僕とあなたの地獄-しあわせ-

薔 薇埜(みずたで らの)

文字の大きさ
53 / 152
第3章 火宅之境

49

しおりを挟む

昨日は結局あの後、何かするわけでもなく先に寝ててくれとだけ言われて、静先輩はトイレに立った。

「おい、あいつ・・・・・・」

それですぐには戻って来なかったから、本当に先に寝てしまった。
そして今朝も僕が起きた時には既に静先輩も起きていたから、夜どうしたのかはさっぱりわからないままだった。

「桐生くん、大学で隠してただけじゃなくて・・・・・・」

起きてからも昨日のことには出来るだけ触れないようにしながら、すっかり忘れていた傷の手当てをした。
鎖骨と手についた血はカピカピに渇いてて若干枕にもついていたから、枕は洗濯に鎖骨と手は洗い流して傷口には大きな絆創膏を張った。
ちなみに絆創膏は昨日からしているマフラーで一緒に隠れているから、誰にも見られてはいない。

「Ωの苦労なんてひとつも・・・・・・」

今日の講義は2限からで、傷の手当やら洗濯やらをゆっくり準備してから二人で出てきた。
大学に着くまでは歩きだ電車だと、知らない人ばかりで特に何もなかったのだが。
大学に着いて静先輩と分かれてから、構内を進むにつれてどんどん人の目が自分に向いてきている。
気がするのではなく、こっちを指さしてぼそぼそとぎりぎり僕に聞こえるような声で話しているから間違いない。

昨日大学から帰る頃にはこんな視線はなくて、違うものに変わっていたはずなのに。
今は昨日の朝と同じ状況に逆戻りしている。
むしろ、なんだか、あの時より、ひどいような・・・・・・。

「桐生ってあの桐生製薬の次男らしいぞ。確かあそこん家、家族円満で有名だったはず・・・・・・」

バレ、てる。

っ!?

なんで
なんで
なんで

一体どこからその事が漏れたんだ。
僕があの桐生だって知ってる人なんて、ほとんどいないはずなのに。

うちは両親義兄含め4人で仲良し家族なことが有名だ。
家族自慢が好きな両親があちこちで言いふらしているからだ。
唯一一度もメディアに出たことがない僕のことだけは、第2性含め個人情報の殆どを隠してはいる。

でも、それだけで十分なんだ。
現実では僕とその桐生が繋がった瞬間、 芋づる式的に全部が分かる程の情報が世間にはある。

僕の家での扱いがバレるのに時間は必要ないんだ。

でもそもそもその肝心な僕とあの桐生との関係を知ってる人は殆どいないはずなんだ。
バレるはずがないんだ。
自分でも常に警戒して、出来るだけ接点が出来ないようにそれらしい事から何から隠してた。

だから油断してた分、その事実が津波のように激しく襲いかかってくる。

「桐生のやつ、Ωの分際で他人だけじゃなく、家族にまで大事にされてたんだ。同じΩなのに、あいつはその苦労を何ひとつ知らないっ!!」

しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

奇跡に祝福を

善奈美
BL
 家族に爪弾きにされていた僕。高等部三学年に進級してすぐ、四神の一つ、西條家の後継者である彼が記憶喪失になった。運命であると僕は知っていたけど、ずっと避けていた。でも、記憶がなくなったことで僕は彼と過ごすことになった。でも、記憶が戻ったら終わり、そんな関係だった。 ※不定期更新になります。

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。

【完結済】極上アルファを嵌めた俺の話

降魔 鬼灯
BL
 ピアニスト志望の悠理は子供の頃、仲の良かったアルファの東郷司にコンクールで敗北した。  両親を早くに亡くしその借金の返済が迫っている悠理にとって未成年最後のこのコンクールの賞金を得る事がラストチャンスだった。  しかし、司に敗北した悠理ははオメガ専用の娼館にいくより他なくなってしまう。  コンサート入賞者を招いたパーティーで司に想い人がいることを知った悠理は地味な自分がオメガだとバレていない事を利用して司を嵌めて慰謝料を奪おうと計画するが……。  

36.8℃

月波結
BL
高校2年生、音寧は繊細なΩ。幼馴染の秀一郎は文武両道のα。 ふたりは「番候補」として婚約を控えながら、音寧のフェロモンの影響で距離を保たなければならない。 近づけば香りが溢れ、ふたりの感情が揺れる。音寧のフェロモンは、バニラビーンズの甘い香りに例えられ、『運命の番』と言われる秀一郎の身体はそれに強く反応してしまう。 制度、家族、将来——すべてがふたりを結びつけようとする一方で、薬で抑えた想いは、触れられない手の間をすり抜けていく。 転校生の肇くんとの友情、婚約者候補としての葛藤、そして「待ってる」の一言が、ふたりの未来を静かに照らす。 36.8℃の微熱が続く日々の中で、ふたりは“運命”を選び取ることができるのか。 香りと距離、運命、そして選択の物語。

人生はままならない

野埜乃のの
BL
「おまえとは番にならない」 結婚して迎えた初夜。彼はそう僕にそう告げた。 異世界オメガバース ツイノベです

【本編完結】あれで付き合ってないの? ~ 幼馴染以上恋人未満 ~

一ノ瀬麻紀
BL
産まれた時から一緒の二人は、距離感バグった幼馴染。 そんな『幼馴染以上恋人未満』の二人が、周りから「え? あれでまだ付き合ってないの?」と言われつつ、見守られているお話。 オメガバースですが、Rなし全年齢BLとなっています。 (ほんのりRの番外編は『麻紀の色々置き場』に載せてあります) 番外編やスピンオフも公開していますので、楽しんでいただけると嬉しいです。 11/15 より、「太陽の話」(スピンオフ2)を公開しました。完結済。 表紙と挿絵は、トリュフさん(@trufflechocolat)

処理中です...