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「初めての夜会でエスコートしてもらえるなんて夢のようだわ」
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リアーナ様と一緒に来た夜会会場広間の入り口、黒い生地に青い飾りがついたコートを着たヒューが立っています。そんなヒューを見たリアーナ様は、笑顔で駆け寄ります。
「リアーナ様、黒いドレスが素敵だね」
「ありがとう。ヒュー様の夜会服もとっても素敵だわ。こんなかっこいいヒュー様に初めての夜会でエスコートしてもらえるなんて夢のようだわ」
笑顔を返すヒュー。でも、あの笑顔は本当は困っている時の顔です。優しいヒューは自分がリアーナ様をエスコートしてしまったら、残る私がどうするのかと考えてくれているのでしょう。私はヒューにエスコートしてもらえると当たり前に考えていたため、まさかリアーナ様がヒューのエスコートを望んでいたなど思いもしませんでしたが、それはヒューも同じだったようです。
リアーナ様は時折、こういった周りが見えない行動を悪気なくすることがあるのです。私はリアーナ様をエスコートしてあげて欲しいと伝わるように、ヒューへ笑顔で頷きました。
「リアーナ様、お手をどうぞ」
「はい! 私、こんな大きな夜会は初めてだから緊張するわ。ヒュー様助けてちょうだいね?」
その悲しい生い立ちを悟らせない、華やかで麗しいリアーナ様と並んでもヒューが見劣りすることはありません。私がヒューの幼馴染として仲良くしていることが許せない、そう言ってくるご令嬢達もリアーナ様には何も言えないでしょう。その優しい内面とは相反し、スッキリとした鋭い眼差しで少し怖い顔に見えるヒューは、ワイルドでかっこいいと一部の女子から熱狂的な人気があるのです。
会場へ入ったあと、しばらくしてヒューとリアーナ様は2人でダンスを踊っています。リアーナ様から借りた青いドレスを着た私はひとり、壁の花になってます。
近くのテーブルでワインを飲む1人の男性が目につきます。周りの方達はその方の間違いを正さず、遠目でクスクスと笑っているのです。普段は消極的な私ですが、思わずその男性に声をかけてしましました。
「すみません。もしかしてポロックの方ですか?」
いきなり話しかけられたその男性は目を白黒としてびっくりしてます。
「は、はい! 僕はポロックから参りました、あのっクライン麻疹の薬の開発に携わってって、えっとその研究者です。すみません! 貴族の夜会なんてポロックでも数えるほどしか出席したことがないので、緊張して、支離滅裂ですね」
「クライン麻疹の特効薬を作った方なんて! すごい! クラインの国民を助けていただいてありがとうございます」
我がクライン国の、その名のつくクライン麻疹とは数年前に猛威をふるった麻疹で、それまでの麻疹の薬が効かないその麻疹は、王太后様や私のお父様を含むたくさんの人たちの命を奪いました。
今日の夜会は我が国より医療が発達している隣国ポロックの研究者の方がクライン麻疹の特効薬を創り出し、その製法を教えてくれたことを祝う夜会です。
そんなクライン国の恩人で、夜会の主役とも取れる方が独りで嘲笑されているなど、あってはいけません。
「いや、僕は平民だし、研究者達の中の下っ端も下っ端だから、僕が創ったとは言えないかな。ってすみません! 言えないです、です」
おそらく、30代の半ばくらいのその男性。焦っているご様子と、ゆるく波打った茶色い髪に黒目がちな丸いタレ目が昔飼っていた犬を思わせとても可愛いのですが、お父様と同じくらいの年の男性を可愛いなんて思ってはいけませんね。
「私はアイラ・フラメルと申します。お名前を伺ってもよろしいですか?」
「あっすみません。僕、いや、私はケイレブ・ドーマーと言います」
「ドーマー様、気を悪くしないで聞いてくださいね。こちらのワイングラスに付いているこの飾り、グラスマーカーと言いまして飲む際にグラスの脚に付け直すのがクラインでのマナーなのです」
そう、こんな些細なマナー違反でドーマー様のことを笑っていた周りの方々に呆れます。
「これ飲みにくいなって思っていたんです。そういうことだったんですね。不勉強で恥ずかしいです」
「恥ずかしくなんてないです。実は私の母はポロック人なんですが、私の両親の出会いはグラスマーカーを知らなかった母に父が声をかけたのがきっかけだって聞いてます。私の母とお揃いです」
「それは素敵な出会いですね。僕は奥さんがいるからアイラ様のお相手になれなくてとても残念です。って僕なんかが相手になり得るなんて言ったら失礼ですね」
「失礼なんてことありません」
父を亡くし後ろ盾もなく婚約者もいないために他の貴族の方からは相手にもされない私。今日は寂しい夜会になる事を覚悟していたのですが、ドーマー様のおかげでとても楽しく夜会を過ごせました。
私がドーマー様と楽しく話していたその時、リアーナ様はエイミー様に頭からワインを掛けられ、バンクス侯爵夫人に会場を追い出され、追い出された後は月が綺麗に見える中庭でヒューに慰めてもらったのだと、翌日ドレスを返却した時にリアーナ様から教えていただきました。
もしも私がその場にいても何の手助けも出来なかったと思います。
「リアーナ様、黒いドレスが素敵だね」
「ありがとう。ヒュー様の夜会服もとっても素敵だわ。こんなかっこいいヒュー様に初めての夜会でエスコートしてもらえるなんて夢のようだわ」
笑顔を返すヒュー。でも、あの笑顔は本当は困っている時の顔です。優しいヒューは自分がリアーナ様をエスコートしてしまったら、残る私がどうするのかと考えてくれているのでしょう。私はヒューにエスコートしてもらえると当たり前に考えていたため、まさかリアーナ様がヒューのエスコートを望んでいたなど思いもしませんでしたが、それはヒューも同じだったようです。
リアーナ様は時折、こういった周りが見えない行動を悪気なくすることがあるのです。私はリアーナ様をエスコートしてあげて欲しいと伝わるように、ヒューへ笑顔で頷きました。
「リアーナ様、お手をどうぞ」
「はい! 私、こんな大きな夜会は初めてだから緊張するわ。ヒュー様助けてちょうだいね?」
その悲しい生い立ちを悟らせない、華やかで麗しいリアーナ様と並んでもヒューが見劣りすることはありません。私がヒューの幼馴染として仲良くしていることが許せない、そう言ってくるご令嬢達もリアーナ様には何も言えないでしょう。その優しい内面とは相反し、スッキリとした鋭い眼差しで少し怖い顔に見えるヒューは、ワイルドでかっこいいと一部の女子から熱狂的な人気があるのです。
会場へ入ったあと、しばらくしてヒューとリアーナ様は2人でダンスを踊っています。リアーナ様から借りた青いドレスを着た私はひとり、壁の花になってます。
近くのテーブルでワインを飲む1人の男性が目につきます。周りの方達はその方の間違いを正さず、遠目でクスクスと笑っているのです。普段は消極的な私ですが、思わずその男性に声をかけてしましました。
「すみません。もしかしてポロックの方ですか?」
いきなり話しかけられたその男性は目を白黒としてびっくりしてます。
「は、はい! 僕はポロックから参りました、あのっクライン麻疹の薬の開発に携わってって、えっとその研究者です。すみません! 貴族の夜会なんてポロックでも数えるほどしか出席したことがないので、緊張して、支離滅裂ですね」
「クライン麻疹の特効薬を作った方なんて! すごい! クラインの国民を助けていただいてありがとうございます」
我がクライン国の、その名のつくクライン麻疹とは数年前に猛威をふるった麻疹で、それまでの麻疹の薬が効かないその麻疹は、王太后様や私のお父様を含むたくさんの人たちの命を奪いました。
今日の夜会は我が国より医療が発達している隣国ポロックの研究者の方がクライン麻疹の特効薬を創り出し、その製法を教えてくれたことを祝う夜会です。
そんなクライン国の恩人で、夜会の主役とも取れる方が独りで嘲笑されているなど、あってはいけません。
「いや、僕は平民だし、研究者達の中の下っ端も下っ端だから、僕が創ったとは言えないかな。ってすみません! 言えないです、です」
おそらく、30代の半ばくらいのその男性。焦っているご様子と、ゆるく波打った茶色い髪に黒目がちな丸いタレ目が昔飼っていた犬を思わせとても可愛いのですが、お父様と同じくらいの年の男性を可愛いなんて思ってはいけませんね。
「私はアイラ・フラメルと申します。お名前を伺ってもよろしいですか?」
「あっすみません。僕、いや、私はケイレブ・ドーマーと言います」
「ドーマー様、気を悪くしないで聞いてくださいね。こちらのワイングラスに付いているこの飾り、グラスマーカーと言いまして飲む際にグラスの脚に付け直すのがクラインでのマナーなのです」
そう、こんな些細なマナー違反でドーマー様のことを笑っていた周りの方々に呆れます。
「これ飲みにくいなって思っていたんです。そういうことだったんですね。不勉強で恥ずかしいです」
「恥ずかしくなんてないです。実は私の母はポロック人なんですが、私の両親の出会いはグラスマーカーを知らなかった母に父が声をかけたのがきっかけだって聞いてます。私の母とお揃いです」
「それは素敵な出会いですね。僕は奥さんがいるからアイラ様のお相手になれなくてとても残念です。って僕なんかが相手になり得るなんて言ったら失礼ですね」
「失礼なんてことありません」
父を亡くし後ろ盾もなく婚約者もいないために他の貴族の方からは相手にもされない私。今日は寂しい夜会になる事を覚悟していたのですが、ドーマー様のおかげでとても楽しく夜会を過ごせました。
私がドーマー様と楽しく話していたその時、リアーナ様はエイミー様に頭からワインを掛けられ、バンクス侯爵夫人に会場を追い出され、追い出された後は月が綺麗に見える中庭でヒューに慰めてもらったのだと、翌日ドレスを返却した時にリアーナ様から教えていただきました。
もしも私がその場にいても何の手助けも出来なかったと思います。
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