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ところ変われば姫!時々、騎士見習い!

28.居酒屋で

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 その居酒屋「無礼講ぶれいこう」は城から一番近くにあった。

 なかなか小綺麗な店だか、堅苦しい訳でもなくわいわいがやがやと騒がしい、でも温かみのあるといった感じの店である。

 楽士が奏でる音楽、飛びかう楽しげな笑い声。

 この店では『貴族も平民もなく』というのがルールである。

 客は、もっぱら城に勤める兵士や文官たちで賑わっている。

 ミウと王子が、席につくと騎士隊長より乾杯の音頭がとられた。

「さて先週から我らが騎士団に見習いとなったミウとルーク!ようこそ!二人とも身分に関係なくビシバシ鍛えるからな!二人の健闘に乾杯!」

「「「「乾杯!」」」」と一斉にグラスを掲げる。

 皆、心から楽しい時間を過ごしていた。

 夜も半ばになってきて、店内も混んできたころ軍人らしき二人が店に入ってきた。

「さあさあ、元気出して下さいよ!酒でも飲んで今日は楽しみしょう!」

 最初に入ってきたのは、ルミアーナも見知った顔のジョナだった。
 一度ダルタスの職場見学に行った時にダルタスと最後までて合わせしていたダルタス直属の正規軍兵士のジョナだ。

 すると、後ろから不機嫌そうに入ってきたのは、なんとダルタス将軍である。

 ドクン!とミウの胸が苦しいほどに締め付けられた。
 どんな顔をして会えばよいのか。

 自分は、ダルタスに合わせる顔がないと思ってどこかに隠れたい気持ちにかられたが、事情を知るルーク王子がミウにそっと耳打ちする。

「大丈夫!今、君はルミアーナではない。ミウだ。誰も気づかないよ」
 そうだった。
 今はルークの魔法で髪も瞳も肌さえも違う色でしかも自分は男の格好だった。

 ルークの言葉に少しホッとした。

「ありがとう、ルーク…」
 すると、王子に気づいたジョナが、ダルタス将軍に耳打ちした。

 ダルタス将軍とジョナはこちらに向かってきた。
「ルーク、珍しいところで会うな。そうか、騎士見習いとして近衛で修行させると王が言っていたか…」

「やあ、ダルタス、うん、学校を卒業してから特にやりたいこともなかったし、騎士になるのも悪くないかと思って父上に従ってるよ」と、やけに気安い様子で受け答える。

 ミウは、一瞬、不思議に思ったが、そうか、二人は従弟同士だったのだと思い当たる。

「今日は、僕とこのミウの騎士見習いの歓迎会を近衛騎士団の皆が開いてくれてね。ミウ、君は初めて会うよね?僕の従兄弟で軍部最高司令官のダルタス将軍だ」と、ルークは、さりげなくルミアーナの事をとして紹介した。

「は、はじめましてミウ・クーリアナです」と慌てて美羽が頭をさげるとダルタスは、「うむ」と短く答えた。

 …三秒もたたぬ間にミウとダルタスの会話が終わってしまった。

「あいかわらず、そっけないな、ダルタスは…」とルークが眉をしかめて言うと、ジョナが、庇うように言った。

「ルーク王子!将軍は今、失恋しちゃって元気ないんですよ!それで励まそうとここに…(ごきっ!)うわっ」
「うるさい!余計な事を言うな!」と、言うが早いかダルタスがジョナの頭を、小突いていた。

「え?」とミウは首をかしげる。

 こんなに素敵なダルタス様が失恋なんて一体全体どうして?とミウは思った。
 そして思い当たることがひとつ!

 はっ!ダルタス様はきっとほんの一瞬ひとときでも私なんかと婚約などしてしまったせいで恋人にされたんだわ!
 きっとそう!
 ああ、どうしよう。

 私のせいだ!と血の気が引く!

 王太子に、無理矢理、私と見合いさせられてそれだけでも誤解を招きかねないのに!

 私がうっかりダルタス様に夢中になって…ダルタス様の気持ちも確かめず舞い上がっていたせいだ!
 父や母にもダルタス様のお嫁さんになりたいなどと言ってしまったもの…。

 もともとダルタス様崇拝のお父様もすっかり喜んじゃって、国王様の祝福まで取り付けたから、ダルタス様が断りづらくなってしまったのよね。

 あげくに、今思っても泣きたくなるけど…。
 怪我をさせたって…「」をとって結婚してくれようとまでしてくださったのよね。

 ダルタス様!ごめんなさいです。
 胸がきゅうっと締め付けられる。
 泣きそうである。

(ちなみに、しつこいようだが、ミウ…いや、ルミアーナは、ダルタス将軍をふったのが自分だとは、欠片も思っていない…)

 真っ青になった私をみてルークが心配そうに声をかける。

「ミウ、どうしたの?真っ青だよ」

「う、うん、…大丈夫」

「ミウ?本当に真っ青よ?」とリゼラが驚いた。

「なんだなんだ?ミウ、どうした?体調が悪いのか?」

「ミウ、うわ、涙目じゃねーか!」とウルバやテスまでさわぎだした。

 これには、ちょっとダルタスも驚いてと呟いた。

「ひ弱そうだな?騎士見習いなどむいてないんじゃないか?」

 この言葉に周りの騎士たちは一瞬、空気を凍らせた!

「何言ってるんですか!ミウは、ふだん騎士団一の俊足で、やる気も元気もいつも一番なんですから!」とテスが言うと、、よくぞ言ってくれましたと言わんばかりにリゼラが、噛みつくように言葉を続けた。

「そうですわ!ミウほど騎士になるに相応しい子はいませんわ!いくら天下のダルタス将軍でも聞き捨てなりません!」
 女だてらに怖いもの知らずのリゼラだった。

 リゼラは女性ながらも、騎士の称号を持つだけの事はあり、ダルタスを恐れない数少ない女性の一人である。

 まわりの騎士達もうんうん頷いて、ダルタスを非難しはじめたのでミウが慌てた。

「皆さん!止めてください。僕、平気ですから!」と、ダルタスの前に庇うように立つ。

 これにはダルタス将軍がびっくりである。
 こんな、華奢な声変わりもしていないような騎士見習いの少年に庇われるとは、思いもよらない事だったのである。

 なんだか、可笑しくなってダルタスはぷっと吹き出した。

「これは、私が迂闊だったな?なかなか頼もしい。この私が庇われるとはな。なかなか見どころがあるではないか?」と言ってミウの頭をグリグリなでた。

 ミウの蒼白だった顔がとたんに真っ赤になり、それがまたダルタスの笑いを誘った。

「ははは!今度は血色がやたらよくなったな?小僧!」と、ほっぺをむにゅっとつかむ。

「こりゃ、たまげた!ダルタス将軍の笑い声なんて珍しい!将軍を笑わせるなんて、大物かも!」とジョナが目を見開いて感心する。

「まあ、まあ、ミウが元気ならいいさ。ダルタス将軍、ジョナ、良かったら一緒に!どうです?」と、ウルバ隊長が二人を誘う。
 周りの皆も、ダルタスがミウに悪気があって言った訳では無さそうな事を悟ると途端に和やかなムードになり、どうぞどうぞと手招きをした。

「そりゃ、いいや!」とジョナがダルタスの腕を引っ張る。

 テスが隣のテーブルからさっと椅子をとってきてミウの隣に席を作り、ダルタスとジョナを座らせる。

 うわっ!ダルタス様が私のとなりにぃー?とミウは、内心、嬉しいやら焦るやら複雑な心境だった。

「じゃ、改めて乾杯っ!」と皆で乾杯をして楽しくしゃべりだした。

「だけど騎士団一の俊足と言えばテスじゃなかったっけ?」とジョナが言うと、
「や、悔しいけどほんとにほんと!ミウの逃げ足だと俺も誰も追い付けない!」テスが神妙に答える。

「へぇ?それは…すごいな。テスは、確か、去年の国をあげての王都早駆け大会の優勝者だったろう?」

「ああ、今年、ミウが出場したら間違いなくミウの優勝だよ」とテスが言うと、

「あ、僕、それにはでませんけど…」とミウが言った。

「ええ?なんでさ?もったいない!隊長!ミウは絶対でるべきですよね?」と、テスが言うと、周りの騎士らもうんうんと頷いた。

「いや、俺もそれは言ったんだけどな~。まぁ、早駆けは基本、自由参加だしな。今年もテス、おまえの優勝に決まりだろう」

「えぇー?なんか不戦勝て何かあんまし嬉しくないんだけど」と不服そうである。

「そんなことないですよ。ごく短い距離ならともかく、長距離になったら僕、テスさんに全く敵いません。王都を突っ切って丘を一周してくるんですからキツいですよ。それより僕、弓と剣技で出場してみたくて」

「ええっ!でもミウはまだ弓も剣も習い始めたばかりだろう?弓はまだ的相手だから良いけど剣技は練習の時と違って本物の剣だし危ないよ!」とルークが止めに入る。

「うう~ルークまで姉さまと同じ事を~」と恨めしそうに言うと、リゼラが真正面からミウを見据えた。

「そんな泣きそうな声を出してもダメです!弓は許可しますが剣技はまだまだ見習いのうちには参加させられません!」とびしっと言い放った。

「うう~」

「まぁ、そう唸るなって!ぼくも弓の練習付き合うしね?」とルークがなだめるように言う。
 その仲良さげなルークとミウのやりとちにダルタスが少しばかり驚いた。

「随分、仲が良いのだな?」とダルタスが不思議そうにルークに声をかけた。

 ダルタスの知る限り、従弟のルークがこんなに他人に気を許しているのを初めて見た。

「ダルタス、ミウは特別だよ。親友なんだ」とにっこりとほほ笑む。

「ほう…」ダルタスがミウをまじまじと見つめる。

 うわっ!心臓に悪い~。

 私がルミアーナだと気づきませんようにとミウは祈った。

 そんな時に「おまたせ!」と声をかけながらお店の綺麗な女の人が割って入ってきた。
 あとから来たダルタスとジョナのもとにお酒の入ったジョッキを運んできたのだ。

 長い黒髪に真っ赤なドレスに真っ赤な唇、お酒を運んできたものの給女ではなさそうである。

「サンドラ…おまえが酒など運ばなくともよかろう?」とダルタスが言う。

「あらあ、愛しい貴方のお酒ですもの、私が運ばなくてどうするの?」という甘ったるい声にはぞくっとするほどの色香を漂わせる。

 するりとダルタスの首に手を回しダルタスの顔に今にも口づけしそうな距離で囁く。

「こんなところで飲んでないで二階にこない?」

「ふん、二度と俺に会わないんじゃなかったのか?」とダルタスが言うと、

「あら、そんなこと言ったかしら?だって貴方、婚約したって聞いたから…でもすぐに解消したのよね?うふふ」とダルタスの胸にしなだれかかる。

 周りはやれやれといった感じだが気に留める風もなくわいわいと別の話題に盛り上がりながら飲み食いしている。
 聞き耳を立てているのはミウとミウを気遣うルークとリゼラぐらいだった。

 二人の会話を聞いてああ、このサンドラという美女がダルタス様の恋人なのだ!とミウは認識してしまった。

 今の会話を聞いて察するに一度は私との婚約のせいで別れたけど、婚約解消のことが伝わってダルタス様のもとに…帰ってきた…ということかしら?とミウ(ルミアーナ)は思った。

 ツキン…と胸が痛む。
 でも…よかった…。
 そう、よかったのだ。

 自分のせいでダルタス様がふられるなんて許されない罪だと思ったから…。
 よかったけれど胸は痛む。

 するとダルタスは鬱陶しそうにサンドラを手でおしのけた。
「ええい、鬱陶しい!サンドラおまえ俺の事はんじゃなかったのか?」

「ああん!相変わらず冷たいのね~!ま、そこも良いのだけど!」

「そりゃあね、貴族のお姫様との婚約が決まったって聞いてそんなら身を引こうかとは思ったわよ。けど、なあに?一週間もしないうちに婚約解消なんて!しかも女の方からなんて、そのご令嬢は何様よ!所詮、貴族のお姫様には貴方の良さなんてわかんないのよ!この傷にだって怯えてたんでしょうよ」

 サンドラのそのあんまりなセリフにミウが食いついた。

「んな訳ないでしょう!その傷だってカッコいいし、ダルタス様の事は好きに決まってるじゃないですか!」と叫んでしまった。

「「え?」」とダルタスとダルタスにまとわりつくサンドラがミウをみる。

 ルークは、あ~あ…という顔になるが、さらっと助け舟を出す。

「あ~そうそう、そう言ってたよね~ルミアーナ姫は…」

「はぁ?騎士見習いの坊やたちが、なんで、そんなのしってるのかしら?」とサンドラがルークとミウを睨み付ける。

 どうやらサンドラはルークが王子だとは気づいていないようで横柄な態度である。

 べつにルークもそんな事をいちいち気にするタイプではなかったし、ここ「無礼講ぶれいこう」でのルールはその名のとおりの身分は問わずである。
(ちなみにこれは国王からも特別に認可された本気のルールである!もちろん常識的な範囲のマナーは守った上で!)

 まあ、でもサンドラも王子とわかっていればさすがにもう少し態度はわきまえたであろうが…。

「ルークとミウはルミアーナ嬢と会ったことが?」とダルタスが聞いた。

「うん、今、母上の宮に部屋を構えているからね。陛下の計らいで、時々話し相手に僕らが呼ばれるんだよ。ちょうど歳も同じくらいだからって」とうまく誤魔化してくれた。

 よもやミウがルミアーナだとは思ってもいないようだ。

「くそ!叔父上(国王陛下)め!アクルスがダメなら今度はルークとルミアーナを添わせようという魂胆か!」とダルタスが言うと、

「えええっ!ルークと?」とミウがびっくりして叫んだ。

「あはは、そうみたいだけど僕はルミアーナとは友人以上の気持ちはないよ」と、ミウを安心させるようにさらりと言った。

「だよね~?」とこくこくとミウが頷く。

 あきれた…!国王陛下ご夫妻はそんなこと企んでたのか…ルークが変に乗っからないでくれてよかったとミウは、思った。

 ミウにとってもルークはかけがえのない友人なのである。

「そ、そうなのか?」とダルタスがちょっと安心したように答えると先ほどの黒髪の美女サンドラがイラついたようにダルタスの顔を自分の胸に引き寄せた。

「もう!ダルタス様ったら、そんなダルタス様を袖にしたふったようなお姫様の話なんてどうでもいいじゃないの!」とサンドラがあろうことことかべたべたと頬ずりまでしている。

 サンドラも、またダルタスを恐れない数少ない女性の一人だ。

 まあ、彼女の場合は酒場でもっとたちの悪い男たちと駆け引きめいたことをしている強者であるから顔に傷があろうとも、へっちゃらなのである。
 もちろん妻になれるなどとは思っていないが愛人くらいになれたらよいなと言い寄ってくるのである。

『このひと、嫌い!』と内心思うミウ(ルミアーナ)だった。

「ええい!サンドラ、ルミアーナとの事があろうとなかろうと、!さっさと他の客のところへ行くなり踊るなりしてこいっ!」とべりっとサンドラをはがしてぽいっと追いやった。

「んもうっ!つれないんだから!」とサンドラは不満そうに口をとがらせながら楽師たちのほうへ行って、踊りだした。

「ミウ、彼女は流しの踊り子だよ。酒場とかで踊ったり、客の酒の相手をするのを仕事にしている女性だからとかではないよ?」とルークが言った。

「え?あ、そうなんだ。なんだ…そうか」と、ミウは、ちょっとほっとした。

「で、でも恋人は…いるんだよね?」と聞いてみる。

「さあ?それは…聞いてみないことにはね」とルークはなにかにまにましながらダルタスの方に目を向けた。

「ダルタス?ダルタスはルミアーナ姫以外に恋人とか愛人とかいるの?」とルークは、ダルタスに、さらっとストレートに聞いてみた。

「はあ?そんなモンいる訳なかろうが!俺に寄ってくる女なんて酒場で荒くれどもを相手にしてる気が強いサンドラみたいなのくらいだ!」と答える。

「え?」一瞬ミウは息を飲んだ。

「えええ?何でですか?ダルタス様そんなにカッコいいのに!」ミウは、本気で驚いて思わず叫んでしまった。

「あはは!将軍、男にはモテるんだけどね~!」とジョナが言う。

「しっかし、わかんないよなぁ~ルミアーナ様はダルタス様に首ったけだと思ってたんだけどなぁ~」

「やっぱ、王太子様の事で男が全部嫌になっちゃったのかなぁ~?」とジョナがいうと、ダルタスが、眉間に皺をよせてジョナの頭を間髪容れずになぐった。

「あ!そっか、これ内緒…あわわ…」
 余計な事を言うな!と言わんばかりにジョナを睨み付ける。

 うっかり王太子に襲われかけた話などもれて、ルミアーナの名誉が貶められるような噂になっては大変である。

 こほん…とひとつ咳ばらいをしてダルタスが言った。

「いいか、ルーク、ミウ!俺は恋人もいなけりゃ愛人なんぞいる筈もない!」と苦い顔をして言った。

「じゃあ、なんで婚約破棄?」ルークが尋ねるとダルタスが情けなさそうに答えた。

「知るか!俺が聞きたいわっ!」

「え?え?え?だってダルタス将軍は婚約されたのですよね?」とミウが問う。

「それはルミアーナ嬢が言ったのか?」

「え?え、ええ。はい、ダルタス将軍はを取るために結婚を決めたと…」
 とっさに、話を合わせて自分(ルミアーナ)の言葉をさも友達として聞いたことがあるように伝える。

「あ~、それじゃあ、姫も遠慮しちゃうよね~。好きだったら尚更嫌だよね~」とルークが言った。

「馬鹿な!何でそうなる?誰が好きでもない相手の責任を負いたいと思うか!」とダルタスが、とっさに反論する。

「えええぇー?」とミウは驚いた。
 そんな!そんな!ほんとに?とミウは、頭の中がパニックである。

「へぇーじゃあ、ダルタスは、ルミアーナのこと好きなんだ?」と、ひやかすようにルークが、言うと、ダルタスは、ルークを軽くにらむ。

「ひやかすな!真面目に悩んでいるのだ!」
そう言ったダルタス将軍は少し考えこんで再び口を開いた。

「…っ…俺はどうやら言葉を選ぶのが下手なようだ。一体、何をどう言えば良かったのか…」

「じゃあ、好きだから結婚したいと言えば良かったんじゃない?」
 ルークのその言葉に隣で、コクコク頷くミウである。

「む…ぅ」

「で、では、あのっ…将軍は本当はルミアーナの事がお好き?…なのですか?」と、ミウは、ダルタスに聞いてみた。

「好ましくは、思っている」

 は?好ましく?好きってこと?微妙にニュアンスが違う気も?ここは、勘違いしてはいけない!
 そう、自分に都合よく考えて間違えてはいけないのである!
 一生懸命自分に言い聞かせつつ、気持ちをおさえる。

「た、例えばどんなところが?」ミウは、身を乗り出して聞いてみた。

「まあ、今まで見た人間の中で一番綺麗だったな」
 ダルタスのこの言葉にミウルミアーナは、真っ赤になった。

 心臓の音が周りにも聞こえるのではないかと胸を押さえるが、ダルタスや他の騎士達は気づかなかった。
 ルークとリゼラ以外は。

「無邪気なところも可愛らしかったな」

「そ、それから?」と聞くと、

「何よりも、私を恐れもせず笑いかけてきた貴族令嬢などルミアーナが初めてだったな」とふっと寂しげに、でも嬉しそうに笑いながら言った。

 その寂しげな笑顔にまたもミウは、勝手に見当違いな解釈をした。

 …ああ…
 そうか、そうなのだ。

 だからなのか…とミウは、思った。

 だから、好きとか愛してるじゃなくて「思っている」なんだわ…と。

 顔の傷や恐ろしげな噂のせいで、この優しい人は、ずっと傷ついてきたのだ…と。

 でも、じゃあ、自分は?なぜ彼に惹かれたのかと振り返ってみる。

 ダルタスの噂を聞いた時、むしろ興味を持ったしカッコいいと感じた。
 実際に会ってみたら好みど真ん中、どストライクの理想の人だと思った。
 一目惚れって本当にあるのだと思った。

 だけど、それが憧れなのか愛なのかと聞かれたらよくわからない。
 今も彼を見るだけでどきどきするし、せつない。
 好きなことは間違いないとは思う。

 でも、なぜ自分はこんなにも好きと感じてしまうんだろう?と思う。
 出会ったばかりで彼の中身を全てわかっている訳でもないのに。

 理屈が成り立たない感情に冷静な答えがでてこない。
 でも、好きなのである。

 今さらだがダルタスが結婚を申し出てくれた時、いっそのこと、よけいな事など、考えずに受ければよかったとも思った。

 少なくとも好感は持ってくれていたのだから、それが恋や愛に変わっていったかもしれなかったのに…自分からそのチャンスを逃してしまったのだと後悔した。

 突然押しだまったミウをみてルークは、ダルタスに
「不器用だねぇ…ダルタス」とつぶやき、小さなため息をひとつついた。

 ルミアーナは、きっと好きだと言ってほしかっただけなのにと思ったが、それをダルタスに言ったところで、この男にはわからないだろうと思った。

 多分、ダルタスも結婚を断られたせいで自分が好かれているなど夢にも思えないのだろう。
 お互い自分は好かれていないと思っているのだ。

 両片思いな何だか面倒くさい二人に、事情をなんとなく知るルークとリゼラは目を見合わせて苦笑した。

 二人は目と目で語りあってしまった。
 なかば、呆れたような半開きの目で生ぬるい視線で会話する。
「どーするよ、こいつら…」という感じである。

 そのまま、近衛騎士団の「見習い歓迎会」は、ただの飲み会となり、それぞれに好き勝手な話に花を咲かせ酒と料理をたらふくたいらげてお開きとなった。

 ルークとリゼラに両側からしっかり囲まれて早々に立ち去るミウの様子にダルタスは、少し違和感を覚えたがミウの見た目の線の細さや女みたいな顔立ちからにされているのだろうか?と思った。

 人見知りが激しくなかなか他人を受け入れなかったはずのルークにしては珍しくべったりな仲良しっぷりで、異常なほど過保護?だなとも思ったが、従兄弟に親友と呼べるほどの者ができたのは良い事だと、それ以上深くは考えなかった。
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