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ところ変われば女子高生!

117.美羽の無くした記憶

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 翌日のこと、仁に泣き顔を見られてしまった美羽は気恥しくて目をあわせる事ができなかった。
 仁の方は努めて普通に接しているが美羽の方はずっとうつむいているので、さすがに家族も気づく。

「美羽、今日は私が送ってってあげる」と姉の静が美羽の手をひっぱり自分の車に連れていく。

 そして車に乗り込むと姉の静は遠慮なく美羽に聞いてきた。

「さぁ、何があったの?お姉ちゃんに言ってみなさい?」

「な…何にも…」と美羽は答える。

 当たり前である。
 本当の事など言える訳がない。

 まさか兄に恋してしまっただなどと…。

 家族はどう思うだろう…、
 大好きな家族に嫌われたくない。
 こんな気持ち、知られてはいけない!絶対に!

 そんな事を思う美羽は固く口を閉じた。

「ふぅっ、言いたくないならいいわ、でもね、美羽?お姉ちゃんはあんたの味方よ!それは忘れないで!」

 そんな事を言われても本当の事を知った後でもそう言ってくれるのか美羽には信じられない。

 車が車庫から車道に出ようと一時停止したとき、仁が前からやって来て助手席側の窓をコンコンとたたいた。

「帰りは、どうするんだ?静。会社の終わり時間遅いだろ?」

「そうね、帰りはお願い。美羽、いい?」と静が美羽に確認する。

 美羽は黙ってこくりと頷く。

「そっか…わかった。気をつけてな…下校時間、また門でたとこで待ってるから…」と仁が名残惜しそうに車から離れ、小さく手をふった。

「ほら、美羽、シートベルトして!行くわよ。あ、そうだ!兄貴、亮子は兄貴が送ってってよ。亮子まで拾ってたら私会社遅刻しちゃうもの!」

「はぁ?何だよ、それ!…だったら…」と言いかけた仁の言葉を最後まできかず「じゃあね」と、静はアクセルをふみ車は車道に乗り出し美羽の高校へと向かった。

 学校につくまでの車の中で静が美羽に話しかける。
 記憶おぼつかない美羽が一体、何に対して悩んでいるのか?
 分からないことや忘れた事なら聞けば済む話だろう。

 そして、昨日の夜から美羽は明らかに仁をさけている。

「美羽、まさかと思うけど兄貴に何かされたとかじゃないわよね?昨日、美羽の部屋に行ってたみたいだけど」

 当たらずも遠からず、仁の名前がででビクッとする美羽。
 静が、運転中で前をみていなければ、美羽のその様子から仁が妹になにか不埒な事をしたのかと誤解したかもしれない。

「な!何かって何?そんな事あるわけない!お兄ちゃんは、私が沈んでるから心配だって…でも、私が、放っておいてって…し、閉め出してしまって…」

「あー、それで兄貴も落ち込んでるのね」

「え?」

「あれ?美羽は気付かなかった?普通っぽくしてたけど朝からいつも大喰らいの兄貴が珈琲一杯だけで手もつけてなかったじゃない?」

「え?そ、そんな」

 明らかに自分のせいだろう、優しい兄は妹の私を気遣って昨日、部屋まで来てくれたと言うのに自分はどうしたのか…?
 そう…。心配してくれているのに放っておいてほしいと言い、しめ出したのである。
 罪悪感で胸がいっぱいになり顔をしかめる。

「美羽が兄貴を受け入れられないのならそれは、それで仕方ない。でも兄貴を、嫌いにはならないでやってほしいのよ…兄貴は、美羽が本当に大事…家族の誰より…私だって美羽の事が可愛くてたまらないけど兄貴の想いは特別なの…分かるでしょう?」

 そう、言われて美羽は困惑した。
 一体、何の事だろう?
 特別?妹だから…じゃなくて?

「あ…末っ子だから?」と思いついた事を言うと静はびっくりしたように言う。

「美羽、まさか、そこも記憶が?」

「え?なに?」

「いい?美羽、小さい頃あなたは、お兄ちゃんのお嫁さんになる~って言ってたの覚えてる?」

「ええっ!そんな事を?」と言いながらもそう言えばルミアーナがそんな事を言っていたような気がすると思い起こす。
だが自分の記憶にはないのだから実感はなくて困惑した顔になる。

「あ~、なるほど…じ…じゃあ、お兄ちゃんの事が美羽は嫌なのかなっ?好きになれない?」

「嫌も何も…実の兄妹でそんな…」

「え?…あ、あ~…うん、そうね…気にしないで…うん。冗談だから」

「たっ!たちが悪い冗談です!」
 美羽は真っ赤になっている。
 目にはうっすらと涙までためていた。
 静は焦った。

「ああ、そうね。ごめんごめん!あっ、ほら、学校についたわよ。あっ、ほら、亮子の方が先について門の前でまってくれてるわよ!兄貴、とばしたのねぇ~、早く行きなさい」車を校門のそばで止め美羽をせかした。

「あ、はい、行ってきます!」美羽も、亮子を待たせては悪いと思い、慌てて車を降り亮子のもとへ走る。

 亮子も美羽に気づき、駆け寄り、美羽と一緒に静に、手をふると校門の中へ入っていった。

 静は、ハンドルに顔をもたれかからせて、ため息をつく。

「ふぅっ、こりゃ、思ったよりややこしい問題だわ…」そうつぶやくと、またエンジンをかけて取りあえず会社へ向かった。

 そして会社に着くなり父、母、兄にラインを送る。
『今日は美羽が部屋に行ってから家族会議よ…美羽の事で早急に話し合いたいことがあるの!』と…。
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