隣国から留学してきたピンク頭の男爵令嬢です。対戦、よろしくお願いします!

くびのほきょう

文字の大きさ
5 / 18

05

しおりを挟む


「あたしの方がレオ様に遊ばれてると思ってましたよ!もう!……でも嬉しいなぁ、あたし、レオ様の恋人なんだぁ。じゃぁ、ヴィルガ王国最後の夜に恋人として思い出が欲しい……ダメですか?」

ルオポロ王国が国教として崇めている女神ヘーラーは嫉妬深い。故に、ルオポロ王国は側室も愛人も許されない一夫一婦制で、国王から平民まで浮気はご法度だ。不倫をすれば、たとえ国王だとしても有責で離婚されてしまうし、婚約段階だとしても浮気をしたら罪となる。ルオポロ王国は浮気した人に罰を科す国なのだ。

ここはヴィルガ王国だが、マリエラとレオポルドの婚約はこのルオポロ王国の法律が基準となった契約となっている。この婚約はマリエラの母がルオポロ王国の公爵令嬢だったために結ばれたのだが、マリエラの父には外に作った子供がいて、しかもその婚外子を産んだ父の不貞相手はヴィルガ国王の従兄妹。マリエラの母が婚外子フィオレの存在を知らないまま亡くなったとされているのと、ヴィルガ王国がフィオレの正式な出自を認めていないことで、両国間で父の不貞は限りなく黒に近いグレーという扱いで収まっている。
その公然の秘密がルオポロ王国の不興を買っているために、マリエラとレオポルドの婚約がヴィルガ王国としては異例となる契約内容で結ばれたとのだと聞いている。

イエルが言った”ヴィルガ王国最後の夜”とは、2学期最後の登校日、年末にある学園のダンスパーティーのこと。イエルの”恋人として思い出”になるように、つまり、そのダンスパーティーでレオポルドと踊りたいと強請ったのだ。

学園でレオポルドがイエルと仲良くしていることは事実だが、友人だと言い張っている今のままだと浮気として追求するには甘い。だが、婚約者マリエラの許可なくイエルをパートナーにしてダンスパーティーへ参加した場合、さすがにイエルをただの友人だと言い逃れることはできない。その事実をマリエラに追求されたらレオポルドの有責で婚約破棄になる可能性が高い。

マリエラの計画とはレオポルド有責で婚約破棄をし、マリエラ・カファロの貴族令嬢としての価値を地に落とすこと。薄情で浮気者のレオポルドを王太子から引き摺り下ろし、真面目で誠実なアルフレードを将来の国王にあてがうことはその副産物。

今、レオポルドはマリエラの左手を揉みながら、可愛い恋人からのお強請りについてどうしようかと考えているはず。

マリエラは学園へ入学させずに領地療養に専念させて欲しいと、レオポルドがカファロ公爵に願い出たため、マリエラは学園どころか王都にすらいない。
レオポルドの婚約者をフィオレに変更するためにカファロ公爵家とラコーニ公爵家が動いていることは、社交界だけでなく学園でも共通認識になっている。
フィオレはマリエラと同じカファロ公爵令嬢のため、マリエラのために行動して利益がある者は少ない。
アルフレードはレオポルドと同母の弟で仲が良く、第一王子第二王子で別れた派閥もなく、アルフレード本人にもレオポルドから王位を奪う気持ちはないように見える。
おそらくあと2ヶ月弱で新しい魔石の認可がされ、レオポルドとマリエラは婚約解消し、レオポルドはフィオレと婚約する。

ダンスパーティーにはマリエラはいないし、万が一、アルフレードを王太子にしたいと願う者がダンスパーティーでのレオポルドとイエルの様子をマリエラの耳へ入れたとしても、年始にはもうイエルはヴィルガ王国にいないし、浮気の証拠を揃えるよりも先に魔石の認可がされてマリエラとは婚約解消になるだろう。

つまり、レオポルドがイエルをパートナーにしてダンスパーティーに参加しても、浮気を指摘されて婚約破棄になることはないのだ。イエルはルオポロ王国へ帰ってしまうのだから、最後にダンスパーティーで恋人とて過ごしても良いのではないか。

まさかイエルがマリエラだと思ってもいないレオポルドは、そう考えていることだろう。

「最後とか、そんなことわざわざ言葉にしないでくれよ。ちゃんと、イエルにぴったりなオレンジ色のドレスを作らせてたんだ。……俺のパートナーとしてダンスパーティーに参加してくれますか?」

揉んでいたマリエラの左手を自身の右頬へ宛て、下からマリエラの顔を覗き込んで上目遣いをしながら問いかけてくるレオポルド。ジャナの指導で一生懸命あざとかわいいを作っているマリエラを易々と飛び越えて自然とあざといことをしてくるレオポルドにマリエラは関心してしまう。

「はい!」

マリエラは元気よく返事をしながら、今日、最後の授業が終わった後にトイレで下着の胸部へ仕込んでおいた録音魔道具を意識する。いつも紳士なおじ様のカルリノが令嬢の胸部を凝視することはないはずだし、育ちの良いレオポルドがこの3ヶ月胸を触ってきたことなどない。今日いきなり許可なく胸を触ってくることはないだろうと、わざと胸部に仕込んだのだ。

念の為に左右で二つ起動しているが、もしも録音を失敗していたとしても、お揃いのブレスレットをしてオレンジ色のドレスを着たイエルがレオポルドのパートナーとしてダンスパーティーへ参加した時点で計画は成功だ。寮へ帰り、コンタクレンズを外し、目薬をさしながらジャナと二人で録音を確認するのが楽しみで、マリエラは心からの笑顔が漏れてしまう。レオポルドも笑っている。浮気をする男は大嫌いだが、今だけはレオポルドの笑顔が可愛く思えてしまう。

これで、マリエラはレオポルドと婚約破棄できる!

たとえルオポロ王国の常識が適応されてレオポルドの有責になったとしても、ヴィルガ王国では婚約破棄は婚約破棄。しかも王太子に対して本来なら罪にならないことで瑕疵を作り、その肩書を奪った女。時期王妃の異母姉だとしてもまともな貴族は近づかない。マリエラの貴族令嬢としての価値は大暴落するだろう。

はしゃぎ出したくなる浮かれた心を必死に抑え込んでいたマリエラの唇に、突然、柔らかい感触。気づけばマリエラはレオポルドと唇を重ねていた。驚き、無意識にレオポルドの頬を叩こうと右手を振り上げた寸前、マリエラの右手はカルリノに掴まれた。無言で首を振ってくるカルリノに、やはりカルリノはイエルの正体がマリエラだと気付いているのではと疑ってしまう。

「へへへ。初めてのキスだね」

一人で照れているレオポルドに、勝手にキスしたことへの怒りを隠しマリエラは笑顔を返した。今日のこのデートで計画はほとんど成功したと言えるし、レオポルドの幸せもあと1ヶ月ほどで終わる。キスくらい減るもんでもないし許してあげよう。これがマリエラのファーストキスだったことには見ないふりをしよう。

その後学園の寮へ帰り、侍女のジャナと二人で録音魔道具を再生すると、ちゃんとイエルを恋人と認め、ダンスパーティーへ誘うレオポルドの言葉が入っていた。ジャナと喜び合ったその日の晩、寝るためにベッドへ横になったマリエラは、左手首に付けられた赤とオレンジ2色のブレスレットを眺めながらこの計画について思いを馳せた。

マリエラは当初、婚約破棄などするつもりはなかった。それなのにこんな計画を立てたのはレオポルドのせいだ。レオポルドが留学してきたばかりのイエル・ドルチェに軽薄な態度で馴れ馴れしく話しかけてきて、その後も、まるで恋人のようにイエルを連れ回したのが悪い。

そもそもどうしてこのようなことになったのだろうかと、ふと、考える。全てはあの日、父が再婚し、マリエラではない父の娘がカファロ公爵家に来た嵐の日から始まった気がする。……マリエラはフィオレと初めて会った日のことを思い浮かべ、いつのまにか眠りに落ちていた。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

善人ぶった姉に奪われ続けてきましたが、逃げた先で溺愛されて私のスキルで領地は豊作です

しろこねこ
ファンタジー
「あなたのためを思って」という一見優しい伯爵家の姉ジュリナに虐げられている妹セリナ。醜いセリナの言うことを家族は誰も聞いてくれない。そんな中、唯一差別しない家庭教師に貴族子女にははしたないとされる魔法を教わるが、親切ぶってセリナを孤立させる姉。植物魔法に目覚めたセリナはペット?のヴィリオをともに家を出て南の辺境を目指す。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

さようなら、たったひとつの

あんど もあ
ファンタジー
メアリは、10年間婚約したディーゴから婚約解消される。 大人しく身を引いたメアリだが、ディーゴは翌日から寝込んでしまい…。

幼馴染の勇者パーティーから「無能で役立たず」と言われて追放された女性は特別な能力を持っている世界最強。

佐藤 美奈
ファンタジー
田舎の貧しい村で育った6人の幼馴染は、都会に出て冒険者になってパーティーを組んだ。国王陛下にも多大な功績を認められ、勇者と呼ばれるにふさわしいと称えられた。 華やかな光を浴び、6人の人生は輝かしい未来だけが約束されたに思われた。そんなある日、パーティーメンバーのレベッカという女性だけが、「無能で役立たず」と言われて一方的に不当にクビを宣告されてしまう。恋愛感情は、ほんの少しあったかも。 リーダーのアルスや仲間だと思って信頼していた幼馴染たちに裏切られて、レベッカは怒りや悔しさよりもやり切れない気持ちで、胸が苦しく悲しみの声をあげて泣いた――

魅了魔法が効かない私は処刑されて、時間が戻ったようです

天宮有
恋愛
公爵令嬢の私リーゼは、ダーロス王子に婚約破棄を言い渡されてしまう。 婚約破棄の際に一切知らない様々な悪行が発覚して、私は処刑されることとなっていた。 その後、檻に閉じ込められていた私の前に、侯爵令嬢のベネサが現れて真相を話す。 ベネサは魅了魔法を使えるようになり、魅了魔法が効かない私を脅威だと思ったようだ。 貴族達を操り私を処刑まで追い詰めたようで、処刑の時がやってくる。 私は処刑されてしまったけど――時間が、1年前に戻っていた。

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

いまさら謝罪など

あかね
ファンタジー
殿下。謝罪したところでもう遅いのです。

処理中です...