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十三話

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「ねえ、ずんだ春巻きって何?」

「私も気になった。」

「それはいいから、もうすぐ戦場になるから急げ。」

その宣言と共にお客様が来た。さあBBA達の相手をしようか。厨房のこっちの抜かりはねえ。タルトの作り置き、ジャムの温め、紅茶に入れるお酒の数々、軽食用のパンの切り出しとトーストの準備は万端だ。

後は見方給仕がどこまでやれるかだ。補給部隊はバッチリだ。後は兵がモノをいう。

「行くぞ、正念場だ。」

案の定今日の敵達はからかいをかけてくる。

「ねえ貴方ミーナちゃんのライバル。」

「はい。」

「リュヒルすまないがジャムタルトを運んでくれ。」

マシンガンの嵐が来る前にリュヒルをこちら引き戻す。

「ミーナちゃん、あれからイグアス君とはどうなのかしら。」

「そりゃあもう、「ミーナ、あっちのテーブルにコーヒーのおかわりを頼む。」あ、すいません失礼します。」

油断も好きも無い。ここのメニューとしては何杯でもおかわりできるコーヒーと専門店クラスの紅茶とコーヒーを出すことで客の思考に合わせている。基本的に何杯もおかわりできるコーヒーはアメリカンコーヒーよりもさらに焙煎がされていないもので消費期限ギリギリのものを使いコストを削減、酸味のあるコーヒーはここ日本では馴染みが薄いため人気がない。それでも求めるお客様が来る為置いてある。入れ方に関してもおかわり自由のコーヒーは機械引きの機械抽出でマスターの煎れたものには遠く及ばない。

これだけでは利益率的には悪すぎる為、お菓子を充実させつつこの店でしか食べれないジャムタルトを提供している。

このジャムタルトは温かいまま食べると美味しいというように設計されており人気商品として成り立ちつつ。コーヒーにも合うジャムのレパートリーもあるためついつい食べたくなってしまうように一口サイズに作り上げることで沢山の注文がでるようになった。手間はかかるが原価を抑え切ったいい経営センスをしたマスターの勝利だ。なるべく質を落とさないようにしているため細々とした知る人ぞ知る名店となっている。

ピークを迎える頃には兵士たちは全滅し結局俺もホールに入ることとなった。

「ふう、もう少し粘って欲しかったな。」

ダンスのごとく給仕をしていく。歴戦個体は新米にはキツかったようだ。

そんな俺を尻目に愛理はこちらの後ろ姿を見てほんの少しだけ笑顔を見せた。

俺はそのことを知らない。けれども、雰囲気に馴染めているところを見ると根は変わっていないのだと実感した。
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