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第四章:『闇乃宮参ノ闘戯場/地獣キネコ』

【第22話】

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『ぐおぅ……あおん……』
 腹部に叩き込まれた強烈な一撃でこれまでの蓄積ダメージが一気に噴出し、うずくまって悶絶するキネコ。
『チノミさん……この後、この人どないすればええんやろ?』
 溶鉱炉に沈んでいったアカネコ、文字通り水の泡となったアオネコ。
 これまで手合わせした闘戯場のボスとは全く違う展開に袋の中から2人に尋ねる英里子。
『ご安心くだされ、この第三闘戯……私の負けは確定しております。
 あいててて……こりゃアバラ何本かイってるなあ。だが久方ぶりの心地よい戦いの痛みだ……ふふっ』
 そんな事を呟きつつ爽やかな笑みを浮かべ、ゆっくりと立ち上がるキネコ。
「どういう意味だ?」
 こいつはまだ戦う力を残している。
 武神のカンでそう察したチノミヤノミコトは式神フウとその大風袋の中でもぞもぞしているもののふ英里子を下がらせつつ問う。
『お聞きでないかもしれませんが、私達は主より自らの敗北を認めて次の闘戯場にお通しする事を認められております。私と一騎打ちで手合わせできるレベルの剛者たるチノミヤノミコト様ならお分かりかも知れませんが……もし私が本当に主様に挑まんとする皆さまを倒すと言うのであれば皆さんをあっという間に八つ裂きの肉塊にすることが出来るのです』
「……」
 やはりそうだったのか、そして今でもそうなのか。
 先程のタイマンの中で薄々それを察していたチノミヤノミコト様は背筋が寒くなる。
『でも、あんたはそう言う無意味なコロシはやりとう無かったんやろ?
 だからウチとフウちゃんの参戦も強制するあんな回りっくどいアイテムスキャナー表示とかを仕込んだんやね』
「式神フウ、チノモノ英里子殿を出してやれ」
「あっ、はい」
『指一本動かない英里子による物理攻撃』と言う勝利条件を満たすべく自らの風袋に英里子を吸い込んでいた事を今更のように思い出したフウは口紐をほどき、巨大な岩をゴロンと出す。
「ありがとうな、フウちゃん。これだけの硬度を維持するのにかなりの魔力が必要やったようやけど……おかげですっきりとデトックス出来たようやで!!」
 岩や砂礫もろともフウの大風袋に吸い込まれ入った後、自身を衝撃から守るために地神紋の力で岩と砂を固めて生成した繭、『ストーンボール』から出てきた英里子は腰を伸ばす。
「チノミヤさん、今の話聞いておもったけど、昔あんたとやりあった時の申し出を思い出すなぁ……この人ホンマにエエ人やで」
「……」
「まああんたらの主君様がどんな方かは知らんし、美香ちゃんをさらってまでウチらをここで戦わせとる目的もようわからんけど……ええ男や。須田丸君の弟弟子にとりたいぐらいやで」
「おい、英里子!!」
 傍若無人にしてマキャヴェリスト・オブ・マキャベリストなのは前々から分かっていたが、そこまで言うのはまずい。式神フウは英里子を小突く。
『それはありがたいお言葉です、地神紋のもののふ殿……この戦いが終わりし暁には是非ともお頼み申します。
 ヤミネコ!! もうわかっていると思うが我は降参する!! 判定宣言を頼む』
 
 3人の前で下げていた頭を上げ、頭上で見守っていたヤミネコに呼びかけるキネコ。
『その言葉、しかと聞いたぞ!! キネコ試合放棄につき勝者……』
『それはならぬぞ』
「!!」
 第三闘戯場全体に響く女の声に黒甲冑の膝をつくヤミネコと闘戯場内のキネコ。
「なっ、何この黒いのは!?」
「魔力、魔力の何かだぞ!?」
「フレルンジャネェ!!」
「総員、構えろ!! 子供達を守れ!!」
 そして霧霞の如くゆらゆらと湧き出してきた黒い瘴気塊で満たされる第三闘戯場。
 自ら神紋刀と麒麟を抜いた総大将の命に茜とミズノミヤ様は雲隠の双子を引き寄せる。

『地獣キネコよ、第三闘戯場の主として見事な戦であったぞ』
『お褒めにあずかり光栄でございます!!』
 膝をついたまま必死で虚空に叫ぶ大虎剣闘士。
(こっ、これは……あの時と全く同じや!! あの黒巫女がまさか……ヤミノミヤなのか?)
 重大な事実に気が付くも、金縛りの如く声も出ない英里子。
『そなたが武人の鑑であることはわかっておるが……その敵にも気遣う優しさはただの愚でしかない』
『……』
『故に我はそなたに力を与えよう、縛りから放たれて存分に暴れるが良い』
『それだけはお許しください!! 私は……』
『七魂(セブンソウル):参乃魂』
『うっ……ぐおっ……がっ……』
 謎の女の詠唱と同時に頭を抱えて苦しみだすキネコ、その穏やかな眼の瞳孔は真っ赤に染まって行く。
『ヤミネ……コ、くもが、くれ……はや、く……にげろ!!』
 キネコは最後に残った理性で必死に叫ぶ。

【第23話につづく】
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