上 下
16 / 31

十五話

しおりを挟む
「あれでよかったの愛理ちゃん絶対勘違いしたよ?」

ミーナは全てを知っていた。それで尚俺の言った言葉に足りないものがあると理解していた。

「ああ、それでいい。どの道憎悪は俺に向く。」

矛先がわからないよりか自分に確実に向かうと最初から分かったほうがいいと俺は判断した。つまり、当人達に会った場合において愛理という人物が味方にも敵にもなり得る可能性がある。それで味方にさせるよりも敵として憎悪の矛先を向けてくれた方が後々の為になると先の未来のビジョンが見えているということ。

「つまり貴方は違うことをされて逃げたの?」

今度はリュヒルから話しかけられた。主従の関係になってから個人のプライベートに土足でヅカヅカと入ってくるようになったようで不快感が強くなった。

「ああ、だがそれは俺とミーナだけが知ればいいものだからリュヒルに話す必要は無い。それといくら主従の関係とはいえプライベートに入り込み過ぎだ。今後は自重しろ。」

「はい、すみませんでした。」

「そうだね。リュヒルさんには悪いが彼の言ってることは君が知ってはいけない領域だよ。死期を早める若者は見たくはないからね。そうでしょう学園長。」

マスターは誰もいないと思われる席に向かってコーヒーを差し出した。

「気付いていたのね。流石当時のにして首席の人間なだけあるわね。濃口。」

ミーナとリュヒルは驚愕の表情で誰もいない席を見る。

「ははは、ご冗談を。当時の学園最強は学園長でしょう。」

「あら、ランキング戦と異界防衛戦で全勝無敗を誇ったAランクスキルの担い手である貴方がどの口を言うのかしら。」

「仲間も居ましたし、私が一番上でしたら当時の生徒会長では無いですか?」

バチバチ

見えないところとマスターの間からそんな擬音が聴こえる。

「学園長先生は生徒のストーカーが趣味なのか。」

コトっと見えない席に俺は小倉トーストを置く。無論その際にはお客様の眼を見るというマニュアル通りの接客でだ。

「ありがとうね。というか貴方もその様子だと最初から見えていたわね。これじゃあ意味もないし術を解くわ。」

やっとこさ学園長が姿を現した。

「本当にいたんだ。私の四則演算でもわからなかった。」

「槍術師の気配を探り上げる術を持ってしてもわからなかった。」

2人は唖然としていた。

「お前ら、愛理も気付いていたぞ。これじゃあリュヒルのランキング戦の順位が変わっちまうぞ。」

またも俺は爆弾を投げ込んだ。間接的にだが後輩に先を越され少しばかり惨めな思いをするリュヒルであった。ほんの少し涙目で彼女は我慢していた。

「そうそう、ランキング戦なんだけど。次のトップにはある魔道具が渡されるわ。一回きりだけどみんな欲しがるものだろうから楽しみにしてね。」

学園長はそんなことを言い残し小倉トーストと紅茶を飲み干してお金を置いて消えて行った。
しおりを挟む

処理中です...