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第四章:『闇乃宮参ノ闘戯場/地獣キネコ』
【第23話】
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闇乃宮のどこか、燭台上の和ろうそくに黒い火が灯る黒板張りの間。
「いまの詠唱は何なの!? あなた、何をしたの!?」
第三闘戯場コロッセオ内でチノミヤさん、英里子、フウさんを前に目を血走らせ、獣のように咆哮を上げる大虎剣闘士・キネコを映し出す大判銅鏡。
右腕の瘴気帯で水神紋を封じられつつも座敷牢から出され、薄い着物に手足に枷で拘束されたままそれを見ていた美香は顔も見せない御簾内の女性に問う。
『……水神紋のもののふ殿、生命力と言う概念はご存じかな?』
辛うじて女性のモノとわかる抑揚のない低い声で質問返しする謎の貴人。
「生命力ですか? 私は個人的に好きではないんですけど、以前英里子ちゃんがオススメしてくれた漫画で何かそう言うのが人の形になってみたいなのがありましたね……」
質問を質問で返された美香は記憶をたぐり寄せる。
『そなたらにはわからぬ概念であろうが、わらわを含む神とそれに準ずる者のみならず、肉体を持つ生命体の全ては生命力の塊と核となる魂で構成されている。
サンが干渉出来るのは生命力の領域までであるが、わらわは生命力のみならず核となる魂にも干渉できるのである』
「はい、そうなんですね……つまりは?」
ファンタジーで厨二なマヨイガの儀を達成したもののふである美香でも理解できないスピリチュアルなお話に首を傾げてしまう美香。
『……これを見よ』
御簾内の畳上で体をずらす衣擦れの音と共にその中から出てきた白く細い腕。
その手に握られたのはまだ青い小さな柑橘類だ。
『死(し)』
「!!」
御簾内の詠唱と共に黒い瘴気に包まれ、黒く干からびてしわしわのカサカサになっていく果物。
『生(せい)』
別の詠唱を受けた瞬間、柔らかな光に包まれてむくむくと元の状態に戻りはじめる果物。
その再生は最初の青い未熟な状態を通り越しても止まらず、大きく丸くてパンパンに熟した橙色の果実にまで一気に成長してしまう。
『今のは表面的な生命力を奪い与え操ったまで……その根幹にして比較にならない程の力を秘めた魂にこれをすればどうなるかは、わかるな?』
今の説明を100%理解できたわけではないがこの中にいる女性はタメシヤノミコト様と同等、もしくはそれ以上の力を持つ武神の類だ。
柑橘類と共に引っ込んだ細く白い腕があった御簾から眼前の銅鏡に目を移した美香は探さんと大切な子供達、そして大虎男と対峙する英里子ちゃん達の無事を祈る。
「チッ、チノミヤさん!! これはあかん奴や、ホンマに八つ裂きやで!!」
鋭い牙をむき出しにした大口を開き、真っ赤な眼で自分達を睨んで来る暴走キネコを前に立ちすくむ英里子。
「とにかく俺が奴と最前線で戦う!! お前たちはサポートを頼むぞ、それしかない!!」
ネイビースタイルのまま再度身構えるチノミヤノミコト様。
とにかく相打ちになっても最低限一矢報いるぐらいの覚悟でやるしかない、チノミヤノミコト様の背中にそれを察した英里子と式神フウは身構える。
『グワォッ!!』
しかしながら3人に背を向けてコロッセオの壁に向かう暴走キネコ。
「ええっ!?」
野獣の如く突撃してくると予想していた3人の驚きの声に構う事無く煉瓦の壁にパンチを喰らわせるキネコ。
壁内の空洞に隠されていたドクロマーク付きの大きな赤いボタンを露出させる。
『やめろ、キネコ!!』
『ボチットナァァァ!!』
慌てて立ち上がって叫ぶヤミネコの声も虚しく、ポチっと押し込まれてしまうスイッチ。
ガタンと言う振動と共にコロッセオに敷き詰められた砂がサワサワと動き出す。
「なっ、なんや?」
「砂が……中央に渦巻いて流れているのか?」
「おいおい、なんか強くなっているぞ?」
京都や奈良のアーティスティックな石庭のような渦を形成していく地面に戸惑うばかりの3人。
『お前たち、早く上がれ!!』
「暗黒卿!?」
そんな中、決死の声と共に縄はしごを投げ落として来るヤミネコ。
『そのトラップを発動させた以上、そいつは今動けないはずだ!! 早くしろ!!』
「……2人共、先に行け!!」
しんがりとして敵をけん制し続けるチノミヤノミコト様の命ですぐに縄ばしごに向かう英里子と式神フウ。
『バオォォォォン!!』
「うおっ!!」「きゃあ!!」
突如中央がボコンとへこみ、砂に足を取られ続ける高速回転アリジゴクと化した第三闘戯場。
砂に正面から倒れた2人はもがくも虚しくアリジゴクに回転しながら転げ落ちて行く。
【第24話につづく】
「いまの詠唱は何なの!? あなた、何をしたの!?」
第三闘戯場コロッセオ内でチノミヤさん、英里子、フウさんを前に目を血走らせ、獣のように咆哮を上げる大虎剣闘士・キネコを映し出す大判銅鏡。
右腕の瘴気帯で水神紋を封じられつつも座敷牢から出され、薄い着物に手足に枷で拘束されたままそれを見ていた美香は顔も見せない御簾内の女性に問う。
『……水神紋のもののふ殿、生命力と言う概念はご存じかな?』
辛うじて女性のモノとわかる抑揚のない低い声で質問返しする謎の貴人。
「生命力ですか? 私は個人的に好きではないんですけど、以前英里子ちゃんがオススメしてくれた漫画で何かそう言うのが人の形になってみたいなのがありましたね……」
質問を質問で返された美香は記憶をたぐり寄せる。
『そなたらにはわからぬ概念であろうが、わらわを含む神とそれに準ずる者のみならず、肉体を持つ生命体の全ては生命力の塊と核となる魂で構成されている。
サンが干渉出来るのは生命力の領域までであるが、わらわは生命力のみならず核となる魂にも干渉できるのである』
「はい、そうなんですね……つまりは?」
ファンタジーで厨二なマヨイガの儀を達成したもののふである美香でも理解できないスピリチュアルなお話に首を傾げてしまう美香。
『……これを見よ』
御簾内の畳上で体をずらす衣擦れの音と共にその中から出てきた白く細い腕。
その手に握られたのはまだ青い小さな柑橘類だ。
『死(し)』
「!!」
御簾内の詠唱と共に黒い瘴気に包まれ、黒く干からびてしわしわのカサカサになっていく果物。
『生(せい)』
別の詠唱を受けた瞬間、柔らかな光に包まれてむくむくと元の状態に戻りはじめる果物。
その再生は最初の青い未熟な状態を通り越しても止まらず、大きく丸くてパンパンに熟した橙色の果実にまで一気に成長してしまう。
『今のは表面的な生命力を奪い与え操ったまで……その根幹にして比較にならない程の力を秘めた魂にこれをすればどうなるかは、わかるな?』
今の説明を100%理解できたわけではないがこの中にいる女性はタメシヤノミコト様と同等、もしくはそれ以上の力を持つ武神の類だ。
柑橘類と共に引っ込んだ細く白い腕があった御簾から眼前の銅鏡に目を移した美香は探さんと大切な子供達、そして大虎男と対峙する英里子ちゃん達の無事を祈る。
「チッ、チノミヤさん!! これはあかん奴や、ホンマに八つ裂きやで!!」
鋭い牙をむき出しにした大口を開き、真っ赤な眼で自分達を睨んで来る暴走キネコを前に立ちすくむ英里子。
「とにかく俺が奴と最前線で戦う!! お前たちはサポートを頼むぞ、それしかない!!」
ネイビースタイルのまま再度身構えるチノミヤノミコト様。
とにかく相打ちになっても最低限一矢報いるぐらいの覚悟でやるしかない、チノミヤノミコト様の背中にそれを察した英里子と式神フウは身構える。
『グワォッ!!』
しかしながら3人に背を向けてコロッセオの壁に向かう暴走キネコ。
「ええっ!?」
野獣の如く突撃してくると予想していた3人の驚きの声に構う事無く煉瓦の壁にパンチを喰らわせるキネコ。
壁内の空洞に隠されていたドクロマーク付きの大きな赤いボタンを露出させる。
『やめろ、キネコ!!』
『ボチットナァァァ!!』
慌てて立ち上がって叫ぶヤミネコの声も虚しく、ポチっと押し込まれてしまうスイッチ。
ガタンと言う振動と共にコロッセオに敷き詰められた砂がサワサワと動き出す。
「なっ、なんや?」
「砂が……中央に渦巻いて流れているのか?」
「おいおい、なんか強くなっているぞ?」
京都や奈良のアーティスティックな石庭のような渦を形成していく地面に戸惑うばかりの3人。
『お前たち、早く上がれ!!』
「暗黒卿!?」
そんな中、決死の声と共に縄はしごを投げ落として来るヤミネコ。
『そのトラップを発動させた以上、そいつは今動けないはずだ!! 早くしろ!!』
「……2人共、先に行け!!」
しんがりとして敵をけん制し続けるチノミヤノミコト様の命ですぐに縄ばしごに向かう英里子と式神フウ。
『バオォォォォン!!』
「うおっ!!」「きゃあ!!」
突如中央がボコンとへこみ、砂に足を取られ続ける高速回転アリジゴクと化した第三闘戯場。
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