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第2編 〜先輩のことがもっと知りたいです〜
先輩はどう思いますか?
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五月も残りあと一週間となった頃。
あかりと皐月先輩が生徒会の仕事を終えて、美術部の部室に向かうと、希望が遊びに来ていた。
「やっほーあかり」
「今日も遊びに来てくれたんだね、希望」
部室の奥の方の椅子に座って手を振る希望に、あかりは驚かずに手を振り返して答える。
驚かないのも当然だった。希望は入部して以来、ちょいちょい部活に顔を出しに来てくれているのだ。部員ではないのに、あかりがちゃんと馴染めているのかというのを心配してくれているのだろう。希望の部活は大丈夫なのかと以前聞いたところ、部活動の開始時間が少し遅いらしく、問題ないとのことだった。
「ちょっとあかり借りてってもいいですか?」
「えっ?」
立ち上がって、すぐ隣で絵を描いている柚葉先輩に声を掛ける希望。先輩はその言葉にいいよ~と答えて作業に再び集中する。
「ちょっとあかり来てもらっていい?」
「う、うん?」
そう聞きながらすでにあかりの腕を掴んで部室から出て行こうとする希望に、あかりはされるがままについて行く。そのまま玄関で靴を履き替えて校舎の裏手に出る。一体どうしてこんな場所に希望は呼び出したのだろうと考えているあかりに、希望は話し始める。
「あかり、相談があるんだけど」
うつむきながら頬を赤くする希望に、あかりはすぐに相談内容を悟る。
「希望の相談ならいくらでも聞くよ」
あかりは笑顔でそう答える。おそらく恋愛相談なのだろうと思っていたあかりは、恋愛経験はないけれど、希望のためなら精一杯応えようと思っていた。
「アタシさ」
一呼吸おいて希望は続ける。
「明久先輩のことが好きなんだよね」
やっぱり恋愛相談だった。希望がせっかく頼ってくれているんだから、頑張らなくちゃと気合をいれる。
あれ? えっと、今なんて?
あかりは理解が追いつかなかった。希望が今好きだと言った相手の名前は、あかりも知っている人物の名前だった。
「明久先輩って、豊田先輩のこと?」
「そう」
思わず聞き返すあかりに、すぐに肯定を入れる希望。
なんということだろうか。希望が豊田先輩を好きだったなんてあかりは予想もつかなかった。正直最近は周りで喧嘩や困り事などがあったから、それ以外のことに目を向ける余裕がなかった。
「えっと、いつからっていうのは聞いてもいい?」
これを聞かないことには話が進まないと思ったあかりはとりあえず聞いてみる。
「きっかけは、この前の柚葉先輩の誕生日の時なんだけど」
そう言いながら少し恥ずかしそうに俯く希望はさらに続ける。
「あの日って柚葉先輩のために誕生日プレゼントを用意してくれてたんでしょ? 初めて部室で会った時から少し気になってはいたんだけど、その姿を見た瞬間に胸がキュンってきちゃったんだよね。」
「そうなんだね」
希望の説明を受けて、あかりは頷くことしかできなかった。
希望は誕生日の一件があったにも関わらず、恐らく柚葉先輩と豊田先輩が両想いということに気づいていないのだろう。だからなおさら何も言えない。教えてしまえば、希望がショックを受けるだろうし、でも、言わずに告白まで行ってしまっても振られてしまう可能性は高い。そうなると傷つくのは希望だ。
どっちを選択しても希望を傷付けてしまう選択に、あかりは答えを出せずにいた。
「年下なんてダメかな? 先輩の隣には幼馴染の柚葉先輩がいるし、アタシなんか無理かなぁ…」
「そ、そんなことない! 希望だって可愛いよ!」
弱々しく震えている希望を見たあかりは、とっさにフォローする。しかし、それはあかりにとって、軽薄なことを言ってしまったという後悔でしかなかった。
「アタシにもチャンスあるかな?」
「諦めなければ誰にだってチャンスはあるよ!」
希望の質問に答えたのはあかりではなく、後ろから歩いてきた皐月先輩だった。
「皐月先輩!?」
「諦めたらそこまでだよ」
驚くあかりをよそに、皐月先輩はまっすぐ希望の目を見て話す。
「ごめんね、少し気になって盗み聞きしちゃってた。でも、私は、希望ちゃんは諦めちゃダメだと思うな」
皐月先輩は希望の手を握って応援している。皐月先輩に手を握ってもらえることを、羨ましいとこんな時に感じてしまったあかりは、それが顔に出ないように必死に抑える。
「皐月先輩はそう思いますか?」
希望は皐月先輩に同意を求める。その自信のなさそうな彼女の瞳にはうっすらと涙が滲んでいた。
「私は、たとえ可能性が低くても、挑戦しないと絶対後で後悔すると思ってるからさ」
皐月先輩は希望の手を離し、続ける。
「どんな窮地な場面の試合でも最後まで諦めなければ、最終局面で挽回することができるかもしれない。それを諦めるってことは、最初からそれを棒に振るってことだから」
皐月先輩の言うことは正しいのかもしれない。でも、告白において、それは危険な橋を渡る行為だ。だから自分はその言葉をすぐに希望に返せなかった。
あかりは、皐月先輩の言葉を聞いて、やはり自分は親友の背中を押すべきだったと思った。そんな自分の情けなさに落ち込みながらも、あかりは皐月先輩がかっこいいと思った。
「そうですね。挑戦してみることが大事ですよね」
そう答えた希望は自分の右手を胸の前で握りしめて力強く頷いた。
皐月先輩の希望への優しさに、あかりは胸の奥が締め付けられるような気持ちになっていた。
「そうだよ! 頑張って、希望ちゃん!」
「はい!」
皐月先輩の応援ににっこり笑って答える希望。そしてあかりにも礼を言い、希望は部活動の方に向かっていった。
「皐月先輩、柚葉先輩と豊田先輩のことはどう思いますか?」
「ゆず? 確かに幼馴染だけど、二人付き合ってるわけじゃないし、大丈夫じゃない?」
あかりが小さな声で聞くと、皐月先輩はそう答えた。
まさか皐月先輩もあの二人の関係を知らなかったとは思わなかった。知っている前提でまだチャンスがあると言っているかと思っていた。確かに付き合っているわけではないだろうからチャンスはあるのだろうけれど。
「まぁ確かにあの二人は仲がいいから、両思いでもおかしくはないよね」
あははと笑いながら皐月先輩は言う。
その両思いなんですよ! 間違いなくあの二人は!
そうあかりは思い、自分の告白に気づいてもらえないことにも少し納得ができた。
この人はかなり恋愛ごとに関して鈍感、なのだと。
周りを見る力があって、気配りができるということは生徒会でも見てきたから知っていたけれど、ここまで恋愛ごとに鈍感だとは、あかりは思わなかったのだ。
「希望、頑張ってね、応援してるから」
誰にも聞こえないように小さな声で呟く。
そうして翌日、あかりは部室に向かおうとして渡り廊下を歩いていた時、ふと近くで希望の声が聞こえた。声のする方へ行ってみると、校舎から少し離れた位置の木の下で、希望と豊田先輩が話しているようだった。あかりはすぐに告白だと思い、とっさに物陰に隠れてしまった。
「…ということなんです。だから先輩、私と付き合ってください!」
希望の叫びにも似た告白が聞こえた。気づいた瞬間に、離れていけばよかったのに、結果が気になってしまったあかりは盗み聞きをしてしまう。
希望は目を瞑り、祈るように両手を胸の前で握りしめていた。その姿を見たあかりは、自分の姿を重ねていた。皐月先輩に気持ちを告げたあの時の自分を。
そして一呼吸という、当事者ではないあかりにすらとても長く感じた時間が過ぎて、豊田先輩の口が開かれた。
「ごめん」
「柚葉先輩がいるのはわかってます! でも…先輩とは学年が違うからですか? 年下じゃ、幼馴染じゃなきゃ、同じ舞台に立つこともできないですか?」
うつむいて泣きながらそう告げる希望。
「いつだって先輩のうしろ姿を見つめることしかできない…。一緒に授業を受けて、勉強だって一緒にできないし、先輩が卒業してしまう時も、おめでとうって言うことしかできない。」
うつむいていた顔を上げ、豊田先輩の顔をまっすぐ見つめる希望は告げる。
「でも! 私だって一緒に隣を歩きたいんです!」
その言葉を聞いたあかりは、希望のその必死な想いに涙を流さずにはいられなかった。希望の言葉に、自分にも思うところがあったから。
そして再びうつむいて両手で顔を覆う希望に、ゆっくりと、優しく頭を撫でる豊田先輩。
「そんなことない。顔を上げてくれよ、一色」
その言葉に希望は涙ぐんだ顔を上げ、豊田先輩は微笑む。
「俺は嬉しかったよ。一色が年下なんて関係ないし、幼馴染ってことも大きな問題じゃない。一色は元気もあって可愛いし、まっすぐ想いを告げてくれた」
希望の頭から手を離し、大きく深呼吸をした豊田先輩は再び口を開く。
「だから俺もまっすぐ答えるよ。俺は、柚葉が好きだ。あいつが幼馴染だからじゃない、あいつがあいつだから好きなんだ」
希望はその言葉を聞いて、涙を拭う。豊田先輩を見てにっこりと笑う。
「そうですよね。その恋を応援することはできないですけど、成功するといいですね。でも!」
希望は続ける。
「アタシは先輩のこと諦めませんから。」
豊田先輩の胸に右手の拳を当てて宣言する希望。その姿はどこまでも澄み切った青い空のように晴れやかな光景にあかりは思えた。
そして豊田先輩がその場を去った後、希望はこちらに向いた。
「もう出てきていいよ、あかり」
気づかれていた。あかりは正直に希望の前に行く。
「ごめん、つい盗み聞きしちゃってた」
「ううんいいよ、あかりなら」
希望はさっきの笑顔が嘘のように元気を失っていた。それもそのはずだ。告白をして振られてしまったのだから。最後は強がりをしていたのだろう。
希望はあかりに抱きついて再び泣き始める。それをあかりはそっと抱きしめる。
「アタシ、振られちゃった。柚葉先輩が好きだって」
あかりは希望の言葉に今は頷くことしかできなかった。
あかりは親友の言葉を優しく包んであげたいという気持ちでいっぱいだった。
翌日、希望はいつも通りの笑顔で教室にいた。あかりは希望のことを心配していた。昨日の告白で落ち込んで休んでしまうのではないかと。
そんなあかりの様子に気づいたのか、希望はあかりににっこり笑う。
「もう心配いらないよ、あかり。昨日帰ってからもいっぱい泣いたから!」
その親友の晴れ晴れとした笑顔にあかりも笑顔になった。
あかりと皐月先輩が生徒会の仕事を終えて、美術部の部室に向かうと、希望が遊びに来ていた。
「やっほーあかり」
「今日も遊びに来てくれたんだね、希望」
部室の奥の方の椅子に座って手を振る希望に、あかりは驚かずに手を振り返して答える。
驚かないのも当然だった。希望は入部して以来、ちょいちょい部活に顔を出しに来てくれているのだ。部員ではないのに、あかりがちゃんと馴染めているのかというのを心配してくれているのだろう。希望の部活は大丈夫なのかと以前聞いたところ、部活動の開始時間が少し遅いらしく、問題ないとのことだった。
「ちょっとあかり借りてってもいいですか?」
「えっ?」
立ち上がって、すぐ隣で絵を描いている柚葉先輩に声を掛ける希望。先輩はその言葉にいいよ~と答えて作業に再び集中する。
「ちょっとあかり来てもらっていい?」
「う、うん?」
そう聞きながらすでにあかりの腕を掴んで部室から出て行こうとする希望に、あかりはされるがままについて行く。そのまま玄関で靴を履き替えて校舎の裏手に出る。一体どうしてこんな場所に希望は呼び出したのだろうと考えているあかりに、希望は話し始める。
「あかり、相談があるんだけど」
うつむきながら頬を赤くする希望に、あかりはすぐに相談内容を悟る。
「希望の相談ならいくらでも聞くよ」
あかりは笑顔でそう答える。おそらく恋愛相談なのだろうと思っていたあかりは、恋愛経験はないけれど、希望のためなら精一杯応えようと思っていた。
「アタシさ」
一呼吸おいて希望は続ける。
「明久先輩のことが好きなんだよね」
やっぱり恋愛相談だった。希望がせっかく頼ってくれているんだから、頑張らなくちゃと気合をいれる。
あれ? えっと、今なんて?
あかりは理解が追いつかなかった。希望が今好きだと言った相手の名前は、あかりも知っている人物の名前だった。
「明久先輩って、豊田先輩のこと?」
「そう」
思わず聞き返すあかりに、すぐに肯定を入れる希望。
なんということだろうか。希望が豊田先輩を好きだったなんてあかりは予想もつかなかった。正直最近は周りで喧嘩や困り事などがあったから、それ以外のことに目を向ける余裕がなかった。
「えっと、いつからっていうのは聞いてもいい?」
これを聞かないことには話が進まないと思ったあかりはとりあえず聞いてみる。
「きっかけは、この前の柚葉先輩の誕生日の時なんだけど」
そう言いながら少し恥ずかしそうに俯く希望はさらに続ける。
「あの日って柚葉先輩のために誕生日プレゼントを用意してくれてたんでしょ? 初めて部室で会った時から少し気になってはいたんだけど、その姿を見た瞬間に胸がキュンってきちゃったんだよね。」
「そうなんだね」
希望の説明を受けて、あかりは頷くことしかできなかった。
希望は誕生日の一件があったにも関わらず、恐らく柚葉先輩と豊田先輩が両想いということに気づいていないのだろう。だからなおさら何も言えない。教えてしまえば、希望がショックを受けるだろうし、でも、言わずに告白まで行ってしまっても振られてしまう可能性は高い。そうなると傷つくのは希望だ。
どっちを選択しても希望を傷付けてしまう選択に、あかりは答えを出せずにいた。
「年下なんてダメかな? 先輩の隣には幼馴染の柚葉先輩がいるし、アタシなんか無理かなぁ…」
「そ、そんなことない! 希望だって可愛いよ!」
弱々しく震えている希望を見たあかりは、とっさにフォローする。しかし、それはあかりにとって、軽薄なことを言ってしまったという後悔でしかなかった。
「アタシにもチャンスあるかな?」
「諦めなければ誰にだってチャンスはあるよ!」
希望の質問に答えたのはあかりではなく、後ろから歩いてきた皐月先輩だった。
「皐月先輩!?」
「諦めたらそこまでだよ」
驚くあかりをよそに、皐月先輩はまっすぐ希望の目を見て話す。
「ごめんね、少し気になって盗み聞きしちゃってた。でも、私は、希望ちゃんは諦めちゃダメだと思うな」
皐月先輩は希望の手を握って応援している。皐月先輩に手を握ってもらえることを、羨ましいとこんな時に感じてしまったあかりは、それが顔に出ないように必死に抑える。
「皐月先輩はそう思いますか?」
希望は皐月先輩に同意を求める。その自信のなさそうな彼女の瞳にはうっすらと涙が滲んでいた。
「私は、たとえ可能性が低くても、挑戦しないと絶対後で後悔すると思ってるからさ」
皐月先輩は希望の手を離し、続ける。
「どんな窮地な場面の試合でも最後まで諦めなければ、最終局面で挽回することができるかもしれない。それを諦めるってことは、最初からそれを棒に振るってことだから」
皐月先輩の言うことは正しいのかもしれない。でも、告白において、それは危険な橋を渡る行為だ。だから自分はその言葉をすぐに希望に返せなかった。
あかりは、皐月先輩の言葉を聞いて、やはり自分は親友の背中を押すべきだったと思った。そんな自分の情けなさに落ち込みながらも、あかりは皐月先輩がかっこいいと思った。
「そうですね。挑戦してみることが大事ですよね」
そう答えた希望は自分の右手を胸の前で握りしめて力強く頷いた。
皐月先輩の希望への優しさに、あかりは胸の奥が締め付けられるような気持ちになっていた。
「そうだよ! 頑張って、希望ちゃん!」
「はい!」
皐月先輩の応援ににっこり笑って答える希望。そしてあかりにも礼を言い、希望は部活動の方に向かっていった。
「皐月先輩、柚葉先輩と豊田先輩のことはどう思いますか?」
「ゆず? 確かに幼馴染だけど、二人付き合ってるわけじゃないし、大丈夫じゃない?」
あかりが小さな声で聞くと、皐月先輩はそう答えた。
まさか皐月先輩もあの二人の関係を知らなかったとは思わなかった。知っている前提でまだチャンスがあると言っているかと思っていた。確かに付き合っているわけではないだろうからチャンスはあるのだろうけれど。
「まぁ確かにあの二人は仲がいいから、両思いでもおかしくはないよね」
あははと笑いながら皐月先輩は言う。
その両思いなんですよ! 間違いなくあの二人は!
そうあかりは思い、自分の告白に気づいてもらえないことにも少し納得ができた。
この人はかなり恋愛ごとに関して鈍感、なのだと。
周りを見る力があって、気配りができるということは生徒会でも見てきたから知っていたけれど、ここまで恋愛ごとに鈍感だとは、あかりは思わなかったのだ。
「希望、頑張ってね、応援してるから」
誰にも聞こえないように小さな声で呟く。
そうして翌日、あかりは部室に向かおうとして渡り廊下を歩いていた時、ふと近くで希望の声が聞こえた。声のする方へ行ってみると、校舎から少し離れた位置の木の下で、希望と豊田先輩が話しているようだった。あかりはすぐに告白だと思い、とっさに物陰に隠れてしまった。
「…ということなんです。だから先輩、私と付き合ってください!」
希望の叫びにも似た告白が聞こえた。気づいた瞬間に、離れていけばよかったのに、結果が気になってしまったあかりは盗み聞きをしてしまう。
希望は目を瞑り、祈るように両手を胸の前で握りしめていた。その姿を見たあかりは、自分の姿を重ねていた。皐月先輩に気持ちを告げたあの時の自分を。
そして一呼吸という、当事者ではないあかりにすらとても長く感じた時間が過ぎて、豊田先輩の口が開かれた。
「ごめん」
「柚葉先輩がいるのはわかってます! でも…先輩とは学年が違うからですか? 年下じゃ、幼馴染じゃなきゃ、同じ舞台に立つこともできないですか?」
うつむいて泣きながらそう告げる希望。
「いつだって先輩のうしろ姿を見つめることしかできない…。一緒に授業を受けて、勉強だって一緒にできないし、先輩が卒業してしまう時も、おめでとうって言うことしかできない。」
うつむいていた顔を上げ、豊田先輩の顔をまっすぐ見つめる希望は告げる。
「でも! 私だって一緒に隣を歩きたいんです!」
その言葉を聞いたあかりは、希望のその必死な想いに涙を流さずにはいられなかった。希望の言葉に、自分にも思うところがあったから。
そして再びうつむいて両手で顔を覆う希望に、ゆっくりと、優しく頭を撫でる豊田先輩。
「そんなことない。顔を上げてくれよ、一色」
その言葉に希望は涙ぐんだ顔を上げ、豊田先輩は微笑む。
「俺は嬉しかったよ。一色が年下なんて関係ないし、幼馴染ってことも大きな問題じゃない。一色は元気もあって可愛いし、まっすぐ想いを告げてくれた」
希望の頭から手を離し、大きく深呼吸をした豊田先輩は再び口を開く。
「だから俺もまっすぐ答えるよ。俺は、柚葉が好きだ。あいつが幼馴染だからじゃない、あいつがあいつだから好きなんだ」
希望はその言葉を聞いて、涙を拭う。豊田先輩を見てにっこりと笑う。
「そうですよね。その恋を応援することはできないですけど、成功するといいですね。でも!」
希望は続ける。
「アタシは先輩のこと諦めませんから。」
豊田先輩の胸に右手の拳を当てて宣言する希望。その姿はどこまでも澄み切った青い空のように晴れやかな光景にあかりは思えた。
そして豊田先輩がその場を去った後、希望はこちらに向いた。
「もう出てきていいよ、あかり」
気づかれていた。あかりは正直に希望の前に行く。
「ごめん、つい盗み聞きしちゃってた」
「ううんいいよ、あかりなら」
希望はさっきの笑顔が嘘のように元気を失っていた。それもそのはずだ。告白をして振られてしまったのだから。最後は強がりをしていたのだろう。
希望はあかりに抱きついて再び泣き始める。それをあかりはそっと抱きしめる。
「アタシ、振られちゃった。柚葉先輩が好きだって」
あかりは希望の言葉に今は頷くことしかできなかった。
あかりは親友の言葉を優しく包んであげたいという気持ちでいっぱいだった。
翌日、希望はいつも通りの笑顔で教室にいた。あかりは希望のことを心配していた。昨日の告白で落ち込んで休んでしまうのではないかと。
そんなあかりの様子に気づいたのか、希望はあかりににっこり笑う。
「もう心配いらないよ、あかり。昨日帰ってからもいっぱい泣いたから!」
その親友の晴れ晴れとした笑顔にあかりも笑顔になった。
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https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/734700789
作者ツイッター: twitter/minori_sui
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