隣国から留学してきたピンク頭の男爵令嬢です。対戦、よろしくお願いします!

くびのほきょう

文字の大きさ
2 / 18

02

しおりを挟む
フィオレ・カファロの本当の出自は、ヴィルガ王国貴族の間では公然の秘密。

ラコーニ公爵家へ降嫁した王女は一男一女を産んだ。その王女が産んだラコーニ公爵令嬢は、既婚者のカファロ公爵と不倫関係になり、未婚のまま女児を出産した。その婚外子がフィオレだ。
現ヴィルガ王室には王女がいないため、フィオレは実母の次に尊い未婚の令嬢になる。そんなフィオレが婚外子と認めることができない王家とラコーニ公爵家は、フィオレをラコーニ公爵夫妻の末娘として誤魔化すことにしたのだ。
フィオレを産んだ母は戸籍の上では姉に、元王女でラコーニ公爵夫人の祖母は戸籍の上では母ということになっている。

フィオレが7歳の時にカファロ公爵夫人が亡くなった。実母はすぐにカファロ公爵と婚姻しカファロ公爵夫人となり、それと同時にフィオレは実父カファロ公爵の養子となり、ラコーニ公爵令嬢からカファロ公爵令嬢となったのだ。

そんな正当な生い立ちとは言えないフィオレなのだが、その身体に流れている血の確かな貴さに、誰も何も言うことはできない。

後ろ暗い出自が弱みにならないように、名実ともに正しく貴族令嬢の見本になるようにと、フィオレは物心ついたばかりの幼い頃から様々な教育を受け、自分を高めるための努力をしてきた。
幼い頃は生まれへの劣等感から文句を言わずに厳しい教育を受け入れていたが、今は違う。今のフィオレが頑張っているのは、愛するレオポルドのため。歴史や言語、法律や税制、魔法陣など、ヴィルガ王国だけに限らず世界中ありとあらゆる知識を得て、礼儀作法やダンス、魔法などの実技も磨いているのは、全て、大好きなレオポルドが王太子だからだ。

母方の従兄弟で戸籍上では甥になる1歳上のラコーニ公爵令息ニコラスがレオポルドの側近候補に選ばれたのをいいことに、フィオレはニコラスに無理やり同伴して王城へ通い、第一王子レオポルド、第二王子アルフレードとその側近候補達の幼馴染の地位を手に入れた。

レオポルドは好奇心が旺盛で活発な優しい男の子だ。新しい魔道具を触る時には少しタレ目なオレンジ色の瞳を輝かせ、王城へ連れてこられた珍しい動物を近くで見たくてソワソワし、王城図書館が仕入れた本は誰よりも先に借りて読んでいた。
自分はたまたま現王の第一子として生まれただけと言いつつ、その出自に恥じぬように厳しい教育を嫌がることなく受けている。学問も体術も魔法も優秀。そんなレオポルドをフィオレは尊敬し、レオポルドの隣に立っても恥ずかしくない女性になるため更なる自己研鑽を決意した。

カファロ公爵令嬢でありながらラコーニ公爵家の権力も使えるフィオレにとって、同年代の令嬢達など赤子も同然。将来王妃として采配するために掌握するのはもちろん、ライバルとなりうる令嬢や野心のある令嬢は這い上がれないように蹴落としてきた。

その結果、同年代の貴族子女の中でフィオレより優秀な成績を収めているのは、フィオレの一つ上の王太子レオポルドと、同い年の第二王子アルフレードだけ。このヴィルガ王立学園でフィオレより優れた成績を収める令嬢は、どんな教科でもいない。

フィオレの人生の展望は完璧だった。……イエル・ドルチェという、ピンク頭に赤い瞳の甘ったるい見た目と愛嬌だけが取り柄の卑しい男爵令嬢が、ルオポロ王国からこのヴィルガ王立学園に留学してくる3ヶ月前までは。

今、フィオレの目線の先には馬車へ向かって歩くレオポルドとイエルの二人がいる。最近の二人は、どこへ行くのにも当然のように腕を組んで歩く。普通の友人関係で腕を組むことなどありえないというのに。

愛おしいという気持ちを隠さずイエルを見つめているレオポルドの表情は、幼い頃に王城で黒毛のチンチラを触った時と同じだ。ずっとレオポルドを見ていたフィオレは、レオポルドがイエルを可愛いと思い気に入っていることがわかる。

夏休みが明け2学期が始まってからしばらくした頃、フィオレはピンク頭の見たことがない令嬢とレオポルドが二人一緒にいるところを見かけた。思わずレオポルドへ声をかけたのだが、その初手が間違いだった。

「イエル嬢はルオポロ王国からの留学生なんだ。友人としてルオポロ王国の話を聞いてるだけで、婚約者に対してやましいことなんて何もないよ」

イエルとは友人だとフィオレへ言い切ったレオポルド。それなのに、翌日からフィオレを二人の間に立ちふさがる恋の障害のように扱い、イエルとの仲を深めていった。堂々とイエルと腕を組んで歩いている今でも、レオポルドはフィオレに”イエルとは友人関係だから”と嘯く。

イエルが留学してくるまでは第二王子アルフレードやニコラスなどの側近と行動を共にしていたレオポルド。それが今は彼らを遠ざけ、従者兼護衛のカルリノだけを従えていることが多い。それはイエルを独占したいと思っているからだろう。そんなレオポルドが過去にフィオレと共にいた時、アルフレードやニコラスなどの他の幼馴染を遠ざけたことなどないと気づく。

力の限り握ったフィオレの拳が、小刻みに震える。

3ヶ月前、イエルとレオポルドが二人一緒にいるところへ声をかけた時、レオポルドが小声で言い捨てた台詞がフィオレの頭の中で木霊する。

「学園では自由を楽しめばいいって、そう言ったのはフィオレじゃないか」

レオポルドと腕を組むのはフィオレのはずだったのに……。そのためにレオポルドへ言った言葉が今、フィオレを苦しめている。やっと、やっと、ルオポロ王国から輸入している魔石に代わる、国内産の魔石の認証ができそうだというのに。

フィオレの視線に気づいたのだろう、レオポルドと腕を組み歩いているイエルが後ろを振り向いた。その赤い瞳には哀愁が漂い、まるでフィオレを憐れんでいるかのよう。たかが男爵令嬢が何様のつもりだ。

その腹立たしいイエルの顔に、ふと、イエルが現れるよりも遥か昔からフィオレの行く手を阻んできた女の顔が重なる。

娯楽のための読書が原因で掛けることになった分厚いメガネ、フィオレと同じ黒い髪を雑にゆるく束ね、楽だからと装飾の少ない簡素なドレスを好み、異母妹より劣等なことを恥じずに開き直る、そんな公爵令嬢とは思えない怠惰な生活を父から許されている、同い年の異母姉マリエラ・カファロ。

そんなフィオレの異母姉マリエラは今この学園にはいない。原因不明の体調不良により、2年前から王都から遠く離れた田舎の領地で療養している。

フィオレから憎まれ嫌われていることにも気づかず、姉妹だからと呑気に笑いかけ、図々しく親しげにしてくる緊張感のないマリエラの顔がイエルにダブって見える。
フィオレとマリエラが初めて顔を合わせた7歳の時には分厚いメガネをかけていたせいで顔立ちは思い出せないが、ピンクの髪で赤い瞳のイエルと、黒髪に水色の瞳のマリエラとは似ても似つかないはず。

マリエラが変装してイエルのふりをしているのではと、ふと、よぎった自分の考えをフィオレは内心で笑い飛ばした。マリエラがイエルだとしたら、イエルを気に入っているレオポルドがどうしようもなく愚かということになってしまう。そんなことはあり得ない。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

善人ぶった姉に奪われ続けてきましたが、逃げた先で溺愛されて私のスキルで領地は豊作です

しろこねこ
ファンタジー
「あなたのためを思って」という一見優しい伯爵家の姉ジュリナに虐げられている妹セリナ。醜いセリナの言うことを家族は誰も聞いてくれない。そんな中、唯一差別しない家庭教師に貴族子女にははしたないとされる魔法を教わるが、親切ぶってセリナを孤立させる姉。植物魔法に目覚めたセリナはペット?のヴィリオをともに家を出て南の辺境を目指す。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

さようなら、たったひとつの

あんど もあ
ファンタジー
メアリは、10年間婚約したディーゴから婚約解消される。 大人しく身を引いたメアリだが、ディーゴは翌日から寝込んでしまい…。

幼馴染の勇者パーティーから「無能で役立たず」と言われて追放された女性は特別な能力を持っている世界最強。

佐藤 美奈
ファンタジー
田舎の貧しい村で育った6人の幼馴染は、都会に出て冒険者になってパーティーを組んだ。国王陛下にも多大な功績を認められ、勇者と呼ばれるにふさわしいと称えられた。 華やかな光を浴び、6人の人生は輝かしい未来だけが約束されたに思われた。そんなある日、パーティーメンバーのレベッカという女性だけが、「無能で役立たず」と言われて一方的に不当にクビを宣告されてしまう。恋愛感情は、ほんの少しあったかも。 リーダーのアルスや仲間だと思って信頼していた幼馴染たちに裏切られて、レベッカは怒りや悔しさよりもやり切れない気持ちで、胸が苦しく悲しみの声をあげて泣いた――

魅了魔法が効かない私は処刑されて、時間が戻ったようです

天宮有
恋愛
公爵令嬢の私リーゼは、ダーロス王子に婚約破棄を言い渡されてしまう。 婚約破棄の際に一切知らない様々な悪行が発覚して、私は処刑されることとなっていた。 その後、檻に閉じ込められていた私の前に、侯爵令嬢のベネサが現れて真相を話す。 ベネサは魅了魔法を使えるようになり、魅了魔法が効かない私を脅威だと思ったようだ。 貴族達を操り私を処刑まで追い詰めたようで、処刑の時がやってくる。 私は処刑されてしまったけど――時間が、1年前に戻っていた。

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

いまさら謝罪など

あかね
ファンタジー
殿下。謝罪したところでもう遅いのです。

処理中です...