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第3章 火宅之境
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しおりを挟む昨日は結局あの後、何かするわけでもなく先に寝ててくれとだけ言われて、静先輩はトイレに立った。
「おい、あいつ・・・・・・」
それですぐには戻って来なかったから、本当に先に寝てしまった。
そして今朝も僕が起きた時には既に静先輩も起きていたから、夜どうしたのかはさっぱりわからないままだった。
「桐生くん、大学で隠してただけじゃなくて・・・・・・」
起きてからも昨日のことには出来るだけ触れないようにしながら、すっかり忘れていた傷の手当てをした。
鎖骨と手についた血はカピカピに渇いてて若干枕にもついていたから、枕は洗濯に鎖骨と手は洗い流して傷口には大きな絆創膏を張った。
ちなみに絆創膏は昨日からしているマフラーで一緒に隠れているから、誰にも見られてはいない。
「Ωの苦労なんてひとつも・・・・・・」
今日の講義は2限からで、傷の手当やら洗濯やらをゆっくり準備してから二人で出てきた。
大学に着くまでは歩きだ電車だと、知らない人ばかりで特に何もなかったのだが。
大学に着いて静先輩と分かれてから、構内を進むにつれてどんどん人の目が自分に向いてきている。
気がするのではなく、こっちを指さしてぼそぼそとぎりぎり僕に聞こえるような声で話しているから間違いない。
昨日大学から帰る頃にはこんな視線はなくて、違うものに変わっていたはずなのに。
今は昨日の朝と同じ状況に逆戻りしている。
むしろ、なんだか、あの時より、ひどいような・・・・・・。
「桐生ってあの桐生製薬の次男らしいぞ。確かあそこん家、家族円満で有名だったはず・・・・・・」
バレ、てる。
っ!?
なんで
なんで
なんで
一体どこからその事が漏れたんだ。
僕があの桐生だって知ってる人なんて、ほとんどいないはずなのに。
うちは両親義兄含め4人で仲良し家族なことが有名だ。
家族自慢が好きな両親があちこちで言いふらしているからだ。
唯一一度もメディアに出たことがない僕のことだけは、第2性含め個人情報の殆どを隠してはいる。
でも、それだけで十分なんだ。
現実では僕とその桐生が繋がった瞬間、 芋づる式的に全部が分かる程の情報が世間にはある。
僕の家での扱いがバレるのに時間は必要ないんだ。
でもそもそもその肝心な僕とあの桐生との関係を知ってる人は殆どいないはずなんだ。
バレるはずがないんだ。
自分でも常に警戒して、出来るだけ接点が出来ないようにそれらしい事から何から隠してた。
だから油断してた分、その事実が津波のように激しく襲いかかってくる。
「桐生のやつ、Ωの分際で他人だけじゃなく、家族にまで大事にされてたんだ。同じΩなのに、あいつはその苦労を何ひとつ知らないっ!!」
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