
だよね。売る必要があるなら、国……ガディア国の王様であるトリスタン様に売ったほうがいいだろう。というか、確実に欲しがると思う。なので、ルーウェン家次男のグランヴァルト様――ヴァルト様の結婚式に参加するために王都に行く予定があるから、その時にでも売り込めばいいか。
「じゃあ、売らずに僕が買い取ったということにして、相場の半分を二人に渡せばいいですね」
とりあえず、すぐに角を売るのは避けようと、別の案を出してみる。
「「いやいやいや!」」
すると、二人はとんでもない勢いで首を横に振った。
「タクミ、何を言っているんだ!?」
「そうですよ。何故、角の料金を私達が受け取らなくてはいけないんですか!?」
「いや、でも、依頼中に手に入れたものは売って、総額を分けるものなんですよね?」
武器講習をしてもらった時にスコットさんに説明されたことだ。道中で倒した魔物や手に入った薬草とかは基本的に売って、それも報酬と一緒に分けるものだってね。
その分配の割合は、僕達は半々と話してあった。
「それは協力して手に入れたものについてです。子供達だけで倒した魔物や採取した薬草、それにパステルラビットについては、勘定には入れないでください。その分を受け取ってしまっては、私達の立つ瀬がありません」
「そうだ、そうだ!」
スコットさんの言葉にエヴァンさんが同意する。
依頼中に手に入れたものは全てのはずなんだが、いろいろ除外された。
「え~、後から揉めるからしっかりと報酬の割合を決めておけと教えてくれたのはスコットさんじゃないですか。それで半々って決めたのに、覆すんですか~」
スコットさんが言っていることは、僕達にとっては利益が増えて悪いことではないので、反論する必要はないんだけど……何となく反論してみた。
「〝基本的に〟と言いました! これは基本的なことではありません!」
「えぇ~」
「タクミさん、完全に面白がって言っていますよね?」
「あ、バレました?」
スコットさんと楽しく話していると、アレンとエレナが僕の服の裾を引っ張ってくる。
「「ねぇ、ねぇ、おにーちゃん」」
「どうした?」
「「あれー」」
「ん? ――クリスタルエルクっ!!」
アレンとエレナが示す方向に、いつの間にかクリスタルエルクがいた。
「うわっ、マジか」
「……本物ですか?」
僕もかなり驚いたが、エヴァンさんとスコットさんの驚きは僕以上で、完全に動きを止めている。
「あ~、でも、そうか……」
そういえば、アレンとエレナは、角を貰ったと言っていた。それなら、クリスタルエルクが近くにいて当たり前だよな~。
「「おにーちゃん、おいでだって~」」
「おいで……って、クリスタルエルクが?」
「「うん、そう! いこう!」」
子供達はそう言うと、僕の手を引いてクリスタルエルクに近づいて行く。
「どうも、こんにちは」
『クー』
クリスタルエルクの傍に連れて来られたが、どうしたらいいのかわからなかったので、とりあえず挨拶をしてみたら……返事があった。
普通に意思疎通ができているな。たぶん。
「えっと……子供達が角を持ってきたんですが、本当にいただいてもいいんですか?」
『クー』
「大変助かります」
クリスタルエルクは、鳴きながら頷く。
聖獣と言っても野生の生きものなんだが、かなり大人しい性格のようだ。
「「どうしたのー?」」
『クー、クー』
アレンとエレナが無邪気にクリスタルエルクに抱き着く。
「「うん、うん。そうなんだ~」」
「……」
アレンとエレナは……クリスタルエルクと会話しているんだろうか? あれは意思疎通とか、そういう感じではないな~。
うちの子達は神様の子供だから、聖獣と会話できるんだろうか?
「おにーちゃん」
「あっちだってー」
「あっちがどうしたんだ?」
「いっしょに」
「いくー」
子供達がそう言うと、それを待っていたかのようにクリスタルエルクが歩き出した。
しかも、いつの間にか背に乗っていた子供達を連れて。
いつぞやのグリフォンに続き、クリスタルエルクにも誘拐されている?
「おーい。ついて行かないと駄目なのか?」
「「そう!」」
「……そうか」
アレンとエレナが後ろを振り向きながら手招きしてくる。
「エヴァンさん、スコットさん――」
「タクミ、問題ない。先に行け」
「私達は少し距離を取ってついて行きます」
エヴァンさんとスコットさんに、クリスタルエルクについて行く了承を得ようと思って振り返ると、名前を呼んだ時点で二人から食い気味に了承された。
しかも、クリスタルエルクが離れたので、やっと僕のほうに寄ってくる。
「いやいや、どうして距離を置くんですか。一緒に行けばいいじゃないですか」
「「無理」」
「……」
二人同時に拒否られた。見事と言えるほど声を揃えてだよ。
「「おにーちゃん、はやく~」」
「はいはーい」
先を行く子供達に催促されたので、もう一度エヴァンさんとスコットさんを見たが、二人からにこやかに手を振られた。まるで〝いってらっしゃい〟と言わんばかりにね。
「あ、パステルラビットは私が預かりますよ」
さらに、にっこりと微笑むスコットさんが、パステルラビットが入った籠を受け取ろうとこちらに手を差し出してくる。
「……お願いします」
これはもう何を言っても駄目だと思い、僕はパステルラビットを預けてから、駆け足で子供達とクリスタルエルクの下へと向かったのだった。
「で、どこに行くんだ?」
「「んとね~、もうちょっと?」」
子供達はどこに行くのかまでは聞いていないらしい。
「危ないところに連れて行かれるわけではないんだな?」
『クー』
「「だいじょーぶだって」」
危険はないようなので、僕達は大人しくクリスタルエルクの誘導で山の奥へ進んでいく。
ちなみに、ちらりと後方を窺うと、エヴァンさんとスコットさんは、しっかりと一定距離を保ってついて来ていた。
『クー』
「「ここ? ――おにーちゃん、ついたって!」」
そして、辿り着いた場所は、小川が流れる渓谷だった。
「「あっ、なかまー」」
「うわっ、本当だ」
驚くことに、その渓谷には、案内してきた個体以外のクリスタルエルクがいた。
「もしかして、ここは巣か? え? そんな大事な場所に僕達を連れてきて大丈夫なのか!?」
僕達はクリスタルエルクを狩る気はないが……ここは人間をほいほい連れてきてはいけないところだろう!?
『クー』
「うわっ、何だこれ!」
「「おぉ~、いっぱい!」」
さらに、クリスタルエルクが示したところには、大量の角が転がっているではないか!
「「くれるのー?」」
『クー』
「「ありがとう!」」
「いや、待って! 本当にちょっと待って!」
僕の思考処理が追い付かない。
「「おひっこし?」」
『クー、クー』
「「そうなんだ~」」
僕の混乱をよそに、子供達とクリスタルエルクのやりとりは続く。
それからひと通り話を聞き終えたアレンとエレナが言うには、クリスタルエルクは棲み処を別の場所に移す予定なので、ちょうど近くにいた僕達に角をくれるらしい。
クリスタルエルクは、自身の角に価値があることを知っているようで、下手な人間には渡したくないって……凄く具体的な内容だな!?
「「おにーちゃん、よかったね!」」
「いや~……さすがにこれを貰うわけには……」
いくらなんでも「はい、ありがとう」と受け取るには気が引けるものと量である。
「「だめなのー?」」
『クー?』
「……」
僕が躊躇っていると、子供達とクリスタルエルクは揃って首を傾げる。
しかも、周りにいる他のクリスタルエルクまで首を傾げているではないか!
「……駄目っていうわけじゃないんだけどな」
「「じゃあ、もらおう!」」
「えっ?」
完全に拒否できずにいると、アレンとエレナが角を拾っては僕に渡してくる。
「はい!」
「ほい!」
「ちょっ!!」
「これも!」
「こっちも!」
一つ目を咄嗟に受け取ってしまったのがいけなかった。
アレンとエレナが、次々と僕の腕に容赦なく角を積み上げていく。しかも、クリスタルエルクも手伝っているではないか!
「うわっ、二人ともちょっと待て! これ以上は持てないから!」
「しまって、しまって!」
「まだまだあるよ!」
僕は抵抗するのを諦めて、おとなしくクリスタルエルクの角を《無限収納》に収めていく。
もうこれはいっそのこと、トリスタン様を通して各国に配るか? 今はどこの国の王も良い君主のようだしな~。
そんなことを考えているうちに、大量にあった角の収納が終わった。
「ありがとう。ありがたくいただくよ」
『クー』
改めてお礼を言うと、クリスタルエルクが満足そうに頷いた。
「「ばいばーい」」
大量の角を貰った僕達は、クリスタルエルクに別れを告げて、渓谷を後にするのだった。
◇ ◇ ◇
クリスタルエルクの巣を離れた僕達は、日が暮れる前に野営に適している場所を探すことにした。良い具合に夜光茸の採取地に近かったしね。
「すげぇ、疲れた」
「私もです」
そして、良い場所を見つけて腰を落ち着けた途端、エヴァンさんとスコットさんがぐったりとして項垂れる。
「……お疲れ様です。僕が周囲の警戒と食事の用意をしますので、休んでいてください」
「おー、悪い。頼む」
「すみませんが、お願いします」
エヴァンさんとスコットさんの了承を得て、僕は晩ご飯の準備を始める。
「さて、ご飯は何にするかな?」
「「んとね~……」」
エヴァンさんとスコットさんには気苦労を掛けたようなので、美味しいものを食べてもらいたい。
そう思いながら、子供達に何が食べたいか確認する。
「アレン、カレーがたべたい!」
「エレナも! おにくとやさいいっぱいの!」
「カレーな。いいよ。でも、ご飯じゃなくてパンな」
「「うん、パンもすき!」」
子供達がカレーをリクエストしてきたので、了承した。まあ、さすがにカレーライスにするのは止めたけどね。
この世界でお米は『白麦』という穀物で、家畜用の飼料に使われることが多い。今まで食べさせて拒否反応を見せた人はいないが、今、エヴァンさんとスコットさんはお疲れの様子だから、驚かせるのは控えようと思ったのだ。
「じゃあ、早速作るか」
「おにくゴロゴロー」
「やさいもゴロゴロー」
「了解。肉はオークでいいかな?」
「「うん!」」
子供達のリクエスト通り、肉も野菜も大きくゴロゴロとしたカレーを作っていく。
「すごい腹の減る匂いだ。これは近頃フィジー商会が売り始めた調味料……カレーだっけ? それを使った料理か?」
「はい、そうです」
カレーの匂いが漂い始めると、エヴァンさんが近寄ってくる。
フィジー商会は着実にカレー粉の知名度を上げているようだ。
「よし、カレーはもう少し煮込めばいいな。あとはサラダかな」
「「おにーちゃん、タレはー?」」
「ドレッシングな」
「「それ! ドレッシングもつくるー?」」
「作るよ~。何がいい?」
「「タシねぎー!」」
「了解」
タシ葱――玉葱ドレッシングを作り、サラダができあがった頃には、カレーも良い具合に煮込まれていた。というわけで、すぐに食べることにする。
「これはアレンとエレナのな」
「「はーい」」
「エヴァンさんとスコットさんもどうぞ」
「美味そう~」
「とても美味しそうですね。スープのようでスープではないんですね」
深めの皿によそったカレー、タシ葱のドレッシングをかけた生野菜のサラダ、白パンと新作チーズパンを配ると、子供達だけでなくエヴァンさんとスコットさんもワクワクとした表情をしていた。
そして、食べ始めれば、みんなは黙々と食べ進めていく。
引き続き、子供達が採取しながら山を進んでいると、スコットさんが思わず……といった風に声を漏らす。そんな彼の姿に、エヴァンさんが首を傾げていた。
「スコット、どうしたんだ?」
「いえ、子供達が採っているものが黄昏草だったので、目を奪われていただけです」
「えっ、黄昏草!? それ、俺でも知ってるやつ! 滅多に見つからない薬草じゃなかったか!?」
「その通りです」
稀少な薬草を見つけて採っている子供達を、スコットさんが呆然と眺め、エヴァンさんは驚きながら凝視している。
「おにーちゃん!」
「こっち、こっち!」
「「ヒカリそうがあったー」」
「え、ヒカリ草? また凄いものを見つけたな~」
「「……」」
ヒカリ草もまあまあ稀少な薬草だ。ほいほい見つけられるものじゃないはずなのだが……うちの子達は簡単に見つけてくるな~。
エヴァンさんとスコットさんは、とうとう黙り込んでしまった。
「「あっ! あれ!」」
そんな時、アレンとエレナが今回の依頼の対象であるジャンボエルクをいち早く発見する。
そしてすぐに、エヴァンさんとスコットさんもそちらに目を向けた。
「お、ジャンボエルクだ」
「エヴァン、依頼の品は角と皮ですから、傷つけないようにしてくださいよ」
「わかってるよ。――って、おい!?」
エヴァンさんとスコットさんが慎重に相談している間に、アレンとエレナが走り出していた。
「おい、ちょっと待て!」
「「や~」」
エヴァンさんが慌てて子供達を追いかけていく。
「そいつは俺にやらせろ!」
「「えぇ~~~」」
「頼むから」
「「むぅ」」
エヴァンさんが子供達相手に真剣に頼み込みだした。走りながらね。
「あとで遊んでやるから! な?」
「「ん~、わかった」」
アレンとエレナがピタリと立ち止まる。
どうやら、遊んでもらえるならと獲物を譲ったようだ。
「はぁー!」
エヴァンさんはジャンボエルクに向かって走りながら、背負っている大剣を抜く。
そして、そのまま思いっ切り振り抜いて、ジャンボエルクの首をすぱりと落とした。まさに一刀両断。
「「おぉ~」」
「凄い!」
豪快だが、とても的確に急所を捉えていた。
「お疲れ様です、エヴァン」
「よし、これで二つ目の依頼が完了だな」
「その大剣でよく首を狙えますね」
「まあ、それは訓練と実践の成果だな」
感心した僕の言葉に、エヴァンさんは頷いた。
訓練に実践か~。まあ、やっぱりそれが大事だよね。
「じゃあ、さくっと解体しちゃうから、ちょっと待っててくれ」
エヴァンさんがジャンボエルクの解体を始めると、アレンとエレナが近くで見学していた。
「スコットさん、これからどうしますか? 予定を繰り上げて海岸に向かいますか?」
「んー、そうですね~。急ぐ必要はありませんから、やはり予定通り夜光茸の採れるという場所に向かいましょうか。夜光茸は多くても買い取りしてもらえますからね。どうですか?」
「僕はそれで大丈夫です。――アレン、エレナ、このまま山を進むけど、いいよね?」
「「いいよー」」
「エヴァンも構いませんね?」
「お~」
子供達やエヴァンさんも了承したので、ジャンボエルクの解体が終わってからさらに森の奥へと進む。
「「んにゅ?」」
すると、アレンとエレナがまた何かを見つけたようで、突然茂みの奥へと突っ込んでいった。
「今度は何を見つけたんだろうな?」
「魔物の気配はありませんから、薬草ではないですか?」
エヴァンさんとスコットさんは子供達が何を見つけたのか予想している。だいぶ子供達の行動にも慣れてきたようだ。
スコットさんの言う通り近くに魔物の気配はないので、僕も追いかけずに待つことにする。
「「みて、みて! キラキラしてるー」」
「「「っ!!」」」
しばらくして子供達が戻ってきたのだが、二人が持っていたものに僕達は絶句した。
「ちょ、ちょっと待て! ク、クリスタルエルクの角だと!?」
「そ、それをどうしたのですか!?」
「「もらったー」」
「「はぁ!?」」
アレンとエレナが持ってきたものは角。それも水晶の角だ!
貰ったとは言っているが、どうやって貰ったかを先に確認しておかなければならない。
「アレン、エレナ、クリスタルエルクと会ったのか? 貰ったってことは、倒したり怪我をさせたりはしてないな?」
「「してないよー?」」
「そうか、それならいいが。クリスタルエルクには絶対に怪我をさせちゃ駄目だよ」
「「うん、わかったー」」
クリスタルエルクは真っ白な毛並みに、水晶のような角が特徴のシカの魔物だ。
その角は身体欠損に効くポーション……手が生えたりする魔法薬の材料とされている。しかし他に代えが利かないこともあって、クリスタルエルクは一時期、乱獲されて絶滅の危機に晒されたことがあるようだ。
それで、クリスタルエルクを死傷させるのは全国的に禁止されることになった。角は定期的に生え変わるので、倒さなくても手に入るからな。種の保存が優先されたのである。
というわけで、クリスタルエルクは魔物なのだが、聖獣という括りだ。他に、浄化の作用のある角を持つユニコーンとかもそうだな。
「「おにーちゃん、はい!」」
そんなことを思い返していると、アレンとエレナが両手に抱えている水晶の角を差し出してくる。
「これ、売ったら絶対に騒ぎになるやつですよね?」
「当たり前だろう!?」
「ええ、簡単には売りに出せません!」
だよね。売る必要があるなら、国……ガディア国の王様であるトリスタン様に売ったほうがいいだろう。というか、確実に欲しがると思う。なので、ルーウェン家次男のグランヴァルト様――ヴァルト様の結婚式に参加するために王都に行く予定があるから、その時にでも売り込めばいいか。
「じゃあ、売らずに僕が買い取ったということにして、相場の半分を二人に渡せばいいですね」
とりあえず、すぐに角を売るのは避けようと、別の案を出してみる。
「「いやいやいや!」」
すると、二人はとんでもない勢いで首を横に振った。
「タクミ、何を言っているんだ!?」
「そうですよ。何故、角の料金を私達が受け取らなくてはいけないんですか!?」
「いや、でも、依頼中に手に入れたものは売って、総額を分けるものなんですよね?」
武器講習をしてもらった時にスコットさんに説明されたことだ。道中で倒した魔物や手に入った薬草とかは基本的に売って、それも報酬と一緒に分けるものだってね。
その分配の割合は、僕達は半々と話してあった。
「それは協力して手に入れたものについてです。子供達だけで倒した魔物や採取した薬草、それにパステルラビットについては、勘定には入れないでください。その分を受け取ってしまっては、私達の立つ瀬がありません」
「そうだ、そうだ!」
スコットさんの言葉にエヴァンさんが同意する。
依頼中に手に入れたものは全てのはずなんだが、いろいろ除外された。
「え~、後から揉めるからしっかりと報酬の割合を決めておけと教えてくれたのはスコットさんじゃないですか。それで半々って決めたのに、覆すんですか~」
スコットさんが言っていることは、僕達にとっては利益が増えて悪いことではないので、反論する必要はないんだけど……何となく反論してみた。
「〝基本的に〟と言いました! これは基本的なことではありません!」
「えぇ~」
「タクミさん、完全に面白がって言っていますよね?」
「あ、バレました?」
スコットさんと楽しく話していると、アレンとエレナが僕の服の裾を引っ張ってくる。
「「ねぇ、ねぇ、おにーちゃん」」
「どうした?」
「「あれー」」
「ん? ――クリスタルエルクっ!!」
アレンとエレナが示す方向に、いつの間にかクリスタルエルクがいた。
「うわっ、マジか」
「……本物ですか?」
僕もかなり驚いたが、エヴァンさんとスコットさんの驚きは僕以上で、完全に動きを止めている。
「あ~、でも、そうか……」
そういえば、アレンとエレナは、角を貰ったと言っていた。それなら、クリスタルエルクが近くにいて当たり前だよな~。
「「おにーちゃん、おいでだって~」」
「おいで……って、クリスタルエルクが?」
「「うん、そう! いこう!」」
子供達はそう言うと、僕の手を引いてクリスタルエルクに近づいて行く。
「どうも、こんにちは」
『クー』
クリスタルエルクの傍に連れて来られたが、どうしたらいいのかわからなかったので、とりあえず挨拶をしてみたら……返事があった。
普通に意思疎通ができているな。たぶん。
「えっと……子供達が角を持ってきたんですが、本当にいただいてもいいんですか?」
『クー』
「大変助かります」
クリスタルエルクは、鳴きながら頷く。
聖獣と言っても野生の生きものなんだが、かなり大人しい性格のようだ。
「「どうしたのー?」」
『クー、クー』
アレンとエレナが無邪気にクリスタルエルクに抱き着く。
「「うん、うん。そうなんだ~」」
「……」
アレンとエレナは……クリスタルエルクと会話しているんだろうか? あれは意思疎通とか、そういう感じではないな~。
うちの子達は神様の子供だから、聖獣と会話できるんだろうか?
「おにーちゃん」
「あっちだってー」
「あっちがどうしたんだ?」
「いっしょに」
「いくー」
子供達がそう言うと、それを待っていたかのようにクリスタルエルクが歩き出した。
しかも、いつの間にか背に乗っていた子供達を連れて。
いつぞやのグリフォンに続き、クリスタルエルクにも誘拐されている?
「おーい。ついて行かないと駄目なのか?」
「「そう!」」
「……そうか」
アレンとエレナが後ろを振り向きながら手招きしてくる。
「エヴァンさん、スコットさん――」
「タクミ、問題ない。先に行け」
「私達は少し距離を取ってついて行きます」
エヴァンさんとスコットさんに、クリスタルエルクについて行く了承を得ようと思って振り返ると、名前を呼んだ時点で二人から食い気味に了承された。
しかも、クリスタルエルクが離れたので、やっと僕のほうに寄ってくる。
「いやいや、どうして距離を置くんですか。一緒に行けばいいじゃないですか」
「「無理」」
「……」
二人同時に拒否られた。見事と言えるほど声を揃えてだよ。
「「おにーちゃん、はやく~」」
「はいはーい」
先を行く子供達に催促されたので、もう一度エヴァンさんとスコットさんを見たが、二人からにこやかに手を振られた。まるで〝いってらっしゃい〟と言わんばかりにね。
「あ、パステルラビットは私が預かりますよ」
さらに、にっこりと微笑むスコットさんが、パステルラビットが入った籠を受け取ろうとこちらに手を差し出してくる。
「……お願いします」
これはもう何を言っても駄目だと思い、僕はパステルラビットを預けてから、駆け足で子供達とクリスタルエルクの下へと向かったのだった。
「で、どこに行くんだ?」
「「んとね~、もうちょっと?」」
子供達はどこに行くのかまでは聞いていないらしい。
「危ないところに連れて行かれるわけではないんだな?」
『クー』
「「だいじょーぶだって」」
危険はないようなので、僕達は大人しくクリスタルエルクの誘導で山の奥へ進んでいく。
ちなみに、ちらりと後方を窺うと、エヴァンさんとスコットさんは、しっかりと一定距離を保ってついて来ていた。
『クー』
「「ここ? ――おにーちゃん、ついたって!」」
そして、辿り着いた場所は、小川が流れる渓谷だった。
「「あっ、なかまー」」
「うわっ、本当だ」
驚くことに、その渓谷には、案内してきた個体以外のクリスタルエルクがいた。
「もしかして、ここは巣か? え? そんな大事な場所に僕達を連れてきて大丈夫なのか!?」
僕達はクリスタルエルクを狩る気はないが……ここは人間をほいほい連れてきてはいけないところだろう!?
『クー』
「うわっ、何だこれ!」
「「おぉ~、いっぱい!」」
さらに、クリスタルエルクが示したところには、大量の角が転がっているではないか!
「「くれるのー?」」
『クー』
「「ありがとう!」」
「いや、待って! 本当にちょっと待って!」
僕の思考処理が追い付かない。
「「おひっこし?」」
『クー、クー』
「「そうなんだ~」」
僕の混乱をよそに、子供達とクリスタルエルクのやりとりは続く。
それからひと通り話を聞き終えたアレンとエレナが言うには、クリスタルエルクは棲み処を別の場所に移す予定なので、ちょうど近くにいた僕達に角をくれるらしい。
クリスタルエルクは、自身の角に価値があることを知っているようで、下手な人間には渡したくないって……凄く具体的な内容だな!?
「「おにーちゃん、よかったね!」」
「いや~……さすがにこれを貰うわけには……」
いくらなんでも「はい、ありがとう」と受け取るには気が引けるものと量である。
「「だめなのー?」」
『クー?』
「……」
僕が躊躇っていると、子供達とクリスタルエルクは揃って首を傾げる。
しかも、周りにいる他のクリスタルエルクまで首を傾げているではないか!
「……駄目っていうわけじゃないんだけどな」
「「じゃあ、もらおう!」」
「えっ?」
完全に拒否できずにいると、アレンとエレナが角を拾っては僕に渡してくる。
「はい!」
「ほい!」
「ちょっ!!」
「これも!」
「こっちも!」
一つ目を咄嗟に受け取ってしまったのがいけなかった。
アレンとエレナが、次々と僕の腕に容赦なく角を積み上げていく。しかも、クリスタルエルクも手伝っているではないか!
「うわっ、二人ともちょっと待て! これ以上は持てないから!」
「しまって、しまって!」
「まだまだあるよ!」
僕は抵抗するのを諦めて、おとなしくクリスタルエルクの角を《無限収納》に収めていく。
もうこれはいっそのこと、トリスタン様を通して各国に配るか? 今はどこの国の王も良い君主のようだしな~。
そんなことを考えているうちに、大量にあった角の収納が終わった。
「ありがとう。ありがたくいただくよ」
『クー』
改めてお礼を言うと、クリスタルエルクが満足そうに頷いた。
「「ばいばーい」」
大量の角を貰った僕達は、クリスタルエルクに別れを告げて、渓谷を後にするのだった。
◇ ◇ ◇
クリスタルエルクの巣を離れた僕達は、日が暮れる前に野営に適している場所を探すことにした。良い具合に夜光茸の採取地に近かったしね。
「すげぇ、疲れた」
「私もです」
そして、良い場所を見つけて腰を落ち着けた途端、エヴァンさんとスコットさんがぐったりとして項垂れる。
「……お疲れ様です。僕が周囲の警戒と食事の用意をしますので、休んでいてください」
「おー、悪い。頼む」
「すみませんが、お願いします」
エヴァンさんとスコットさんの了承を得て、僕は晩ご飯の準備を始める。
「さて、ご飯は何にするかな?」
「「んとね~……」」
エヴァンさんとスコットさんには気苦労を掛けたようなので、美味しいものを食べてもらいたい。
そう思いながら、子供達に何が食べたいか確認する。
「アレン、カレーがたべたい!」
「エレナも! おにくとやさいいっぱいの!」
「カレーな。いいよ。でも、ご飯じゃなくてパンな」
「「うん、パンもすき!」」
子供達がカレーをリクエストしてきたので、了承した。まあ、さすがにカレーライスにするのは止めたけどね。
この世界でお米は『白麦』という穀物で、家畜用の飼料に使われることが多い。今まで食べさせて拒否反応を見せた人はいないが、今、エヴァンさんとスコットさんはお疲れの様子だから、驚かせるのは控えようと思ったのだ。
「じゃあ、早速作るか」
「おにくゴロゴロー」
「やさいもゴロゴロー」
「了解。肉はオークでいいかな?」
「「うん!」」
子供達のリクエスト通り、肉も野菜も大きくゴロゴロとしたカレーを作っていく。
「すごい腹の減る匂いだ。これは近頃フィジー商会が売り始めた調味料……カレーだっけ? それを使った料理か?」
「はい、そうです」
カレーの匂いが漂い始めると、エヴァンさんが近寄ってくる。
フィジー商会は着実にカレー粉の知名度を上げているようだ。
「よし、カレーはもう少し煮込めばいいな。あとはサラダかな」
「「おにーちゃん、タレはー?」」
「ドレッシングな」
「「それ! ドレッシングもつくるー?」」
「作るよ~。何がいい?」
「「タシねぎー!」」
「了解」
タシ葱――玉葱ドレッシングを作り、サラダができあがった頃には、カレーも良い具合に煮込まれていた。というわけで、すぐに食べることにする。
「これはアレンとエレナのな」
「「はーい」」
「エヴァンさんとスコットさんもどうぞ」
「美味そう~」
「とても美味しそうですね。スープのようでスープではないんですね」
深めの皿によそったカレー、タシ葱のドレッシングをかけた生野菜のサラダ、白パンと新作チーズパンを配ると、子供達だけでなくエヴァンさんとスコットさんもワクワクとした表情をしていた。
そして、食べ始めれば、みんなは黙々と食べ進めていく。
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