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それからのお話

87.森の中の丸太小屋で…

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 ミアとダルタスは昨日、短い時間だったとはいえ”祟られ熊”(邪気によって魔物と化した熊)に飲みこまれたティムンを死の縁から救いだした後、半ば強引に自分たちの仮の住み家に連れ帰っていた。

「ねぇ、ラフィル様?昨日、強引にティムンを連れてきてしまったけどティムン大丈夫だったかしら?
 やっぱりちょっと強引過ぎたかしら?」

「いや、それはいいんじゃないか?今日、もうひとつ子供用のベッドを作ろう」

「ああ、そうよね?ごめんなさい。結局、昨日はラフィル様が床に寝る羽目になっちゃって…」

「いや、俺は兵役の時などで床や野営などしょっちゅうだったから、全然大丈夫だ。それよりミアが子供と眠ってるのは何だか見ていて微笑ましかった」と少してれたようなラフィルである。

 いや~ん!ラフィル様ったらデレてるとこもでなんて素敵なの~?
 強くて男らしくて、でも優しいなんて!本当に素敵すぎる私の旦那様!と悶え死にそうになるミアである。
『ああ~、もう!むちゃくちゃ好きぃ!』と思ってしまうのだった。

 正直言うと子供がいるせいでミアとあまりいちゃいちゃ?できない状況になってしまったラフィル的には若干寂しかったが、さすがにそれを言うのは男として恰好悪いと思っている。
 取りあえず両想いで駆け落ちも無事?にできて、結婚式まで挙げる事が出来たのである。

 ここは男らしく懐の広いところを示さなければ!とやせ我慢するラフィルであった。

「ところで、ティムンはまだ寝てるのか?」

「ええ、昨日は魔物に飲みこまれたりしたんだもの、きっと随分と疲れているんじゃないかしら?だってまだ十歳位でしょう?多分…」

「そうだな…。でもよくもまぁ助かったものだ」

「ラフィル様のおかげですわ!」

「いや、ミアと”月の石”の浄化の力がなければ助かったかどうか…助かっても、皮膚に沈着した魔物の血は黒い痣となって今後生きていくのに辛い思いをしただろう…。俺は顔にこんな傷があってもお前と出会えた。その事に感謝している。どんなでも生きてさえいればいい事もある筈だと思ったが保証できるものではないからなぁ…。本当に(あらゆる意味で)ミアがいてくれて良かった!」

「あら、役に立ったのなら宜しかったですけど私はラフィル様のその頬の傷とか、むしろカッコいいと思うんですけどね?」ともの凄く普通に何のてらいもなく言うのだから…逆に、これまで何度か悩んだり落ち込んだりしたことがあるのが馬鹿らしくなるラフィルである。

「痣だって一緒ですわよ、男の子なんですもの!魔物と闘って(飲みこまれただけにしても)生きて帰ったという証拠じゃございませんか?勲章みたいなもんですわよ!」と笑い飛ばず。

 本当に…このお姫様はなんていう…。
 これまでの自分の悩みなど悩みのうちには入らないと言わんばかりである。

 自分はそんなにも美しい姿形をしていながら、まるきりそれを鼻にかける訳でもない。
 わざわざ髪や瞳の色を変えて男の格好をして騎士見習いなどになってみたり…本当に常識はずれなお姫様なのだ。

 そして、トドメが血族の姫で”月の石の主”という事実である。

 とんでもなく規格外な姫君に捕らわれてしまったものだと自分で自分を笑ってしまう…っというか笑うしかない?

「はぁーっ」と息をはく。

 まぁ、いいか…生きてきて今が一番幸せなのだから…とラフィルは微笑んだ。
 そして、その笑顔を見てまたまたきゅん死にしそうになるミアだった。

 ***

 ラフィルの今日の予定は外での大工仕事である。
 今後、どれだけ、ここに住むことになるかは分からないが、自分もティムンの面倒はみるから助けろと老神父に喚き散らしたのは覚えている。

ラフィル曰く
『男に二言はない!』

 ミアも賛成してくれたし、彼女がそれを望んでいるなら尚の事である。
 なしくずしにだが、いきなり子持ちになってしまったラフィル夫妻である。

 そしてミアはというと朝からはりきって朝ご飯を作っている。
 全く驚きの公爵令嬢であるが、もうラフィルは段々それを楽しみに思うようにもなっていた。
 人間とは生き物らしい。

 ラフィルが朝ご飯の前にと外に木材を集めに出かけたあと、ミアはまず米を炊いていた。

 窯のキッチンなどは正直使った事は無いが美羽の時の記憶、ガールスカウトで経験した飯盒炊飯はんごうすいはんで米を炊いた事はあるので、何とかなりそうである。

 そして、最初の日に購入していたチーズが、まだ沢山あったのでそれを使ってリゾットにすることにした。

 米を鉄の鍋にしかける。
 始めは弱火で、間に強火、最後に火から離して蒸らしておく。
(火加減は、はじめちょろちょろ中ぱっぱ~ってな感じだ!)

 そして、ティムンが起きる前に…と、またフードを深くかぶり大急ぎで近場の朝市に馬を走らせミルクと野菜を買ってきて直ぐに戻った。

 幸いまだティムンはぐっすり眠っているようだったので昨晩、夜中にこっそり起きて丸太小屋の直ぐ側に流れる小川に仕掛けておいた網かごを見に行くと程よいサイズの鮎のような魚が七匹もかかっていた。

「おお~!すごぉい!うふふっ!朝からお魚まで!ラフィル様、驚くだろうなっ!うふふん」とうきうきした足取りで小屋に戻る。

 そこら中に落ちている小枝を拾い集めて魚に挿して塩をふり、釜土の端に立てかけてあぶり焼きにする。

 小屋からは美味しそうな魚の焼ける匂いとチーズとミルクを使ったリゾットの香りが充満する。

 木材を集めたラフィルも小屋に近づくとこの美味しそうな匂いに気づいた。

「今日は何を食べさせてくれるのかな?」とラフィルもワクワクしながら小屋にもどる足取りが軽い。

 昨日の朝は買い置きのパンとサラダと野菜のスープだったが、あの野菜のスープはなかなかのものだった。
 城のコックが作ったと言っても信じられるほどの美味しさだったのである。

 ミアは、最初の一年間の眠りについてしまった事件の前、引きこもってありとあらゆる本を読んでいたと聞いたが体を鍛える本もだが料理の本も沢山読んでいたのだと言っていた。

(とにかく全部本で読んだと言い訳するミアだが実際のルミアーナは、本当に引きこもって図書室にばかりいたのだから言い訳としては妥当なところだっただろう)

 実際は美羽の頃の記憶にあったキャンプでのお料理や、普通にお母さんのお手伝いの時に覚えた家庭料理ぐらいである。
 あとは、そう!学校での家庭科の調理実習くらいであろうか?
 ハンバーグやクッキー、カップケーキくらいなら火の調整さえ何とか慣れればできそうな気がする。

 そして美味しそうにできた料理の匂いにつられて、ティムンも目を覚ました。

「ん…んん!いい匂い?あれ?ここは?」と瞼を手でこしこし擦りながら目をさましたティムンである。
 柔らかなオレンジっぽい髪に金色の瞳が猫っぽくてそれはそれは可愛いらしいティムンである。

「おはよう!ティムン!目が覚めた?ちょうど朝ご飯が出来たところよ?」

「あ!女神さまっ!?」とティムンが叫ぶ。

「まぁ、まだ寝ぼけてるの?女神なんかじゃないって言ったのに」とクスクスミアが笑う。

「ミアって呼び捨てでいいわよ?」

「ミア様?」

「召使じゃないんだから呼び捨てでいいってば…」とミアが「めっ」と窘めるように眉をしかめる。

「でも…それはあんまりにも…僕、呼びづらいです~」とティムンが半べそで言う。

 そこまでハードル高いかしら?とミアは疑問に思うがティムンにしてみたら当然なのである。

「ん~と、しょうがないなぁ。じゃあ、姉さまとか?ママでもいいけど」

「ええっ?えっと、じゃあミア姉さまとお呼びしても?」

「う~む、そうね、まぁ、弟が出来たみたいでいいか?」と笑顔でミアがと納得し、ティムンもほっとする。

「さあ!ご飯にしましょう」

「ああ、美味そうだな!」と木材を組み立てる準備だけ終えるとラフィルも小屋に入って来てテーブルについた。

「すっ!すごいっっ!これを全部、女神さ…っと、ミア姉さまが?」と、ティムンが女神さまと思わず言いかけて慌てて言いなおし、誤魔化すようにテーブルに並んだご馳走をみる。

「これは?初めて見る料理だけど…」とラフィルがチーズリゾットをみて不思議そうに問いかける。

 どうやら米の料理はジャニカ国では沢山あるようだが、ラフィリル王国にはあまりなかったようである。

「これは、お米とチーズとミルクを使って作ったチーズリゾットという料理ですわ!消化も良くて栄養価も高いので病み上がりのティムンに良いと思って!」

「えっ?僕のために?」とティモンは、あまりの事に顔を真っ赤にして喜ぶ。

「そうよ!沢山食べてね?」

「この魚はどうしたんだ?」とまた串刺しにして焼いている川魚をみる。

「うふふ、昨日こっそり夜中に、そこの小川に網かごの罠を仕掛けておいたのですわ!川魚ですから頭から全部食べられますよ?」と言うとまた驚かれた。

 でも、なんだか嬉しそうである。

「川魚を頭から全部食べれるなどと言う姫君はこの世界でミアしかいないだろうよ」と大笑いした。

「あら?そうかも?」とミアも自分でぷっと吹き出した。
 だってここでテーブルマナーなんて必要ないでしょ?と心の中で笑いながら思う。

 そして、あとのメニューは、朝市で買ってきた新鮮なミルクとサラダである。

「うわっ!これ、もの凄く美味しいです!僕、こんなの初めて食べます!」とティムンがチーズリゾットを大喜びして食べた。

 たまたまだが、購入していたチーズがコクのある塩分強めのチーズで下手に味付けをしなくても十分に美味しくできたのだ。

 またミルクも濃厚で、ほんのり甘みがありまろやかで本当に料理にも、そのまま飲むにも最高で申し分ないものだった。

「ほう!これは!本当にに美味いな!いくらでも食べられそうだ。」ラフィルも感心してがつがつと気持ちよい程の勢いで口へ運ぶ。

「嬉しい!本当ですか?おかわりありますか…」からね?…と、言いかけたら言い終わる前に二人が元気な声で同時に皿を出してきた!

「「おかわりっ!」」二人の声が同時に重なる!

「うふふっ!ホントの親子みたいっ!」とミアもつい満面の笑みになる。

 二人は照れたようにたちまちまるで熟れたトマトのように真っ赤になる。

「だって、美味しいんだもん!」「美味すぎるのがいけないんだ!」
 とまた同時に二人がかぶるようにミアに言った。

「うふふん!今日のは我ながらうまく出来たわ!良かったこと!」

 ミアはクスクスと笑い、二人も顔を見合わせ、大笑いした。
 その日は朝からとても楽しい嬉しい朝食で元気いっぱいになる三人だった。

「「「う~ん、幸せ~」」」と幸福感を満喫する三人である。

 やっぱし朝ご飯って大事よね?と思うミアであった。
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