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四の巻~平成美女は平安(ぽい?)世界で~
79.満ち足りた時間② 定近の場合
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定近は若くして甥である國近(義鷹の父)を養子にし家督を譲り、この山奥に隠れ家(隠れ屋敷?)に移り住んだ世捨て人である。
そして、定近は思いがけない義孫(義孝)とその嫁の一行の訪れを心から喜んでいた。
***
不憫にも自分によく似た義孫である義孝のことは、ずっと心にかけていた。
本当の孫でなくとも元々、親戚にあたる義孝は可哀想なことに実の親である國近よりも醜い自分に、似ていた。
背が高く目鼻立ちがくっきりとし、理想の下膨れとは程遠い卵型の顔立ち。
肌の色は浅黒く体は大きく筋肉質で天狗のようだと恐れられ…。
自分のように女性たちからは目を背けられ陰口をたたかれ、生きにくい思いをしているのだろうと心配していた。
それが、天女の如く美しくも可愛らしい花嫁を伴ってこの屋敷にやってきたのだ!
事情を聞けば何と親公認での駆け落ちだという。
信じられないことに…。
いや、もはや二人の様子を見ればまごう事なき真実なのであろうが、あの都で有名な美男子の凛麗の君や主上までもを袖にして義鷹を選んだという芙久子姫は、誰の目から見ても義鷹にメロメロで義鷹もまた姫君にメロメロのへにょへにょにベタ惚れのようである。
さらに芙久子姫やそのお供の亜里沙が自分を初めて会ったその時から怯える事も無く人懐っこい笑顔で、挨拶してきた事にも驚いた。
猪を狩って帰れば 芙久子姫は、若干、獲物である死骸に怯えていたようだが、亜里沙という侍女はキラキラとした尊敬の眼差しで満面の笑顔を向けてきて何やら動機が激しくなり心臓に悪いくらいだった。
定近は思った。
亜里沙殿は儂と同じような卵型の顔立ちだし、目鼻立ちもはっきりとしていて決して芙久子姫のような美女ではないが、自分のように世間に背を向けて隠れて生きるのとは違い、主人に誠心誠意尽くし顔を隠す事も無く背筋をしゃんと伸ばし生き生きとした立ち居振る舞いのなんと頼もしく美しい事かと感動していた。
女性にしては(この平安の世界では)少々、背が高すぎるであろうことも気にもしていないようである。
『年の頃はまだ若き女性ではあるが尊敬できる素晴らしく魅力的な人物だな…見習いたい』と、そう思った。
醜いはずの自分をこの屋敷の主として敬ってくれることに…そしてそれがとても自然で当たり前のように振る舞う亜里沙や芙久子の印象は素晴らしく良かった。
まるで自分は醜くなかったかのようだ。
むしろ、男前だったのだろうかと勘違いしそうになるほどの好意的な眼差しの前に身悶えしそうになる定近だった。
…そう、定近38歳にして初めて味わう幸せな時間だった。
『年甲斐もなく何を儂は浮足立って…』と思いながらも口角は自然に上がりニマニマしてしまう定近である。
そして、義鷹と共に狩りで狩ってきた獲物たちの皮を剥ぎ丁寧に調理しやすいように解体して、亜里沙の元迄運ぶのだった。
そう、年甲斐もなく浮き浮きとした足取りでニコニコ顔の定近は、とても幸せそうで一緒に下準備していた義鷹や是延も思わずつられて微笑む。
穏やかで優しい満ち足りた時間だった。
そして、定近は思いがけない義孫(義孝)とその嫁の一行の訪れを心から喜んでいた。
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不憫にも自分によく似た義孫である義孝のことは、ずっと心にかけていた。
本当の孫でなくとも元々、親戚にあたる義孝は可哀想なことに実の親である國近よりも醜い自分に、似ていた。
背が高く目鼻立ちがくっきりとし、理想の下膨れとは程遠い卵型の顔立ち。
肌の色は浅黒く体は大きく筋肉質で天狗のようだと恐れられ…。
自分のように女性たちからは目を背けられ陰口をたたかれ、生きにくい思いをしているのだろうと心配していた。
それが、天女の如く美しくも可愛らしい花嫁を伴ってこの屋敷にやってきたのだ!
事情を聞けば何と親公認での駆け落ちだという。
信じられないことに…。
いや、もはや二人の様子を見ればまごう事なき真実なのであろうが、あの都で有名な美男子の凛麗の君や主上までもを袖にして義鷹を選んだという芙久子姫は、誰の目から見ても義鷹にメロメロで義鷹もまた姫君にメロメロのへにょへにょにベタ惚れのようである。
さらに芙久子姫やそのお供の亜里沙が自分を初めて会ったその時から怯える事も無く人懐っこい笑顔で、挨拶してきた事にも驚いた。
猪を狩って帰れば 芙久子姫は、若干、獲物である死骸に怯えていたようだが、亜里沙という侍女はキラキラとした尊敬の眼差しで満面の笑顔を向けてきて何やら動機が激しくなり心臓に悪いくらいだった。
定近は思った。
亜里沙殿は儂と同じような卵型の顔立ちだし、目鼻立ちもはっきりとしていて決して芙久子姫のような美女ではないが、自分のように世間に背を向けて隠れて生きるのとは違い、主人に誠心誠意尽くし顔を隠す事も無く背筋をしゃんと伸ばし生き生きとした立ち居振る舞いのなんと頼もしく美しい事かと感動していた。
女性にしては(この平安の世界では)少々、背が高すぎるであろうことも気にもしていないようである。
『年の頃はまだ若き女性ではあるが尊敬できる素晴らしく魅力的な人物だな…見習いたい』と、そう思った。
醜いはずの自分をこの屋敷の主として敬ってくれることに…そしてそれがとても自然で当たり前のように振る舞う亜里沙や芙久子の印象は素晴らしく良かった。
まるで自分は醜くなかったかのようだ。
むしろ、男前だったのだろうかと勘違いしそうになるほどの好意的な眼差しの前に身悶えしそうになる定近だった。
…そう、定近38歳にして初めて味わう幸せな時間だった。
『年甲斐もなく何を儂は浮足立って…』と思いながらも口角は自然に上がりニマニマしてしまう定近である。
そして、義鷹と共に狩りで狩ってきた獲物たちの皮を剥ぎ丁寧に調理しやすいように解体して、亜里沙の元迄運ぶのだった。
そう、年甲斐もなく浮き浮きとした足取りでニコニコ顔の定近は、とても幸せそうで一緒に下準備していた義鷹や是延も思わずつられて微笑む。
穏やかで優しい満ち足りた時間だった。
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