隣国から留学してきたピンク頭の男爵令嬢です。対戦、よろしくお願いします!

くびのほきょう

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父は3人の子供たちの内、マリエラを贔屓している。フィオレとエンリコのことを厭っている訳ではないものの、二人への態度は明らかにマリエラへのものとは違う。ジャナへ聞いたところ、フィオレとエンリコへの父の態度は貴族の家庭としては普通で、マリエラへの愛情が特別深いだけなのだと言われてしまった。
そんな父へフィオレがマリエラへ毒を盛ったかもしれないなどと言ったら、たとえそれがマリエラの気のせいで冤罪だと証明されたとしても、マリエラが疑う何かがあったのではと考えてフィオレを遠ざけかねない。

弱った身体での馬車移動という13年の人生で1番辛い状態の中、マリエラは半ば朦朧としながらフィオレについて考える。

途方も無い量の知識を蓄え、マナーやダンスの実技の厳しい訓練、王子や側近候補たちとの交流や、令嬢を掌握するためのお茶会など、朝早くから夜遅くまで分単位の予定を過ごしている。
だけれど、フィオレに王妃になることを強要している者などどこにもいない。義母とラコーニ公爵家はフィオレからの要望を聞き入れているにすぎず、フィオレは自らの意思で王妃を目指し過剰な努力をしているのだ。

王妃になることへの執着心は義母譲りだとして、その動機はどこから来ているのだろうか……。

おそらく、レオポルドはフィオレが王妃に拘る動機ではない。アルフレードが王太子になり、フィオレがカファロ公爵令嬢からラコーニ公爵令嬢へ戻れば、フィオレはレオポルドは結婚できる。マリエラにはあの好奇心旺盛であきっぽいレオポルドが王位に拘る人物には思えないので、叶わない方法ではないはず。

フィオレの、あの、初めてあった日の不安な青い瞳を思い出す。

父はマリエラだけ可愛がり、義母の目には父しか映っていない。両親からの愛を知らないフィオレは、王妃になることだけを心の支えにしているのではないだろうか。エンリコが産まれてからは、マリエラとエンリコがフィオレを愛していたつもりだが、それでは満たされなかったのかもしれない。

フィオレが王妃になるのはもちろん、フィオレが幸せになりますように。レオポルドが父のように浮気などせず誠実にフィオレを愛してくれるますようにと、馬車が揺れ意識が遠のく中でマリエラは祈った。

馬車が王都から離れた距離に比例するように、マリエラは段々と息苦しさがなくなり、領地へ着く前には食事と睡眠を取れるようになった。領地で暮らすようになってからひと月もせず咳も治まり、健康体に戻った。これでは王都で毒を盛られていたのだと認めざるを得ない。
この毒が義母とフィオレのどちらが手配したものなのか追求する手段はマリエラにはないが、フィオレを疑い調べているのかと父へ問うことはしなかった。

領地へ来てからは王妃教育はなくなり、婚約者としての義務はレオポルドとの文通だけ。
まだ婚約解消をしていないが、お互い結婚する将来はないと理解している上での、建前のための文通。王族として多忙なレオポルドがそんな手紙を読むことはないだろうと、従者に代筆をたのむはずと思ったマリエラは、好き勝手に、つまり、錠前魔法について熱く語る手紙を書いた。それに対して錠前魔法についての珍しい情報を手に入れたからと教えてくれる返事が来るのだが、あのレオポルドがそんな手紙を書くはずがない。
レオポルドの従者の中で珍しくマリエラへ話しかけてくることがあったカルリノの代筆にマリエラはケーキ2個を賭け、ジャナは大穴でレオポルド本人にケーキ3個を賭けた。誰が手紙を書いてくれていたのか、いつか答え合わせをして、ジャナの奢りでケーキを食べる未来が来ればいいなと思う。

健康に戻っても王都へは戻れない。錠前魔法について研究するなど好きなことをして過ごすマリエラは、領地で14歳の誕生日を迎え、とうとう学園へ入学する時期が近づいてきた。学園入学を2ヶ月後に控え準備をしていた冬の一番寒い頃、父が領地へ来た。6歳になったエンリコも一緒だ。

マリエラが領地で過ごした1年半、父は季節ごとにエンリコを連れて領地まで来てくれたが、学園へ入学まであと2ヶ月の今、父が領地へ来ることはないと思っていた。実はマリエラの方から父を領地へ呼ぼうと思っていたので、父の方から来てくれたことに驚いた。

エンリコは久しぶりにマリエラと会ったことが嬉しくて、ひとしきりはしゃぎ今は昼寝をしている。父とマリエラは二人でお茶を飲む。暖炉の火が暖かいからと羽織を脱いだ父の腕には、相変わらず母と父のブレスレットが2本付けられているのを、マリエラはこっそりと確認した。

「国内発掘の新しい魔石が見つかったんだ。認可され次第、マリエラの婚約は解消される。きっと1年はかからないよ。……それと、レオポルド殿下からマリエラはまだ領地で療養した方がいいって言われてしまったんだ。婚約解消するまで学園へ入学させるなってことだろう。殿下の横暴に従うことになるのは悔しいけど、実はパパも婚約解消するまでは領地にいる方が良いと思ってたんだ。……マリエラはそれでも良いかい?」

こんなこと手紙で命令しても良かったのに。

マリエラに直接問いかけるために領地まで来てくれた父を思い胸が温かくなる。これは暖炉のせいではない。

マリエラの婚約はルオポロ王国の魔石輸入のためだったため、領地に行ってすぐにルオポロ王国の血が入った令嬢へ婚約者が変わらないと本来ならおかしい。婚約解消が遅くなればなるほどマリエラの令嬢としての価値は落ちていくし、マリエラは毒まで盛られているのだ。それにも関わらず、今もマリエラの婚約が解消されていないのは、フィオレのため。フィオレが次の婚約者になるためにラコーニ公爵家が王家へ頼んだから。
つまり、フィオレとラコーニ公爵家は、魔石の新しい入手先が見つかるまでマリエラの将来を犠牲にし続けているということ。それは、マリエラがフィオレから直接お願いされて、了承した上でのことなのでマリエラに怒りはない。高位貴族としての生き方が肌に合わないと感じているマリエラは、令嬢としての価値が落ちて嫁ぎ先が下位貴族になっても構わないし、むしろその方が好ましいと思ったのだ。

そして、マリエラとレオポルドの婚約は、ルオポロ王国の横槍により、ヴィルガ王国ではあり得ない契約をしている。”浮気をしたら浮気をした方が有責で婚約破棄になる”という契約でマリエラと婚約し続けているレオポルドは、いずれ婚約解消するとわかっていたとしても、マリエラ以外の令嬢と仲良くすることができない。

レオポルドは学園で自由にフィオレと過ごすために、マリエラが学園に入学しないようにと父に頼んだのだ。

王都にいるフィオレからは月に数通の手紙が届くのだが、その手紙にはマリエラの婚約解消がなされないことへの謝罪と、レオポルドと仲睦まじく過ごしている様子が書いてある。言ってしまえば、マリエラはこの手紙を証拠にレオポルド有責で婚約破棄することがいつでもできる。それをせずにフィオレとレオポルドの仲を認めているのだ。学園へ入学して、レオポルドとフィオレが仲良くしている姿を見たとしても、婚約破棄をすることなどない。

フィオレはマリエラを信じてくれているだろうが、レオポルドはそうではないということ。書類上では今もまだ婚約しているマリエラのことを、婚約者のレオポルドが1番信じていないのだ。

フィオレとレオポルドの浮気を追求して婚約破棄するなど、フィオレとレオポルドとマリエラの3人全員に取り返しのつかない瑕疵がつく。自分の体に爆薬を付け自死を覚悟で爆発させるようなものだ。
マリエラはレオポルドにそんな婚約破棄をしかねない女と判断されている。つまりレオポルドは過去のマリエラへの扱いが、婚約破棄をされるくらいの恨みを買う酷いものだったと思っているらしい。

婚約解消がなされていない上、学園へ入学しないマリエラ。後妻のカファロ公爵夫人から冷遇されていると判断され、ラコーニ公爵家の派閥や高位貴族家からは避けられる。でも、ラコーニ公爵家と派閥が異なる伯爵や子爵にならまだ嫁げる。
レオポルドの指示通りにヴィルガ王立学園入学を1年遅らせたとしても、マリエラは伯爵や子爵へ嫁げるだろう。

でも、

「お父様、私、ルオポロ王国で錠前魔導師イエル・ドルチェになるの」

マリエラはもうヴィルガ王国の貴族令嬢をやめようと決めている。

「元々ヴィルガ王立学園には行くつもりなかったから今回の話はちょうど良いね。……もう、イエルになる準備はできてるんだ」

愛されて育ったマリエラには、この殺伐とした貴族社会はもう耐えられない。愛してくれた父と母のせい。でも、愛してくれたことには心から感謝している。
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