おざなり なおざり ぽたり ぽとり

くびのほきょう

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21 彩雲 (吉兆)

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今、ノーラは襲爵の儀式の最中。国王の前で跪いている。

両膝で膝立ちをし、両手は肘を伸ばして下ろし、手のひらを体側に付け、その状態で少しだけ頭を下げる。
膝立ちしているが足は痛まない。ドレスがクッションとなっていて、それ以前にも、床には我が王国の特産物である絨毯が敷かれているからだ。

この時に直接国王を見てはいけないと礼儀作法の教師から言われたことを思い出し、ノーラは目線を下ろして足元の絨毯を見つめる。
ノーラより数メートル先に立つ国王。その国王が立っている場所を中心として、大きな万華鏡のような円形の幾何学模様が広がっている。
その細かい幾何学模様は、よく見ると花、唐草、鳥、鹿、龍などが確認できる。とても絢爛な細かい柄が織り込まれていて壮観だ。

ノーラはそんな美しい絨毯を見つめ、油断すれば吐いてしまいそうなほどの極度の緊張を少しでも和らげようと努力する。

伯爵位以上の爵位を得るためには必須となっているこの儀式。
お披露目の意味も込められているため、伯爵位以上の爵位を持つ者はほぼ招待される。参加は強制されていないが、相当な理由がない限りパートナーを連れて参加するのが常識だ。

爵位は殆どの場合が世襲で継承されていく。ノーラのように前当主が急逝し予定外に襲爵する者は少なく、当主が存命のうちに時期を見て嫡子へ爵位を譲る場合の方が圧倒的に多い。
周囲の貴族たちが襲爵の儀式で登城する必要が出てくるため、家督の継承は皆が元々王都に滞在している社交シーズンに行われる。
転送ゲートが出来た今は、社交シーズン以外の襲爵式となっても周囲にかける負担は少ないはず。それでも慣例的に社交シーズンに行う家ばかりだ。

つまり、社交シーズンではない11月に襲爵の儀式を行うことはとても珍しい。
ここにいる貴族はノーラの襲爵式のためにわざわざ各領地から王都まで来てくれた、伯爵位以上の貴族家当主やその配偶者たち。そして、王妃、王太子、第二王子ウイリアム、第三王子レオポルド、先王、王太后、前王弟、などの王族。
宰相や王家の官僚、王宮魔導師、近衛騎士などの王城で働く者たち。
社交界に顔を連ねる人々がこの儀式を見守っている。

ここは様々な儀式や式典のために作られた大きな離宮だ。王座の間ではない。
中央にある正円型の舞台を三日月のような形で客席が取り囲んでいて壁には角がない。三階建の建物よりも高そうな天井は丸屋根となっていて、建物全体は半球のような形をしている。

中央の正円型の舞台上には、今、ノーラと国王の二人きり。一番近い護衛騎士でも舞台の袖に控えている。

「ノーラ・アクランド、汝を、我がスウィフト王国のアクランド伯爵とする」

王笏を手に持った国王が跪くノーラの元へとゆっくり歩いてきた。王笏の先端に付いた宝珠でノーラの右肩を撫でるように優しく叩いた。
伯爵位以上の爵位継承には、この宝珠への魔力登録が必須になっているのだ。
儀式の手順に沿ってノーラは魔力を放出する。目に見えないはずなの魔力がキラキラとした細かい光となって現れ、王笏の宝珠へと吸い込まれていく。

しばらくして光が全て吸収されると国王が王笏を持ち替えて床につき、ノーラは正式にアクランド伯爵となった。

客席で見ていた貴族たちから拍手が起こり、ノーラは立ち上がり国王へ礼の姿勢を取る。
ここでは国王から楽にするように言われるまでノーラは礼の姿勢をとり続けないといけないし、周囲の観客はその間は拍手をし続ける。それは太古の昔から変わらない決められた儀式の手順。
そのはずなのに、ノーラがお辞儀をしたまま国王の許しもないのに拍手の音が疎らになり、戸惑いの声が聞こえてくる。
頭を下げているノーラの目には国王の足元。その、国王の足元の絨毯の影が動いている。

「楽にせよ。……私に相談がなかったのは悲しいな。アクランド伯爵、これには君も関わっているんだろう」

国王の冷たい声にノーラは緊張しながら顔を上げると、丸い天井が無くなり、頭上に空が広がっていた。
青い空のとてもとても高いところにある白くて丸く小さい雲たちがアクランドの草原にいる羊の群れを思い出させる、そんな気持ちのよい青天だ。

半球型のこの離宮の天井は可動式で全開すれば屋根がない野天になる。でも、襲爵の儀式では天井を開く必要などなく、今日の儀式も野天になる予定などなかった。

この天井を開いたのはテオドール。

王族の席にはもちろんいない。これまでテオドールは儀式や式典に殆ど参加してこなかったため、この儀式にも不参加だったが気に留める者はいなかった。

ノーラの魔力が王笏の宝珠へ登録され正式にアクランド伯爵となったら、テオドールによって離宮の屋根が開かれる。この次は、ノーラの番となっている。

冷たく厳しい目つきでノーラを見てくる国王の赤い瞳が怖い。王国の最高権力者に話を通さずに、王国の神聖な儀式を台無しにする暴挙……。

ドクンドクンとこれまでになく波打つ心臓が、身体の外へ飛び出して来そうだ。
恐怖によって身体が固まり、動かすことができない。
ひや汗が流れ出し、頬を伝い、足元へと落ちた。
意味なくその汗の雫を目で追ってしまったノーラの、目線が下がる。

雫が落ちた場所、ノーラの足元には絨毯が敷かれている。
先ほど儀式の最中に緊張を解すために見つめていた細かい幾何学模様。その中には花、鳥、鹿、龍、唐草……そんな細かい柄の所々に使われている濁りのない少し青みがかった緑色が目に飛び込んでくる。

深く蒼々とした森を思わせる澄んだ緑色。今ノーラが着ているドレスと同じ色。間違えることなどない。アクランド領民の誇り、アクランドグリーン。

……今から行うことは、そのアクランドを守ることに繋がるのだから、勇気を出すのよ!

ノーラは顔を上げ、右手を空にかかげて素早く魔法を発動した。

ノーラの右手には、1匹の蛇が自分の尾を食べている形をした銀製の腕輪が2本。蛇の目に付いている水晶は透明と青色の2種類。その片方、青い水晶が青く光り、その光は大きな円の魔法陣となり空へ空へと舞い上がって行く。青い空に浮かぶ青く光る魔法陣。

ノーラが魔法を発動したのと同時、舞台袖にいた護衛の騎士が腰の剣に手を当てた状態でノーラの元へと走ってきた。反対側の舞台袖からも黒いマントの男がノーラの方へと向かって来ている。
フードを深くかぶり、頭のてっぺんからつま先を黒いマントで覆った男は、走って来た騎士とノーラの間に立ち、騎士へと手を差し出して魔法を発動する構えを見せると、騎士の足が止まった。

そんな攻防の最中、頭上では青く光る魔法陣がどんどんと大きくなり、その中心から虹蛇が飛び出してきた。
この離宮の高さと同じくらいの長さはありそうな大きな虹蛇が1柱と、人間の背丈くらいの長さの虹蛇が2柱。
3柱の虹蛇が白い鱗を虹色に閃めかせながら水中を泳ぐようにぐるぐると飛んでいる。
小さな子供の虹蛇の片方だけは、その鱗の輝きが鈍い……。

少し前まで野天になるという非常事態に対し騒めいていた貴族たちは、3柱の虹蛇の出現に、その信じられない光景に、瞬きすら忘れて見惚れてしまっている。誰も言葉を発することはない。国王ですら、言葉も怒りも忘れ虹蛇を見ている。

職務を全うする騎士たち以外、皆が虹蛇のいる空を見上げている中、黒いマントの男がマントを脱ぎ捨てた。その瞬間、ノーラは大きな魔法が放たれたのを感じた。シトリン子爵領で感じたのと同じ波動。

黒いマントで隠れていたのは、国王と王太后とお揃いのオリーブ色の短髪に、異端の証の金瞳、ノーラのドレスと同じ色の礼服。そう、アクランドグリーン色の礼服を着た、呪われた王弟・テオドール。

今回のためにテオドールは好きな色で礼服を仕立てることになったのだが、『ノーラのドレスとお揃いにした方がなんかカッコよくない?』と言ってアクランドグリーンと同じ緑色に決めていた。
レオポルドの話に雷の演出を加えたりしていたことも合わせ、テオドールは最近起こる難事の連続を、どこか劇や物語のように楽しんでいるきらいがある。

テオドールがマントを脱ぎ捨て素顔を晒してすぐ、雲がないところから小雨が降り出し、高いところにいた白い雲が、凄まじい勢いで黒く大きくなり下へと落ちて来る。降り始めの小雨は、すぐに雷を伴った叩きつけるような激しい雨に変わってしまった。

周囲は一気に薄暗くなり、ドーン、ドーン、ドーンという雷の轟音が響くのと同じ回数閃光が走る。その雷はどう考えてもこの離宮を目掛けて落ちてくるが、落ちる寸前、離宮の屋根があったくらいの位置で、雷は1番大きな虹蛇の口の中へと消えていく。虹蛇が食べてくれているため、雷が落ちてくることはない。

ここにいる全ての人たちが激しい雨に濡れてしまっている。

”濡れてもいい服で来てください”などと事前に連絡することはできない。皆の礼服やドレスは、後日テオドールが弁償する予定だ。
転送ゲートの利用料から数パーセントの歩合がテオドールに支払われているそうで、王城から出ることもないためお金ならたんまりあるとテオドールは言っていた。
あとは親の形見など、お金では解決できない大切な服を着ている人がいないことを祈るしかない。

激しい雨が降り、髪や化粧は崩れ、礼服やドレスといった正装が濡れ始めたことで、人々は焦りだす。
そして、舞台の上に虹蛇と同じくらい特異な存在、金瞳の人物がいることにも気付いた。空を見上げていた人たちは今度は舞台上を見てざわめき出す。

「テオドール。これはどういうことだ……」

国王の言葉で、この見たことがない男が呪われた王弟テオドールだと皆が理解する。そして、虹蛇と同じ金色の瞳を見て呪われた理由を察する。

「本日は私の友人ノーラの襲爵の儀式です。王族として参列させていただきました。ちゃんと公務の予定に入っておりましたが……参加してはいけませんでしたか?」

「そうか……私には相談して欲しかったかな。疑われていて、お兄ちゃんは悲しいよ」

「念の為だね。ごめん」

念の為というテオドールの謝罪の小声は、ノーラと国王にしか聞こえていなかっただろう。

国王は、テオドールがこの場で呪いを解こうとしていることに気付き、事前に知らされていなかったことで自分も呪いをかけた人の候補の一人だったことにも瞬時に理解し怒っているようだ。
でも、勝手に魔法を発動したノーラとテオドールに臨戦体制を取り剣を構えていた騎士たちへ、ノーラとテオドールへの警戒を解くようにと命じてくれた。

「国民は皆、私には雨が降る呪いがかかっていると思っているようですが、実際には違います。真実はこの雷で私を殺す呪いです。呪いを受けた5歳の時、偶然一緒にいた両親が呪いを防ぐ魔法陣を咄嗟に作り出し展開してくれました。そのおかげで今まで生き延びてこれたのです。……その魔法陣を刺繍したマントを脱いだ今の私は、何の制限もなく呪いを受けている状態」

テオドールの言葉のすぐ後、空が光り、豪雨の中を練るように大きな雷がこちらへ向かって落ちて来たが、すかさず飛んできた虹蛇の口の中へ吸い込まれていった。
テオドールと同じオリーブ色の髪をした王太后が瞳に涙をため、同じように心配そうな表情を隠さない先王の腕にしがみつきながらこちらを見ている。

「ノーラが、というより、アクランド伯爵家が召喚契約している虹蛇は、私の呪いの雷を吸い込むことができる。ですので、ノーラが虹蛇を召喚してくれている今だけは、遮る物なしで空を見ても良いかと思っただけなのです。この19年、王城を出ることも許されなかったかわいそうな私の、些細なわがままをお許しください」

そういえば、誰もが本来の目的をわかっていたとしても、建前は確保できる、とテオドールとレオポルドは言っていた。全てが終わった後、ノーラの罰を軽くするための建前だ。

そして、レオポルドとテオドールの会話を聞いていたノーラは、テオドールはこれまで何度もお忍びで王城の外へ出たことがあると知っている。まるで呪われた悲劇の王子のように話しているが、そんな事実はない。

・・・・・逆鱗・・・・・逆鱗を、返せ・・・・・我が娘の、逆鱗を、返せ・・・・・

テオドールの説明が終わると、音もなく頭の中に声が響き出した。人の声ではない。ピューピューという風の音に近い不思議な声。雨音や雷鳴にもかき消されることなく、この場にいる全ての人が聞こえている。人の理を超えたその声に、誰に教わることなく虹蛇の声だと皆が理解してしまう。

聖獣は人の言葉を理解しているが、こちらへ話しかけてくることない。そう習ったはずなのに、聖獣が訴えてくる怒りの言葉。
子供2柱のうち明らかにやせ細り鱗に艶がない虹蛇の顎下、あるはずの逆鱗がない。そう騒めきが広がる。
そして、その逆鱗のない虹蛇は、客席のすぐ上を飛びながら一人一人虱潰しにするように睨みつけている。

・・・・・・・・・・いた!・・・・・お前か!・・・・・・・・・・

先ほどの声より少し細い虹蛇の声が頭に響く。と同時、逆鱗がない虹蛇は観覧席に飛び込んできて王妃のお腹に噛みつき、そのまま王妃を咥えて素早く空高く飛んでいってしまった。

「虹蛇を傷つけるでない!聖獣への攻撃を禁ずる!」

王妃を助けるため、魔法を発動しようとしていた騎士や魔導師を国王が制した。この瞬間、国王は王妃を切り捨てたのだ。

「なーんだ。予想通りすぎてつまらないな。兄上とかレオとか、もっと意外な人が良かったなぁ」

隣のテオドールの愚痴が聞こえてくるが、声を張り上げていないその呟きはノーラと国王にしか聞こえていないだろう。国王はテオドールをひと睨みした後、すぐに宰相と腹心の従者をそばに呼んで小声で話し合いを始めている。

国王はまだしも、呪いを解くために一緒に案を出し合っていて、しかも、まだ齢10歳のレオポルドが19年前にテオドールへ呪いをかけた訳がない。流石にレオポルドがかわいそうだ。

そのレオポルドを見ると、ノーラの目線に気付いて笑顔で手を振ってくれている。それを隣にいるウィリアムと王太子に窘められ、軽く謝っている様子まで確認できた。
そんな三兄弟の王子たちに、母親が虹蛇に噛まれて拐われてしまった悲壮感はない。

・・・・・逆鱗を、返せ・・・・・逆鱗を、返せ・・・・・逆鱗を、返せ・・・・・・・・・・

3柱分の声が重なり、頭に響く。

王妃を咥えた逆鱗のない虹蛇は空の高い所から急降下してきて、地面に当たる寸前で地面を回避した。明らかに王妃を脅している。
今は王妃を咥えたままで頭を振り回して雷が鳴り続ける雨の中を飛び回っている。

「僕はずっと雷獣の毛や雷竜の髭を使った雷の呪いを調べてたんだよね。まさか、一捻りして雨に雷の条件を加えていたとは。王妃もやるなぁ」

「お前が真剣に呪いを解こうとしていなかっただけだろ。こんな派手なことしないでも良かっただろうに……」

近くにいる者にしか聞こえない声量でテオドールと国王は話している。

テオドールは虹蛇が王妃を咥えたまま近くへ降りたってきたタイミングで、周囲へ聞こえるように声を張り上げた。

「義姉上、あなたがこの虹蛇の逆鱗を使い私に呪いをかけていたのですね。逆鱗の持ち主には、それを利用している人物がわかってしまうのです。私が死んでいないから呪いは続いている。つまり、逆鱗を含めた魔法陣も未だ稼働している状態。それをしまっている場所を教えてください。あなたを殺してしまったら、逆鱗を傷つけることなく呪いを解くことができないのです。……あなたの罪はすでに明らか。無視し続けても状況は良くならない。恐怖の時間が無駄に長引くだけですよ」

テオドールの話が終わると、逆鱗のない虹蛇は王妃を空高く投げた。そして、もう1柱の赤ちゃん虹蛇が王妃を咥える。まるで王妃は虹蛇の子供2柱のおもちゃになってしまったように投げられている。

王妃が地面に落ちそうになるギリギリでキャッチされた時は、客席の貴族たちから悲鳴が聞こえて来た。
ダリモア辺境伯は大柄なために沢山の人の中でもよく目立ち目に入るが、彼はこの状況を楽しんでいるようで王妃を見て笑っている。

「南の森!南の森で、一番高い糸杉の、根元に!……埋めたわ!」

たまらないといった様子で、とうとう呪いをかけていたと自白するに等しい叫びを上げる王妃。それを聞いて、レオポルドの近くに立っていたマックスが走り出す。離宮の外には念のために馬を用意していた。

広い王城の城壁の中の、その南に位置する森は”南の森”と呼ばれている。
騎乗ならどれくらいかかるだろうか。と、極度の緊張を超えたせいかこんな状況なのにぼんやりと考え出したノーラは、虹蛇の赤ちゃんの尻尾をお腹に巻きつけられてしまっていた。

えっ、と思った時には、ノーラは空高く飛んでいた。テオドールはノーラのピンチに気づき、素早く虹蛇の赤ちゃんの背にしがみついたようだ。虹蛇の赤ちゃんはノーラとテオドールを連れ、南の森、その中で一番高い糸杉を目指して飛んでいる。
ノーラが下を見ると、騎乗で走るマックスも見えるが、そのマックスをどんどんと引き離していく。

「うわー、すごーい!ノーラ、見て!雷雲も付いて来てるよ!」

興奮したテオドールの言う通り、雷雲もテオドールを追って移動している。そして、すごい速さで移動しているテオドールを追いかけるように落ちてくる雷を、より速く飛んできた虹蛇のお母さんが吸い込んでくれている。
雷でお腹がいっぱいにならないかと心配しているうちに、ノーラとテオドールは一番高い糸杉の根元に静かに降ろされた。

「スコップとかないですよね……」

とノーラが言うと同時、テオドールは糸杉の根元の地面に手をつき目を瞑る。テオドールが何かの魔法を発動し、地面にはポコポコと無数の山が浮かび上がり、少し離れた所に大きな穴が出来た。
テオドールはその穴から銅製の丸い容れ物を取り出した。

直径30センチほどだろうか、人の頭より少しばかり大きいその球体の容れ物。真ん中にはくるっと一周された切れ目が入っていてパカっと二つに割れそうな見た目をしている。その表面には魔法陣に使われる魔法言語がビッシリと彫られていて、その溝に埋まった土を激しい雨が洗い落としていく。
おどろおどろしい魔力が漏れ出している球体を素手で持って大丈夫か心配しているノーラをよそに、テオドールは全く気にせずがっしりと片手で脇の下に挟み込み、虹蛇の赤ちゃんに跨った。

「ノーラも乗って!早く戻らなきゃ!」

ノーラは恐る恐る虹蛇の背に乗る。テオドールの背にもたれ掛かり、まるで馬に横乗りする時のように座ってみた。
尻尾に巻かれていた先ほどとは違い、今度はテオドールの身体にぴったりとくっついている。
こんな状況なのに、頬が熱くなり胸がドキドキと高鳴っている自分に笑いたくなる。

虹蛇の召喚魔法を発動する前に心臓が壊れるんじゃないかと思った、つい先ほどの激しい動悸とは違う種類の胸の高鳴りに戸惑いつつ、そのせいで気づいた気持ちを仕方ないかと受け入れる。

「マックスー!戻って戻って!」

テオドールはノーラのときめきに気づく様子はなく、下を走るマックスへ離宮へ戻るようにと声を掛けていた。

雷雲を引き連れて儀式が行われていた会場に戻ると、王妃は国王の前に両膝をつき跪いていた。少し前に儀式で跪いていたノーラとは違い、その腕は後ろで纏められ魔法が使えなくなる拘束具が付けられている。
いつも美しく纏められていた黒髪はだらしなく乱れ、真っ赤なドレスは虹蛇の牙で傷ついた上に雨で濡れていて見るも無惨な状態。
元来の気の強さ故か、水色の瞳には絶望や悲しみ不安恐怖などはなく、激しい怒りと憎しみを込めて国王を貫かんばかりに睨みつけている。

「私がこうしていなければ、あなたは王になってなかった!」

王妃の叫びを聞きながら、ノーラは虹蛇の赤ちゃんの背から先ほど立っていた舞台の上へと降り立つ。

テオドールが銅製の容れ物に刻まれた魔法文字を確認している。解析しているのだ。ほんの少し、1分もせずにテオドールがその容れ物に魔法を発動した気配がしてすぐにパカっと二つに割れた。

中には、逆鱗、オリーブ色の髪の毛が巻きついた人の形をした陶器、おそらく血で書かれた魔法陣、それと何か黒いゴミのようなもの。

「これは臍帯。僕のへその緒だろうね。盗んだ人を突き止めたら母上が傷つきそうだ。……嫌だなぁ」

ノーラにしか聞こえない声量で呟かれたテオドールの弱音。初めて見る悲しそうな顔。
どう声をかけようかノーラが悩んでるうち、テオドールはニコッと笑顔になり、逆鱗以外の物を国王の近くに立っていた宰相に渡した。

そして、逆鱗をノーラに渡してきた。事前の話し合いでは、そのままテオドールが虹蛇に渡す予定だったのだが、テオドールは逆鱗を返す役目をノーラに譲るようだ。

「お母さんの虹蛇が”娘”って言ってたからね。女の子なら女の子からの方がいいでしょ……」

ノーラはテオドールへ頷く。

両手で逆鱗を持ち、腕を上げて空へ掲げると、逆鱗がない虹蛇がノーラへ向かってゆっくりと降りてくる。そしてノーラの周りを一周し、空高くへ飛んで行ってしまったが、いつの間にかノーラの手から逆鱗が消えていた。

見守っていた残りの2柱の虹蛇も後に付いていくように空高くへ飛んで行ってしまった。虹蛇3柱は高く高く昇り、黒い雨雲の中へと入ってしまい、見えなくなってしまった。

雷が消えた。
そして、すーっと雨が止む。
雲は徐々に色が薄くなり、黒から白となってどんどんと小さくなっていく。
そんな雲の隙間から光線が差し込み、青い空が見え出す。
太陽が顔を出した途端に光線は消え、代わりに周囲の雲が赤や緑など様々な色に彩られ、虹のように鮮やかな色を纏っている。

虹のような色の雲はとても珍しく、彩雲と呼ばれ、見ると願いが叶うとまで言われている。

その彩雲の間を、3柱の虹蛇が飛び回っている。
3柱ともに、キラキラと虹色に反射している白い鱗が美しく、まるで虹が踊っているようだ。瞳は黄金に輝き、目の上にある二本の角に不思議な愛嬌を感じる。

皆、彩雲と虹蛇の神々しさに圧倒されていて、空を見上げたまま誰も声を発することはない。聞こえてくるのは虹蛇達が飛ぶことで起こる風の音だけ。

皆が空を見上げている中、ノーラはこっそりと隣を盗み見る。
雨に濡れたオリーブ色の頭から雫が垂れ、ノーラより9歳も上のはずなのにまるで少年のような屈託のない笑顔を浮かべ、金色の美しい瞳を比喩ではなくキラキラと輝かせているテオドール。

空を見ているから気付かれないと思っていたのに、テオドールは目線に気づいたのかノーラの方へと顔を向けた。
テオドールの後ろにある太陽のせいで逆光となって顔に影がかかっている。

ノーラへ笑いかけてくるテオドールの頭上には、太陽があり、晴天が広がっている。
テオドールにとっては5歳以降、19年ぶりの晴れ空だ。

ノーラは溢れ出てくるテオドールを思う深くて熱い気持ちに、かつてルカへ抱いていたときめきなど、作り上げられたただのまやかしだったのだと思い知る。
ノーラは心からの笑顔をテオドールへ返しながら、青空を背景にしたテオドールの笑顔を、胸に刻むように一生懸命見つめた。

消えていた召喚の魔法陣が空に現れ、大きくなっていく。

まずはお母さんの虹蛇が魔法陣へ入り、赤ちゃんの虹蛇がそれへ続く。最後に残った逆鱗が戻ったばかりの虹蛇はノーラの近くへと降りて来て、ノーラとテオドールの周りを何度か周った後に魔法陣へと入っていった。

虹蛇が消えたのを確認したノーラはもう一度右手を空にかざし、魔法陣は腕輪の青い水晶へ吸い込まれていく。

こうして、逆鱗は無事虹蛇に返され、虹蛇達は北東の地へと帰っていった。

この時の王城の上を泳ぐように飛ぶ3柱の虹蛇の姿は、王城の外から、王都の市井からでも見ることができたそうだ。

しばらくして、王国では呪われた王弟テオドールを主人公とした物語や劇が沢山作られたが、その内容は千差万別だった。にも関わらず、どの創作物でも必ず、呪いを解く最終場面だけは、虹蛇3柱が王城の上を舞う幻想的な様子が情緒的に描かれている。

王城の上を3柱の虹蛇が飛び回る様子は、王都の人々にとって、忘れられない思い出なのだろう。

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あの、波乱の襲爵の儀式からひと月半が経った今は12月17日。

毎年12月20日に行う冬の雨乞い儀式を3日後に控えたノーラは、コナーや侍女長をはじめとした使用人達と一丸となって雨乞い儀式とその後の感謝祭、そしてその後王都へ行き新年を迎えるための準備をしているところだ。

襲爵の儀式が終わった後のノーラは、国王や宰相など王国の中枢人物達からテオドールと共に説教を受けたものの、特にお咎めなしですぐに解放された。

テオドールを呪っていたのは王妃とその父親だった。動機は当時王太子だった現国王をさし置き、金瞳の末っ子王子が国王になることを防ぐために殺そうとしたのだ。

王族を暗殺することはとても難しい。暗殺に成功しても、魔力から様々な情報を読み取ることができる王族から犯行を隠し切ることは難しい。そんな中で、足がつきづらく確実に殺す方法として、強力な呪いを選んだ。テオドールの父、前国王が雷が落ちる前に呪いを防ぐ魔法陣を編み出し展開したせいで、19年も呪いが続いてしまったことは二人にとって予想外だったそう。

聖獣・虹蛇の逆鱗やテオドールの臍帯を盗んだ方法はこれから聞き出し捜査もされる。聖獣を傷つけることは大罪だ。呪いとは別の罪が重なる。
王妃とその父親は毒杯を飲むことになり、王妃の実家は公爵から伯爵へ降格するくらいが妥当だろうか。

王妃が投獄されたにも関わらず、儀式翌日の夜会は、予定通り開催された。
その夜会でノーラはダリモア辺境伯夫婦と挨拶し、キャルムとノーラはすでに婚約を解消していることと、フィーネが実は父の娘ではなかったことを、わざと周囲に聞こえるように話しておいた。

貴族たちは、まさか、ノーラの父が継承魔法に失敗して虹蛇の召喚契約が消滅していたなどとは、夢にも思ってもいないようだった。転送ゲートを使いアクランドへ水を送りますなどと言い出す人は現れず、これまで通りにアクランドで雨乞いが続けられそうだとノーラは胸をなでおろした。

そんな夜会も無事終わり、タウンハウスで庭師から受け取ったヒヤシンスの球根を持って、ノーラはアクランド領へと戻って来た。

虹蛇と召喚契約を結び、虹蛇の逆鱗も戻り、テオドールの呪いを解くことに協力したことへの対価としてキャルムとの婚約解消も手伝ってもらい無事婚約を解消した。
ノーラが雨乞いをしないとアクランドの領地が砂漠と化してしまうため、アクランド伯爵家の特異な魔力を狙う輩も現れない。
テオドールの呪いは無事解かれた。

シトリン子爵領でノーラが虹蛇と召喚契約をしたすぐ後、テオドールは逆鱗を取り戻す計画の詳細を虹蛇たちへ説明した。虹蛇の親子は逆鱗を奪った犯人を殺さず生け捕りにしたいことも含め全て了承してくれて、ノーラの魔力の対価無しで召喚したにも関わらず約束通り3柱で来てくれたのだ。

そして、虹蛇へ逆鱗を取り戻す話をしていた際、テオドールは次の12月のアクランドの雨乞いの時も親子3柱で来てくれるようにお願いもしてくれた。

ノーラが召喚契約をした虹蛇はまだ子供で身体が小さい。逆鱗を取り戻したばかりでの雨乞いは、もしかしたら力が足りないかもしれないと、テオドールは先回りでお願いしてくれたのだ。
3日後の雨乞い儀式では虹蛇親子3柱が来てくれる。領民たちの喜ぶ姿が目に浮かぶ。

何もかもが解決してしまっている今、ノーラとテオドールが関わる必要は、もう、ない。

にも関わらず、ノーラは今、アクランド領地の屋敷の応接室で、テオドールと向き合ってお茶を飲んでいる。

「忙しい時に連絡もなしで来てごめんね。貴族の約束事とかまだまだ慣れなくてさ」

そう言って、急な来訪を謝っているテオドール。
その後ろには護衛としてマックスが立っている。呪いが解かれた後、マックスは正式にテオドール専属の護衛となったそうだ。

テオドールと会うのはひと月半ぶり。その間、ノーラは事後報告のような手紙を何通か出していたが、テオドールからノーラへの手紙は1通もない。
それまでテオドールから届いていた手紙は、全て、箇条書きで要件のみしか書かれていない内容ばかりだった。そのため、伝えるべき用件がない限りテオドールから手紙が届くことはないのだろうと、ノーラは理解していた。

ノーラはこのひと月半で、テオドールと疎遠になった現実をゆっくりゆっくりと受け入れ、気持ちの整理をつけていた。
だというのに、そんなノーラの気持ちに気づかない目の前の男は、以前のように気ままにアクランドを訪問してきたのだ。

「これノーラへのお土産。このひと月は転送ゲート使って、行きたかったところに旅行してたんだ。国内だけだけどね」

マックスがテーブルの上にたくさんの物を置いていく。

繊細な柄が描かれたエナメルの皿、青く美しいガラスの花瓶、ラクダの骨でできた繊細な小箱、真鍮で出来た細工が美しい掛け時計、シルクの糸で織られたテーブルセンター……。王国内の各所の有名な特産物が置かれていく。一つ一つがとても高価だとわかる工芸品で、マックスがテーブルに乗せるたびにノーラは慄いてしまう。

「こんなに沢山、いただく理由がありません。……困ります」

テオドールの性格を考え、ここは正直に伝えた方が良いだろうと判断する。何の関係もない王族のテオドールから物を貰ったら、ノーラはアクランド伯爵家としてそれに見合うお返しをしないといけない。嬉しい気持ちよりも困るが勝る。

「お返しはいらないんだ。ただ受け取ってくれるだけで僕はとても嬉しいんだけど……」

なかなか返事をしないノーラへ、テオドールは語り出す。

「僕さ呪いが解かれた嬉しさのまま、色んなところに出かけたんだ。王国で一番大きな木、遷都前の遺跡、大きな水族館、銅像、温泉、獲れたての魚。今まで本で読むしかなかった物たちを見て、触って、食べて、胸が暖かくなった。……でも、その度にさ、ノーラのことが頭によぎるんだ。この美しい景色をノーラにも見せてあげたかったな、この美味しい食べ物をノーラにも食べさせたかったな、素晴らしいこの音楽を一緒に聞きたかったな、って。移動中も、馬車の中で喋り続けるマックスの相手をしながら、シトリン子爵領に行った時のことを思い出して、あの時みたいにノーラも一緒にいたらいいのにって、ずっと思ってた」

後ろに立つマックスが、”喋り続けるマックス”と聞き、少し口を尖らせる。

「今見ている絶景もノーラと一緒に見た方が美しく感じたのかなって、そう思った時、それって僕はノーラのことを特別に思ってるってことだって気づいたんだ。同じように、ノーラにも僕のことを特別に思って欲しいなって、そうも思った」

テオドールの突然な告白にノーラの気持ちは追いつかない。戸惑い、テオドールのことを見れなくなってしまったノーラは、意味もなくテーブルの上の工芸品を眺めてしまう。

「ノーラが受け入れたら、結婚しても良いって、兄上からの許可も貰って来た」

ノーラは、驚いて顔を上げ、テオドールの顔をまっすぐ見つめた。テオドールもノーラを見ている。
その真剣な金の瞳に見入ってしまう。

「僕と、結婚してください!」

テオドールの真っ直ぐなプロポーズ。

ノーラの目の縁からは涙が溢れ出す。マックスと、後ろに立つコナーやミリーがそわそわしている雰囲気も感じる。
ノーラからテオドールへの返事は決まっている。

「ごめんなさい!」

ノーラがテオドールからの求婚を断ると、マックスとミリーの二人は揃って「えー!」という叫び声を上げた。
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